表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MAGI-Craft(マギクラフト)  作者: スプライト
第二話「願いの在処」
18/27

9.理由とツナギ


 射撃音が響き渡った。と同時に、破砕音もまた響き渡った。血肉と、歯と、機械の破片が辺りに飛び散った。悲鳴がいくつも木霊する。だが、それ以上に多くのグラトニー型の討伐に成功する。


『――全員、無事かッ!?』


『……ナんとカ』


 ギンが叫ぶ。全員が生存を報告する。今ので、10体近いグラトニー型の討伐に成功していた。トリガーを引くのがわずかに遅れ、致命傷は避けたものの破損した機体も多かったが、リスクを冒せば倒す事が出来た。


「勝てるッ……!」


 エルはわずかに、好戦的な笑みを浮かべた。

 そこからは同じ戦法で、敵を確実に減らし続けた。敵の攻撃が起こるたび、数体のマギクラフトが脱落していく。しかし、ついに、敵を残り数体という所にまで追い詰める。


 残りわずかになった赤い煙が、周囲で湧く。


『来タよッ……次デ決メるッ!』


 ボロボロになったマギクラフト達がショットガンを構え――放つ。タイミングも回を追う毎に合ってき、確実に打倒できるようになっていく。失敗すれば死、にも関わらず逃げる者は誰もいなかった。


 ――だが、とっくに限界は訪れていたのだ。


『勝っタッ……!』


 これで最後、とエイミーが喜びの声を上げたその時、


『――――ぁアアアッ!』


 断末魔が、響き渡っていた。エルの視界の端で、マギクラフトの一体が――そのコクピットが、噛み潰されていた。吹き出した赤い液が、グラトニー型の白い歯を染めた。


「……ぇ?」


 ――死ん、だ……?


 エルの意識に、一瞬の空白。次の瞬間には、怒りでその形相は歪んでいた。


「化け物がぁあッ……!」


 遠方に赤い煙がたった一つ――最後の一体のグラトニー型が現れんとしていた。エルは地面を蹴っていた。アンカーを駆使しグラトニー型へと迫る。だがグラトニー型は現れたと思えば、またすぐ消える。


「なっ……!」


 エルは周囲に目を凝らす。さらに遠方にまた赤い煙。……逃げているのかッ!? エルは全力で地面を蹴った。グラトニー型の出現と消失の速度は速い。

 が、消失から出現までのスパンは長い。また、グラトニー型は一直線に逃げているようで、次の出現場所の当たりも付ける事が出来た。


「絶対に、仕留めるッ……!」


『深追いするなッ!』


 ギンの制止など、エルは聞くつもりがなかった。


『隊長ッ! このママジャっ……!』


『馬鹿がッ……!』


 エイミーが悲鳴を上げるように叫び、ギンが舌打ちをする。すぐ後を追って駆け始める。スラスターを吹かせ、エルを追い上げる。

 しかし、ギンが追いつくよりも早く、エルがグラトニー型へ、あと一歩という所にまで追いつく。逆手に構えたナイフを、大きく振りかぶる。エルが笑みを浮かべた。


「――死ねぇッ」


 そして、グラトニー型の出現に合わせ、最後の一歩を踏み出す――寸前。その足へと刀が突き刺さっていた。


「……ぁ?」


 足に力が入らず、機体が崩れ落ちる。グラトニー型の横を抜けるように、付近の建物へと突っ込む。その足に刺さっていたのは——ギンが射出した、アンカーとしても使える刀だった。


 グラトニー型が一瞬現れ、そしてまた消えた。そして、街の外までそのまま逃亡していく。もう……エルには追いつかない。ギンもまた、追いかけない。


 ――ギンがエルのトドメを、邪魔したのだ。


「……お前ぇッ! よくもッ……!」


 機体のあちこちから火花を散らしながら、手足を藻掻かせる。片手、片足だけでなんとか立ち上がらんとする。コクピットの内壁――視界のギリギリに、ギンの機体が映り込む。怒りの形相で、エルがギンを睨みつけた。


 怒りを向けるエルを、ギンが掴み上げる。と、エルは気付く。ギンはエル以上の怒りを湛えた目で睨みつけていた。


『やっぱりテメェ……パイロットを辞めろ』


「なんだとッ……!」


『テメェは一体、何を見てやがるんだ?』


 ギンはエルが先ほど、グラトニー型へトドメを刺す為に足を踏み下ろそうとしていた場所を示す。エルはそちらを見て……気付く。


「……なんで、まだ……人が」


 一軒の家――窓から覗いていたのは、寝たきりの老人と、老人を守るように抱きしめる女性だった。あのまま踏み出していれば、エルは彼女達を殺していた。

 本来であれば、人の有無は頭部のセンサーにて感知される――しかし、エルは頭部をパージしていた所為で、気付く事ができなかったのだ。


『それだけじゃねぇ』


 ハッとエルが視線を向けたのは、破砕した何体ものマギクラフト。そして、重傷を負っている――あるいは、死んでしまった、隊員達。エルは、自分の周囲がぐにゃりと歪んだような、錯覚に陥った。

 ギンが問う。


『テメェは、一体何のために戦ってるんだ?』


 それはギンが最初に、エルに問うた質問だった。


『お前は何を守りたくて戦ってるんだ? ……「皆を守りたい」? ――はッ。笑わせるなよ。テメェには、何も守れねぇよ』


 ギンが吐き捨てるように言う。


『そもそも、人が自分以外の為に戦うだなんて異常でしかねぇ。お前はただ自覚してないだけだ――自分が命を掛けて戦ってる、って事を』


 ギンはコクピット同士をぶつけ合い、すぐ至近から――装甲越しに、エルを侮蔑した。


『何も分からねぇガキが、二度と戦場に立つんじゃねぇ』


 そしてギンは手を離し、エルを突き飛ばした。瓦礫の山に機体が落下する。

 遠方に、応援のマギクラフトを乗せて来たのだろう――運搬車が見えた。防御に徹していれば、応援の到着が間に合い、あのパイロットが死ぬ事はなかったかもしれない。


 ――俺は、なんのために……。


 エルの視界が渦を巻き……そのまま、意識が途切れた――……


   *  *  *


 訓練施設の廊下。


 ――エルの顔面を拳が襲った。


 殴られた衝撃で背中が壁へとぶつかる。エルはずるずると床に腰を下ろした。殴った相手はエルに唾を吐きかけると、そのまま去っていった。


「……痛ぇ」


 ――そういえば、ギンにもこんな風に殴られたな……。


 エルは殴られた顔面を押さえた手――指の合間から、天井の照明を見上げた。エルが正規パイロットとして戦闘に参加してから、数日が経過していた。


 ――今のエルは、正規パイロットではない。


 エルの独断専行と……何より一般人を殺しかけた事について、ギンが報告と意見を上げ――それが通ったのだ。エルは訓練生へと戻された。結局、エルが何の為に正規パイロットとして出撃させられたのかは、わからず仕舞いだった。


「何のため、か……」


 ぽつりとエルが呟いた、その時。


「……だいじょーぶ?」


 天井を映していた視界に、煤けた金の髪が映り込んだ。エルがちらりと視線を下ろす。


 肩口までの金の髪は、癖っ毛なのだろうか、わずかに波打っている。それに、澄んだ青い目と、白い肌。しかし肌も髪と同様、煤けていた。そして、身に纏っているのは、ツナギだ。


 年齢は、エルと同い年くらいだろうか。いつの間にか目の前に、ツナギを来た外国人の少女――整備員だろう少女が立っていた。

 その少女は、エルの額を見ると、むむむと額に指を当てて、悩む。それから、周囲をキョロキョロ見回すと、「よしっ」と声を出した。


 エルの制服の裾をちょんっと掴むと、


「来て」


 と言い、笑った。

 少女の口元から、八重歯が覗いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ