第八話
俺が六歳になるときの夏、確か六歳から小学校に入学だよなぁなどと思っていた俺は入学する予定の小学校へと連れて行かれることになった。
私立校らしく、入学する際にお受験が必要らしい。
大学まである学校であり、かなりの名門校らしいのだが、所詮は小学校のお受験。
まず落ちることはないと思う。
というか、落ちたら立ち直れないっす。
因みに大元の大学の学校名は白麓大学というらしいのだが、俺はこんな大学名を知らないので、夢で見ていた世界とは違う世界みたいだ。
とはいえ、結構な部分で同じなのはちょっぴり驚きである。
例を挙げるとすれば、世界各国の国名や日本の県名、県庁所在地、アメリカの大統領の名前なんかも一緒といったところか。
それはそうと、現在、俺は校舎の中の見学をするために、小学校へと向かっている。
白麓大附(白麓大学附属の略、初等科から高等科までを一纏めにした呼び方)は俺の家から車で三十分前後の場所にあるらしい。
今日は受験者のために校舎が解放されているらしいのだが、入るためにはいろいろと許可なんかが必要らしい。
なんかいろいろとめんどくさそうだね。
そんなことを思っていると目的地に到着したらしい。
車の窓から外をこっそりのぞくとかなり仰々しい塀と門が見えた。
自分の家のおかげで多少慣れていたため、そこまで驚くことはなかったのだが、もし記憶の中の俺がいきなりこんな所に連れてこられて、ここに通うことになったとしたら腰を抜かすこと間違いなしである。
なにせ、自分、一軒家に住んだことすらない仮暮らしですから。
まぁ、そんな夢の中の世界はどうでもいいだろう。
てなわけで到着した俺たちは車から降りて校舎へと向かう。
どことなく貫禄のある校舎を眺めつつ、校内へと向かっていく途中、俺は知り合いの内の一人(一人しかいません)を見つけた。
「よう、英明、久しぶりだな」
「おはよう、晴。
一月ぶりぐらいになるのかな?」
世間一般では夏休みと言われる時期なこともあって、ここ一月は俺も晴も海外で過ごしていて会うことはなかったのだが、割とよく遊んでいる仲である。
二週間に一度ぐらいは確実にどちらかの家で遊んだりしている。
「ところで、そっちの子は誰だい?」
横にいた可愛らしい服を着た女の子について晴に聞いてみることにする。
「あぁ、こいつは永棟朝日だ。
こんな可愛らしい格好してるんだけど、これで男なんだぜ」
「へぇ、始めまして。
僕は九条英明。
英明と名前で呼んでもらってかまわないよ。
これからよろしくね」
おっと、別に女の子というわけではなかったようだ。
申し訳ない。
きっとお母さんあたりにいろいろと服装なんかをいじられたんだろうなぁ、などと考えながら、手を差し出す。
すると、少し意外そうな顔をしつつ、握手を交わす。
「こちらこそよろしく。
俺のことも朝日と呼んでくれ。
ところで、君はこの格好を見ても何も言わないんだな」
この子も中々大人っぽい話し方をする子だなぁ。
とはいえ、格好のことを気にしているあたり、やはり子供っぽい感じは否めないのだが。
「別に服装なんてたいした問題じゃないさ。
大事なのは中身だからね」
そんなことを言ってからちょっとくさかったかななどと少し恥ずかしくなってしまったので少し付け足す。
「最も、パンツ一枚とかいう場合はさすがに、だけどね」
付け加えた俺の言葉がつぼに入ったのか、晴が腹を抱えて笑い出す。
それにつられて朝日のほうもクスクスと笑い出す。
「ははは、確かにそりゃそうだな」
「とか言いつつ、始め会った時に俺の服装を笑ったのは誰だい?」
どうやら、初めて会ったとき、晴は服装を笑ったらしい。
まぁ、子供っぽいエピソードといえるな。
なんだかんだで、大人になったら笑い事ににできそうなレベルだし、別に何かいう必要もないか。
ともあれ、そんなこんなで俺は二人目の友人を手に入れることに成功したのであった。
えっ、少なすぎないかって?
……。
別にいいし。
小学校になったら友達百人できるんだから、今が少なくても全く問題ないし。
お、俺はボッチじゃない、本当だぞ!!
さて、友人を一人増やすことに成功した俺はその二人と一緒に校内を回ることになった。
保護者のお母様方はお母様方で何かいろいろと話している。
因みに、朝日のお母様の服装はかなりメルヘンチックな感じの服装であり、ほぼ間違いなく、彼の服装は母親の影響を受けているんだろう。
まぁ、今はおいておくとして、現在いるのは小学校の校舎内。
外見だけではなく、内面についてもやはり金持ってるなぁと思わせるような造りとなっていた。
外見に関しては古めかしく、由緒正しい印象を受ける感じなのに、内面は冷暖房完備だし、手水場なんかもめちゃくちゃ綺麗だった。
俺の知る一般的な小学校とは明らかに別物である。
小学校たる物、夏は扇風機の前か冷房の効いた職員室・保健室で涼み、冬は教室においてある小さなストーブや使い捨てカイロでかじかんだ手を温める、これ即ち正義なり。
とはいえ、自分が選べるのであれば、冷暖房完備の方がいいと思ってしまう。
これは人間の性である。
やむなしだ。
こんな所に通わせてもらえる自分の境遇に喜びつつ、俺は更に校舎内を見回っていく。
どこもかしこも普通の小学校とは格が違う。
そんな校舎の中を他の二人と同じく、若干目を輝かせながらいろいろと見回ていくのであった。
ふう、それにしてもあの学校はすげぇなぁ。
見学が終わり、家に帰った後で俺はそんなことを呟く。
音楽室では明らかに高そうなバイオリンがおいてあって、じっと見ていたら値段が余裕で億単位いくような物だと教えてもらったり、美術室には確かこれは中世ヨーロッパの頃の作家の一人が描いた絵じゃなかったかななどと思って、そこにいた先生に聞いてみたら、なんとレプリカなんかではない本物であると教えてもらったりとどう考えても普通の小学校の設備ではないと思うようなエピソードが満載であった。
一つ一つあげていくと流石に長くなってしまうのでこの辺にしておくつもりだが、どこをとっても、小学校の設備といえるような物ではなかった。
簡単にまとめるならば、机や椅子の小ささを除けば、ここが大学の校舎だよと言われても、殆どの人が信じるレベルだという感じである。
「あんなところで俺は溶け込めるのだろうか……」
現在の家自体はかなり裕福であるとはいえ、庶民としての意識が染み付いてしまっている俺。
恐らく二人ともこの学校に入るとはいえ、知り合いは二人のみであり、大丈夫なのかと心配になってしまう。
小学校からいじめられるとかいうのはやだなぁ。
大人な意識を持っている俺だからいじめがよくないと言えるのだろうが、小学生目線からすれば、大して悪いことなどとも思わないだろうし、普通にありそうな気がする。
まぁ、口喧嘩とかで負ける気はしないし、立ち回りなんかも全く問題はないはずだから大丈夫だろう。
とはいえ、やはり不安な物は不安である。
「心配事がまた増えちゃったなぁ」
そんなことを呟きつつ、俺は眠りにつくのであった。