自己紹介と、復活と
俺と桐山と少年の三人は、通路を全力で走り抜けている。
抱えていた二人は最初は驚きと不安のせいで少々暴れていたのだが、横で走る少年が声をかけ続けてくれたお陰で落ち着いた。
どうやらこの少年が皆の中でのリーダー的な存在だったらしい。
「拠点はもうすぐ見える。そこまで耐えてくれ」
「わかりました」
少年はリーダーだった事もあり今のところは平静を保っているが、無理はしているだろう。
早めに休めるようにしてやりたい。
通路を駆け抜けた先、拠点の入り口が見えた。
"メラ"越しに燈榎にそれを伝え、遠隔操作で開けてもらう。
中には、楓と一応のため待機していたメンバーが待ち構えていた。
「戻ったぞ」
「うん。とりあえず、お風呂は涌かせてあるから子供たちに入ってもらおうか」
「そうだな。あと、俺たち歳上級生は集合だ」
楓がメンバーを代表して、次の行動を伝える。
待機していたメンバーが子供を引き連れ風呂場に向かった。
粉塵によって傷つき、汚れてしまったのをリラックスがてら流してもらう。
そしてその間を使い五人で早急に会議だ。
一応少年に声をかけておく。
「すまない、男子だけでいいからあの子達が風呂に入るのを見てやってくれ。知ってる人が多い方が安心できると思う」
少年も傷ついてはいるだろう。
だが、もし風呂場で子供たちが異能を暴走させてしまったら、と考えるとこの措置はやむを得ない。
女の子の方は、似た年齢のメンバーに任せる。
そして、俺と桐山と楓は会議の部屋に向かった。
◆ ◆ ◆
部屋に着き席に座る。
既に来ていた二人の内、時雨が質問をした。
「で、何があったんだ。沢村と宮地がいないようだが?」
「一つひとつ話していく。まだ推測の部分もあるが聞いてくれ」
場が引き締まるのを感じる。
桐山は既に次を考えているような表情をしていた。
時雨の目が厳しいのは、普段元気にしている燈榎が顔を伏せてその覇気を無くしているからだろう。
「まず燈榎が見つけてくれた陸軍の実験だが、あれはどうやら俺たちを誘い出すための嘘だったようだ」
やつらのリーダーは、子供たちを撒き餌と言った。
ならば、その撒き餌が釣る予定の物はなにか。
それは間違いなく俺達だ。
「明らかに陸軍の到着が早すぎる。それに、実際にあるのは聞いていたとはいえ対アビス能力者部隊が来ていたんだ。ハナから陸軍の作戦だったんだろう」
「で、どうして沢村と宮地が帰ってきていない? それに子供の数も少なくなかったか?」
燈榎がピクッと反応した。
俺と桐山は爆風に吹き飛ばされて詳しく見えなかったが、"メラ"で見ていた燈榎は全てを見てしまったのだろう。
それから撤退に至るまでの経過も、全て。
「俺たちが窪地に着いて子供たちと話し始めてほんの少しした時だ。陸軍のやつらは、その窪地のど真ん中にミサイルを撃ってきたんだ」
「事前の情報通りの数いた子供のたちの大部分はその爆風に巻き込まれた。俺や桐山が一部は守ったけど、ほとんどの子が即死した」
楓と時雨の表情が歪む。
偶然ではあったが、今回時雨を連れていかなかったのは正解だった。
「沢村たちは? 戻ってきていないということは……」
「詳しくはわからない。だが、俺と桐山、そして子供を逃がすために残った」
もう少し楓たちに説明を加える。
沢村たちは瀕死であったこと、陸軍が完全武装で来ており一刻の猶予も無かったこと。
宮地の異能が作った数分で脱出をしたこと。
「じゃあ、二人は……」
「捕まったよ」
時雨の声が漏らした、その先を遮るようにして燈榎が口を挟む。
うつむいたまま口だけが動いていた。
「辰生たちが退避したほんの少しあとに宮っちの異能が途切れて陸軍の兵士が動き始めたの。それで、最初は撃とうとしたんだけど、宮っちたちが生きているけど動けないのを確認して捕縛してた。その時子供は捕縛していなかったから、もう……」
「わかった。燈榎、ありがとう」
そこで止めさせる。
普段燈榎は元気だが、あくまで自分で出した言葉であってもこういう内容だと沈みこんでしまうからだ。
誰もが状況はわかったのなら無理して続けさせる必要もない。
「捕まったのなら、助け出すべきだ」
「だが、それには準備がいる。陸軍が俺たちに合わせた武装をするようにこっちも何かしらの対策がいるぞ」
助けられるのなら、もちろん助けたい。
だがそれをする時は必ずあの対アビス能力者部隊と戦うことになる。
その対策をしていないまま出ることは当然だができない。
また、どこに捕らえられているのか、助けて連れて帰ってこられるほど沢村たちは回復しているのか。
それに時間をかけると余計に陸軍にアドバンテージを増やすことにもなる。
「今の状況としてはこんな感じだ。そして、これからの事だが、やっぱり準備期間は必要だ。沢村たちに関しては期を見る事になる。外に出られるメンバーは準備と心構えをしておいてくれ」
そして、時雨に目配せする。
時雨はそれを見て、アイコンタクトでもちろんと返してきた。
沈みきっている燈榎を時雨に任せて、その他は各々部屋を出ていく。
◆ ◆ ◆
俺は部屋を出たそのままの足で子供たちのもとに向かう。
会議をしている間にある程度の説明や整理がついただろうし、それならば俺が顔を通しておく必要がある。
会議室から一緒の楓と共に、風呂からあがった子達を待機しておくよう言っておいた部屋に行く。
安心できるようにと開けられたドアからは落ち着いた話し声が聞こえてきた。
「すまない、遅くなった。どんな感じだ?」
「あ、辰生さん。見ての通り落ち着いた子ばかりです」
女の子たちの方を任せた女子のメンバーが返事をした。
普段は待機班にいる子だが、明るくて気さくなので子供たちに好かれやすいだろうとあてがったのだが正解だったようだ。
既に女の子の方は落ち着き、女子メンバーになついている。
男の子たちの方は逆に静かだった。
一応普通にはしているが、緊張がほとんどほぐれていない。
やはり緊急事態に強いのは女子の方なのかもな、とふと考える。
改めて保護した子供たちを見直す。
十歳くらいの男女が一人ずつ、九歳の女の子が一人。
その子たちよりは大きめの男の子に、唯一俺たちと共に通路を走った恐らく歳上級生の子。
窪地で発見した時から気がついていたが、どうやら歳上級生の男の子が囮として使われた子たちの暫定リーダーだったようだ。
男子はどちらかというとこの少年に近いところにいる。
「みんな落ち着いたようだな。アビス能力者で構成されたこの組織、ナイト・バタフライのリーダーをしている鴻上辰生だ。すまないがそちらも自己紹介をお願いしてもいいかな?」
「あ、私は椎宮楓。このリーダーの辰生と同い年で、十八歳だよ」
できるだけ物腰を柔らかくしたつもりだ。
不器用と自覚している笑みを見せると、女の子たちを担当していた女子メンバーが驚いた表情でこちらを見ている。
楓に至ってはクスクスと口に手を当てて笑っていた。
俺への返答に子供たちはどうしたものか困り、リーダーらしき少年の方に目を向ける。
そして、少年が口火を切った。
「朝倉圭介。十三歳だ。陸軍のやつらの所にいたときは、簡単にだけどリーダーみたいなことをしていた」
少年こと圭介が簡単に自己紹介をし、それに続くようにして進んでいく。
「石橋佑樹、十二歳です」
「斎藤鈴、十一歳です」
「三雲靖、同じく十一歳だ」
「五橋結です。十歳です」
子供たちの簡単な自己紹介が終わる。
その後に続いて拠点に来たときから任せているメンバーが自己紹介をする。
「佐倉菜緒よ。十六歳で、私と一緒にみんなの事見てた暗いお姉ちゃんと同い年」
「暗いんじゃなくて、静かって言って……。私は、八坂玲。よろしく……」
佐倉菜緒は普段は待機チーム。
元気さと異能で後方支援をしている。
八坂玲は貴重な感知系異能で、セントラルポールを攻略したときに沢村や宮地と同じ班にいた子だ。
年齢の順としては、俺や楓のいる十八歳、沢村たち十七歳、菜緒たち十六歳とメンバーの中では上の方にいる。
「自己紹介は済んだな。じゃあこの二人に拠点の中の設備を簡単に説明してもらいつつ内部を案内してもらってくれ」
「あ、辰生さん辰生さん。この子たちの部屋はどうします?」
「空いてるところをあてがうしかないな。それぞれ男子は男子で相部屋になるだろう」
「わかりましたー」
一人にさせると不安なので、子供たち同士で相部屋にする。
また、俺たちメンバーの部屋からは適度に近く適度に離れた部屋に置くことでもし何かがあったときに対応しやすくしておく。
「何か気になることとかがあったら、すぐに近くにいるメンバーに聞くといい。よっぽどの事じゃなかったら教えてもらえるはずだ」
そう子供たちには伝えた。
拠点内を歩く間に菜緒たちに頼れる信頼が作れると良いと思う。
◆ ◆ ◆
夕食の時間。
今日からは普通のメンバーに加えて子供たちがいるので、楓たちが頑張って作ったようだ。
普段より豪華な料理が机に並び、子供たちを驚かしている。
「今日は食べ終わっても少し残ってくれ。話したいことがある」
全員が返事をし、それぞれ飯に箸をつけていく。
美味しそうに食べる子供たちを見て、料理をしたメンバーたちが顔を綻ばせていた。
全員が食べ終わり、簡単な片付けも済んだ頃。
全員が座り、俺の言葉を待っていた。
「話というのは、沢村たちについてだ」
そこで燈榎がいつも通り空中に画面を投影した。
画面には、陸軍の基地周辺の地図が写し出されている。
「燈榎、もう大丈夫なのか?」
「とーぜんじゃん。元気頭の燈榎ちゃんだよ」
わざと分からないようにされていたとはいえ、実験の情報を手に入れたのは自分。
"メラ"を動かして陸軍の動きに気がつけた可能性があるのも自分。
そう思い沈みこんでいた燈榎は、時雨のお陰でなんとか復活したようだ。
「燈榎が復活したお陰で、私は服を着替える事になったがな。さぁて、何で胸元が濡れたのやら」
「そうだね。燈榎と時雨が出てきた時、目が赤かったけど冷えタオルは無くてよかった?」
「それは黙っててって言ったじゃん!?」
時雨と楓が燈榎をからかう。
しっかりと復活したアピールの一環だろう。
「色々な情報からどこら辺にいるかはだいたい把握している。問題は、どのようにして助けるかだ」
それから概要の説明をしていく。
正直に言うと、作戦や案は浮かんでいない。
陸軍基地からそれなりに離れているセントラルポールを攻めるのでさえ苦労するのに、相手の本陣に突っ込むことなどそうそうできるわけがない。
なので、何か思い付いたら遠慮なく案を出してほしいこと。
また、その案を出しやすくするために地形等のわかっていることを再確認していく。
この様に、困ったときや悩んだときは必ず話し合って決めるのがナイト・バタフライのルールだ。
「燈榎にはいつも通り色々と調べ続けてもらうことになる。だが、沢村と宮地の状況については話した通りだ。それぞれ、心構えをしてほしい」
現状、そしてそれに対応するための最低限の心構え。
そこはけっして隠すべきではない。
沢村たちの同級生もいるため心苦しくはあるが、メンバー全員に肝に命じて貰うためにこの場でそれを伝えておく。
それに、前線によく行くメンバーだった沢村の代わりとして唐突に外へ行く事も充分に考えられる。
それも含めての心構えだ。
「よし、全員わかったな。質問も案も随時受け付ける。また、これは前から変わらないが常に準備をしておくこと」
そこまでを伝え、今日は終わった。




