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神谷忠耀編end

東城先生から紅の家の住所を教えてもらった俺はすぐにそこに向かっていた。


もしかしたら、出てきてくれないかもしれない。それから、嫌われて一生口をきいてくれないかもしれない。そんな考えが頭によぎりながら、俺は書かれた住所に到着していた。


その家は思っていたよりも普通の家だった。

ここに紅がいるのかと思いながらも俺は一歩前に進むことができないでいた。こんな時間に約束もなしに尋ねて、失礼じゃないかという弱音も出てきていた。だけど、俺は前に進むしかなかった。


ピンポーン、という軽快な音がなるとしばらくして、返事があった。


「はーい、どちら様ですか?」


その声は紅の声ではなく、彼女の母親の声だと思われた。


「あの、月火さんはいらっしゃいますか?葉山が尋ねてきていると言ってください。事情はわかっていますが、彼女にお話ししたいことがあるんです。」


正直、俺にはこう伝える以上の手段がなかった。俺は月火の人格とは話したことがないのだ。


「少々お待ちください。」


その声とともに俺はしばらく待つことになった。

しばらくすると、扉が開く音がした。


「こ、こんばんは、葉山さん…。わ、私が紅月火くれないつきひです…。」


俺は初めて月火の人格と話しをした。




家では都合が悪いということで、俺達は近くのファミレスで話すことになった。


「あの…、よ、用件は何でしょうか…?」


言葉こそ発しているが月火は下を向いていた。

俺は普段と紅の様子からは想像もつかない態度に驚きながら、慎重に言葉を話していた。


「怖がらなくていいよ。大した用件じゃないんだけど。あの、聞いてもいいかな、まず俺のこと誰かわかる?」


そうそこが重要なのである。これはお互いの人格が互いのことを認識しているかどうかのチェックにするつもりだった。


「えっと、葉山さん…、ですよね?ま、間違ってたら、ごめんなさい!いつも書かれている日記に何度か登場されたものですから…。」


日記?俺はその言葉に引っかかった。


「日記っていつも書いてるの?気づかないうちに?」

「は、はい!自分でもおかしいとは思ってるんですけど、いつの間にか家に着いたら日記が書かれてるんです…。が、学校の記憶も所々ありませんし、もしかして病気なのかなって思って、病院に行くんですけど、何の異常も見当たりませんし…。」


話を聞いていると、月火は紅のことを知らず、自分が今でも学校では保健室で過ごしていると思っているらしかった。


困ったな…。予想以上だった…。


「あの、日記って見せてもらってもいい?恥ずかしかったらいいんだけど…。」

「だ、大丈夫ですよ…。わ、私が書いてるわけじゃありませんし…。」


そう言って、月火は鞄から日記を取り出した。

おそらく、これは紅のものになるのだろう…。ということは、紅は月火のことを知っているという認識でいいのだろうか。


日記の内容は、すべて学校であったことが書かれていた。handyclubのことや、俺のこと。毎日事細かに記載されていた。


「す、すいません…。最近の日記に葉山さんのことがあまりにも書かれていたものですから、とても他人に思えなくて…。普段だったら、お母さんがいないと、こんなに話せないんですけど…。」


紅の日記は絶大な効果を発揮していたらしかった。紅は一体どこまで先を見通していたのだろう…?正直、東城先生が言うのもわからないことではなかった。


確認が取れた俺は満足していた。



「今日はありがとうね。また今度連絡させてもらうよ。日記大切に扱ってあげてね。」


月火を家まで送って行った俺は、彼女にそう言った。別れようとする俺に彼女は恥ずかしそうに言ってきた。


「あ、あの!葉山さん!で、電話番号とか教えてもらえますか?他にも、アドレスとか…。」


俺は笑いながらこう言った。


「もう君のスマホに登録してあるよ。日記の主がやってくれたよ。」




翌日、放課後に紅のクラスに来ていた。もちろん、紅に会うためだった。


「場所を変えよう、葉山。ここじゃあ、目立つ。」


そう言われて、俺と紅は屋上に来ていた。


「葉山、月火に会ったようだね?どうだい、可愛いかったろう?」

「複雑な心境だな…、同じ顔のやつにそう言われるとは…。紅、確認なんだが、お前達はいつ変わってるんだ?」


俺の言葉に紅は首をかしげていた。


「何とも答えにくい質問だね。正直なところ、ぼくでもよくわかっていないだ…。

日記を書いているところは覚えてるんだが、書いてからの記憶が全くないのだよ。書かないでいると、気づいたら、学校にいる。つまり、翌日になってしまっているから、ぼくは家に到着したら、すぐに書くよう心がえてるんだけどね。」


「じゃあ、もう一ついいか?紅はもう1人の人格のことを知っているという認識でいいか?」


「知ってるも何も、直接話したことはないからね。まあ、はじめの頃は、呼びかけるように日記を書いていたんだけど、翌日には見当たらない、つまり捨てられてたんだろうね。そんなことが続いたから、学校の日記を書くことにしたんだよ。そっちの方が、興味を引くだろう?」


よく考えると、書いた覚えのない紙に、

やあ、もう1人のぼく。元気かい?って、書かれてたら、軽い恐怖だよな。それよりかは学校であったことを書いてある日記の方がまだ読む気がおこるものだ。最悪、妄想小説と思えばいいんだし…。


「はあ、まったく、葉山がぼくのことを調べてるなんて正直ショックだったよ。それに、みんな口が軽すぎだよ。まあ、いいさ、これで大体のことはわかっただろう?今日ここに呼んだのは、次の超簡単な依頼の話だよ。」


「うん、依頼が入ったのか?てか、超簡単って…。正直、神谷さんのとこに報告に行きたいんだが…。」


「神谷か…。あいつがそもそもの元凶だよな。人のことわかってたくせに、わざわざ君に調べさせるなんて。別に報告しに行かなくていいよ。ぼくが直接あいつに、もう1人のぼくを勇気付けてくれてありがとうって、精一杯の憎たらしい顔で言ってやるんだから。」


やっぱり、神谷さん知ってたんだよな…。薄々思っていたけど。俺に気づかせるための、依頼だったのか。

やっぱり、あの人も一癖も二癖もありそうな人だ…。

ん、というよりも…?


「依頼って、もしかして、月火、いや、もう1人の紅からか?」

「月火でいいよ、彼女のことは。別にぼくも気にしないし。ほら、ここに書いてあるから、読んでおきたまえ。」


そう言って、紅から一つの手紙を手渡された。

そこに書かれていたのは…



葉山さんとお付き合いしたいです



短い言葉だった…。しかし、それでいて衝撃的だった。


「なあ、超簡単だろう?」


そこには、紅の憎たらしい顔が広がっていた。





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