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出会い

 まだ小学生だった頃、僕達は出会った。

 当時の僕は今よりも内気で弱虫で、周りには友達なんて言える人間は誰一人としていなかった。

 毎日毎日、学校に来て授業を受けて家に帰る。

 そんなつまらない日常を送っていた。

 そして、そんな性格が災いしてか、いつの間にか僕はいじめのターゲットにされてしまった。


「おらおら何とか言ってみろよっ! このっこのっ」

「……や、やめてよ……うぅ……」

 僕はいつも何も言い返すことが出来なかった。

 ただ一方的にやられるだけ。

「おい、こいつまた泣いてやがるぜー」

「やーいっ! なーきむし、なーきむしっ」

「……うぅ……」

「こいつダンゴムシみたいに丸まって動かねーぞ。ねぇ竜二くんどうする?」

 震えて丸まっている僕の横に竜二と呼ばれた男の子が立つ。


「情けねぇなー、悔しかったらちょっとは、やり返してみやがれってんだ!」

 他の子供よりも身体も背も一回り大きいその姿に僕はいつも怯えていた。

「オレ様こういう弱虫やろうは大っ嫌いなんだよ。おーし次はプロレスごっこやろうぜ!」

「おっいいね、いいね!」

「竜二くんプロレス大好きだもんね!」

「やっちゃえ、やっちゃえ!」

「おうっ! 新しいオレ様の技を見やがれ!」


 そう、当時僕をいじめていたグループのリーダーは『真田 竜二』本人だった。

 昔から腕っぷしが強かった竜二は町内のガキ大将的な存在だったのだ。

 そんな竜二に当時の僕一人では為す術もなく、ただただ、いじめに耐える毎日が続いた。

 しかしそんな僕にある時、転機が訪れる。

 いつもの様にいじめられ、泣きべそを掻きながら帰っている途中で、


「おいっ!」


 と後ろから声をかけられた。

 振り返るとそこには見たことのない男の子が一人、立っていた。

「さっきの見てたぞ。お前、何で黙ったままやられてんだよ!」

 泣いている僕に向かって男の子はそう言ってきた。

「そんなに泣くほど悔しいならやり返してみろよ! それともあれだけやられてるのに悔しくないのか!?」

「うっ……ボクだって……うぅ、くやしいよ……でも……ボクじゃ、あいつらに勝てるわけないよ……」


 僕は相変わらずな弱音を吐く。

 すると男の子は、こう言った。

「じゃあ、オレと一緒にあいつらを倒そうぜ」

「え……?」

 その言葉に僕は唖然とする。

「あいつら、いつも悪いことばっかりしてみんなに迷惑かけてるだろ。だからオレが退治してやろうと思ってたんだよ」

 テレビの中のヒーローの様に生き生きとした表情。

 それが当時の僕にはとても頼もしく見えた。

「でも、あいつらって人数多いだろ? だからオレも仲間を探してたんだ。お前もオレの仲間にならないか?」

 そうして差し出された手。

「うん……!」

 僕はその手を涙を拭って掴んだ。

「よしっ! じゃあ決まりだ。オレ、風間友也っていうんだ」

「ボクは、亮……神谷亮」

「そうか亮っていうのか。これでオレ達は友達だ。よろしくな、亮!」

 これが僕と友也の初めての出会い。

 その姿は、まさしく僕を孤独から救ってくれたヒーローそのものだった。


「じゃあ明日の朝8時に学校近くの空き地に集合な」

「うん、わかった」

 そうして友也は走り去っていく。

 一度こっちに振り返り、

「明日! 絶対に来いよな!」

 と言って大きく手を振ってきた。

「うんっ! また明日ね!」

 僕も手を大きく振りながら答える。

 それを見た友也は嬉しそうに笑い、また走り去って行った。


 そして次の日の朝、僕と友也は約束通り、空き地に集まっていた。

「ねぇ、本当にボク達だけで勝てるの?」

「オレに任せろ。作戦がある」

「作戦?」

「そうだ。あれを見ろ」

 友也の指差した先には、スコップ二本とダンボールが数枚置かれていた。

「学校から持ってきたんだ」

「でも、これでどうするのさ?」

「落とし穴を掘る。んで、あいつらが落とし穴に落ちたところを一気に叩きのめす。どうだ、いい考えだろ?」

「これ、本当にうまくいくの……?」

 自信満々に提案する友也をよそに僕はまたお決まりの弱音を吐く。

「何言ってんだよ亮。そんなのやって見なきゃ分からないだろ。最初からあきらめてどうすんだよ。大丈夫、オレ達なら出来るさ」

 立てかれられたスコップを手に取り、友也は作業を開始する。

「早くやるぞ。あいつらがいつ来るかわからないんだからな」

「うん」

 そうして僕達は空き地にひたすら落とし穴を掘っていった────


「よし、これで準備は万全だ」

 僕達が落とし穴を作り終えた頃には、すでに数時間が経過していた。

「あとはあいつらが来るのを待つだけだ。あいつらがいつもこの空き地で遊んでるのは調査済みだからな」

 僕達は空き地の一番奥で竜二達が来るのを待った。

 そしてついにその時が来た。

「来たぞ。準備はいいな」

「う、うん……」

「大丈夫だ。オレ達ならやれる。勇気を出せ、亮」

 不安を隠しきれていない僕に向かって友也が励ましの言葉をかけてくれる。

 この時から友也が隣にいるだけで僕はとても心強かった。


 僕達に気付いた竜二達が空き地の入り口で立ち止まる。

 人数は竜二を含め五人。

「おいっ! ここはオレ達の専用の空き地だ。とっとと出ていけ!」

「そうだ、そうだ!!」

 空き地に来るや否や、僕達に向けてそう言ってきた。

 人数に圧倒され僕はまた怯えてしまう。

 しかし友也は僕を庇うように一歩前に出て、

「そんなこと、オレ達の知ったことじゃない! オレ達を追い出したいなら腕ずくでやってみろ!」

 怯える事無く言い返す。


「ハハハッ、あいつバカだぜ! 弱虫の神谷なんかと二人でオレ達に勝てると思ってるのかよ!」

「お前たち何て、俺達二人で十分だよ」

 友也は一向に怯む様子がない。

「こっちに来いよ。どっちが本当に強いか教えてやるからさ」

 それどころか挑発さえしている。

 それを聞いた、竜二が先頭に出てきた。

「おもしれぇ、ケンカならいくらでも買ってやるぜ。泣いたって手加減しねぇからな! 行くぞ!!」

 竜二の言葉を皮切りに五人は僕達に向かって一斉に走り出した。


 そして……

「うわぁ!」

「くそ、何だこれ!?」

 一斉に僕達が掘った落とし穴にハマっていった。

「今だ! いくぞ亮!!」

 それと同時に走り出した僕達も竜二達が穴に落ちているスキに上から蹴りや土で攻撃を加えていく。

「ぐわぁ……卑怯だぞ! 落とし穴掘るなんて!」

「大勢でケンカするお前らに言われたくねぇよっ!!」

 僕達は休まずに攻撃を続けた。


 そして、場が静まり返り、僕達が勝利を確信した瞬間、

「うおおおおぉぉっ!!」

 竜二が落とし穴からよじり登ってきた。

「げっ!? アイツまだ平気なのかよ……」

 さすがの友也も予想外だったようで驚いている。

「こんなんでやられるオレ様じゃねぇっ!!」

「仕方ないな……痛いのはあんまり好きじゃないんだけどな……」

 嫌そうに友也が怒りに満ち溢れている竜二と対峙した。

 落とし穴以外で僕達に残された策はもうない。

 となれば、残された喧嘩の道は1つだけ。

 だからこそ、友也は嫌そうな態度をしたのだろう。

 あの竜二と殴り合わなければならないのだから……


「うおおぉっ!」

「オラァァッ!」

 どちらからというわけでもなく、二人の殴り合いが始まった。

「オラァッ!」

「ッ……!!」

 力負けした友也が竜二に殴り飛ばされる。

「友也ッ!」

 ダメージを負っているとはいえ正面からの殴り合いでは竜二に歩があった。

「いてて……」

「へっ、覚悟しやがれ!!」

「うわああぁぁぁっ!!」

「うお、何だっ!!」

 友達のピンチに僕は勇気を振り絞り、竜二の腰にしがみついた。

「このっ、離しやがれ!」

 僕は引き剥がされまいとがむしゃらに竜二にしがみつく。

「いいぞ亮ッ。このヤロウお返しだ!!」

 友也は竜二の顔面にめがけてパンチを繰り出した。

「ぐわっ!」

 竜二は仰け反り倒れそうになるが、

「くそがぁぁぁっ!」

 足を思い切り踏ん張り、倒れることを拒否した。


「どんだけしぶといんだ、こいつは……」

 友也も竜二のタフさにうんざりしているようだった。

「いいかげんに離れやがれ、オラァッ!!」

 引きはがした僕を友也に向かって投げつける。

「「うわぁっ!」」

 投げ飛ばされた僕と友也がぶつかってしまい、二人揃って地面を転がった。

「くそ~、大丈夫か亮?」

「う、うん」

 竜二は仁王立ちしたまま、こちらを睨み付けている。


「いいか亮、次でアイツを絶対に倒すぞ。耳貸せ……」

 友也が僕に最後の作戦を耳打ちで伝える。

「えっ! でも……」

「大丈夫だって、オレを信じろって」

「……わかった」

 友也の言葉にはいつも尻ごむ僕を勇気づけてくれる何かがあった。

「よし、いくぞ」

 そして、僕達は立ち上がり、


「「うおおおおおおぉぉぉっ!!」」


 竜二に向かって一直線に走り出した。

 先頭には僕、その後ろに友也がピッタリとついている。

「面白れぇ! これで終わりだぜっ!!」

 竜二が僕に向かって全力のパンチを放つ。

「今だっ!」

 それと同時に友也が僕の体を思い切り前に突き飛ばした。

 僕は友也の指示通り、竜二の顔面に向かって拳を突き出す。

「何ぃっ? ……ぐわぁっ!!」

 体ごと突っ込み、全体重の乗った僕のパンチを逆にカウンターでモロに受けた竜二は、ついに後ろに倒れこんだ。


「……やった……やったよ友也!!」

 その姿を見た僕は歓喜に震える声を出す。

「ああ、オレ達の勝ちだっ!」

 僕達も、その場に力尽きて倒れ込んだ。

「本当に、ボク達が勝ったんだ……」

「だから言っただろ。お前だってやれば出来るんだぜ!」

「うん!」

 僕達はお互いに勝利を喜びあう。

 この日に仰ぎ見た空は、いつもいじめられていた時に見た空とは違って、輝いているようにも見えた────


 そして次の日。

 いつもと変わらず一人で教室にいた僕が誰かに呼び出された。

 教室を出るとそこには、

「よぉ」

 何と竜二が立っていた。

 昨日の仕返しに来たのかと僕は不安になり身構える。

 しかし警戒している僕に対して予想もしていなかったことを竜二は言った。

「昨日は負けたぜ。お前にあそこまで根性があると思わなかった」

「え?」

「その……今までいじめたりして、本当に悪かったな」

 僕は自分の耳を疑った。

 あの竜二がこの僕に対して謝罪をしてきたのだ。

 照れを隠すように鼻を掻く、そんな竜二を見ていると、いつの間にか僕の竜二に対する恐怖は消えていた。

「でよ……あー、よかったらでいいんだけどな……今度一緒に遊ばねぇか?」

「うん。ボクも普通に遊んでみたいって思ってたんだ……!」

 そう返事をすると竜二はしだい笑顔になり、

「そうか、そうか! オレ様のことは竜二でいいぜ! よろしくな……えーっと……」

「亮、神谷亮だよ」

 竜二に対して初めての自己紹介をする。

「よろしくな亮ッ!」

「こちらこそ、よろしくね竜二」

 そして僕達は握手を交わした。


「おーい、亮!」

 廊下の向こう側から友也が走ってくる。

「あっ、お前、昨日の!!」

 友也が竜二に気付いた。

「何だ、オレ達に仕返しに来たのか?」

「違うよ友也。竜二は……」

 僕は誤解を解くように友也に事情を説明する。


「へー、こいつがねぇ」

「何だよ、文句あんのか?」

「いや、ない。そうだ! 今日はこいつがオレ達の仲間に加わった記念に三人で遊ぼうぜ」

「いいね」

「何だこいつ、勝手に決めやがって」

「何だ嫌なのか?」

「別に嫌じゃねぇけど……」

「じゃあ決まりだ。オレ達は今日の放課後に遊ぶ。約束だせ!!」

「うん!」

「まあ、いいか」


 こうして僕達三人はこの日を境に毎日の様に遊ぶようになった。

 これは忘れようとしても忘れることのできない僕の大切な思い出。

 自分の殻に閉じこもり、立ち止まっていた僕を友也が変えてくれた瞬間だった──────

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