呉綾人編②
俺こと葉山旬は、handyclubリーダーの紅月火からもらった手紙を読み、例の教室に向かっていた。
手紙の内容を簡潔にまとめると、こうである。
入院している女の子に告白したい。
そんなもの自分で告白しろと言いたいところだが、何か余程の事情があるらしく、できる状況ではないらしい。
やっとのことで、例の教室に到着し、中に入ると、見知らぬ女子生徒がいた。
「あー、あなたが葉山旬さんですかー?初めましてー。私1年のー、氷上みなみー、っていいますー。」
「ああ、よ、よろしく。氷上さん。」
俺はおそらく完全に顔が引きつっていただろう。なぜなら、彼女からは紅と全く同じ匂いがするからだ(関わってはいけないタイプの人間だ)。
のんびりしたような話し方の人間は多少はいる。方言とかでもゆったりしゃべるようなところも存在する。
しかしながら、彼女の話し方は特に気持ちがこもってなく、言葉を発するということ自体がだるそうであった。
「やあ、2人とも。挨拶は済んだかい。いきなりで悪いが、氷上、依頼主の情報を事細かく教えてくれ。」
「いいよー。………。」
そのあとの氷上からの情報はゆったりしたものであった。一種の洗脳ではないのかとさえ思っていた。
要するに情報をまとめると、
依頼主:呉綾人
1年の男子 バスケ部に所属 男女ともに友達が多い
依頼内容:
入院している女の子 唐松由利に告白したい
それから紅はやれやれという感じで話した。
「全く告白ぐらい、勝手にやってくれという気分であるが、まあ何かしらの事情があるのだろう。仕方がない、ここは、ぼくたちが恋のキューピッドになってあげようじゃないか。」
「といっても、情報が少ないね。まず、唐松由利さんのことを調べることの方が先かもね。うーん、どうしよう実際の彼女の状況を見に、お見舞いに行こうか、それとも矢吹に連絡する方が先なのかな。」
矢吹一体誰なのか?また新しい名前が出てきた。
「なあ、紅。正直用事があるから、今日は帰りたいのだけれど、いいか?」
俺は嘘をついた。
「えー、葉山さんー。帰っちゃうんですかー?」
「なんだ、葉山。今日はやけに忙しそうだね。まあ、無理にとは言わないが…。そうだ、葉山にお願いしようかな。葉山、ちょっと生徒会に行って、柿谷満に唐松由利のことを調べてほしいと伝えてきてくれ。それくらいの時間はあるだろう?」
ふと、俺は慣れ親しんだ名前が出てきたことに驚いた。
「柿谷だって?なんであいつに唐松の調査をお願いするんだ?」
紅はきょとんとした顔でこっちを見ていた。
「なんでって、柿谷満だけが、唯一まともに情報屋と連絡を取れる人物なんだから。」
俺は教室を出てから、生徒会室の前に来ていた。
なんとも複雑な気分だ。親友とも言える奴が、handyclubとかかわりを持っていたなんて。というよりも、情報屋とまともに話せるのが柿谷だけとは、一体どういう意味だろう?
俺はそんなことを考えながら、柿谷を生徒会室から呼び出した。
こっちに気づいた柿谷は、眼鏡をかけた人に一言二言話してから、こっちにやってきた。
「どうしたんだ?葉山?お前がこんなとこまで訪ねてくるなんてめづらしい。なんかあったか?」
柿谷は普段通りに接してくる。
俺は実に言いにくそうにしながら、柿谷に告げた。
「いや、実は…。唐松由利のことを調べてほしいんだ…。」
俺の言葉を聞いた葉山は驚いた顔を一瞬したが、すぐに納得した顔になった。
「なるほど。handyclubの件か。そっかお前が紅月火と接触したという話は聞いたが、まさかメンバーになるなんて。ちょうどいい。あと、少しで終わるからちょっと待っててくれ。」
そう言って、柿谷は生徒会室に戻り、眼鏡をかけた人と話してから、すぐに出てきた。
「全くちょっとだけ会長に嫌な顔されちまったよ。まあ、あの人handyclub、というか紅月火に思うところはあるんだろうな。」
「あの人が会長さんなのか?というより、生徒会も知ってるんだな、handyclubのこと。」
「ああ、彼が神谷忠耀、この学校の生徒会長だ。紅月火とは幼馴染らしいぜ。」
生徒会がhandyclubを認めていることに驚きながらも、俺は柿谷にに聞きたいことがあった。
「てか、お前がなんで情報屋と唯一連絡を取れる奴なんだ?というより、情報屋って…」
そこまで言ってから、柿谷は複雑な顔をした。
「前、話した彼女ってのが情報屋なんだよ…。矢吹纏それが彼女の名前だ。不登校中だからな、あいつ…。」
不登校の奴が一体どうやって情報を集めているのか、疑問に思いつつも、俺は神谷に案内された家まで来ていた。
「まあ、ここがあいつの家だ。少し話していくか?変わってる奴だけど…。」
「大丈夫なのか?俺がいて。」
「まあ、あいつは学校に行くのが面倒になったから、不登校中だからな。お前のことは話したことあるし、大丈夫だと思うぞ。」
「そ、そうなのか…。じゃあ、お邪魔させてもらうよ。」
なんとも話したくなくなってきたが、俺は親友にわざわざ案内してもらったので、矢吹纏に会うことにした。
家の中は綺麗にされていた。
柿谷は彼女の母親らしき人物と話してから、二階に上がっていった。
しばらくすると、柿谷は女の子と降りてきた。
「こんにちは。あなたが葉山旬さんですか?初めまして、私は矢吹纏と言います。」
「は、初めまして、葉山旬です。いつも柿谷と仲良くさせてもらってます。」
俺は緊張した面持ちで、話していたが、割とあっけにとらえられていた。なんだろう、結構まともな子じゃないか。
「今日はわざわざありがとうございます。来ていただいたのは、handyclubの依頼の件でしょうか?」
いかにもわかってますという風にhandyclubの名前が出てきたので俺は驚いていた。
「ああ、そうだね…。悪いんだけど、唐松、唐松由利さんのことを調べてほしいんだ。」
彼女は俺の言葉を聞いて一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに元に戻り話した。
「唐松由利さん?あまり聞きなれない名前ですが、他校の方ですよね?」
「ああ、病院に入院していて、ちょっと訳ありなんだ…。お願いできるかな?」
矢吹さんは少し考えたようすだった。
「わかりました…。依頼の件受けさせてもらいます。結果の報告は満君にさせてもらいます。明後日にはお渡しできると思うので、紅さんにそうお伝えください。」
俺は矢吹さんの言葉に驚いていた。
「そ、そんなに早くできるのか⁉︎わかった、紅にそう伝えておくよ。」
しばらく黙って聞いていた柿谷は話した。
「今日はありがとうな、纏。今度一緒にどっか行こうぜ。また、明日も来るよ。」
「満君、葉山さん、さようなら。それでは、結果をお待ちください。」
そう言われて、俺たちは家を出た。
「なかなかかわいい子じゃないか、柿谷。全く羨ましいぜ〜。」
俺は神谷をからかうように言ったが、柿谷は微妙な顔をしていた。
「普通にしていたらかわいいんだけどな…。あいつ、すっごい知りたがり屋なんだよ…。まあ、趣味で調べたことをむやみやたらに、人に吹聴するようなことはしない奴なんだけどな。」
ふーん、と思いながら、俺は柿谷と別れたのだった。




