7.新型と退避
『応答しろッ! 生きているか!?』
『……な、なんとか。ですが、行動はできそうにないです』
ギンと、機体の下半身を喰われた隊員との通信に、少しだけ部隊に安堵が起こる。
『あの巨大な口……グラトニー型と仮称するが、アレについて何か気付いた事はあるか?』
『……喰われる直前、地面が急に変色して現れたように見えました』
ギンは安全を確認すると、すぐさま情報収集へと意識を切り替える。聞いた限り、出てくる時も消える時も、同じように突然現れるようだ。しかし、予兆として赤い煙が現れるようだった。
『全員、赤い煙が見えたらすぐさまその場から退避。そして、その場所へありったけのショットガンをぶち込め』
『『了解ッ!』』
エルもつられて応を返そうとした。が、
『稲木エル。お前は回避に専念していろ』
ギンにそう命令される。エルは黙って頷いた。と、
『――敵出現ッ! ……でも、遠い?』
全員がそちらへ視線を向ける。が、ここからではショットガンもトリモチも届かない。移動している間に隠れられてしまうような距離に、敵は現れていた。しかし、それでは敵も攻撃できないはず……と、考えた時。
『グリード型……!?』
エル達は見た。グラトニー型が開いた大きな口の中から、グリード型が這い出してくるのを。うじゃうじゃと、次々に蜘蛛型のマギアが吐き出されていく。
『――ッ! お前等は陣形を維持ッ! 他のグラトニー型に警戒しつつ、グリード型を迎え撃てッ!』
ギンは叫び、円陣から飛び出す。蜘蛛型の相手をする時間も惜しい、という風に横すり抜け、上を飛び越え、一直線にグラトニー型へと迫る。機体上腕部の装置が稼働し、せり出す。下腕へと装着されたそれに、弾丸が供給された音が響いた。
このままではグラトニー型から、永遠に蜘蛛型が排出され続ける、なんて事になるかもしれない。一刻も早く倒す必要があった。
『――――――ォオオッ!』
ギンが吠え、腕を振りかぶる。だが、流石に距離がありすぎた。グラトニー型は蜘蛛型の排出を止め、地面へ溶けるように消え始めている。
『チッ……!』
ギンはせめて、と言わんばかりにそのショットガンを放った。あたり一帯の蜘蛛型やグラトニー型を無差別に、弾丸の雨が襲う。グラトニー型が一瞬怯んだのか、消えるタイミングが遅れた。
傷自体は逆再生のようにすぐさま癒えていく。が、その間にギンは接近を成功する。ショットガンのリロードは……間に合わない。左肩の刀を、抜刀と同時に振り下ろす。グラトニー型が完全に消失する前に、その切っ先がギリギリ届いた。
鮮血が舞う。
しかし、返す刀は空を――赤い煙を切るのみだった。わずか一刀を当てるのが限界だった。その上、
『クソッ……』
左脚に、蜘蛛型が取り付いていた。機体が嫌な音を立てた。ギンは即座に視線でグラスビュアを操作しながら叫んだ。
『パージッ!』
場所を指定――左脚の装甲をパージし、蜘蛛型を引き剥がしながら、スラスターを吹かせて後方へ高く飛び上がる。そのまま円陣へと戻り、部隊の面々と共に、蜘蛛型の対処に当たる。
『隊長ッ! 大丈夫デすカ!?』
小柄な黒人女性のパイロット――エイミーがギンへと心配の声を上げる。
『問題ない。それにいくつか情報も得られた』
ギンは迫ってくる蜘蛛型に対処しながら、皆に改めて行動を指示する。基本的には先ほどと同じ。だが今後は、遠距離に敵が現れた場合も、ショットガンで攻撃を仕掛ける。
敵はどうやら、再生中は消える事が出来ないらしい――それを利用して、遠距離攻撃で再生を誘発させる。その間にギンが接近。0距離からのショットガンを当て、一撃で仕留める。
全員が指示に頷く。新型との戦いにも突破口が見えてきていた。
『来たぞッ!』
作戦を伝え終えた直後、真下に赤い煙。
『散開ッ!』
全員がその場から八方へと飛び退きのがら、ショットガンを構える。赤い煙から実体化した直後を狙い打たんとする。ギンはさらに、負傷していた機体も引っ掴んで回避させていた。
が、彼等は地面に足をつけたと同時に、気付く。
『な、んでッ……!?』
着地した先もまた、赤い煙が漂っていた。そして現れたのは――三十体以上の……視界を埋め尽くさん程の数の、口だった。あちらこちらに、待ち構えていたようにそれが実体化し、その口を閉じていく。
――一体じゃなかったのかッ……!
『退避ぃいいいいいいッ!』
ギンの声が響いた。
エルは自身の足下から生えてくる歯に、唇に、咥内から、必死に逃れる。スラスターを吹かせ、地面を蹴り、飛び退った。
他の面々も、もう一度回避せんと必死に地面を蹴る。が、間に合わない。その足の一部を喰い千切られ得。逃れられたのは、ギンと……そして、エルだけだった。
ギンが逃れられたのは、実力。引っ掴んでいた負傷していた機体も、なんとか放り投げて退避させていた。
そして、エル。彼が回避できたのも偶然ではなかった。他の面々が回避から攻撃へと行動を移していたのに対し、彼だけは回避のみを考えていたからだった。
『ぐぁあああああァッ!』
『キャァアアアアァッ!』
絶叫が、通信から聞こえてくる。グラトニー型はその口を完全に閉じ終えると、再びその姿を消した。立っているのは、ギンとエルの機体のみ。
『全員、這ってでもその場から移動しろッ! もう一度、円陣を組めッ!』
ギンが叫ぶ。足を喰い千切られた機体の周囲に、また赤い煙が起こり始めていた。隊員達は強引に地面を手で押して跳ね、スラスターを吹かし、地面を転がるようにして……あるいは機体を削るようにしてなんとかその場から移動する。
エルは再び組まれた、円陣……とも言えないようなただの集まりの中、ショットガンの安全装置を外し、構えた。
『何をしてる』
ギンが、エルへ鋭い視線を向けた。
「俺も、俺に出来る事をする」
『勝手な事をするな』
「今戦わないで、いつ戦うんだッ! もうまともに動けるのは、あんたと……俺だけだろうがッ!」
エルとギンが、睨み合っていた。




