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第一章 二話 目的


 カツ、カツ、と拠点内の通路に三人分の足音が響く。

 地下の通路を元に、空洞を作ったり補強したりして作られたこの拠点はほとんどがコンクリートの壁で出来ている。


 その通路を、白髪と黒髪の入り交じった少年と、腰まで黒髪を伸ばした少女と、和服を着て刀を携えた少女が歩いていた。


 やがて、大きな鉄の扉の前にたどり着き、少年がそこを開ける。

 その部屋の中には、既に二人の先客がいた。

 

「んじゃ、今日も会議するか……」



◆ ◆ ◆


「まあ、とりあえずいつもの戦果報告からしますかね~」


 既に部屋にいた二人のうち、はねたショートカットの快活そうな少女……天利あまり燈榎とうかが空中に投影したキーボードを叩きながら声を出す。


 彼女は機器操作という、稀有な能力だ。

 機構があり、認識さえしたら操ることができる。


 今燈榎の言った戦果報告というのも、先程の時雨の戦闘時の結果を自動飛行小型カメラこと"メラ"を介して手に入れた情報だ。


「結果としては、"オオキタ"の中立エリアが広がって、その分陸軍側のエリアが減ったね。武装兵がいたせいでエリアの確保はできてないけど、まあ上々でしょ」


「陸軍のそれからの動きはないのか?」


「時雨達を追いかけてた部隊のリーダーが陸軍の現場司令官だったのかな、陸軍の幹部はアイツからの連絡が途絶えたことについさっき気がついたみたいで少しざわついてる。ご丁寧に時雨がキープアウトも斬ってくれたから助かる~」


 空中投影された画面を見ながら燈榎が続けた。


 ご覧の通り、陸軍のPCにも異能による疑似ハックを仕掛けることで、情報でやり取りしていることの一部を手にいれているのだ。

 ここまで聞くと情報戦では最強に思えるが、距離が延びるとラグが長くなること等もあり実は欠点は多かったりする。


「で、ここまでは良い報告」


「うっ」


 にやぁ~とした表情で燈榎が時雨に視線を向ける。

 そう、良い報告の次には悪い報告が続くものであり。


「一部地盤の破壊、地形の過剰切断、さらに予期していなかったとは言え敵の対アビス能力者部隊に攻められるわ、沢村っちは太股を深く銃弾が掠めていたらしく流血してるわ。まあ、今は手当てが済んで良くなったらしいけど」


「対アビス能力者部隊がいるなんて情報が今回無かったじゃないか……」


「と、言ってもなぁ~。事実通路は一つ潰れたわけだしぃ~?」


 あぁ、何時ものが始まった。

 時雨と燈榎はこのナイト・バタフライの中でも特に仲が良い。

 ただし、大抵の場合、普段は凛としている時雨を燈榎がからかって遊んでいるのだ。


 それでも拠点にいるときは大抵二人ともセットなのだからよくわからない。


「まあまあ、その辺にしとけ二人共。今重要なのは計画が狂ってないか、ということだろう。その辺は大丈夫なのか、辰生?」


 俺に話を振ってきた、ザ・真面目メガネ君こと桐山きりやまりょう

 分かりやすく言えば、学級委員長とか真面目系生徒会副会長みたいな奴だ。


 異能は岩塊使い。

 主に拠点の守備をしていたりする。


「まだ詳しい中立エリアの範囲は測定できてなかったよな。燈榎、陸軍の動向を引き続き探るついでに測ってくれ。恐らく計画に大きな狂いは出ないだろうが、反応次第では変えることになる」


「あいあいさぁ~」


 とりあえず、今すぐ話さなければならないことはもう無さそうだ。

 まあ、途中経過の報告会のようなものだし、いいだろう。


 時雨と燈榎は二人で燈榎の部屋に。

 座って作業するから、と拠点内一番の柔らかさのシステムチェアのある部屋だ。


 桐山は一人で治療室に。

 大丈夫と聞いていても、一応沢村の様子を見にいったのだろう。


 俺も席を立ち、自室に向かった。



◆ ◆ ◆



 自室に戻り、何となく部屋の電気を点けないままベランダに出る。


 俺の部屋は、拠点の中でも唯一外が見える位置に作られている。

 自分からそう作ってくれと言ったわけではない。

 拠点を作ってくれた桐山と燈榎が、気がついたらこんな設計にしていたのだ。


 なにやら色々な細々とした小細工のお陰で陸軍やアイヴァンスに見つかることはまず無いらしい。


「……また、空を見てたの?」


「楓か」


 会議室を出たときから俺の隣に歩いてはいたが、部屋まで入っているとは思っていなかった。


 俺、時雨、燈榎、桐山、そして楓。

 この五人が俺達ナイト・バタフライの最高年代であり、明確に決めてこそいないが幹部である。


 そして、その中でも、この椎宮しのみやかえでは俺と一緒で最初からいるメンバーだ。

 たぶん、お互いを一番知っているのはお互いと言っていい。


「今日は、月は見えないね。赤雲が濃いなぁ」


「むしろ月は見える方が稀だもんな。五年前の真っ暗な空や星が恋しくなる」


「ふふっ、そうだね」


 五年前の世界の破壊(ワールドエンド)以来、空は赤く染まった。

 なんでも、空中にまで蔓延したアビスウイルスが大気圏で反応し、燃え尽きている光らしい。

 層が厚すぎないからなのか、昼間は影響がないのだが、夜になると赤黒い光が空を照らす。


 誰が呼び始めたか知らないが、通称赤雲。

 憎きウイルスが燃え尽きる聖なる炎と呼ぶ人、夜を寝かさない禍々しき光だ、と忌避する人のどちらもがいるらしい。


 それ以来、大気の流れで偶然赤雲が晴れない限り空を望むことすらできなくなった。

 その切れ間に月を見るのは、一種の幸運にさえなっている。


「計画は、今のところどんな感じに考えているのかな?」


「たぶん変更はない。時雨が良い位置まで中立エリアを進めてくれたからな。……ただ、これからがさらにハードになると思う」


「ナイト・バタフライ結成して初の大規模な作戦だもんね。そして、私たちのようやく一歩目」



 そう、五年間かけて整えた組織の体制とその願い。

 既に十七歳となってようやく踏み出そうと決めた一歩目だ。

 

 だからこそ、慎重に。

 俺ができるだけ前に立って、みんなを守る。


「失敗できないな」


「大丈夫だよ。いつでも私が、辰生の帰る場所になるから。だから、頑張りすぎないで」


 いつのまにか楓は、空ではなく俺を見ていた。

 その瞳に訳もなく安心する。


「それに」


「それに?」


「無理すると、白髪増えちゃうでしょ? 辰生の場合は、ストレスとかじゃなくて、だけど」


「……仕方ないだろ。珍しく、俺の異能は消費型だったんだから」


 そう、消費型。

 なにかを消費して初めて発動可能な異能の種類の事だ。


 俺の異能の名前は代償破壊……俺自身のなにかを消し去る事を代償に、指定した対象を破壊させる。

 その威力は指定できるが、消費した物によって上限が変わるという変則的な異能だ。


 能力者になりたての頃は、何か消えても大丈夫な物ということで髪の毛自体を代償にしていたのだが……戦闘が増えていたせいでなかなかキツくなってしまったのだ。


 その時に気がついたのが、髪の色素を代償にするということ。

 髪の毛の色素を代償にする、つまりその髪自体の色素が"無かったものである"事にすることで同じくらいの効果を得ることができた。


 ただし、消すのではなく無かったことにするという事で代償としての価値を高めた代わりに二度とその髪の色素が復活することはない。

 髪染めを使用しても、白髪と化した髪は絶対に染まらない。


「辰生は適当に色素を消す髪の毛を選ぶから、斑模様になるんだからね。いつか、お爺さんみたいに白髪だけになっちゃうよ?」


「……気を付ける」

 


 その後は、二人でただ空を見上げていた。




◆ ◆ ◆


 

 

 二人で話してから十五分後位だろうか。

 夕飯を作るために楓は部屋を出ていった。


 もっとも、それは楓がご飯係というわけではなく、楓の異能の内容が複製だからだ。

 構造を知っているもの、触れたものを複製し増やすことができる能力はメンバー全員の食材をカバーするのに必須だったりする。


 一つ年下の姫野百合の異能が創造なので、二人で食材を作るところから任されているのだ。


 楓が出ていったのを見計らったかのようなタイミングで来た燈榎の報告を聞き、修正をいれる。

 やはり予想通りほとんどズレはない。

 だが、自分を含む二十四人をどう動かすかで状況というのは簡単に変わってしまうから念入りに確認をする。


 そうこうしているうちに楓からご飯ができたとお呼びがかかった。

 飯を食べる広間には、二つつの大きな長机がある。

 そこで皆で集まって食べるのだ。

 


「さて、待ちに待った飯……の、前に通達だ」


 長机に並んで座る俺を除く二十三人に視線を向ける。


 通達とは言うものの、単なる連絡だ。

 単純に飯の時には大抵全員が集まるからここでしている。


「今日の作戦で中立エリアが広がった。これからの計画の第一段階が近づいてきたと言っていいだろう。ここからはより安定を保ちつつ攻めの姿勢でいくつもりだ」


 燈榎が空中投影した地図を指しながら続ける。

 まあ、案の定、画像は目印という名目で加工された時雨の斬痕が記されていたりするのだが。


 口許を抑えて笑う燈榎を時雨が赤い顔でチョップしている。

 うん、いつも通りだ。


「よって、今まで戦闘班にやってもらってた散発的な他方面の攻撃は一旦停止、最低限のアイヴァンス処理に回ってもらうことになる。いいな?」


「となると、そろそろ明確に目標を教えて貰えたりするんですかー?」


 沢村が手をあげて聞いてきた。

 復調したようで何よりだ。


「ああ、しばらく秘密にして悪かった。しっかり固まってからじゃないと言いにくかったんだ。それで、肝心の計画第一段階の目標だが……"オオキタ"の中心辺りにある、旧テレビ塔だ」


「はいはーい、こっからの説明は私がやりまーす」


 燈榎が勢いよく立ち上がる。

 空中投影している画面に映しながら説明となると、燈榎の方が適しているか。


「えっとねー、今地図に表示されてる通り、ここには五年前の事件の日まで使われてたテレビ塔があるんだよね。まあ、旧テレビ塔って言うくらいだし、今は使われてないどころか整備すらされてないんだけど」


 送電されてない、もちろん全システムが停止。

 陸軍のとっていた対策の光粒子バリアの範囲外だったせいもあり、今ではボロボロのただの塔になっているが。


「でも、塔だったせいか中の機器にはほとんど影響がなかったみたいでさ。私の異能の機器操作なら動かせることがわかったの」


 機器操作は、機構があれば作動させることが可能だ。

 つまり、高い位置にあったお陰でアイヴァンスの被害にあわなかった機械を動かすことができる。



「ここまで言えばわかるよね。目標は旧テレビ塔……セントラルポールの制圧、そして日本全国への一斉放送よ」


「俺達アビス能力者の存在を、ナイト・バタフライの目的を……世界に伝えるんだ」








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