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MAGI-Craft(マギクラフト)  作者: スプライト
第一話「絶望の始まり」
4/27

4.宗教と運搬

 ・修正(2016/02/13)

 「第一話 3」:録画したデータで、少年達に少女を虐めないよう釘を刺す描写を追加。

 褐色の肌を持つ少女。年の頃は、十歳ほどだろうか。身に着けた服は一目で分かる程の古着だった。それに、手首にリングが巻かれていなければ、グラスビュアを掛けていない。

 少女が、ガラスに覆われていないその瞳で、エルとアイコを見上げた。


「おニイさんたち、ワタシのこと、イジメないの……? ワタシ、ガイコクジンなのに……」


 少女の口から発されたのは、やや舌足らずながら、日本語だった。その言葉は暗に、普段から虐められている事を……虐められる事の方が自然だと、告げていた。


「虐めないよぉ〜。ねぇ〜? エルくん〜?」


「ああ、もちろんだ」


 アイコが少女に微笑みかける。少女の身体から、少しではあったが、強ばりがとれる。エルはその様子を見ながら、少年の放った言葉を思い出していた。


 ――ガイコクジンの所為で。


 そんな風に外国人に敵意や嫌悪を抱く日本人は、少なくない。


 きっかけは、今から十年前の2030年。マギアが日本の東北地方に出現してから、十年が経過した時だ。日本人は多くの犠牲を生みながらも、ついに、マギアと戦力の拮抗に至らんとしていた。


 満を持し、マギクラフトとパイロットの数を揃えた日本人は、マギアの殲滅作戦を決行した。その結果起きたのは、


 ――惨劇、だった。


 作戦自体に問題はなかった。作戦失敗が失敗した……惨劇が引き起こされた原因は、外国の介入だった。

 彼等は援助という名でこの戦いに割り込んだのだ。

 彼等によって戦場はいたずらに掻き回され、数十万人がその犠牲となった。


「……きみ、家はぁ〜? お姐さん達が送るよぉ〜」


 アイコが提案するも、少女は首を横に振った。


「ダイジョウブ、です。イエ、チカイから……その、あの。アリガトウ、ゴザイマシタっ……!」


 少女は結局、感謝を述べたものの、逃げるように走り去っていった。


「本当に、大丈夫かなぁ〜……」


「ガキ共にも釘は刺しておいたし、一先ずは大丈夫だろう」


 言いながらエルは思っていた――これは、根本的な解決ではない、と。解決しようと思えば、それこそ、今度こそマギアを滅ぼして、本当に日本を、平和を取り戻すしかないのだ。

 エルは気持ちを切り替えるようにパンっと手を叩いた。


「それより、アイコの方こそ大丈夫なのか? マギクラフトを見に行くんだろ?」


「はぅあっ! そ、そうだったぁ〜! 急がないと見逃しちゃうよぉ〜っ!」


 ばッと立ち上がり、彼女は急いで元の道へと戻り始める。エルはそんな様子に、ほっと小さく息を吐き、その後ろ姿を追いかけた。



 そこから、目的地まではそう遠くなく、すぐにアイコの言う絶景ポイント見えてくる。周囲には田畑が見られるようになっていき、建物も減り、工場らしき物がぽつりぽつりと見えるだけになっていた。


 しかし、目的地だけは違った。高台となっているそこだけは、閑散とした町の中で異様な光景となっていた。


『マギクラフト、反対ぃいいいいいッ!!!』


『神に逆らうなぁあああああッ!!!』


『お前達が神に刃向かうから、神は我々を攻撃するのだぁあああああッ!』


『神に恭順せよぉおおおおおッ!』


『頭を垂れよぉおおおおお!ッ』


 そこでは複数人の男女が、拡声器を片手に叫んでいた。アイコと同じように情報を得、見学しに来たらしい周囲にちらほらと見える人達は、その声に気圧されてこの場から去って行く。


「……なに、これぇ」


 それはアイコにとっても予想外だったらしい。そこには、怒りを通り越して無表情になった彼女の姿があった。

 拡声器で叫んでいる人達は皆一様に、同じ法衣を纏っていた。それは彼等が、最近ニュースやSNSで話題になりつつある宗教団体だという事を示していた。


 ――その名は、御心会ミココロカイ


『神に心を捧げよ。神の心を受け入れよ』――そんな風にマギアを神と崇め、敵対ではなく恭順を選ぶ、あるいは人々に選ばせようとしている団体だ。


 普段なら見て見ぬフリをして通り過ぎるのだが……とエルが考えている内に、アイコは既に動いていた。気付いたときには、隣に彼女の姿はなく、いつの間にか彼女は御心会員達の眼前に仁王立ちしていた。


「あの馬鹿っ……!」


「マギクラフトを馬鹿に――」


 アイコが叫ぼうとする。エルが遅まきながら、彼女を止めんと駆け出そうとした。しかしその時、ピクリとアイコが反応し、口を噤んだ。

 振り返ったアイコにつられ、エルもまた視線を彼女と同じ方へ向ける。遠方に小さな影が見えた。


「……車?」


 エルが声を零す。だがアイコの、先の怒りを忘れたような嬉しそうな様子からわかった――あれは、マギクラフトなのだと。

 しかし、こちらに近づくにつれ明瞭になっていくその影は、どう見てもそれは人型ではなかった。大型のトラックにしか見えない……と、そこまで考えてエルは気付く。


「ああ、あれが……マギクラフト運搬車か」


 アイコに日頃から聞かされまくっているマギクラフトに関する蘊蓄うんちく。その中には、マギクラフトは日頃から二足歩行しているわけではなく、戦闘時以外は専用の運搬車で移動している、という話もあった。


 数は……全部で四台。そのいずれにも、STAGEのロゴが描かれていた。

 だが、運搬車のコンテナに、その内側を覗けるような部分は一切なく、これでは中に何が入っているかなんて全く分からない。エルは落ち込んでいるのではないかとアイコに視線を向け、


「あの運搬車はぁっ……! 第二世代型マギクラフト――蔵人クラウドのだぁ〜っ! 今もっとも多く利用されている量産機ぃっ……! 過去の機体から得た情報を元に作られた、完成形ぃ〜っ……!」


「って、それでいいのかよ!」


 どうやら、は全く問題なかったらしい。マギクラフト本体が見れず落ち込んでいるかと思ったが、全くそんな事はなかった。


 とはいえ、いつまでもそんな調子で放っておく訳にもいかない。アイコが御心会へ喧嘩を売ろうとしたのがうやむやになった今のうちに、この場から距離を取りたい。

 そう考え、改めてエルが足を踏み出したそのとき――視界の端に何かが映り込んだ。


「――え、」


 それが何であったのかを確認するよりも先、エル達を凄まじい衝撃と暴風が襲った。大地が揺れ、その場に膝を着く。そこへ強い風が身体に叩き付けられる。


「ぐっ……一体何、が」


 腕で顔を庇いながら、エルはなんとか顔を上げた。と、その視界に飛び込んで来たのは――真っ赤な炎。遠方に見えていた運搬機の一台が、燃え盛っていた。

 甲高いサイレンが町中に響き出す。エルは何が起きたのかを理解した。


「……マギアだ」


 ――マギアの、襲撃だ。


 運搬車のさらに遠方には、赤黒い、異形がその姿を現し始めていた。運搬車は破壊された一台を放棄するかのように、残りの三台が一気に速度を上げてこちらへと向かってくる。


「ッ! アイコ、逃げるぞッ!」


 エルが叫ぶも、あちこちから上がる悲鳴やサイレンの音で、アイコは気付かない。どころか、「あぁぁああああああっ! クラウドがぁあああああぁっ!」と呑気に嘆いている。


「あの馬鹿っ……だから日頃から話はちゃんと聞けと……」


 エルは彼女の元へ行こうとするも、逃げる人達に突き飛ばされて前へ進めない。そうこうしている内に、再びエル達を衝撃が襲った。大地が揺れ、激しい爆風が身体を打つ。


「なッ……!」


 それは、マギアの攻撃だった。先程、一撃にて運搬車を破砕した攻撃――その第二射が飛んで来たのだ。エルは今度こそ、何が起きたのか、何が飛んで来たのかを目視していた。


 ――手だ。


 遠方に見えるマギアは、巨大な人間の腕にも似た外見をしていた。それは一見、地面から腕が生えているようにも見えた。しかし、その根元は本当に地面に埋まっているわけではなく、無数の掌が――指が生え、蠢いていた。


 その指を地面に突き刺すように身体を――腕を固定する。そして、まるで蜘蛛の子がたかっているかのようにも見える、周囲に群がっている何体もの巨大な掌――その内の一つを引っ掴む。


 蜘蛛のようだった掌が握り拳を作ると、腕はそれを――思い切り投擲とうてきしてきたのだ。

 それはまるで、腕で作られた投石機のようだった。


「なんだよ……そりゃ」


 あまりにも異様な光景に、エルの喉が引きつった。

 投石機型のマギアの根元で、無数の指が蠢く。地面に突き刺されていたそれらが引き抜かれ、こちらへ前進し始めていた。


 と、着弾地点で起きた砂埃から、三台の運搬車が飛び出してくる。どうやら直撃は避けられたらしい。が、しかし。その運搬車を追うように、砂埃からさらに二つの影が飛び出してくる。


 それは、蜘蛛のように指を蠢かせて走る、マギアだった。先ほど投擲されて来た二体が、追いかけて来たのだ。


「ははっ……化け物め……!」


 マギアはその着弾の衝撃でぐちゃぐちゃに潰れいた。指があらぬ方向へと向き、ぎこちない走りをしていた。が、それも少しの事。まるで巻き戻しのようにその傷が治り、どんどん加速しながらこちらへと迫って来る。


「って、マズいッ……!」


 投石機型の根元に集っていた蜘蛛型もまた、こちらへと接近を開始していた。


 蜘蛛型のマギアは個体個体は、投石機型に比べればそう大きくはない。せいぜい、3メートル前後だ。しかし、その分動きが素早い。このままでは追いつかれるのは、火を見るより明らかだった。


 そう感じたのは運搬車の運転手も同じだったのだろう。走っている運搬車のコンテナが、稼働を開始した。コンテナ上部が開き、その内部を外気に晒す。

 マギクラフトが光に照らされ、その姿を現していた。


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