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?月?日 (?)・中

 次の日の夕方、僕と竜二が同じ時間に指定された公園に行くと、そこにはすでに友也の姿があった。

「来たか。早速答えを聞かせてもらうぞ亮」

 正直、僕はまだ迷っていた。

 僕の答え一つで、友也が僕達の敵に回わってしまう。

 けれども僕の思いは変わらない。

 ならそれを正直に伝えるしかないじゃないか……

「僕は……僕は三人で一緒にここに居たい」

「そうか……」

 僕の返答に落胆するように友也は答えた。

「なら見せてもらうぞ。お前の覚悟をな……」

 友也がそう言うと同時に竜二が僕の前に出た。

「やれやれ。まずは竜二、お前からか……」

「そういうこった」

「流石だな。改めて対峙するとすごいプレッシャーだ。伊達に鍛えてるわけじゃないな」

「ふん、こんな時に褒められてもうれしくもなんともねぇよ」

「懐かしいな。こうしていると昔を思い出す」

「嫌なことを思い出させんな。けどよ、俺様もあの時のリベンジをしたくないってわけじゃあないんだぜ。まさかこんな形で実現するなんて思っちゃいなかったけどよ」

「だったら全力で向かって来い。つまらない未練を残さないようにな」

「言われなくても、はなから手を抜くつもりなんてねぇよ。行くぜっ、友也!!」

 こうして僕達の戦いは始まった────




 戦いの口火を切ったのは竜二だった。

 友也に向かって一直線に走っていく。

 そんな竜二を見ても、友也は動く様子がない。

 むしろ正面から竜二を追撃しようとしている構えだ。


 友也との距離が2m程に縮まったころ、竜二は突っ走るのを止め、立ち止まる。

 そして……

「へっ、昔の用にはいかねぇぜっ!!」

 目の前の地面に向かって思い切り拳を突き立てた。

 驚くべきことに竜二の拳は地面を円形状に凹ませる。

 否、竜二が殴ったのはただの地面ではなかった。

 拳の衝撃で凹んでいたのは、砂でカモフラージュされた段ボール。

 昔同様、友也は落とし穴の罠をあらかじめ仕掛けていたのだ。


「へー、よくわかったな」

「ここんとこだけ周りと砂の色が違ってりゃ、バカだって気付くわ」

 竜二は至極冷静だった。

 表面の砂と掘り返された砂の色の違いに気付き友也の罠を見破るほどに。

「そうだな……それを見りゃ誰だって気付くよな……」

 だが、その様子を傍で見ていた亮は竜二が罠を見破ったが故に逆に疑心を抱いていた。

 あの友也がせっかく仕掛けた罠を簡単に見破られるようなヘマをするのだろうか、と。


「さて、仕切り直しと行かせてもらうぜっ」

「……ふっ」

 その時、友也の口の端が僅かに緩んだのを亮は見逃さなかった。

「ダメだ竜二! 回り込んじゃいけない!!」

 落とし穴を回避すること自体が友也の罠だと気付き、亮が竜二に向かって叫んだ時には、もう友也は次の行動に移っていた。

 友也が足元の地面から少しだけ、その姿を覗かせている何かを思い切り引っ張る。

 すると落とし穴を避ける様に回り込んでいた竜二の足に何かが絡みつき、竜二はバランスを崩して尻餅をついた。

「何だこりゃ!?」

 地面から引っ張り上げられたそれは竜二の足首から友也の手元にまで一本に伸びている。

 それはリードのように竜二の足首から友也の手に伸びる一本の鎖だった。

 そのせいで竜二は片足の自由を奪われかけてしまっていた。


「あんな鎖どこから……」

 友也が用意していたのはアクセサリーとして付けるような細い鎖などではなく、明らかに何か重量のあるものを支える目的で作られた太い鎖だった。

 しかし、そんな亮の疑問もあっさりと解決する。

 どこかで見覚えのある鎖。

 友也が簡単に手に入れられるほど、すぐ近くにあり、重い重量を支える役割をするものと言えば……

「……!! ブランコか」

 友也の後ろにあるブランコ。

 そのブランコは本来なら椅子を吊るすはずの鎖が取り外されており、遊具としての機能を失っていた。

「御明察。大の大人だって楽々支える強度の鎖だ。お前の馬鹿力でもそう簡単には千切れないだろ?」

 亮が導き出した答えを友也が肯定する。

「チッ……友也ッ、テメェ!」

「さすがにお前と正面から殴り合って勝てる見込みは薄いからな。まぁ、俺の計算じゃあ、ここまでやってやっと五分ってところだが」


 これでは竜二が不利のように思われたが、亮はさほど今の竜二の状態を窮地だとは思っていなかった。

 鎖とは本来、両端を何かに繋ぐことによって初めてその役割を果たす。

 しかし今、竜二の足首を繋いでいる鎖の端は友也が手で握っているだけである。

 その手さえ離させてしまえば、鎖に竜二の動きを縛る拘束具としての機能は果たさなくなる。

 それは、ただ竜二の足首にまかれているだけの鎖に過ぎないのだ。

「竜二、友也の手から鎖を引きはがすんだ!」

「まかせろ、力比べなら得意中の得意だぜ!!」

「確かに俺の腕力とお前の脚力じゃあ、おそらくお前の方が強いだろう。けどこれならどうだ?」

 そう言って、友也は自らの腰に鎖を巻き付ていった。

「こうして俺自身を重りにしてしまえば、お前の足一本じゃどうにもならないだろ」

「けど、それじゃあテメェも自分で自分の動きを拘束しているようなもんだぜ? 俺から逃げられなくなんだからよ」

「逃げる? そんな必要ないさ」

 竜二の腕力の強さは友也も十分に理解しているはず。

 そんな竜二から一定の距離以上逃げられなくなったにも関わらず友也の表情から余裕が消えることはなかった。

 それほど、この状態に自信があるということなのだろう。


「その減らず口、今すぐに黙らせてやるぜ!!」

 竜二が再び突っ込んできたと同時に友也は鎖を思い切り引っ張り、竜二の足を釣り上げた。

「クソッ、邪魔くせぇっ」

 自由に身動きが出来ないことに竜二は次第に苛立ちを見せ始める。

「引っ張り合いならこっちだって負けねぇぞ!!」

 言って竜二は足元の鎖を掴もうと身を屈めた。

「熱くなっちゃダメだ竜二!!」


 しかし、その対応もきちんと考えていたようで、友也は波を伝える様に鎖を一度大きく上下に振った。

 すると波は鎖を伝わっていき……

「いでっ!!」

 屈んでいた竜二の顔に見事、直撃した。

 命中したのを確認すると今度は友也から竜二に向かって走り出す。

 そして、まだ臨戦態勢のとれていない竜二の顔を思い切り蹴り上げた。

「ぐああっ……!!」

 更にもう一発、竜二の顎に蹴りを見舞う。

 竜二の顔が横に大きく弾け飛んだ。

「野郎ッ! 調子に乗りやがって」

 反撃とばかりに竜二が拳を繰り出すと、友也はすぐさま距離をおき、竜二の射程圏外へと非難する。

 そしてまた鎖を使って竜二の隙を作っては、攻撃を加える。

 友也のトリッキーな戦い方に、自慢の力をまるで生かせない竜二は、一方的に攻め込まれていた。


「どうした竜二、お前の自慢のパワーはその程度か? こんなんじゃ期待外れもいいとこだぜ」

「期待外れだと? ふざけやがってっ!」

 竜二の性格を熟知している友也は絶妙なタイミングで的確に油を注いでいく。

 完全に熱が入ってしまっている竜二の攻撃は、大ぶり、単調になり、楽々と友也は竜二の反撃を捌いていった。

「この野郎、ちょこまか逃げやがって!!」

 まだ、竜二の攻撃は一度も友也を捉えてはいない。

 全ては友也の思うつぼだった。

 いくら頑丈な竜二とはいえ、まともに友也の攻撃を食らい続けていてはいずれ負けてしまう。

 完全に竜二はジリ貧に陥っていた。


「うおおおおお!! 」

 耳をつんざくほどの咆哮を竜二が上げる。

 亮と友也、二人も目から見ても竜二は明らかにキレてしまった様子だった。

 もはや今の竜二には亮が何を言っても届いていない。

 心配そうに竜二達を見守っていた亮をよそに、友也はこれが好機と一気に竜二を仕留めにかかった。

 大ざっぱな竜二の攻撃を軽やかに躱し、的確に竜二の土手っ腹に膝蹴りを見舞う。

「ぐは……」

 そして、ついに竜二の体が『く』の字に折れた。

 その隙を見逃さず、友也は止めとばかりに渾身の拳を竜二の横っ面やや下に叩き込む。


「……ッ!?」

 だが、友也の意思に反して竜二の顔は弾け飛ばない。

 確かな手ごたえを感じていたものの、竜二は持ち前の根性で友也の攻撃を耐え抜いた。

 そして……

「やっと……捕まえたぜ」

 殴りかかった友也の腕を竜二が、がっちりと掴んだ。

「どうだ、俺様は馬鹿みたいにブチ切れてるように見えたか?」

 その瞬間、友也は今度は自分が竜二の罠にはめられたのだと気付く。

 隙の大きい一撃をわざと友也に打たせることによって、スピードでは敵わない友也の動きを一時的に止めたのだ。

 腕を振りほどこうにも尋常ではない力によって掴まれた腕はピクリとも動かなかった。


「今までの借りはきっちり返してやるぜぇっ!! うおおりゃああっ!!」

唇の端から流れていた血を拭った竜二は、友也に向かって拳を繰り出す。

「ぐ……ッ!!」

 意を決して友也は、もう片方の腕で竜二の拳を防御する。

 だが竜二の拳はそんな友也の体を防御ごと弾き飛ばした。

「まだまだぁっ!!」

 離れた友也を逃がすまいと、今度は竜二が鎖を引っ張り、友也を引きずり戻す。

「もう、いっぱぁつっ!!」

「がぁ……!!」

 そして戻ってきた反動を利用して竜二はさらに友也の体を思いきり殴りつけた。

 何とか腕で防御はしたものの、友也の顔は苦悶に歪み、先ほどまでの余裕は欠片も無くなっていた。

 殴り飛ばされた友也の体は地面をゴロゴロと転がっていく。

 地面に這いつくばる友也と、それを見下げる竜二。

 たった二発の攻撃で竜二と友也の状況が逆転してしまった。


「次で終わりにしてやるぜ……」

 まだ立ち上がれていない友也の元に竜二がゆっくりと歩み寄る。

「……?」

 突然、竜二の体が一人でにグラリと大きく揺らいだ。

 フラフラとしたおぼつかない足取り。

 そして竜二は友也の元にたどり着く前に、地面に膝をついてしまう。


「ぐ……ごほっ、げほっ……やっと効いてきたみたいだな……相変わらずお前のタフさには恐れ入ったぜ」

 その様子を確認した友也は、勝利を確信したかのようにゆっくりと立ち上がった。

「……くそ、やけに顔ばっか狙ってきやがると思ったら……こういうことかよ」

「そういうことだ」

 そう言って友也は軽々と竜二の体を地面に伏した。

 うつ伏せに倒した竜二を、あらかじめ用意していた縄で後ろ手に縛る。

 亮はいまだに何故竜二が突然倒れたのか理解できないでいた。

 竜二の体もすでに限界を超えていたのだとしても、それでは先ほどの二人の会話と内容が一致しない。

 そんな亮の思いを察してか、友也が竜二を拘束する作業を進めながら、かいつまんで説明をした。


「俺が狙っていたのは竜二の顎さ」

 人は顎に衝撃を受けると、その振動が頭にまで伝わり、脳が揺れを起こしてしまう。

 脳が揺れると軽い脳震盪状態になり、視界がグニャリとふら付き、立っていることもままならなくなってしまうのだ。

「首まで頑丈な竜二には、効果が出るのが遅かったみたいだけどな」

 友也は自分の腰から鎖を外し、どこからか取り出した杭の様なもので、鎖を地面に固定する。

 竜二の身動きは完全に封じられ。この瞬間に友也の勝利が確定した────

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