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家が欲しいよね。家ってどこにあるの?

「おい、そこの冒険者!」


発とうとした時、不意に声をかけられた。振り向くと俺の背丈の倍以上ありそうな男が近づいて来た。


…まじか。もしかして早速目を付けられた⁉


「お前、今からクエストに行くんだろ?」


野太い声が俺の恐怖を引き立てる。


「…そ、そうですけど」


「お前の行く区域は暴食竜の縄張りだ。これやるから暴食竜に出会ったらすぐに逃げるんだぞ」


そういって小さな小瓶をくれた。ラベルには【速く走れる薬】と書いてある。ネーミングセンスは置いといて。


「…いいんですか?」


「いいんだよ。ここは初心冒険者が集う街。常にここから新しい冒険者が生まれてる。俺は今や中級冒険者だが、初心冒険者の頃、この街の連中に助けられた。だから今がある。ここにいるみんな助けられた連中だ。…新しい冒険者が来たら支援してやるっていうのがこの街の、ギルドのいいところだ」


…なんていい人なんだ。人は見かけで判断しちゃダメっていうけど。このことを言うんだな。


「ありがとうございます。じゃあ、行ってきます」


「おう、行って来い。無事に帰ってきたら初クエスト祝いでもして一杯飲もうじゃないか」


「はいっ!」


人が好いギルドのみんなに見送られてクエストの場所へと向かった。


あんないい人達がいたなんて。初めてこの世界に来てよかったと思えた。


しかも帰ったら祝ってくれるそうだ。早くクエストを終えてしまおう。



「ふい~、こんなもんでいいかな」


汗水たらして背中のカゴいっぱいに野草を集めた。野草には自生している大葉やよもぎなどいっぱいあった。運がいいことにレア食材も見つけた。


後はギルドに戻って完了報告を行うだけだ。


「急ごう…変なことが起こる前に」


ギャロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ。


遠くから奇声が聞こえる。地響きも。


「はは、まさかな…」


わき目も降らずに来た道を歩く。ただひたすらに真っ直ぐ。災厄に出会わないように祈りながら。


あと少し、あと数キロメートル。


そんな希望を打ち消すかのように災厄は現れる。


『ギャロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ』


暴食(ぼうしょく)(りゅう)。はるか昔にいたとされる恐竜の一種で赤く血走った眼を持ち、擦られたら痛そうなイボイボの緑の表皮がその全身を覆いつくす。暴食の名のとおりあらゆるモノを貪り食うという。それが例え同種の竜でも。


「おっと薬の時間だ。早く薬飲まなきゃ」


優しいおっさんから貰った【速く走れる薬】の蓋を開け、一気に飲み干す。栄養ドリンクみたいな味で速く走れそうな気がした。


「よしっ」


気合を入れてダッシュする。生存をかけたサバイバルの始まりだった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


足が軽い。足に羽がついたかと勘違いしそうになる。しかも、ただ走るだけでなく頭が自動的に木々などの障害物を判断し避けてくれる。


ただ、どれも間一髪で避けるため心臓に悪い。


『ギャロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ』


地響きと共に追って来ているのが分かる。奴とて獲物を見つけたのだ。そうやすやすと見逃してくれるはずもない。


だが、この速度のまま走ればギリギリ逃げ切れるか。


暴食竜と追いかけっこを始めて数分が立った。まだ追いかけて来る。


急に走る速度が落ち始めた。足取りも少し重くなる。考えてみたらあの薬は速く走れる薬。速くは走れるが体力は変わらないのだ。当たり前なことに。


「やばいやばいやばい…」


どんどん距離が縮まっていく。暴食竜が顔を伸ばしたら届きそうな距離。


「あ!」


道中に転がっていた石に躓いて転んだ。何という致命的ミス。それを見た暴食竜を走ることをやめ、ゆっくりと近づいてくる。


『ギャロロロロ』


暴食竜は品定めをするかのように俺を眺めている。そして、臭いを嗅いでいるのか鼻息ブレスが顔を直撃して痛い。


品定めが終わったのか暴食竜は首をかしげている。


俺が不味そうに見えたのなら都合がいい。早く他の獲物を見つけてほしいものだ。そう思いながらにらめっこの要領でにらみ続ける。


『ギャロロロロロロロロロロロロロロロロロ‼』


途端に暴食竜がデカい口を開けて噛みつこうと近寄った。


「うわぁあああああああああああああああああああああああああああ‼ か、神様、仏さまぁ~‼」


手元に落ちている石や木の枝を一心不乱に投げつけながら、いると信じたい神様と仏さまに祈った時だった。


『ギャロロロロ。ギャ…ロロロ。ギャロ……』


あんなにいきりたっていた暴食竜の鳴き声が止んだ。そして謎の地響きが体全体に響いた。ゆっくりと目を開けると噛みつこうとしていた暴食竜が横に伏していた。


「し、死んでる?」


そこら辺にあった石を拾い倒れた暴食竜めがけて投げる。死んでいることを願って。


投げつけた石は竜の頭に当って地面に落ちる。…反応はない。絶命しているようだ。


「は、早く帰ろう」


投げた石や木の枝が致命傷になるはずもない。なぜ暴食竜が倒れたのか推察していたかったが今は一刻も早く帰りたいという欲と恐怖とが勝ち、その場を後にした。




「おぉ、無事に帰ってきやがった」


ギルドに戻るとおっさんが待っていた。


「暴食竜が出たって聞いたが、お前、よく戻って来たな」


情報が早いなと思いながら、おっさんから貰った薬のお陰だと感謝を言う。


「がっはっは。何はともあれクエストは完了したんだろ? ほれ、受付に行って報告して来い。俺たちは先に行ってるからお前も後で来いよ」


そう言い残しおっさんは去った。


先に行くと言っていたが、推測すると俺の祝いをしてくれるようだ。それは嬉しいこと極まりない。


ひとまず受付に向かってクエストクリアの報告をした。


「はい確認しました。報酬の五千ステラです。それと……特別報酬が出てますので、十二万ステラが追加されます。ですので合計十二万五千ステラとなります。お疲れ様でした」


…少し金持ちになった。


「あのさシーニャ。この特別報酬って何?」


ギルドの受付カウンターにいたシーニャに気になった特別報酬とやらを尋ねる。


「特別報酬というのはクエストを完了した際にもらう報酬ではなく、別に何かを達成したときに得られるものです。例えば…レア食材を見つけるとか、高難度のモンスターを倒すとかですね」


なるほど。という事はさっき見つけたレア食材、ゴールデンまつたけが特別報酬として支払われた訳だ。


「アラタ様、カードを見せていただけますか」


「あぁ、いいけど。あっ、俺のことは様つけないでいいから」


言われた通りにシーニャにカードを手渡す。


受け取ったシーニャはカードの裏面。つまり、モンスターの討伐数や図鑑が記されている方を見た。


「こ、これは…」


突然、シーニャの顔が驚きで満ち溢れた顔つきになる。そんな顔を俺に向け。


「アラタ。あなたは暴食竜を倒したのですか⁉」


はい? 言っている意味が分からない。


「ほら、ここに暴食竜討伐数1となっているでしょう」


カードのある部分を指して見せて来る。確かに恐竜類 暴食竜討伐数1となっていた。


「ほんとだ。…おかしいな。さっきまで追いかけられて命からがら逃げ伸びて来たんだけどな……」


駆け出しの冒険者があんな凶悪なモンスターを倒せるはずがない。


「…不思議ですね。でもこのカードは偽造できないので何かしらで暴食竜を倒したのでしょう」


結論はそういうことになった。


クエストの報告とおっさん達によるお祝いが終わった頃、時計の針は午後十時を指そうとしていた。


長い一日だった気がする。


そんな中、俺は重大なことに気がついた。それは……帰る家が無いこと。


「分かりました。調べておきますので今夜はギルドに泊まってください」


ギルドの職員に空き家か賃貸の家は無いかと尋ねた。今夜はギルドの住居に関する業務は終了しているそうで翌日に教えてくれることになった。そしてギルドの職員の粋な計らいで今夜はギルドに泊めてもらうことになった。


再び、思えば長い一日だった。


いきなり異世界に転移させられて、恐竜に追いかけられて、ギルドのおっさん達と仲良くなって……楽しかったな。


また、明日から頑張ろう。そう決意しながら次第に重くなる(まぶた)を閉じた。

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