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息苦しさを感じ目が覚めた。
何かに口を塞がれているような感覚。
当然だ。アイリが寝ているぼくに重なって自らの唇でぼくの唇を塞いでいるのだから。
少し、驚いてとりあえず押し退けようとするも、がっちりとホールドされているので無理そうだ。口が塞がっているなりに何か文句のひとつでも言ってやろうと口を開く―――
「―――――――!」
こいつ舌を入れてきやがった!
満身の力で破廉恥妖精を突き飛ばし身の安全を確保する。
ふう、朝っぱらから勘弁してくれよ………。
突き飛ばされたアイリはすこし不満そうにしながら、
「か弱いレディを突き飛ばすことないじゃんかぁ」
と逆に文句を言って再び抱きついてきた。
「ねえ、ここでしちゃおうか」
アイリが耳元で囁く。
何を? 何をするの? すぐそばでリーシャちゃんが寝てんだよ? つーかこれ、18禁じゃねーんだよ。どう責任とってくれんの?
あまりの事態にテンパって頭が真っ白になりアイリの望みのままになりそうなところを通り掛かった香月が助けてくれた。
ああ~、と悲壮な悲鳴をあげるアイリに香月は、
「朝っぱらからアイリちゃんは元気だね~。そんなアイリちゃんはあたしが足腰立たなくなるまで満足させてあげるから覚悟しなさい♪」
うきうきとしながらそう言うと自分の部屋までアイリをお持ち帰りぃ、したのだった。
はあ、助かった。ていうか、香月がどっちもイケるひとで本当によかった。
それから数時間後。
今後の行動について話し合うために大迫さん以外の全員がロビーに集まった。
昨日と同じ位置のソファにそれぞれが座る。
隣に座る香月とアイリはお互いに艶々しながらいちゃついており、バカップルぷりをさらしていた。
これからも末永くそうしてくれるとぼくとしては非常に助かるのだが、時折アイリの獲物を前にしたハンターのような視線を痛いぐらいに感じる。
香月さん、調教が足りてないみたいですよ、と目で訴えると香月はにっこりと笑顔で、もう少しで完全に落としてみせる、と親指を立てて返す。
本当かよ。
つうか、マジでそうしてくれないとそろそろヤバそうなんだけど。
主に、ぼくの貞操が。
………まあ、心配ばかりしていてもしょうがないので、思考を切り替えることにしよう。
そういえば、気になることが少しあったので、この場で訊いてみることにする。
「姉さん、少し気になることがあるんだけどいいかな?」
姉さんは素敵に微笑んでいいわよ、と返してくれる。
「星の抗体に喰われた人間の記憶や精神―――それを総称すれば魂という表現が適切かな―――はその固体に定着するんだよね。なら、どうして人間の魂を持った星の抗体はこんなに少ないのかな? ひょっとして条件があったりする?」
「ああ、あるよ。それも、とびっきりの条件が」
この質問に答えてくれたのはやはりシルバさんだった。シルバさんは続ける。
「星の抗体に定着する魂の条件。それは―――
CU能力者、または、その素質がある者だよ、蒼太くん。
つまり、我々は全員がCU能力者なのだよ。
そもそも、CU能力者自体が非常に少ないからね。恐らく全人類の一割にも満たないんじゃないかな。
だから、私たちのように覚醒した仲間が少ないのも当然の話なのだよ。
まあ、覚醒した仲間はここにいる全員だけというわけではないがね」
最終決戦のときに顔ぐらいはみることができるだろうね、とシルバさんは締めた。
なるほど、ここにいる全員がCU能力者か。
そういうことなら、誰が、どんな能力を持っていて、何が出来て、何が出来ないのか、ということをはっきりさせておいた方が色々とやりやすくなるのではないだろうか。
ぼくがそう提案すると姉さんが早速リストを作ってくれた。
以下がそのリストの内容だ。
蒼太
オートマチック
破滅
対象の運命に干渉し確実な破滅を齎す。
現在は興隆の能力によって、制限状態にある。そのため、能力の指向性を死に特化させている。
朱音
マニュアル
破滅
上と同じ。蒼太と違い、死に特化させていないため色々できる(例えば、対象の能力封印とか)。
蒼太と違いあまり制限を受けていない。ひょっとすると現段階ではわたしの方が影響力は上かもしれない。
大迫さん
マニュアル
変身
文字通り変身能力。
彼がタイプ・ヨルムンガンドと呼ばれているのは、この能力のせい。
香月
マニュアル
武器製作
彼女の知っている武器なら何でも具現化して使用可能にする能力。
リーシャ
マニュアル
変身
大迫さんと同じ。
生前に能力が覚醒していなかったひとは大抵この能力になる。
シルバさん
マニュアル
念動力
文字通りの能力。
………すごく適当に作られたリストだった。
なんというか、厨二病を患った可哀想なひとがチラシの裏に自らの溢れ出る妄想を書きなぐった、的な感じが半端ない。
まあ、そこは触れないでおこう。
触らぬ神に祟りなし、とはよく言ったものだ。
………アイリの能力については触れていないんだな。書き忘れたのだろうか?
そう突っ込むと、
「あなたは彼女の能力を身を以って経験したでしょう? わたしの弟君」
と言って朗らかに微笑んだ。
まあ、確かに今更リストで説明される必要もないぐらいには、彼女の能力の厄介さを体験したつもりだから別にいいか。
ていうか、大迫さんもリーシャちゃんも変身能力が使えるんだったら人の姿になればいいのに。
ぼくがそう言うと、疲れるから嫌、と二人がハモって答えた。
『それにリーシャはどうか知らんが、わいは雷を纏った蛇の化物にしか変身できんのやで、少年』
あんまり酷なこと言うもんやないで、と拗ねるように大迫さんは言うのだった。
………ああ、それは申し訳ないことを言ってしまったな。
済みませんでした、と謝ると、まあ、別にかまへんよ、と返すのだった。
そういえば、ぼくの項目に不穏なことが書いてあったな。
―――現在は興隆の能力によって、制限状態にある。
これは、いったいどういうことなのだろうか?
そう姉さんに訊いてみると、
「この能力者こそが、わたしたちが倒すべき最大の敵である星の天敵にして、もう一人のオートマチック能力者よ」
少しだけ眼光を鋭くして言うのだった。