第二章 プロローグ
プロローグなので短めです。
お許しください
「すまない! 対アビス能力者部隊のメンバーは揃っているか!」
訓練棟で演習訓練をしていると、突如として扉が開き伝令役の男が駆け込んできた。
駆け込み、こちらの状況を見る前に叫んだあたり緊急の用事らしい。
「どうされましたか? こちらは見てのとおり訓練中なのですが」
「緊急の出動指令だ。アビス能力者が動きだしたらしい」
訓練をしていたメンバー全員がフルフェイスの防護マスクを取り外した所で伝令役の男が指令書を渡してきた。
その紙にはしっかりと衣川中将──己の直属の上司の押印もされている。
「それから、これが今のところの情報をまとめた資料だ。移動用の車は出すから道中に読んでほしい」
十枚前後の紙の束を渡される。
他のメンバーにも順次手渡していくのを尻目に簡単な情報を頭に記憶していく。
どうやら、予告などもなく唐突に戦闘が始まったらしい。
こちらの移動中に情報の追加があるかもしれない、とも書かれていた。
「なるほど。となると、今すぐ出発ですかな?」
「そうなるな。装備類は既に車に積み込んである。君たちは今着用している訓練用の防護服を置いてすぐに表に来てくれ」
それだけ言うと伝令役の男は去っていった。
後ろにいる隊員は既に準備を始めている。
自分も控え室に向かい、さっさとノーマルウェア姿になる。
そして最低限の上着を着込み、表に出た。
表には、実際に見た人はほとんどいないであろう黒っぽい装甲車が待機していた。
大型トラックの車高をさげてゴツくなった様な車両だ。
アイヴァンス、アビス能力者に襲われてもある程度の時間は耐えられる法廷速度をぶっちぎることを許された車だ。
もちろん堂々と表通りを走るわけにもいかないから陸軍専用のルートを通ることになるのだが。
「各員、忘れ物はないな?」
自分以外の十一名全員の返礼を聞き、運転手に発進可能を伝える。
それと同時に発進して、陸軍専用ルートを時速200キロメートルオーバーで走り抜けていく。
そこで、この対アビス能力者部隊のリーダーは今回の事についてまとめられている資料をしっかりと読みなおす。
突如として東京近域のテレビの映像が乱れ、別の映像が投影された。
その映像に映っていた者の名前、演説内容が細々と書き込まれている。
それを見て他の隊員が苦い顔をするのに対し、リーダーと隊員のある一人だけは──口端を歪め、笑いを噛み殺す。
その異様な光景に、笑いを堪えた二人以外は気がつかないまま。
黒い装甲車は道を突き進む。
◆ ◆ ◆
ナイト・バタフライの拠点内では、改めて会議が行われていた。
昨日から今日の今までの間に燈榎が集めた情報は、昨日よりも多くの所で話題になっている、という事だけだった。
辰生としても、自分の演説の反応が知りたかったから問題はない。
具体的に言うと、アビスウイルス関係のサイトが軒並み更新された。
また、当然のようにニュースでも取り上げられている。
だが、それらのコメントは軒並み酷いものだった。
むしろ昨日より悪質になっている。
「で、辰生、この状況どーすんの?」
燈榎が主なコメントや内容をリアルタイムで纏めながら聞いてきた。
これでは悪印象が増えただけではないか、ということだろう。
「とりあえず今はこれでいい。これまで固まっていた印象を変えるための最初の段階だからな。まずは見てもらわないと、意識してもらわないと話にならない」
五年という月日の間に固められた考えを変えるには、光粒子バリアの外で騒いでいてはどうしようもない。
何かしら行動をしても握りつぶされるか、そもそも認知されないのだ。
だからこそ、一時は外聞を悪くしてでもまず目を向けさせる。
昨今のメディアは、陸軍が情報を完全に揉み消すことをけっしてよしとしないからだ。
「次に動くのは、陸軍が本格的に動き始めてからだ。パターンはいくつか考えてある。それ次第で今後の動きは変わるから今すぐどうこう指令はでない」
「前と同じく、何かあったらすぐ動けるようにしておく事が必要というわけだな」
「そういうことだ。動き始めたからには、常に危険が跳ね上がっていると思ってくれ」
桐山が確認をとる。
何だかんだ裏で回しているのは桐山だけに、安心して任せられると思えた。
ここまでを確認し、会議は終了。
陸軍がどう動くのか、をゆっくりと見ている暇など無いことに気がつかないまま。




