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誰がために君は泣く

「────ここは……どこだ……?」

 目が覚めた時、僕は見知らぬ場所に立っていた。

 辺りを見渡してみるが、そこには何も無い。

 物がないのではない、物も人も音もそして色までもがない、すべてが黒く塗り潰されてしまったような世界に僕は居た。

 体がフワフワしている感じがする。

 まるで夢の中にいるようだ。


「確か……僕はタワーの爆発に巻き込まれて……まさかあの世とかじゃないよね……」

 自分の置かれている状況が全く飲み込めないでいた。

 何もないと思っていた世界の中で、ふと人の気配を感じる。

 その気配は暗闇の中で徐々に僕に向かって近づいてきていた。


「み、美咲……?」

 そう、僕の前に現れたのは美咲だった。

「無事だったんだ!」

 美咲の無事な姿を見て安堵する。

 あの爆発の中でもが無事に生きていてくれたことに……

「ここはどこなのかな、美咲は知ってる?」

 美咲の姿に小さな光明を見出した僕は、まだ何とか平静を保てていた。


「ごめんなさい……」

 ずっと俯いていた美咲の口から最初に出てきたのは謝罪の言葉だった。

「何をいきなり謝ってるのさ……?」

 美咲の体が小刻みに震えているのに気付く。

 両手を下でギュッと握り、僕を見上げるその瞳は、涙に滲んでいた。

「ごめんなさい、私のせいで亮君にはとても辛い思いをさせてしまいました……」

「どういうこと……? 美咲はあの一週間のことを知っているの?」


 あの一週間。

 それが友也が僕に教えてくれたことだった。

 僕達は先週の月曜日から今日までの日曜日を延々と繰り返していると……


 そして僕は、美咲の姿を見た時、もう一つの疑問を抱いていた。

「それに……今までどこにいたの?」

 レストラン内でテロに巻き込まれてから、僕は竜二と友也の二人としか合っていない。

 あれ……?

 そういえば、なぜあのとき僕は美咲のことを探さなかったんだ?

 突然の緊急事態で頭が混乱していたから? 

 冷静さを失っていたから?

 いくらでも理由を絞り出すことはできるが、それでもやはり腑に落ちない点があった。

 違う、そうじゃない……

 あの時の僕の頭の中には、美咲のことを思う思考なんて微塵もなかった。

 まるで美咲の事だけが頭から抜け落ちたかのように僕は彼女のことを忘れてしまっていたのだ。


「亮君の疑問に答えるためには、まず私のことを話して置かなければなりません」

 僕の疑問に答えてくれるように話し始めた美咲の声に耳を傾ける。

「私は……この世界の『理』から外れてしまった存在」

「世界のことわり……?」

「はい。本来ならこの世界に存在するものは、全て世界によって決められた運命という枠組みの中で生きています。しかし私はその運命の枠から外れてしまった……いわば、この世界にとってイレギュラーな存在なんです」

 それは、またしても僕の常識の範囲を逸脱する内容だった。


 しかし今の僕にとって、世界や運命などという大それたものは、どうでもよかった。

 なぜ僕達がこんな目に遭わなければならないのか、それだけが知りたかった。

「それと、この繰り返す一週間とどんな関係があるの……?」

「亮君はもう知っているかもしれませんが、あのテロによってスカイタワーの中にいた人間は私を含め、全員命を落としてしまいました」

 実感はないが薄らと記憶には残っている。


「本来ならそのまま時は進むはずですが、私が死んでしまったことで世界の歯車が狂ってしまったんです……」

「ごめん……さっきから、よく意味がわからないよ」

 美咲の話す内容は、僕の理解の範疇をとっくに越えていた。

「そうですね……私達が住んでいた世界をコンピュータの中だとすれば、私は外から入ってきたウイルスだと考えれば少しはわかりやすいでしょうか。本来、決められた運命に従い死んだ者は世界からその存在を消去され生涯を終えます。しかしこの世界の理から外れてしまっている私を世界は消去出来なかったのです」

「いったい、なんで?」

「存在しないものを消すことは出来ません。でも世界が認識していないだけで私は確かにこの世界に存在している。この矛盾が世界の歯車を狂わせてしいました」


 美咲はさらに続ける。

「そして世界は、この歯車のズレを修正しようとある手段をとりました」

「まさか、それが……」

「はい、私が命を落とす原因。つまり亮君と出会ってしまった日まで時間を巻き戻すことです」

 当然、僕と美咲が出会うことがなければ僕達はスカイタワーに行くこともなく、テロに巻き込まれることもなかっただろう。

「亮君が爆発の後、私のことを覚えていなかったのは、私がレストラン内の最初の爆発で死んでしまうからです。私は特殊な存在であるが故、死んでしまえば、だれの記憶に残ることもなくただ消えてゆく……」

 曰く、正常な日常の中に存在するバグは一度消えれば、完全に消去されてしまう。

 それが自分の唯一の運命なのだそうだ。


「でも待ってよ。本当に僕達の運命が決まってしまっているのなら……」

「亮君がいま考えている通りです。亮君達の運命は、すでに決まってしまってます。それはつまり私と亮君が出会い、スカイタワーのテロで命を落とすということが決まってしまっているということです」

 いくら美咲が世界の理というものから外れてしまっているといっても、僕体が出会うということは、僕の運命で決まってしまっている。

 これでは、最初から詰んでいるも同然だ。

「じゃあ僕達は、永遠にあの一週間を続けるっていうこと? もう、どうする事も出来ないの?」

 美咲の話を聞くたびに、かすかに見出していたかすかな希望すらも打ち砕かれていく。


「前にも言いましたよね。過程はどうあれ結果はすべて、その運命に収束してしてしまう……と。どういうわけかは分かりませんが、このループに唯一気付いた風間さんが、それをどうすることも出来なかったように、私達では運命を変えることは出来ないんです」

 その言葉に完全に未来への希望は全て断たれてしまったように思われた。

 しかし、そう考えるにはいささか早計のようだ。

「けれど、一つだけこの無限に続くループを終わらせる方法があります」

「それって?」

「全ての原因は私と亮君が出会ってしまったこと、なら私達が出会わなければ何も問題はありません」

「でも僕達が出会うことは……」

 すでに運命で決まってしまっている。


「私が自分の意志で、この世界に存在することを止めれば……」

 日常に潜むバグが外からの力でなく、自らの意思で消えてなくなる。

 そうすれば美咲が居たことも、美咲が消えたことすらこの世界は認識することなく、歯車は正常に回り続ける。

 それがこのループを終わらせる唯一の方法だと美咲は語った。


「でも、それじゃあ美咲がっ!!」

「いいんです」

「いいわけないだろっ!」

「私は自分の事を知ってから、ずっと考えていました。なぜ自分だけがこんな目に遭わなければいけないのかと……でも、答えなんて出るはずがありません。私は運が悪かっただけなんです。偶然そういう星の下に生まれてきてしまっただけなんですから……」

 美咲は僕と出会った時から全てを知っていたんだ。

 全てを知っていた上で全てをあきらめていた。

 自分達には運命を変えることなど出来ないと……


「私が今までこの方法をとらなかったのは、亮君と過ごす時間がとても幸せだったから……」

 そんな美咲が永久にも繰り返す世界の中で、自分を保つことが出来たのは、僕がいたからだと言う。

 僕と出会い、一緒に話し、学び、遊ぶ。

 それだけで自分の心が満たされていたと……

 それだけが白河美咲という人格を唯一繋ぎとめているものだと……


 先ほどまで潤んでいた美咲の目からは次第に涙が溢れていく。

「だから……私は……亮君といられるなら、あんな世界でも構わないと思いました……でも、もう私のワガママで……苦しむ亮君を見たくない……!」

 僕のためを思ってそう言ってくれることは嬉しい。

 だからと言って、僕がそんなことを望むはずはない……

「嫌だよ……僕にとっては美咲がいなくなることはそれ以上に苦しいんだよ……!!」

 また一人、また一人、僕の周りからいなくなっていく。

 僕にはそれが耐えられなかった。


「亮君……」

「だから……居なくなるなんて言わないでよ! これからもずっと一緒にいようよ!! 四人で海に行くって約束したでしょ……」

「ふふ……本当に亮君は変わってないですね。でもそういう優しいところも大好きですよ……」

 僕の態度を見かねたのか、いつの間にか美咲はきかん坊をあやす母親の様に優しく、そしてどこか困ったように微笑んでいた。

「ごめんなさい、約束を破るのはこれで二度目になっちゃいますね。でも安心して下さい……亮君はもう一人になるなんてことはありません」

 言い終わると同時に美咲の体が透けるように消えていく。

「美咲ッ!!」

 美咲に向かって伸ばしたその手は、何も掴む事はなく、虚しく空を切った。

「ありがとう……さようなら……亮君」

 その言葉を最後に美咲は僕の前から完全に姿を消した。


「何で……何でだよ……何で皆、僕の前からいなくなろうとするんだよ!! 僕は、僕……は……た……だ…………」

 とたんに自分の意識が薄れていくのを感じる。

「……み……さ……き……」

 夢から覚めてしまうような感覚。

 その感覚はすぐに僕の体の全てを支配していった──────

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