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MAGI-Craft(マギクラフト)  作者: スプライト
第三話「託された願い」
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1.隊列と2度目


『敵影捕捉。蜘蛛型多数。他、投石機型5・球体型2』


 エルの視界――MSGマジックスクリーンガラスの向こう側。地平線の先に、蠢く敵の群れが映る。


『このまま一気に接近し叩く。投石機型による投擲に気を付けろ!』


『『「了解」』』


 エル達――部隊の面々がギンの指示に応を返し、一気に加速する。エルもまた、自身の駆る機体――緋色王ヒイロオウのコクピットで、フットペダルを踏み込んだ。


 エルは今、ギンの駆る銀色に輝く機体――伐折羅バサラを先頭にして、蔵人クラウドと共に隊列を組み、荒廃した大地を進んでいた。


 ギンの合図と同時に散開し、マギアへと攻撃を仕掛ける。エルが部隊に再び所属してから、既に2ヶ月近い時間が経過していた。訓練と実戦を繰り返し、部隊としての動きが洗練されつつあった。


『エル、他マギアの群れが3時方向から接近中よ。蜘蛛型を10体撃破後、そちらの対処に向かって』


 窓が開き、指示が飛んでくる。そこに映っているのは真っ白な少女――イレーア=菜々・カイラ。彼女はエル達のオペレーターとして作戦に参加するようになっていた。その指示の的確さにはエルも下を巻かざるを得なかった。


 エルはバックパックの鞘から2本の刀を抜き出し、構えた。それもまたヒイロオウと同じく、骨董品として格納庫に眠っていた品だ。接近した2体の蜘蛛型へ、その刀身を突き刺す。と同時に柄に備わったトリガーを引いた。


 ――爆発。


 蜘蛛型がその体内から膨らみ、破裂する。それは、リボルバーWASPナイフの原型ともなった武器――WASPブレイドだった。ガシャンと音を鳴らし、柄と刀身の間で二つに折れ、ガス燃料の詰まっていた薬莢を吐き出す。


 両下腕に装着された 手甲のような装備と合わせる事で、そこへ新たな薬莢が装填される。手を振るい、再びガシャンと音を鳴らしながら装填口を閉じた。


 エルは当たり前の事だが、やはり武器があると戦いやすい、と思った。そして、仲間がいると――とも。最初に指示された10体を倒すと丁度、接近中のマギア群までの道が開ける。


『エル』


「了解」


 なんつー正確な予測だよ――そんな風にエルは、イレーアの指示に下を巻きながら、フットペダルを踏み込む。スラスターに火が点り、Gがエルを襲う。だが最近慣れて来たのだろうか、以前程にキツくはない。


『装備を投下します』


「了解」


 事前にわかっていたとしか思えない完璧なタイミング。上空からパラシュートをつけられたコンテナが落下してくる。エルはスラスターの燃料を使い切ったバックパック、両手のWASPブレイド、手甲を分離、投棄する。


 代わりに、辿り着いた先のコンテナが開き露にした武器を掴みとる。そこにあったのは巨大な筒。そこに備えられた取っ手を掴み、構える。マギア群へと向ける。


「発射ッ!」


 エルが叫ぶと同時、筒から一斉に射出されたのは――刀。何十もの刀が射出され、マギアを串刺しにする。だが遠距離攻撃ではマギアを倒せない。マギアの群れは刀を突き刺したままこちらへと接近してくる。


 だがその内の半数は、地面に刀で縫い止められ、動きを封じられていた。乱れた群れの中へ、エルは筒を放棄して突っ込む。そして飛び上がると刀が突き刺さったままになっていたマギアへと飛びかかった。


 刀の柄を掴み、振り切る。マギアを両断する。そのまま掴んでいる刀で次のマギアを切りつける。乱舞、と表現するのが相応しい戦いぶり。しかし、数体を切り伏せた所で刀が駄目になってしまう――半ばから折れてしまう。


 だがエルは一切躊躇わず、その刀を放棄した。

 代わりにすぐ側のマギアへと飛びかかり――そこに突き刺さっていた刀を引っ掴み、それで戦い始める。それはまるで、武器庫の如き扱いだった。


『こっちハ終ワっタよ! ワタし達も加勢するネっ!』


 どうやら、今回の戦闘もトラブルなく終了できそうだ。

 エルの機体――ヒイロオウはこのように、戦況に応じて換装しながら戦うのが基本的な戦法だった。それは、まだ戦えるのがヒイロオウ1機だけだった頃の名残だ。


 ヒイロオウや過去の装備等の骨董品は、エルの専用機として貸し出されるようになっていた。お陰で、エヴァやカヤジはそのメンテナンスや整備に嬉しい悲鳴を上げている。


「……にしても近頃、出撃回数が増えてきたな」


 ここの所、毎日のように出撃が掛かっている。何かが近づいて来ているような、そんな予感にエルは襲われていた。


「……ギン、どうかしたのか?」


 ふと、エルはバサラの動きに違和感を覚え、声を掛ける。僅かな間を置いて、ギンから返答。


「なんだ? 一丁前にオレの事を心配でもしてる、ってかァ? ただ、機体の状態を確認していただけだ」


「あぁ、そうかい」


 エルは相変わらずのギンに舌打ちをして、残党の殲滅へと取りかかった――……


   *  *  *


「エル」


「イレーナか。お疲れさん」


 戦闘後のメディカルチェックを終え、診察室から出て来たエルを迎えたのは、車椅子に腰掛けたイレーアだった。彼女は、トントンと車椅子の背を叩いた――押せ、と。

 エルは「はいはい」と手押しハンドルを掴み、歩き出す。


 カラカラと車椅子のタイヤが回る音が、通路に響く。

 エルは真っ白にも見えるプラチナブロンドの髪を見下ろしながら思った。彼女も最初出会った時とは随分変わったな、と。当時の彼女なら、STAGEで働くなんて選択は出来なかった。自分は歩けないから、外国人だから、と。


 彼女がこうしてここで働く事になった契機は、あの戦闘があった日――救助された後に行われた、身体測定だったという。なんと彼女はそこで、パイロットの適性が発見されたのだ。


 だが、問題はそこからだ。脚が動かせなければ、パイロットにはなれない。しかし、そこでイレーアは一歩前へと踏み出した。なんでもいいから自分に出来る他の事はないのか、と問うたのだ。


 パイロットでないのなら、歩けない――それも外国人を雇う必要性はない。職員が断ろうとしていたそこに偶然居合わせたのが、最初にエルの案内役などを務めてくれていた津雲ツウンシシコだった。

 そこからはイレーアの独壇場だったという。オペレーターとしての素質を見せつけ、反論の一切を封じ込めた。


 ――恐らくだが。


 と、エルは思う。イレーアのオペレーターとしての才能は、その時に生まれたのではないか、と。元からあったものではなく、その瞬間に生まれたのではないか、と。


 パイロットとしての素質は後天的にも発現する事がある。そして、発現の瞬間には肉体に何らかの変化が起きるとも言われている。イレーアがに起きた変化が、オペレーターとしての才能の開花だったのではなかろうか、と。


 ともかく、彼女はこうして、オペレーターとしての地位をもぎ取ったのだった。

 先輩としてシシコが基本的に付き添い、またたった二週間足らずという期間で正規部隊――それも外国人の多い末岡班に所属した事で、外国人を嫌う者からの攻撃も上手く躱しているようだった。


 ――だとしても。


 いくら実力を見せたからといって、彼女の訓練期間は短過ぎる。いや、彼女だけじゃない。近頃、STAGEはほとんど無差別にも近いレベルで人員の増加を行っていた。明らかに何かがおかしかった。


 ……あと、変わったと言えば。

 イレーアは急に車椅子のブレーキを掛けた。エルは思わずつんのめる。前のめりになったエルの首にするりとイレーアの腕が伸びていた。ひんやりとした手がエルの首元を愛おしそうに撫でる。


「……い、イレーア?」


「なぁに?」


 イレーアは妖しくくすくすと笑う。気付くとあたりには誰もいなかった。というか、誰もいなくなったからこうなった、と言った方が正しい。彼女の指先が首から頬、唇へと撫ぜながら迫ってくる。


「おい……?」


「どうかしたかしら?」


 イレーアの、エルに対する態度がおかしかった。妙に、ベタベタと触れてくるのだ。ぶっちゃけ、コワイ。元の態度を知っているだけに、余計にコワイ。大切な者のためなら平然とプライドを捨てられる彼女なのだ、何かを企んでいるのではないかと疑わずにはいられない。


 と、スッと唐突にその手が離れる。エルがホっとした直後、背後から声がかかった。


「あれ? エルとイレーアじゃん? どったのこんな所で立ち止まって」


 金の髪にツナギ、八重歯を口元から覗かせるのは、エヴァだ。その手には工具箱を持っていた。ヒイロオウのメンテナンスをしてくれているカヤジの、使いっ走りをしているのだろう。


「なんでもないわ。間違ってブレーキ引いちゃったの」


「……ふぅーん」


 イレーアがエヴァへ笑みを返す。なぜかエルは胃が痛かった。と、そこへさらなる来訪。


「おいガキ」


「……あァ?」


 現れたのはギンだった。エルの顔が嫌そうに歪む。お互いがお互いを敵視に近い感情で見ているのは、今なお継続していた。


「ちょっと付いてこい」


 エルは溜め息を吐いて、車椅子から手を離した。敵視していようが上司は上司。それに普段からお互い、仕事に関する事以外で口をきかない。つまりこれも仕事関連――だったら仕方ない。


「エル。また後で、ね?」


「エルー、頑張ってきなよー」


 二人に見送られ、エルはギンの後を追い歩き始めた――…… 


   *  *  *


 それから、1週間後。


「……ネェネェ。アの二人、最近マタ仲悪くナっテナい?」


 黒人パイロット――独特なイントネーションでエイミーが、ギンとエルの方を見ながら言う。話しかけられた気弱そうな大柄の男パイロットは、「ええ、そうかなぁ……?」と首を傾げる。


「ぼ、ぼぼぼくは寧ろ……最近すごく仲良しな気がする……かな? だって、ほら。最近いつも二人で、任務の後どっか行ってるし……」


「……うーん。そうデすカネェ?」


 そんな風に話題にされているとは知らぬ二人。ギンが視線をエルへとくれ、歩き始める。エルは舌打ちをしてから後に続く。それはここ数日、毎日繰り返されている光景だった。


 エルが連れてこられたのは、ギンの自室。そこのテーブルに広げられていたのは、最前線やSTAGE基地周辺の地図。その上にはチェスの駒があちこちに配置されていた。他にも部隊員の個人情報などが書かれた書類が置かれていた。

 ギンが座席に腰を下ろす。エルにも座るように促す。が、エルは動かない。


「……いい加減にしろ」


 エルが低い声で言う。


「一体、どういうつもりだ。こんな事を俺に教えて、どうしようってんだ」


 ここ数日、エルはギンに部隊の編成や、隊列、その使うタイミングや場所、指示の出し方、はたまた部隊員のプロフィールから人間関係、上司への報告書の書き方などを叩き込まれていた。


 一体、何の気まぐれだろうか。振り回される方は堪ったものではない。にも関わらず、理由を問えば、


「……テメェは、黙って学んでいりゃあいい」


 これだ。何も話そうとしない。エルがうんざりした様子で口を開こうとした、その時。施設中に大音量で警報が鳴る。真っ赤なランプが辺りに灯る。グラスビュアに通知が届く。


「今日は2回もか……」


 襲撃のあまりの頻度に眉を顰める。機体のメンテナンスも、これでは追いつかないのではないだろうか、とカヤジへと連絡を入れる。案の定、「まだ全然終わっとらぬわ!」と慌ただしくしている様子が伝わってきた。

 ギンが呟く。


「……来たか」


 その視線がエルへと向く。そして口を開き――……


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