第九話
「本当に大丈夫?
なんか、顔色が悪い気がするけど……」
「大丈夫大丈夫。
大したことじゃないって。
そう、大したことじゃないんだ。
そもそもそんなに大きなパーティーとかそういうわけではないし、なんら問題はない。
主役はむしろ大人たちなんだし、子供は子供で子供らしくお砂場で砂の城でも作っていれば……」
「ほ、本当に大丈夫?
ここには砂なんてないわよ?」
現在俺がいるのはパーティー会場の控え室である。
全身オーダーメイドの高級な服に包まれ、髪なんかもセットされた俺はがくがくと震えながら、出番を待っていた。
本日は俺のお披露目のような意味も含めたパーティー、即ち、俺の初パーティーである。
とはいえ、流石に初めてのパーティー、せいぜい身内だけの物で雰囲気を味わうのが目的だ。
なんて甘い世の中ではない。
一人では荷が重いのではということで、同年代である俺の知り合い二人も同時にやろうという話になったため、各々の関係者などが集まり、人数的には相当な物となっている。
加えて、会場も大きく、最上階にあるこの会場からは現在、夜の東京が見渡せるほどだ。
まぁ、緊張のあまり、そんなところを楽しむ余裕なんて全くないのだけど。
確かに一人より二人、二人より三人の方が良いに決まっているが、かといって、こんな人数の前でスピーチとかきついです。
いや、まて。
良い方向に考えるんだ。
そう、そもそもある程度人数が多かったらそれが何人増えようと大して変わらないだろう。
それならば、一緒にいてくれる仲間がいてくれるというプラスの面だけが浮かび上がる。
そうだ、落ち着くんだ。
生まれたばかりのときのことを思い出せ。
心を平静に保つんだ。
ふう。
「大丈夫だよ、ありがと」
若干平静さを失っていた俺を抱きしめていた姉さんから離れ、自らの頬を二度叩き、気持ちを入れ替える。
「そう……。
うん、大丈夫そうね。
それじゃあ、私は先に会場に行ってるね。
しっかりと見ているからね~」
なんとなく名残惜しそうではあったが、直ぐにその表情を消し、自然な感じで俺にプレッシャーをかけてくる。
おう、任せておきな!
見られているとはいえみんなジャガイモなんだ。
緊張するほうがおかしいに決まっているぜ!
「ジャガイモジャガイモジャガイモジャガイモ」
ぶつぶつと呟きながら、舞台袖で出番を待つ俺。
すると、他二人がとことことやってきた。
「どうしたんだ、英明。
ジャガイモジャガイモずっと言ってるが。
そんなに食べたいのか?」
「ジャガイモはおいしいからな。
蒸かしたジャガイモにバターと塩だけで味付けして食べるのは中々いける。
もっとも、熱々でないと台無しだけどな」
「そうか?
個人的にはサツマイモの方がすきなんだがな。」
くそぅ、こいつら、全く緊張していない.
「これが、器の大きさの違いというやつなのか!」
そのことに気づき愕然とする俺。
そんな俺をよそに、他二人はジャガイモとサツマイモはどちらがうまいかという議論を進めている二人。
なんというか、この会話は割りと庶民的な気がして懐かしい気がするな。
そんなことを考え、ちょっぴり緊張がほぐれたのであった。
「はぁ、何とか終わった」
来ている人のほぼ全員がこっちを見ているというのは流石に緊張するなぁ。
とはいえ、何とか乗り切ることができた。
膝ががくがく震えていたような気もするが、きっと気のせいだろう。
そんなに近距離じゃなかったからもし仮にそうであったとしても、ばれていないはずだ。
「お疲れ様、疲れたでしょ」
「あっ、ね……?」
後ろから声をかけられ、一瞬姉が声をかけてきたのかと思ったのだが、振り返るとそこにいたのは全く別の人であった。
「柊花!!」
その姿を見た晴が一目散に近づいていく。
さっきまでとはまるで違った、年相応な子犬っぽい雰囲気を醸し出している。
「はい、これ。
ジュースを持ってきたのよ。
喉渇いたんじゃない?」
「ありがと!」
尻尾をものすごい勢いで振っているような姿が見える気がする。
ちょっと前まであった威厳はどうなったんだ?
「あ、久しぶりね、朝日。
相変わらず、お母様と美月にいじられているのね。
はい、これ」
晴がグラスに入ったジュースを飲んでいる間に柊花さん(?)がこちらに話しかけてくる。
あれ?
なんか俺だけ仲間はずれ?
ちょっぴり疎外感を覚える。
「はじめまして、英明君。
私は橘柊花です。
白麓の三年で、二人の姉みたいな感じかな?
ところで、英明君って優華様の弟なのよね?」
「はい、そうですが……。
姉をご存知なのですか?」
本当に様付けなんかで呼ばれているんだ~。
まぁ、確かにそういう雰囲気がないわけではないけど、弟の立場からするとちょっと変な気がするとともに、俺ってあの学校で大丈夫なのかなぁなんてことがまた頭に浮かんでくる。
「ええ、何度かお話させていただいたこともあるのよ。
素晴らしい方ですよね。
尊敬している方の一人なんですよ」
「そうなんですか、ありがとうございます」
そのせいであろうか、若干ではあるが、姉と雰囲気や声の感じが似ているような気がする。
なんとなく親しみやすい気がするな。
うん、少し年も近いし、ちょうどいいな。
学校の事を聞いてみよっと。
というわけで柊花さんと学校のことを中心にいろいろと話をしていこうとしたのだが……。
「柊花、柊花」
残念ながら、晴に邪魔されてしまった。
しかも若干こちらに対して威嚇している気がする。
……?
……。
あっ、もしかして恋しちゃってルンルン?
あぁ、なるほどなるほど。
なるほどねぇ~。
うん、なかなかお似合いな感じなんじゃないかな?
まだまだ子供だけど、美男美女になりそうだしな。
ふふっ、初恋か。
晴のほうを見て少しニヤニヤと笑ってしまう。
フォッフォッフォ、若々しいの~。
って、何を言ってるんだ、俺は!
前世的なものを合わせても俺はまだ二十台だ!!
この台詞じゃあまるで三十か四十台の台詞みたいじゃないか、全く。
待てよ、もしかして俺って晴にライバル視されちゃってたりする?
すっと横目で朝日を見てみるとやれやれとばかりに頭を振っていた。
どうやら、同じような経験をした事があるらしい。
数少ない友達と対立はしたくないし、後で誤解を解いておこっと。
「俺はロリコンじゃない!!!」ってな。