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第一章 三話 慌ただしい夜


 俺と燈榎の言葉を聞いたメンバーの反応は様々だったが、一番多かったのは困惑だった。


「テレビ塔の占拠まではわかりましたけど……それから一斉放送なんて出来るんですか? しかも日本全国なんて」


「当たり前だけど、試したことは無いからね~。操れること、電波をとばせるのは確認したけど割り込みが本当に出来るかは確認してないし」


 今まで"メラ"をただ漫然と放ってきたわけではない。

 中立エリアにしたところ、手に入れたところの事前調査や陸軍の探索こそ主にしていたがその中でも毎回幾つかは計画の第一段階のために動かしていた。


 バレるということが絶対に許されないため慎重にはなっていたが、それでもこの五年間の間に蓄積された情報は作戦の大きな支えになる。


「もう少し具体的に言うと、陸軍は対アイヴァンス部隊が主になっているからそれを一気に突破。セントラルポールを占拠、同時に私が遠隔操作で電波を飛ばすから辰生が喋るっていう感じ」


「ここで必要になる俺達のチームは、大きく分けて三つだ」


 燈榎が空中投影した画面を切り替えて分けた三グループを表示した。

 ついでにメンバーも書いてある辺り仕事が早い。


「一つ目は、侵攻チーム。攻撃、補助の能力を持つメンバーで組む。このメンバーが陸軍の残りのエリアへの侵攻、同時に放送中の防衛を頼む」


 俺、時雨を含む十二名がメンバーだ。

 三小隊、ナイト・バタフライのメンバーの半数がここに属している。


「二つ目は防衛チームだ。普段の攻撃陣営がいない分アイヴァンスの処理を慎重にしてほしい。また、万が一陸軍がここに攻めてきたときの防衛を頼む」


 桐山を含む七名がこのチームのメンバーだ。

 必要以上にアイヴァンスを攻撃しないことが重要になるため判断力が問われる。

 まあ、桐山がいるから大丈夫だとは思いたい。


「三つ目が待機チームだ。戦闘に向かない異能のメンバーと、燈榎がここのチームになる。ここのメンバーは、作戦が開始するまでの準備を主に頼む。開始したら燈榎と防衛チームの補佐をしてくれ」


 楓、姫野達がここにあたる。

 燈榎は、陸軍の情報を調べたり"メラ"による偵察だったりで忙しい。

 似た能力のメンバーもいないため、忙殺されることはほぼ確定だ。


「詳しい手順はまた追って伝える。各自、進められる準備を頼んだ」



◆ ◆ ◆



 ご飯を食べ、その後は準備が開始された。

 なにしろ決行日は一週間後だ。

 時間があるように思っていたが、常に枯渇気味の装備類の補充、作戦中の食料を作るのに楓たちは必死になっている。

 俺と燈榎と桐山は作戦の詳細な計画、何かあったときの退路、あらゆるイレギュラーの予測と対応を練っていた。


「どのくらい進んだか、どの位置に各小隊がいるか、で大きく動きが変わる。綿密に決めすぎない方がいいんじゃないか?」


「それだと私はたぶん指示しきれないかなぁ。通信のチャンネルを開くくらいはできるだろうけど、他の作業と平行してイレギュラーに対応して適切な指示を出す余裕はないよ」


 状況判断は桐山の得意分野でもあるのだが、防衛チームにいるため常に燈榎に張り付くことはできない。

 前線に行く俺と時雨に関しては、考えるどころか対応が難しいだろう。


「……楓、姫野を相談役につけるか。状況は理解できるし、あの二人ならしっかりしてるだろう」


「最悪、楓が辰生に状況をアナウンスして辰生が考えればいい話よね」


 まあ、その辺りが妥当か。

 楓なら計画もしっかり知ってるし、姫野は一つ下とは思えない程の落ち着きと冷静さを持ってるからな。 


 それに、桐山が忙しく無ければチャンネルを開いて相談もできる。

 防衛チームの指示を出さなければならない程の事になっていれば、燈榎も司令塔どころではなくなるだろうしな。


「そういえば燈榎、いざ放送ってなったときにどのくらいラグが出そうだ?」


「……わからないっていうのが本音ね。"メラ"に関して言えば、今の中立エリアの最前線では少し動きが鈍いかな~って位ですんでるけど。セントラルポールの操作、全国への放送に各チームとのチャンネル。平行作業な上に距離が遠いから、確実にラグは出るわね」


 となると、やはり侵攻チームもそれぞれ役割が必要になるか。

 いくら臨機応変とは言っても、現地でやらなければならない事は多いからな。


 俺に付いてラグの間や実際に放送しているときの防衛をする小隊、観測系の能力でセントラルポールから策敵をする小隊、燈榎と観測系能力のメンバーの情報をもとにアイヴァンスや陸軍に攻撃をしたりする小隊か。


 ……そう考えると、全くと言って良いほどに余裕がない。

 本音を言えばあと二小隊は欲しいところだ。


「……まあ、そこまでは高望みか。各小隊のリーダーには俺からその辺は話しておく。桐山、防衛チームの方に伝えるのは任せたぞ。燈榎は引き続き情報収集だな」


「わかった」


「は~い」



◆ ◆ ◆



 俺は、燈榎、桐山と話したそのままの足で楓達の所に向かった。

 今一番忙しい所ではあるのだが、先程決まったことを楓と姫野の伝えなければならない。

 同時に準備の進捗状況を見られれば、とも思っている。


「というわけで、楓と姫野は本番でも働いてもらうことになると思う」


「私はいいよ。百合ちゃんは?」


「私も大丈夫ではありますが、詳しい作戦内容を聞かされてないので指示という点に関してはなんとも。……判断の材料になるマニュアルでも欲しいところですね」


 資材室、そこであくせくと働く二人は作業する手を止めずに答えてくれた。


 姫野は丁度、異能"創造生成"で銃を作っている最中だった。


 燈榎がかき集めた情報から、アビス能力者用に若干の改造と効率化をした設計書を睨みながら少々考えている。

 そして、目を閉じ両手を目の前の空間に翳す。

 手の平のさきに光がゆっくりと集まり、形を成していき、光が弾けたら設計書通りの見た目の銃が出来上がっていた。


 設計書通りに出来ているか確認をしながら姫野が続ける。


「また、そのマニュアルが有ったとしても……今は資材を作る時間が全然足らないので、読んでる暇が無さそうです」


 確認を一通り終えたのか、今生成した銃用の銃弾の設計書を睨み始めた。


「それじゃあ、ある程度馴れるまでは私が百合ちゃんの分もやろうか?」


「……出来るのか?」


「まあ、最初のうちならそこまで忙しくもないだろうし。大丈夫だよ」


 楓が食材や既に実用化されている銃弾を片っ端から複製していきながら答えた。


 右手に元の物を持ち、目を閉じて少し集中。

 左手に光が集まっていき、姫野の時と同じように光が弾けたら同じものを両手に持っているのだ。


 ……やっぱり、この二人の異能は一風変わっているな。


「百合ちゃんも、私がやってるのを見ながらマニュアルを読めばいけそう?」


「……それならば、なんとか出来るかと。イレギュラーには弱くなりますが、なんとか対応してみます」


 楓と姫野の両手から銃弾が生成され地面のコンクリートに落ちる音が響いた。

 

 本番までにある程度のマニュアルを用意しなければならなくはなったが……なんとか、間に合うだろう。


「二人ともありがとう。何かしてほしいことがあったら遠慮なく言ってくれ、出来るだけ対応するから」


「はーい」


「わかりました」


 姫野が壁に向かって銃を試し撃ちし始めた。

 今使っている物よりも音は大きめだが、満足のいく出来映えなのか珍しく僅かに笑顔を見せていた。


 その横でちゃっかりと防護眼鏡をしている辺り、楓らしいな。


 次は先端に消音器サイレンサーを着けて撃っている。

 壁はいくら撃っても楓の複製で復活させられるから問題はない。


 弾が連続してコンクリートに当たる聞きなれた音を尻目に部屋から出た。



◆ ◆ ◆



 その後、俺は大量の瓦礫の前に立っていた。

 前の作戦の時に攻め込んできた陸軍の部隊を倒すときに崩れた通路の掃除をしに来たのだ。


 燈榎と桐山には瓦礫を無くしておく旨を話してあるから、後で修繕しに来るだろう。


「"メラ"、起動」


 この小柄な自動飛行小型カメラはこういうときにも使える。

 一通り燈榎が確認はしたはずだが、一応陸軍部隊の最後の抵抗として盗聴器や"メラ"の様な機械がないか確認できるし、何より瓦礫の山を認識する補助になる。


 俺の異能に限らず、大抵の異能は位置や空間の把握が必要だ。

 この場合だと、塞がれて見られない瓦礫の山の後ろ側がどうなっているか、どこまであるのかを把握する助けになる。


 "メラ"が観測した情報が手元の端末に送られてきた。

 壊れる前の通路と瓦礫が色分けされて表示されている像を便りに、実際に自分から見える破片と照合していき範囲を定めていく。


「"メラ"、退避」


 範囲を指定して"メラ"を手元に戻す。 

 手を翳し、能力が発動するときの独特の感覚を腕を通して放出した。


 その一瞬後には、通路を塞いでいた瓦礫は白い光を放って消えた。

 僅かな粉塵が舞う中で、己が殺した証である血が無いことを確認しその場を去る。

 残りの修復は桐山がやってくれるから問題ない。

 桐山ではない、珍しい回復系の能力のメンバーがやるかもしれないが。



 



 ──こうして、かなり急ピッチではあるものの作戦に向けての準備が進められていった。

 予定より不備は出ているが、メンバー全員が不安と希望を抱いていた。



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