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MAGI-Craft(マギクラフト)  作者: スプライト
第二話「願いの在処」
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3.ミカとギン

「……ちょっと、大賀オオガさん。戦意引っ込めてください」


「おぉ! すまんすまん」


 犬歯が剥き出しとなり、身体がうずうずと震えていた大賀を、黒髪の女性が嗜める。大賀の視線は、今まさに戦闘で勝利を納めたエルへと向いていた。エルの顔からは表情は抜け落ち、目の虹彩はまるで緑に輝いているように見えた。


「がぁーっはっはッ! こりゃまるで、マギクラフトを操る為だけに生まれてきたみたいじゃねぇかッ!」


 大賀が楽しげに零す。実際、マギクラフトを操縦中のエルは、彼自身がマギクラフトの――装置の一部のようだった。手と足と目が独立して動き、まるで自身の手足を操るかのように機械の四肢を操っていた。


「スラスターのリミッターの解除は、お嬢ちゃんが教えた……わけじゃあねぇよな」


「当たり前です! そんな危ない事、教えるわけないじゃないですか!」


 大賀は、「そんな操作、訓練でも教わりゃしねぇぞ」と顎を撫でた。グラスビュアへインストールされるマニュアルの中には、そのやり方だって載っているだろうが……にしても、マニュアルの量は膨大だ。


 闇雲に探して偶然、とはならないだろう――元々そういう操作がある事を知っていたとしか、思えない。……まあ知っていた所で、実際にやろうと思うのも、やってのけてしまうのも、異常極まりないのだが。


 と、訓練装置の搭乗口が開き、そこからエルが出てくる。黒髪の女性が「もうっ、あんな無茶をしてッ……!」と駆け寄ろうとしたのを押しのけ、大賀はエルの前に立った。

 そして、思い切りゲンコツを振り下ろす。


「――ッッッ!」


 エルが声にならない悲鳴を上げてその場に踞る。大賀は大声で怒鳴りつけた。


「こんっの、馬鹿者がぁあああッ! あんな戦い方をしてたら、命がいくらあっても足りないだろうがぁあああああッ!」


 エルの操縦能力には天性のものがある。訓練生どころか、正規パイロットでもそうはいないレベルだ。が、しかし。結果はどうだ。エルは辛勝。これが実際の戦闘なら、機体が破損し動けなくなったエルは、敵の餌だ。


 勝てばいい、というわけではない。それに、戦術をきちんと身につければ、あれだけの操縦能力の差だって、埋める事ができるのだから。と、そんな事を考えていた大賀の背中へ、


「馬鹿はどっちですかぁああああッ!」


 女性――エルの案内役をしていた女性のドロップキックが炸裂した。


「うぉっとっと」


 軽くよろけた大賀に、女性はまくし立てる。


「戦い方を知らないのは当たり前でしょうがッ! 稲木イナキ君はそれを、明・日・か・ら! 学ぶんですから!」


「……おぉ、そうだった!」


 そんなやり取りをしていた所へ、他の訓練装置から出て来た青年がカツカツと早足気味の足音を響かせ、茶色の髪を棚引かせながら、迫ってくる。彼は、先ほどまでエルと戦っていたパイロットだ。

 その目はまっすぐにエルを見ていた。


 エルがやや緊張した様子でその青年の到来に構える。青年はエルの前で足を止めると、じっとエルの顔を見た。


「……お前」


 そして、その手が振り上げられ……ばんッと、エルの肩が叩かれた。


「強いじゃねぇかっ! あーくっそ、負けたぁあああっ! あーっはっはっはぁッ!」


 エルを称えるように肩を叩きながら笑う青年。対戦相手だった彼がグラスビュアを取る。と、逆立てた茶色の髪が目についた。それに、好戦的な目つき。

 どことなく、大賀に似た印象を受ける青年だ、とエルは思った……のだが、それもそのはず。


「ちょい兄貴ぃ! もう一戦やらせてくんね? お願いっ! このとぉおおおりッ!」


 その青年は、大賀の弟だった。


「がぁーっはっはっはッ! もちろんいいぞ! 勝つまでやれぇ! 好きなだけ戦えッ! 次は他の奴らも交えてな!」


 大賀の弟は「よっしゃぁあああ!」とオーバーなリアクションで喜びをアピールする。と、ようやく彼はエルが目を白黒させているのに気付く。


「ああ、悪ぃ悪ぃっ! 名乗りが遅れたなっ! オレっちは大賀ミカ。兄貴とややこしいだろうし、ミカって呼び捨てにしてくれや!」


「あーっと、俺は稲木エル。よろしく」


「あーっはっはっはぁッ! よろしくよろしくぅーっ!」


 二人が自己紹介をしていると、そこへ大賀の声がかかる。


「よし、ボウズ。次はバトルロワイヤルでどうだ? 折角だから、全員と戦っていけ!」


「ちょ……大賀さん!? だから稲木君は……!」


「もうここまで来たら、一戦も百戦も変わらんだろう!」


「変わりますよっ!」


 大賀と、案内役の女性が言い合っている横で、ミカがさっさとエルの背中を押して、練習装置へと案内してしまう。ミカがエルに挑戦的な笑みを浮かべた。


「次は負けねーぞ」


 エルはぱちくりとその目を瞬かせた。ミカの陽気な様子に、毒気を抜かれたように。


「……ははっ、こっちこそ」


 そしてエルは、笑った。STAGEの施設に来てから初めて。


 ここは命を掛けて戦う者達の場所……そう肩肘を張っていたが、なんてことはない。こんな場所にだって仲間や、友達や、楽しい事なんてのもあるのだ。

 エルはそんな事にようやく気付き……一度目よりも楽しげに、訓練装置へと乗り込んだ――……


   *  *   *


「ああ、もう……稲木君また無茶な戦い方して……」


「そういうなや、お嬢ちゃん。ボウズも随分と、楽しそうじゃねえか。他の面々とも打ち解けられたみたいだしよ」


「でも……ああ、もうっ! って、いつの間にか正規パイロットの人まで混ざってるし!」


 そんな風に男女が言い合いながらモニターを見ている訓練施設。そこへ、澄んだ足音が響き渡った。

 足を踏み入れたのは、鋭い眼光を放つ男。そして付き従うように彼に続く男女。彼ら全員が、パイロットスーツを身につけていた。


 先頭を行く鋭い眼光の男は、深紅の羽織を纏っていた。また、その髪は銀に輝いていた。周囲の者達も皆、金や赤などの髪をしている。あるいは、黄色ではない肌をしていた。

 つまりは、日本人とはかけ離れた外見をしていた。


「おい、あれ……」


 周囲でそんな彼等の登場に気付いた者達がざわつき始める。

 銀髪の男が、足を止め、モニタへと視線を向けた。


「……あれか」


 男の目が向いていたのは、戦闘中のエルを映しているモニタだった。と、黒髪をポニーテールに束ねた女性と離していた巨漢の男が、その男に気付き、声を掛ける。


「おおっ! ギンじゃあねぇか! どうした、珍しいなこんな所に!」


「……アラジか」


 ギンと呼ばれた銀髪の男は、近づいて来た巨漢の男――大賀アラジへと、ちらりと視線を向け、すぐにまたモニタへと戻した。そんな様子を見て大賀が言う。


「がぁーっはっはっはッ! お前さんも、あのボウズに興味津々かい? ……いや、興味をもたねぇハズがねぇわなぁッ!」


「黙ってろ」


「……? おいおい、どうした。機嫌が悪いな?」


 大賀を無視するように、ギンは足を進めた。その先には訓練装置。丁度、前回の戦闘が終わりを迎えていた。エルが、訓練装置から顔を覗かせる。それと同時に、ギンがエルの前へと辿り着いた。


「……? あの、」


 エルが、ギンに気付く。視線を向けてくる彼に、何か用かと訪ねようとした――その瞬間。顔面に拳が炸裂した。エルの身体が吹き飛び、コクピットのシートに叩き付けられる。


「「なッ!?」」


 大賀と黒髪の女性が慌てて駆け寄る。ギンはエルを見下し、言った。


「お前、パイロット辞めろ」


「……痛ッ。なんだ……あんた」


 エルは殴られた顔面を押さえながら、ギンを睨み返す。流石の彼も、腹に据えかねた。いきなり現れて、ぶん殴って、パイロットを辞めろ? めちゃくちゃにも程がある。そもそも辞めたいと言って辞めれるものでもない。


 ギンはそんな彼の視線をものともせず、駆けつけて来た二人も無視し、隣の訓練装置へと乗り込んだ。


「お前は、パイロットに向いてねぇ」


「……ははッ」


 エルの頬が引きつり、思わず笑いにも似た声が溢れる。ここまであからさまに喧嘩を売られたのは、人生で初めてだった。

 ギンの座った訓練装置の搭乗口が、閉じていく。


「何考えてるのよ、あの人……! 稲木君、付き合う必要はないわよ! いくらなんでも……」


「ボウズ、男が殴られて黙ってるつもりは、まさかねぇよな?」


「ええ、ちょっと殴り返してきます」


「ちょっ……」


 エルもギンに続いてレバーを引き、搭乗口を閉じた。額から下ろしたグラスビュアに、対戦相手の設定画面が表示される。ランダムではなく、指定。

 エルは、対戦相手の名前をフルネームで見て、ようやく相手が誰であるか、気付く。


「ああ、そうか……あんたが」


 何度もアイコに聞いた。彼こそが、全パイロット中――最強。エースの名を欲しいままにしている、生きる英雄。


 ――末岡スエオカギン。


 その外国の血が流れている事を濃く表した容姿も相まり、あらゆる面から注目されている、その人だった――……


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