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MAGI-Craft(マギクラフト)  作者: スプライト
第二話「願いの在処」
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8.無茶と一瞬

 俺も戦う――そんなエルの発言。実際、まともに動けるのはもう、ギンとエルだけだ。ギンは画面の向こう側でわずかに逡巡しゅんじゅんするように目を伏せた……かに思えた、が。


『駄目だ』


 そう、切り捨てた。


「なんでッ……!」


 エルは怒りの形相で叫ぶ。だがギンは話を聞こうとしない。


『お前はただ警戒だけしていればいい。自分が生き残る事だけを考えろ。あとはオレがやる』


「あんたは一体、どこまでッ……!」


 一体どこまで傲慢なんだッ……! エルは機体の腕を伸ばし、ギンの機体の肩を掴んだ。

 もう我慢の限界だった。ギンが英雄になりたいのは構わない。だが、それで他者をおとしめる、あるいは危険に晒すのは、許せなかった。


『離せ』


「いい加減にしろよあんたッ……!」


『離せと言っている』


 ギンがエルを払い除けようと腕を振り、しかしそれをエルはもう片方の手で受け止める。ギギギ、と金属の擦れる音が響き渡った。


『何のつもりだ、テメェ……』


『ア、アナタっ……! 何ヤっテるのよ!?』


 ギンが低い声で唸り、一触即発の様子に焦ったエイミーが、エルに声を上げる。


『今ハ、喧嘩しテる場合ジャナいデすッ!』


 エイミーの声にエルは舌打ちをし、手を離した。だが、宣言する。


「……わかったよ。じゃあ俺も俺で、勝手にやらせてもらう。……それに、俺はもう決めたんだよ。俺は、全員を助けるってな。逃げるんじゃなく、戦う事を……あの時、決めたんだ」


 エルの脳裏に浮かんでいたのは、あの地獄のような、分岐点だった。大切な幼なじみ……アイコだけでも助けるために、二人で逃げるか。あるいは、皆を助ける為に、賭けに出るか。


『テメェはッ……』


 エルの発言にギンが再び怒りを剥き出しにしようとした、その時。遠方のあちらこちらに赤い煙が生まれた。同時、飛び出したのはエルだった。

 一歩目を走り出したと同時、全ての装甲をパージする。ショットガンさえも放棄する。


 今、何よりも必要なのは速度。グラトニー型に対して、装甲はほとんど意味を為さない。あの強靭な顎に一度捕らえられてしまえば、マギクラフトはっさりと喰い破られてしまう。

 もちろんその分、グリード型――蜘蛛型のマギアに対しては大きなリスクを背負ってしまうが……。


「このままじゃあ、ジリ貧だろッ……!」


 カシュッと音を立てて、機体の太もも――そのフレーム部分に納められていたナイフの柄が、せり出す。回転式の弾倉が備わったそれを抜くと同時に、地面を強く蹴る。スラスターを吹かせる。


 既にグラトニー型は大量の蜘蛛型を排出し、接近に気付いたのか消え始めていた。このままでは、届かない。


 ――まだ、足りないッ……!


 徐々に周囲の景色がスローモーションになっていく。エルの虹彩が緑の輝きを放ち始めていた。


 ――もっと、速くッ……!


 彼の背後――シートの背後。機体の脳ともいうべき演算装置の表面に、緑色のラインが走る。エルは叫んだ。


「パージッ!」


 視線で指定され、分離されたのは……腕と、頭部だった。一気にグラスビュアから得られていた情報がなくなる。さらに、機体の左右のバランスが崩れる。

 機体制御の難易度が、一気に上昇した。


 本来なら、頭部のセンサより得た周囲の地形データから、姿勢の変化を予測し、バランサーの精度を高めている――のだが、それがなくなっていた。片腕がないアンバランスも相まって、その操作性は酷いものだった。

 だがエルは、バランサー自体を切って地面を駆けていた。


 異様な程に前傾姿勢を取り、機体は駆けていた。リミッターを外されたスラスターが、爆発のような推進力を生み出す。一歩地面を踏みしめるごとに、地割れが起きる。

 スラスターは、地面を蹴った事で浮き上がりそうになる機体を、地面に押さえつける役目もしていた。


 本来想定されていない加速に機体が悲鳴を上げる。だが、それがどうしたとばかりに、エルはただフットペダルを踏み込む。吐き出された蜘蛛型が、進路を妨げようとしてくる――が、エルは横へ避けず、強引に踏み潰す事で直進する。


『無茶苦茶ダッ……!』


 エイミーが思わず零した。


 だが、無茶の結果――エルの突き出したナイフの切っ先が、ついに、グラトニー型へと届く。

 凄まじい衝撃とともに、ナイフが一気に根元まで抉り込まれる。激突の衝撃に、機体が軋む音が響く中、エルは引き金を引く。グラトニー型が内側から膨らんだ。


 が、一撃が限界。エルの背後から、蜘蛛型が襲いかかってくる。しかし、センサのなくなったエルにはそれが見えない――はず、なのに。機体から背後へ向けて射出された4基のアンカーが、蜘蛛型を貫いていた。


 先ほどのアンカーは、ただ視界外だっただけでない。センサーがなくなった事でターゲットを視線によって選択する事もできなくなっていたのだ。

 なのに、不思議とエルには、機体を身体の一部のように、正確に動かし、狙い撃つ事が出来ていた。


 エルにはまるで、機体の表面が自身の肌と同期しているのではないか、という程に、周囲の気流の変化や、フレームに当たる砂を認識する事が出来ていた。

 アンカーにより得たわずかな時間。エルは、リボルバーWASPナイフのトリガーを引く。


「――――ォオオッ!!」


 引く。引く。引く。グラトニー型の身体が次々と盛り上がっていく。そして、手を離したエルは、火花を散らしていたスラスターをパージしながら飛び退った。

 直後、グラトニー型は破裂し、その肉を、歯を、飛び散らせた。


 エルは最後の一本のリボルバーWASPナイフを、もう片方の太ももから取り出しながら、後退を続ける。


『……アレダケヤっテ、ヤっと一体』


 そう声を零したエイミーに、エルは、


「――だが、倒せない相手じゃない」


 そう切り返した。

 まだ訓練も終えていないパイロット――それも学生であるエルに言われ、部隊の面々はハッと我に返る。彼等は気付いたのだ。自身がどこか、死を覚悟し始めていた事に。


『……勝てる』


『ええ、勝てます……いえ』


『――絶対に、勝ちますッ!』


 彼等が、襲いかかってくる蜘蛛型と接敵する。

 機体の大半が機動力を失っている。しかし、彼等は足りない部分を連携によって補い、大量の蜘蛛型を殲滅していく。


『……』


 ただ、ギンだけが、モニタ越しにエルを睨みつけていた。エルはその目を一瞬だけ見返し、戦闘へと戻った。

 リボルバーWASPナイフで、一体ずつ、蜘蛛型を処理していく。弾丸が切れる、というタイミングで、他のメンバーが自身のナイフを投げて寄越してくれた。


『ッ――来タぞぉッ!』


 エイミーが叫んだ。付近の一帯が、赤い煙で覆われていた。しかし、今度は全員、そこから逃げない――いや、逃げられない。だからこそ、刺し違える覚悟を決めていた。


 また、先の出現で、煙の発生から出現までの時間は一定らしい、とわかっていた。だから、あとはタイミングだけだ。ショットガンを構える。神経を、トリガーに掛けた指に集中させる。

 そして――その一瞬が、訪れる。


 瞬きをするよりも短い時間。地面に口が生まれ、閉じられていく。コクピットの前面に、歯が迫る。

 一瞬の攻防が、起こった。

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