若葉初美編②
「なるほどなるほど若葉初美、君はストーカーに悩まされているんだね。それは実に怖いね。非常にわかるよ。
学校を出てから、後ろから付いてくる足音。ひたひたひたひた。走ってもすぐに追いつかれ、家に帰ろうにも家が特定されると思うと怖くて帰れない。それは実に怖い話だね。
でも、安心してくれたまえ。handyclubに任せればその悩みはすぐに解決だ。」
実に軽快なトークである。
俺こと葉山旬と、依頼主である若葉初美は、紅月火の話に唖然とするしかなかった。
てか、こいつさりげなく恐怖を助長してやがる。若葉さんが泣きそうな顔をしている。
というよりも、俺はなり行きでここにいるが、大丈夫なのだろうか?結構危ない話じゃないか、これ?
「えっと、紅さん。口を挟んで悪いんだが、警察に任せるというのは駄目なのか?」
俺の質問にやれやれといった感じで紅はこう答えた。
「やれやれ、ワトスン君。君は駄目だなぁ。日本の警察が犯罪前の事件なんて対処してくれると思うのかい?よくて、指導を受ける程度だろうね。早く帰りなさい、とか。
第一、そんなこと若葉初美君は先にやってるんだろう?それが駄目だったからここに来たんじゃないのかい?」
若葉さんは、驚いたような顔で紅のことを見ていた。
「なんで知ってるんですか⁉︎そんなことまで…」
「なーに、簡単なことさ。ぼくが言うのもなんだけど、handyclubはけっこう胡散臭い組織だからね。そんなとこに頼むより、凡人の高校生にしてみれば、警察を頼るのが定石だろうからね。」
得意げな顔で言ってるが、こいつ今自分の組織のこと胡散臭いって言ったぞ。あと、若葉さん馬鹿にされてるぞ。
そんなことが気にならないほど、若葉さんは紅に驚きの念を抱いていた。
「じゃあ、具体的なプランができたらまた暗号で報告するよ。今日は時間を割いてくれてありがとう。今日は部活に行かず、早めに帰るんだね。」
「はい、わかりました!ありがとうございます。紅さん、ワトスンさん、よろしくお願いします!」
そう言って、若葉さんは走り去ってしまった。てか、俺ワトスンになってる…。なんだろう、天然な子なのか…。
「では、行こうか、ワトスン君。」
「おう、じゃねえよ。俺の名前知ってるだろ⁉︎」
「ああ、そうだったな、葉山。にしても、君のファインプレーには感動したよ。あのタイミングで欲しかった警察の名前を出してくれたのは依頼主の信頼を得るには大きかった。」
こいつ、馬鹿にしてるのか…。まあ、そのことはいいとして
「なあ、行くってどこに行くんだ、紅?正直、俺は帰りたいのだけれど…。」
時間がだいぶ遅くなってしまったので、そろそろ帰りたい。夕飯の支度をしなければならない。
きょとんとした顔で紅は続けた。
「どこって、君は何を聞いていたんだい?
きまってるじゃないか、handyclubの本拠地にだよ。」
「ああ、そうだった、ってそんな話聞いてねえ!なんでそこまで行かなきゃならないんだよ!」
俺はたまたま居合わせただけで、もう用は済んだんじゃないのか?充分ワトスン役は果たしただろ…。
「何って、君はhandyclubのメンバーになるんだよ。ほら、時間が無駄になる、早く移動しようじゃないか。」
「おい、引っ張るなよ!わかったよ、付いてくよ!」
正直、転校初日にこんな変人に腕を引っ張られてる姿を見られるのは避けたい。せっかくの青春ライフが終わってしまう。
さて、紅に連れて行かれたのは、とある一室だった。主に文化系の部が使っている校舎の端っこ、ほとんど人が来ないエリアだった。
「こんなとこに教室があったのか…。」
「まあね、東城夏美先生にお願いして、使わせてもらっているのだよ。ほら、早く入りたまえ。」
「お、おう。」
戸惑いながらも、紅に促されるまま部屋に入ってみるが、そこには誰もおらず、がらんとした教室が広がっていた。
というよりも、メインで使われているのは、4つの机と椅子だけみたいで、他の机と椅子は端に寄せられていた。
「くっ、誰もいないのか。五十嵐はともかく氷上もいないのか。五十嵐は部活で、氷上は塾だろうか、困ったものだ。うーん、どうしたものか。ああ、葉山、君は適当な机と椅子を出してそこらへんにおきたまえ。」
「ちょっと待てよ。結局俺はなんでここに連れてこられたんだ?俺はhandyclubのメンバーになる気なんかねぇぞ。」
俺がそう言っても紅はやれやれといった感じで続けた。
「はあ、君は何を言ってるんだい。メンバーは個人の自由でなれるものじゃない。ぼくが任命したやつをメンバーにするんだよ。」
まるで子供に言い聞かせるような口調で言われたが、割と意味のわからないこと言われているんだが…。
「まあ、いいけどよ。実際問題、handyclubだっけ?それは一体何をするとこなんだ?てか、他にメンバーはいないのか?」
「全く葉山。君は頭が回るほうだろう?それくらい、この状況と今までの出来事を照らし合わせればわかるはずだろう?
そうだ、こうしよう。それを当てることが君の試験だ。そうだな制限時間はあと1分にしておこう。もう直ぐ17時のチャイムが鳴るから、それがスタートの合図だ。」
正直、こいつの質問にわかんないと答えることは簡単だった。だけど、こいつの馬鹿にしたような態度が鼻について、俺はチャイムが鳴ったと同時に答えてしまっていた。
「handyclubの目的は、生徒の悩みを解決すること、もしくは相談に乗ることだろ。あと、暗号の使用や部紹介のパンフに載っていないことから、非公式。
その実、教師(東城夏美?)の協力を得、教室を与えられていることから、まあ、黙認されているってとこか。
あと、机と椅子の数から考えると、各学年に1人ずつって考えるべきか?だから、メンバーは教師含めて4人ってとこか。」
満足な答えを得たかのような、にこやかな顔で紅は頷いていた。
「素晴らしい!さすが、ぼくが見込んだ人材だ!文句がない。1つ言うとしたら、メンバーは君を加えて4人だ!東城夏美先生はただの仮顧問だからね。」
まるで子どものようにはしゃぐ紅とは逆に、俺はうんざりとしていた。
結局、こいつは何がしたいんだ…。
「おめでとう!晴れて君は我がhandyclubのメンバーだ。それでは今日の案件について考えようじゃないか。まあ、大体の結論は出てるんだけど、君の考えを少しは聞こうかな。」
こいつに何を言っても聞かない…。俺の中ではそう結論が出ていた。しばらく付き合って、適当に幽霊部員になればいい。あいにく、他の部員は見当たらないし、紅自身もそんなに気にしていない様子だ。
というよりも、その前に聞きたいことが
「その前に1つ聞きたいんだが、紅お前は何年生なんだ?一応、俺は3年生なんだが…。」
この質問には、俺には勝算しかなかった。俺は転校してきたとはいえ、3年生。つまり、紅が2年生以下なら、敬語で話せという強硬手段に出ることができるのだ(あまりしたくないが…)。
正直、高校生に限らず、学生において、学年が違うということは、かなり大きいのだ。
「ああ、そんなことか。すまない、まだだったか。改めて自己紹介しよう。ぼくは3-B紅月火だ。紅玉の紅、月玉の月、火玉の火とかく。」
「いや、普通にわかんないからな⁉︎よほど、普通の名前の読み方のほうがわかりやすいぞ。俺は葉山旬。葉に山に旬だ。クラスは3-A、今日転入してきた。」
「なるほど、隣のクラスの転入生は君だったのか。それでは、君の考えを教えてもらおうか?」
なんとも肩透かしを食らった気分だった…。そうか同じ学年だったのか。
柿谷こんな要注意人物は教えてくれよ。泣




