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「質問を質問で返すのは卑怯じゃないのかな? 姉さん」

 弟だからってあまりに無礼が過ぎるだろう。

 ぼくはそう姉さんに抗議した。

 姉さんは悪戯っぽい笑みを浮かべ、

「正直言って、あなたがどれだけ知っているのか把握できないとわたしも説明のしようがないのよ。………ああ、それじゃあ、質問を変えるわね。あなたはどこまで知っているのかしら? わたしの弟君」

 それに応じて説明してあげる、と言うのだった。

 だから、ぼくはぼく自身が知ってる事のすべてを話した。

 終わりかけの世界、それを終わらそうとする存在たち、それに成り代わってしまった人たち、そして、それでも存続し続ける人類、彼らに備わった特殊な能力………。

 ぼくが、語り終えると姉さんが口を開いた。

「そう、まあ、そんなところでしょうね。それじゃあ、まずは、この世界が罹患してしまった病について話をしましょうか」

「それは、私がしよう。朱音さん、君は疲れているだろう? 少しぐらい休んでいなさい」

 そう言ったのは人間サイズの蠅さん―――シルバさんだった。

 姉さんはこくりと頷き、よろしくお願いします、とだけ言うとそのまま腰かけたソファで眠りこんでしまった。

 ぼくたちは、ロビーに設置されているソファにそれぞれ座りながら話をしていた。

 ぼくのすぐ右隣に香月とアイリ、左隣に死神くん、真正面に姉さん、その左右にリーシャさんとシルバさんが陣取っていた(ちなみにリーシャさんは、ソファには座らずにカーペットの上で伏せるようにしていた)。

 大迫さんは、ホテルの外で横になりながらテレパシーでぼくたちの会話を聞いているようだった。

 少し可哀そうな気もするが、仕方がないだろう。

 シルバさんは、仕切り直しだ、とでもいうようにビールの入った瓶の栓を開けると、

「それでは、私が彼女の代わりに話をしてあげようじゃないか。蒼太くん。さて、突然だが、人間は何故、人間同士で戦争をするのだと思うね?」

 唐突にそう切り出した。

 ていうか、本当に突然だな………。

 さあ、様々な理由があるだろうけれど、一番単純なのは利益のため、だろうか?

 石油が欲しい、広大な領土が欲しい、その国が持つ技術が欲しい、その国が抱える人口が欲しい、などなど枚挙に暇がない。

 それに付随する形で宗教がそれを正当化させてくれる。

 例えば、神の教えに背く愚か者どもに神罰を! というお題目で、だ。

 そう言うとシルバさんは、

「まあ、着眼点は悪くないよ。利益のため、というのは本当に良い着眼点だ。だが、それでは、百点をあげることはできないね。欲望というのは、表層上の理由に過ぎない。人間が同胞と殺し合いをする本当の理由、それはね―――」

 一気に瓶のビールを煽りこう続けた。

「―――進化するため、だよ」

「進化、ですか?」

 突拍子もない回答にぼくは思わず、彼の言った言葉をオウム返ししていた。

 シルバさんは、まるで不出来な生徒に言い聞かせる教師のように続ける。

「そう進化するためだ。そもそも、生物というやつは、そのすべてが進化することを至上目的としている。それは何故かというと過酷な環境で生き残り、種を絶やすことなくこの世界に生き残させるためだ。

 そのためには、強大な敵が必要不可欠だ。敵に対応しそれに伴う変化をしそれを克服してこその進化だろう? まあ、変化と言ってもそれは外見的な変化だけではなく文明の変化―――即ち、発明や開発も含まれるのだが、さて、それではその敵がいなくなってしまった種はどうやって進化すればいいのかな?」

 敵のいなくなってしまった種族………。そうか、それで最初の質問に繋がるわけだ。彼らが敵なくして過酷な環境を作り出して進化するシステム。それが、身内同士の戦争と言うことか。

 そう応えるとシルバさんは満足そうな声音でご名答、と言った。

「そうだ。その通りだよ、蒼太くん。そうやって人類は進化を続けてきた。戦争の度に文明は革新され、人々はさらに繁栄していった。それは、歴史が証明している。だから、戦争はなくならなかった。何故なら同じ種族で争いをしている以上どちらが生き残っても人類の存続は確約されている。生物としては、一人勝ちも同然だ。だから、よく創作もので人類同士が戦争を続けた結果滅びてしまった、或いは、文明が衰退したとか、馬鹿げた設定のやつがあるだろう? ああいうのは本当の出鱈目だよ。もしその程度で滅んでしまうような種族であったなら、とっくの昔に歴史の舞台から消え去っているはずだからね。かくして、人類はいままでどの生物も成しえなかった進化による繁栄を成し遂げたのだ。だが、それも度が過ぎてしまった」

 そこで言葉を切るとシルバさんは煙草を口に銜え、おもむろにジッポで火をつけた。

 さっきもそうだが、あんな蠅の手でよく器用に出来るものだ。

 正直、感心する。

 実に美味そうに煙草を吸い、よく味わった後に煙を吐き出すとシルバさんは続けた。

「人類は進化しすぎてしまった。人類は程々というものを知らなかった。だから、勢い余って自らの宿主を害する存在になり果ててしまった。ここで、ようやく本題に入れるわけだ。朱音さんは言っていたね。

『この世界が罹患してしまった病について話をしましょうか』とね、さて、蒼太くん。この世界が罹患してしまった病とは、いったいなんだと思うね?」

 体の構成細胞が突然変異を起こし、やがて、その宿主を死へと誘う病。

 ぼくは答えを知っていた。

 ここまでお膳立てされたなら、答えられない奴などいないだろう。

 ぼくは、大迫さんに確認を取る。

「大迫さん。以前言っていたクレブスっていうのは人間の呼称だったのですか?」

 少し間があった後、大迫さんは答えた。

『そうやけど、言葉の意味は分かってるんかいな? 少年』


「クレブス。またの名をキャンサーまたの名を―――

 悪性新生物。

 つまりは癌、ですよね」


 正解、とシルバさんと大迫さんの声が重なった。

 やっぱりそうか………。でも、ちょっと待って欲しい。ぼくはここへ来て浮上した疑問を口にする。

「ぼくだって人類という名の世界の癌のはずなんですけど、どうしてここまで手厚い保護をしてくれるのですか? あなたたちの理論からすれば、ぼくだって立派な抹殺対象でしょう?」

「君の場合はかなり事情が特殊なんだよ」

 ぼくの疑問に対し含み笑いでシルバさんは答えた。


「なんたって、君のおかげで星の抗体を作り出せるまでに回復できたのだからね」

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