ギルドってどこですか? 何をするところですか?
「ここが異世界…」
異世界と聞いて空が赤いだとか月が二つあるとか色々中二病的に想像したのだが。以外にそうでもなかった。
「まぁまぁじゃんか。歴史の教科書で見たような街だ」
レンガ造りの家々が建ち並び、その前を馬車が闊歩していく。
「で、来たのは良いんだけど。何したら良いんだっけ?」
俺を勝手に異世界へと転移させたニーニャの言葉を思い出す。
「そうだ。ギルドへ行かなきゃ。…とは言ったもののここってどこ?」
辺りを見回すが場所を案内する立て札もなく、前後左右どこを見ても果てしなく広がる道があるのみだ。
「いきなり手詰まりか。なんの情報もないし、どうするか…」
ゲームでは行き詰まることは少なくない。そんな時はポチッとな(リセット)すれば良いのだが、現実にそんなボタンがあればいいのだが無い。
あったら世界の人口の9割がリセットのオンパレードだろう。とりあえず真っ直ぐ歩くことにした。
「…人がいない」
歩けど歩けど建物が現れるばかりで人っ子ひとりいない。人がいる様子もない。完全にさびれた街だ。だが、幸いに道は一本しかない。これなら迷うこともないだろう。
「えっ、道が二つに分かれてるし。どっちかがアタリでどっちかがハズレだな」
しばらく歩き続けると二つに分かれた分岐点に差し掛かった。分岐点にはドラゴンが象られた石像が立っている。そのドラゴンの両手には立て札らしきものが取り付けられている。
「どっちに行けばいいんだろう」
近づいて立て札を見る。ギルドはこっちとか書いていてくれると助かるけど。
「何これ。落書き⁉︎」
読めなかった。でも書いている文字は日本語っぽい何か。なるほど、これを読まないとギルドへは辿り着けないってか。謎解きタイムの時間だ。
「右は【面方ドルギはらちこ】。で左は【面方街店商はらちこ】」
全く意味が分からん。面方? はらちこ?
色々考えていく内にドルギ、街店商の二つが方向を示していることが分かった。
「かぁ〜、ここまで来たのに謎が解けないなんて…。ドルギ…ルギド…ギドル…ギルド。……ギルド? ギルドぉ‼︎」
やっと謎が解けた。これは昔の日本の文章みたいに右読みなんだ。ちなみに何番目かな俺。
「右から読むと【こちらはギルド方面】ってなるわけだ。てことは右だな」
見事謎を解き明かし、右方面に向かって歩みを進める。歩みを進めながらポケットに入れていたスマホを取り出すと時刻は午後三時を示している。
「あ、アンテナ立ってない。ここ圏外なんだ」
意外な発見をした。と同時に腹の虫がなった。
「あぁ、お腹すいたな」
昼ごはんを食べてから三時間。飲まず食わずで歩き続けていた。
「近くにコンビニとか…無いよなぁ」
鳴き続ける腹の虫に耐え、一応コンビニを探しながら先を急ぐ。全くお店も何もないとか急にお腹が痛くなったらどうするんだよ。
歩き続けること一時間と半分。スマホの時計は五時を過ぎたころを表示していた。ついに目的地のギルドへたどり着いた。ギルドの正面には銅像で作られたかっこいいドラゴンがいた。
一緒に写真撮りたい。
たどり着いたは良いもののギルドの中はどんな人がいるんだろう。ゲームにいるような上半身がほぼむき出しの厳ついおっさんがいるかもしれない。顔がひょろ長くていかにもモブキャラっぽいのもいるかもしれない。
そんな人たちにいきなりカツアゲとかされないよなと恐る恐るギルドへ入るとトレンチにワイングラスを二、三本載せた銀髪猫耳のウェイトレスが出迎えてくれた、のだが。
「◎、✖️▲□@&/〜。◎✖️▲□」
え? 聞き取れない。
「◎✖️▲□@&◎◎✖️?」
耳に入ってくるのは英語のようで英語じゃない何か。ちっともわからん。
「困ったな。これじゃシーニャって子が誰かもわからない」
ニーニャと同じ猫耳娘だと思うんだが、ギルド内にいるウェイトレスやクエストの受付らしき場所にいる人全てが猫耳娘だった。
……つまるところあれだな。再び行き詰った。今回はどうにもできそうもない。
「どうにかしてこの世界の言語が分かれば……あ」
ここで再び思い出した。異世界税を払った時の特典。その3。
「あらゆる言語を翻訳してくれる翻訳の実‼︎」
懐から翻訳の実を取り出す。
……待てよ。俺、ニーニャから翻訳の実を貰ったっけ。
急いで身体中を探る。
あったのは紙切れが一枚。
「これ……説明書か!」
ニーニャが読めと言っていた説明書。中を開くと茶色い種のような物があった。それが何かを理解した俺はそれを摘まんで口の中に放り込み、つばと一緒に飲み込んだ。
味はしない。無味無臭。
「いらっしゃいませ、お客様。クエストの受注ですかお食事ですか?」
「えっと、シーニャって人を探しているんだけど」
「シーニャですね。今、呼んできますのでテーブルについてお待ちください」
「はい、ありがとうございます」
近くのイスに座ってシーニャが来るのを待つ。今の子可愛かったななんて思いながら。
あれ? 今普通に会話したよな俺。翻訳の実が効き始めた証拠だ。
「お待たせしましたお客様。私がシーニャです」
現れたのはニーニャにそっくりな猫耳娘だった。そっくりというか本人?
「え、ニーニャ?」
「ふふふ、よく間違えられるんですよ。ニーニャは私の姉です。私はシーニャと申します。ギルドの受付をしています。お話は姉から聞いていますよ。シノミヤアラタ様」
ニーニャとシーニャは姉妹だという。違うところは話し方や笑い方ぐらいで外見は一切区別がつかない。
「恐らく姉は詳しいことはお話していないと思いますので一つずつお話しますね」
ギュルルルルルルルルルルルルルル。
勢いよく腹の虫がなった。
「フフフ…空腹では話が頭に入らないと思いますので先にお食事を済ませて来てください」
気が利くシーニャに感謝してメニュー表を取って料理を注文する。
「あ~、生き返った。お姉さんいくら?」
「お会計が850ステラになります」
「じゃあこれで」
そう言って財布から千円札を取り出して渡す。財布の中には小銭のみとなった。
「お客さん、これ何ですか?」
「千円札だけど。これじゃダメ?」
「…はい」
……ですよね〜。俺、この世界のお金持ってない。どうしよう。
「あのシーニャさん。今手持ちがないのでお金を貸して下さいませんか?」
この世界の中で唯一頼ることが出来るシーニャから千ステラを借りて料理の代金を支払った。
異世界に来て初日から借金生活。もう嫌だ。
ー借金による昼食後ー
「では改めて。まずはこの世界の方々がみんな持っているカードについて説明しますね」
シーニャはとあるカードを見せてきた。クレジットカードと同じくらいの大きさだ。
「ここではこのカードが非常に大切となります。カードには個人情報、こなしたクエスト数、モンスター図鑑、職業がそれぞれ記されています。また、これらはみんな見ることが出来るようになっています。そのため偽造防止の魔法が組み込まれています。あと……出来れば無くさないようにしてください」
付け足したような言葉。無くす人が多いんだな。
「もしだけど仮に無くしてしまった場合はどうしたらいいの?」
質問をしただけなのにシーニャの鋭い目が向けられた。
「カードは再発行が可能ですが、手数料として千ステラいただきます。でも、その分ギルド職員の負担が増えるので何があっても絶対に無くさないで下さいねっ!」
釘を刺された。恐らく、カードの再発行は移行が面倒なのだろう。
「わ、分かりました」
「次にクエストについて説明します。クエストは主に3種類あります。一つ目は比較的安全な収集クエストです。…極たまに死ぬこともありますが。大丈夫でしょう。二つ目が三つの中でも最も多い討伐系クエストです。…これも死ぬことがありますが。これも大丈夫でしょう。そして! 最後の三つ目が私が生きている間に起こって欲しくないクエスト。緊急クエストです。緊急クエストは街に災害が降り注ぐなどの条件を満たした場合のみ発注されます。これは装備が生半可な奴が行くと無駄死にします。くれぐれもレベルがクソな人は行かないことをオススメします」
クエスト三つ全部に死がついてくるのか。あとで保険かけとこ。
「最後に街の外に出る時の注意事項をお伝えします。この街から出るとモンスターが出現しますので装備をしっかりしてお出かけください。そして、この世界にはダンジョンと呼ばれる塔や洞窟などがあります。そこにもモンスターがウヨウヨいますが、ダンジョンにはボスと呼ばれるモンスターが一定フロア数ごとにいます。ですので下層に行きたければボスモンスターを倒すしかありませんからご了承ください」
ダンジョンとか聞いて少しやる気が湧いてきた。日本にいたら絶対こんなの味わえない。早く行ってみたい。
「あ、あと、アラタ様は異世界税を支払ってここに来ておりますので月に一度異世界税を支払っていただきます」
ここでも異世界税が関わってくるのか。
「質問なんだけど…。もし、異世界税を支払わなかったらどうなるの?」
ニーニャは言った。異世界税は異世界と日本を繋ぐ税。払わなければ異世界にいられなくなるから日本に帰れるはず。ダンジョンに行きたいとか言ったけど実際のところ帰りたいのが本心だ。
そんな淡い期待が消し炭と化す言葉がシーニャから告げられた。
「それは脱税となりますので刑務所にブチ込まれますね」
……あれ?
「支払いの額はカードに記載されますので必ず月が変わるまでにちゃんと支払って下さいね。ではこれから頑張ってくださいね」
シーニャから説明を受けた後にニーニャからもらった説明書をもう一度読み進めた。
「え~何々? クエストを一定数クリアするとクリアした数によって報酬がもらえるニャ」
ほう、これはクエスト受注するしかないっ。
「モンスターと出会うと図鑑に登録されるニャ。仮に誰の図鑑にも載っていニャい新種のモンスターが登録されると報酬が出るニャ」
ほう、これはクエストを受注するしかないっ。
「さて、早速クエストを受けるとしますかね」
説明書を懐に収めクエストボードへと向かう。
ところどころ、視線を感じるが無視しておこう。きっと、この見たことのない服装のせいだ。手早く金を稼いで着替えよう。絡まれたら怖いし。
「まずは命を落とすことのない収集クエストから受けてみよう」
クエストボードから簡単そうなクエストを受注した。
クエスト
『このところ腰が曲がってしまったので野草を取りに行けません。どうしても野草の天ぷらが食べたいのです。どうか野草を数種類取って来てください。
報酬 五千ステラ 注意事項 暴食竜 出現の恐れあり』
「ま、まぁ、暴食竜とやらに出会う可能性は少ないだろう。さっさと野草を取って戻れば安全だ」
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