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第三日曜日  作者: 月桂樹
2/5

背徳

夫視点です

そっと、家のドアを開けて外に出た。


冷たい空気に少し身震いしてから歩き出す。


春になったばかり。

まだ空気はさほど暖かくなっておらず、冬の空気が残っている。

特に日が昇っていない早朝は空気が冷たい。


自分のバイクにまたがり、エンジンをかけてからふと振り返った。

 

恋人がいる部屋の窓。

でも、その姿は見えない。


当たり前だ。

まだ寝ていたのだから。


自分のアパートまで戻り、布団を干す。


 朝ごはん(コンビニ弁当)を食べてから部屋の中を軽く掃除する。


 昼前になった頃。

 玄関のチャイムが鳴った。


 誰かはわかっているのですぐに開ける。


「久しぶり!元気だった?」


 相変わらずの明るい声。

 くるくると活発によく動く表情。


 この女性は俺の妻だ。


 俺は浮気というものをしている。

 男の単身赴任。

 あちらから誘われ、それにのってしまったのだ。


 罪悪感はあるが、彼女を愛している。


 もちろん妻も娘も愛しているが、これはまた別の問題だ。


「久しぶり。相変わらずだよ」

「ふぅーん、そう」


 遠慮なくあがってくる。


 その後ろを娘がついていく。

 中学二年生になった娘。

 性格は俺に似たのか大人しめだ。


「…なんか荷物が大きいな」

「まぁね」


 そう言って妻は大きいバッグから色々なモノを出し始めた。


「この前旅行に行ってたでしょ?そのお土産!」


 どこかの部族がつけそうな首飾り、よくわからないTシャツ(前には『元気出せ!』後ろには『ど根性!!』の文字)、木彫りの熊(一度買ってみたかったらしい)、そして大量のお菓子。

 相変わらず、変な趣味だ。


 だが、嬉々として語るので、ほほえましく見てしまう。


まるで子供のように無邪気な妻。

そんな妻を、俺は裏切っている。


だが、そんな考えを俺は振り払った。

 

ばれるわけにはいかない。

いつも通り笑っていなくては。


「台所借りるわね~」


 そう言って、エプロンをつけ冷蔵庫をあさり始めた。

 娘も手伝うようだ。

 娘の手料理は初めてなので楽しみだ。


 和やかな昼食を終え、妻の乗ってきた車で近くのデパートへ出かけた。


 食料の乏しさに妻があきれ果てたからだ。


 そのうち服のコーナーにも行ってしまい、しばし一人の時間が訪れる。


 ふとプレゼントの文字を見た時に、恋人が今日誕生日だったことを思い出した。


 慌てて電話をかけ、食事の約束をする。

 嬉しそうな声に、思わず嬉しく感じた。


「お父さん」

「え…ああ、うん、なんだ?」

「これ、どう思う?」


娘が淡い若草色のワンピースを見せてくる。

それは娘によく似合っていた。


「ああ、似合ってる。欲しいのか?」

「うん。これ、いいかも」

「じゃあ、買ってやる」


会計を終え、妻と合流し、帰宅した。


と、車から妻がさらに荷物を降ろしてきた。


「…どうしたんだ?こんなにたくさんの荷物…」

「泊まりに来たのよ。あの子も私も休みだから。三日間ほど。いいでしょ?」

「あ、ああ。構わないが…」


表面上はいきなりの話に戸惑いだけだったが、内心俺は頭を抱えていた。

仕方なく、妻や娘の前で電話をするわけにはいかないのでメールで謝罪する。


彼女は落ち込むだろう。


罪悪感で潰れそうだ。


その夜、中々眠れなかった。


隣の妻が寝返りをうつ。


それを感じながら、俺は早く【今日】が終わればいいと思っていた。




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