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5月10日 (木)・前

「ったく友也、テメェのせいで昨日は顔の落書き消すの大変だったんだからな」

「何だ消しちゃったのか、我ながら、かなりの出来だったんだけどな」

「あたりめぇだ。あんな顔で外を歩けるかっ!」

 今日も僕達は四人で賑やかに登校していた。

 竜二は、まだ昨日のことを怒っているようだ。


「まぁまぁ真田さん、そのへんで許してあげてください」

「そうだよ竜二。友也も反省……はしてないか」

 顔を見ると、友也はいつも通り飄々としている。

「まぁ落ち着けって竜二。昨日の詫びと言っちゃ何だが今日はいいものがある」

「いいもの?なんだそりゃ」

「これだ!」

 言って友也は鞄の中から何かを取り出す。

 見ると、その手には数枚の紙が握られていた。


「何かのチケット?」

「そう、映画の無料券だ。昨日バイト先の店長から貰った。ちゃんと四人分あるぞ」

 友也は駅前にある雑貨屋でバイトをしているが、よくバイト先の店長から色々なものを貰ってくる。

 ちなみに前回は野球の観戦チケットをもらってきた。


「じゃあこれで昨日のことは水に流しあげてね竜二」

「まぁ、亮がそこまで言うなら仕方ねぇな……」

 渋々だが竜二も納得してくれたようだった。


「さっそく今日の放課後に駅のモールにある映画館に行こうぜ」

「はい、賛成です! 私、映画とか久しぶりで今からワクワクします!」

「そうだろう、そうだろう。ハッハッハッ!!」

 白河さんは友也の突飛な行動にも、もう順応してしまったようで、ノリノリで会話をしていた────




 そして放課後。

 今日は何事もなく学校を終え、僕達は青篠駅近くにある映画館へと来ていた。

 まず、どの映画を見るのかを決める。


「3Dで見るホラーとかどうだ? きっと凄く怖いぜ」

 友也は大好きなホラー映画を推している。

「すみません……私、ビックリするのとか怖いのはちょっと、というかかなり苦手でして……」

「そうか……それは残念だ。そこが面白いんだけどな」

 ということでホラー映画はボツ。


「じゃあド派手なアクション映画っつうのはどうだ!」

 竜二は派手なアクション映画が大好きだ。

「うーん。そういう映画は今やってないね」

 アクションもボツ。


「なら、涙なしでは見られない感動のヒューマンドラマとかどうでしょう?」

 女の子らしい白河さんの意見。

「俺様、そういうの見てると途中で寝ちまうんだよなぁ」

 ボツ……

 全員の趣味が見事にバラバラだった。


「仕方ない。亮が決めてくれ」

「え、僕!?」

「俺達三人の案がボツで残ってるのはお前だけだからな」

「いいけど後で文句とか言わないでよ。うーんと、僕はあれかなぁ」

 映画館に入ったときから妙に気になっていた映画を指差す。

 話のあらすじからしてSF作品のようだった。

 パッと見た限りでは、アクションシーンもありそうだし、主人公とその恋人の物語ということで感動的なシーンもあるだろう。

 ホラー要素はなさそうだけど、ビックリするシーンなら一つくらいあると思う……


「私はいいと思いますよ。怖そうではなさそうですし」

「もう何でもいいからサッサと見ようぜ」

「じゃあこれに決まりか」

 鑑賞する作品が決まったところで受付でチケットを購入する。

 もちろん友也のおかげでチケット代は無料だった────


 そして、約二時間にわたる映画を見終え、僕達は映画館の外へと出た。

「最後まで見れたちゃっあ見れたが、何か微妙だったな……」

「そうですか? 私はよかったと思いますけど」


 映画の内容としては、偶然タイムマシンを手に入れた主人公が事故で亡くなった恋人を過去に遡り、様々な苦難を乗り越え、助けるというものだった。

 しかし主人公は恋人を助ける為に自分の命を犠牲にしてしまう。

 今度は恋人がタイムマシンを使って過去に遡り主人公を助けるが、その代わりに今度は恋人が命を落としてしまう。

 そして、再び男がタイムマシンに乗って過去に遡って行くシーンで映画は終わった。


「で、結局最後はどうなったんだ?」

 竜二が首を傾げながら悩んでいた。

「どうなったって、竜二もちゃんと見てたでしょ」

 アクション以外の二時間映画でも、竜二は珍しく起きていた。

「俺様は、ああいう中途半端な終わり方が一番嫌いなんだよ。結末が気になるじゃねぇか!!」

「そんなの僕に、言われても……」

 竜二の性格上、あのように「結末は視聴者のご想像にお任せします!」という感じに終わられるとモヤモヤしてしまうようだ。

 まあ、僕も結末が気にならないと言えば嘘になる。


「なら、亮はどう思う?」

「え、僕? うーん……最終的には二人とも助かったっていうのが、ハッピーエンドって感じでいいんじゃないかな」

 竜二のモヤモヤを解消するべく友也の問いに、僕は一番ベターであろう返答をした。

「って亮は言ってるが、竜二はどうだ?」

「あぁ? まあ亮がそう言ってんならそんなんだろ」

 と、面倒くさそうに竜二は答える。

 まあ、自分で考えるのが面倒だから竜二は結末を最後まで見たかったのだろう。

「じゃあ白河は?」

「私は……そうですね、私も神谷君の言っている結末が一番素敵だと思います」

 穏やかな性格である白河さんらしい答え。


「なるほどな。まぁそれが一般的な答えだろう」

「じゃあ、友也はどう思うの?」

 感性の豊かな友也がどんな考えを持っているか気になったので聞いてみる。

「俺か? ふむ……知っている奴もいるかもしれないが、こんな話がある」

 唐突に友也は知っている人は知っている有名な話を始めた。


「例えば、俺が過去に行って俺の祖先を殺してしまったとする。すると当然、俺が生まれてくることはない。だが、そうなると矛盾が生まれる。生まれてこない俺が、俺の祖先を殺すことは出来ないってな具合にな」

「なんか頭が混乱してきたぞ……」

 一見納得してしまいそうな例えだが、よくよく考えるとどこかおかしい、それが矛盾。

「『タイムパラドックス』ってやつだよね」

「タイムパラ……何だそりゃ?」

「タイムパラドックス。まあ簡単に言えば、過去は変えられないって説のことだ」

「なるほど。そりゃわかりやすい」

 竜二でもすんなり理解できたようだ。


「そういう概念がある以上、主人公が恋人を助けられる可能性は限りなく低いと思う。あくまで理屈で言えばだけどな」

「じゃあ、あの主人公がしていることって無意味なことなのかな?」

 自分の命を懸けてまで大切な人を救おうとしている。

 しかし、その行為がすべて無意味ではあまりにも主人公が報われない気がした。

「そうかもしれない。だが、その行為自体が無意味かどうか決めるのは結局は本人次第だ。それに本当に命を懸けてまで叶えたい願いがあったとしたら、そうそうあきらめ切れるもんじゃないだろうさ」


 僕達は皆、友也の弁舌に聞き入っていた。

 しかし……

「どうせ一度しかない人生なら、自分が後悔しないような選択をするだろう? まぁ、俺が偉そうに言える立場じゃないけどな。だが、だからこそ俺は後悔しないように今を楽しく生きると決めた。そのために俺は俺の好きなことをするのだ!」

「おい、なんか話が変な方向に行ってねぇか?」

 先ほどのクールな友也は跡形もなくなり、いつのまにか遊び好きの友也に戻っていた。

「将来のことを考えるのも必要だろう。過去を振り返ってみるのも大切だ。だがそれは今があるからだ。過去も未来も今の積み重ねだからな。うんうん……」

「ようは、友也はいつまでも遊んでいたいってことでしょ」

 呆れる様に僕は友也の話を要約した。

「そういや、なんでこんな話になったんだっけか?」

「何だよお前達。せっかく人が良いこと言ってんのに少しくらい感動したらどうだ!?」

 感動云々はともかくとして、僕もこんな楽しい今が、ずっと続けばいいと思っていた。

 皆で積み重ねる今の先にはどんな未来が待っているのだろうか……


 その後、僕達は同じモール内にあるゲームセンターに行くことにした。

 夏に近づき日も延びてきたとはいえ、今からどこかに行くには遅い時間だったからだ。

「はわぁ、中はスゴい音ですねぇ」

「すぐに慣れるよ」

 白河さんは生まれて初めてゲームセンターというものに入るらしい。

 店内に流れるBGM、ゲームの音、遊んでいる人の声、雑多な音が乱れているこの環境に驚くのも無理はない。


「おっ、このゲームまだ残ってんのか」

 店の奥に進んで行くと竜二がとある格闘ゲームに反応した。

「おい友也、対戦しねぇか?」

「ああ、いいぞ」

「へへへ、俺様の実力を見せてやるぜ」

 そう言うと二人は向かい合う様に筐体の席に座り、百円玉を投入する。


「なら僕達は他のところを見てくるよ」

「わかった」

「じゃあ、あっちの方も見てみようか」

「はい」

 二人がゲームで対戦している間、僕達は別のゲームで遊ぶことにした。

 店内を散策している間、白河さんは興味深そうに、キョロキョロと辺りを見回している。

「何かやってみたいものはあった?」

「いっぱいゲームがあって迷っちゃいますね……あっ!?」

「どうしたの?」

「あれをやってみたいです!」

 白河さんが指差した先には、クマのぬいぐるみの入った筐体があった。

 いわゆるクレーンゲームだ。


「やってみる?」

「はい!」

 というわけで僕達はクレーンゲームをすることにした。

「中のクレーンをこのボタンで操作して景品をとるんだよ」

「難しそうですね……」

「初めてじゃなくても難しいかもね。僕もあんまり得意じゃないし」

「ものは試しです。さっそくやってみましょう」

 財布から取り出した百円を投入し、白河さんはゲームを始めた。


 白河さんはクレーンを的確に操作し、ぬいぐるみの真上に移動させる。

 そしてアームが開き、真下のぬいぐるみに向かってクレーンが下がっていく。

「やりました。位置はピッタリです」

 しかしアームの力が弱すぎるため、ぬいぐるみを掴みあげることが出来ず、クレーンはぬいぐるみの表面をなぞるだけで終わった。


「……これはどうすれば取れるんでしょうか?」

 完璧な位置取りをしたつもりの白河さんは、目の前の惨状に唖然とクレーンを見つめていた。

「たぶん、普通に持ち上げようとしても無理だよ。ぬいぐるみに付いてる紐とかにアームを引っ掛けたりして取るんだ」

 最近のクレーンゲームは景品を持ち上げるというよりも、ズラすしたり引っかけたりと頭を使うものが増えていた。

 もはやUFOキャッチャーのキャッチャー成分は無いに等しい。


「そうなんですか。うーん奥が深いですね」

 僕のアドバイスを元にさらに数回、白河さんはチャレンジするものの取れる気配がなかった。

「私には向いてないのかもしれません……」

 ガクッと肩を落として落ちんこんでしまう。


「ちょっと僕にもやらせてくれる?」

「どうぞ……」

 見ていていたたまれないので今度は僕がチャレンジすることに……

 しかし、このクマのぬいぐるみには紐やタグなど、アームを引っかけられそうな部分が見当たらなかった。

 脇の部分にアームを引っかけてみても、すぐに外れてしまう。

「うーん難しいな、どうすればいいんだ?」

 他に引っ掛かりそうなところはないかとぬいぐるみを観察する。

 よく見るとぬいぐるみの首には赤いリボンが巻かれていた。

 あのリボンになら引っ掛かるかもしれないと、そう思いもう一度チャレンジしてみる。

「よしっ! いいぞ」

 予想通りアームは上手くリボンに引っ掛かり、そのままぬいぐるみを運んできてくれた。


 下の取り出し口から、ぬいぐるみを取り出し、白河さんに差し出す。

「はい」

「いいんですか?」

「うん。欲しかったんでしょ?」

「ありがとうございます!! 大切にしますね」

 白河さんはぬいぐるみを受け取ると、嬉しそうにギュッと抱きしめた。

 その無邪気な笑顔に僕は少しドキドキしてしまう。


「そ、そろそろ竜二達のところに戻ろうか」

「はい!」

 本当に嬉しかったのか、白河さんは歩いている最中もぬいぐるみを見ては笑いかけていた。

 こんなに喜んでもらえるのならば僕も苦労して捕ったかいがあったというものだ。


 竜二達のところに戻ると、二人はまだ対戦を続けていた。

 とりあえず竜二の後ろから対戦の様子を見守ることにする。


 ────デデデデザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニー

 セッカッコーハアアアアキィーン

 FATAL K.O.────


 まさかの竜二瞬殺。

「がああああぁぁぁぁ!」

「フッ、これで俺の10勝目だな」

 悔しさの声を上げている竜二に友也が爽やかに話しかける。

「まだだ、まだ終わらねぇぞ!!」

 竜二は取り出した百円玉でタワーをつくり、連コイン。

 何という負けず嫌い……というかまだやるつもりなのか。

 しかし、友也が確立されたキャラのコンボをミスすることはなく、結局このあとも竜二は負け続けたのであった────

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