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MAGI-Craft(マギクラフト)  作者: スプライト
第二話「願いの在処」
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10.整備員と外出


 エルがツナギを着た少女に連れて行かれたのは、マギクラフトの格納庫だった。とは言っても、何体もの蔵人クラウドが並んでいるようなメインの格納庫ではなく、随分と手狭な場所だったが。


 窓のない暗闇に包まれたそんな格納庫の中で、エルとツナギの少女がいるあたりだけがスポットライトでも当てられたように、光に包まれていた。

 というかまあ、少女が付近の電灯を点けただけなのだけれど。


「あはは、寂れてるでしょ」


 エルの視線に気付いたように、少女が笑う。実際、他に人の気配も感じず、この場所がまともに回ってはいない事は明白だった。

 ちらり、と手当てをしてくれている彼女を見上げる。


 ――外国人隊員、か。


 外国の血の混ざった人間が、強制的に徴兵されるパイロットではなしに――おそらくは整備員として、STAGEで働いているのはとても珍しい。

 10年前の事件――外国の強引な介入で、多くの命が失われた。STAGEの隊員なんてのは、そのさいたる例だ。外国人に対する風当たりはとても強い。実際、彼女もこんな寂れた倉庫の番をさせられているようだ。


「……ん、これでよしっと」


 彼女が額の手当てを終える。とは言っても、湿布を貼ってくれただけなのだけど、エルは随分と痛みがマシになったように感じた。


「……で、どしたの? アタシでよかったら相談乗るよ?」


 少女はエルを座らせたのと同じように、自身も近くの工具箱に腰掛け、問うてくる。

 エルは「あー……」と悩んだ。初対面の相手に内心を吐露するのには抵抗があった。が、手当てしてもらった手前、無下にするのも憚られる。

 と、少女がエルの躊躇いに勘違いする。


「あ、そっか! ごめんごめん……そういやアタシ、自己紹介もまだだったね」


 頬を掻き、それから自身を指差し、言った。


「アタシの名前はエヴァ=ラン・シュナイダー。ここで整備員やってるの。よろしくね」


「……俺は、稲木イナキエルだ」


 エルも自己紹介を返す。が、


「やっぱり。アンタが稲木エルだったんだね」


 と笑われてしまう。

 エルは、なんで知ってるんだ?――と問いかけてすぐ、そりゃ知ってるかと苦笑した。エルは、いろいろとやらかした結果、有名になっていた。そして、あちこちから不興を買っていた。


 ギン達――スエオカ部隊を尊敬していた者からは、部隊員を殺した、と恨みを。そして、エルが訓練過程を経ない正規パイロットへの抜擢に不満を持っていた訓練生からは、妬みを。

 だからこそ、さっきも絡まれ、殴られていたわけなのだけれど。


 と、そこへ。


「おぬし等ぁ、そこでなぁにしとる?」


「あ! カヤ爺ぃ〜!」


 しわがれた声が、格納庫の出入り口から聞こえる。現れたのは、60歳程に見える、小柄な、ツナギを着た老人だった。老人はやや頼りない足取りでエル達へと近づいてくる。

 エヴァが手を振りながら、大きな声で言う。


「この人ねー、ちょっと怪我しててー。今ね、手当てしてあげてたんだー!」


「うむ?」


 老人は側まで近づいてくると、エルの顔を覗き込む。と、ピクリと震えた。その目をまん丸にして、エルの顔を見たまま固まってしまう。


「……お主」


「……?」


「ああ、いや……すまんの。なんでもないわい」


 話題の人物が――厄介事が転がり込んで来た、と警戒されてしまったのだろうか……とエルは苦笑する。

 だが老人は、


「まあどうせ、ここには儂らしかおらん……好きに使うがいい」


 と言い、格納庫の奥の方へ、工具箱を持って歩いて行ってしまう。


「今の、北江キタエカヤジさん。一応、ここの責任者。アタシはカヤ爺って呼んでるけど」


 老人に、ハーフ……そして、この寂れた格納庫。

 自分が言えた義理ではないが、どうやらここには、はみ出し者が集まってくるらしい、とエルは思った。そんな気の緩みからか、エルはぽろっと、疑問を零してしまう。


「シュナイダーさんは、なんで整備員になろうと思ったの?」


 言ってから、これでは自分が何を悩んでいるのかバラしてしまったようなものだ、と気付く。案の定、彼女も合点が言ったという風に頷いていた。


「……なるほど。よしっ!」


 そして立ち上がると、ここへ引っ張って来たときのように、エルを引っ張って歩き始める。


「ちょっ……どこに行くんだ?」


「いいからいいから。あと、アタシの事はエヴァでいいよ。――エル?」


 エヴァはそう、八重歯を見せて笑った。

 エルは強引な彼女に抵抗しようとして、しかし、どうせ自分には他にやるべき事もないと気付く。いや、訓練のノルマは存在するのだけれど……わざわざ、嫌がらせを受けに行きたいとは思わなかった。


 エルは言い訳のようにエヴァに手を引かれながらも、抵抗はせず歩き出した――……


   *   *  *


 エヴァに連れて来られたのは、外だった。二人は、マギクラフトの出入り口脇にある扉を通って、STAGEの敷地――その外にまで出て来ていた。


「おい、勝手に出て来ていいのか?」


「あははは、ダメに決まってるじゃん」


「あははは……って」


 エルは通りで……と、着替えさせられた自身の服装を見下ろした。エヴァも同様、私服だ。彼女の服装は、カジュアル……と言って良いのだろうか、シンプルなシャツ姿だった。


「で、どこまで行くんだ?」


「いいからいいから」


 二人は電車に乗り込み、数十分もの間、揺られていた。と、その途中でエルは、それが知っている景色だと気付く。辿り着いた先は――あの運命の日、エルが幼なじみのアイコと共に、マギクラフトを見に来た……そして、マギアとの戦闘に巻き込まれた、辺境の町だった。


「ここ……」


「ほら、エルっ。早く早く」


 エヴァに腕を引かれながら進む。あの日を再現するかのように彼女は歩いて行く。エルは戦闘の跡地に連れて行こうとしているのかと思い、エヴァに声をかけようとした。

 が、その時。エヴァは急に脇道へと逸れる。


「どしたの?」


「あ、いや……」


 足を止めたエルに不思議そうな顔をするエヴァ。エルは「なんでもない」と言い、再び足を動かし始める。エルにはもう、彼女が一体どこを目指しているのかわからなかった。


 と、脇道を抜けると、目の前に大きな……しかし古ぼけた、一軒家が現れた。その入り口の脇には、『なかよしのいえ』と書かれた看板があった。

 エヴァが振り返り、言った。


「ここが……アタシがSTAGEで働いてる、理由だよ」


 なかよしのいえ――そこは、孤児院だった。

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