表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/30

突きつけられた現実

「……嘘……でしょ……」

 竜二が、

「ねぇ……竜二……」

 自分を助けるために、

「返事をしてよ……」

 死んだ。

 その結果だけが亮の心に重くのしかかった。


「うっ……あっ……ああ……竜二……」

 取り返しのつかない現実に、嗚咽の声が漏れる。

「う……うう……うああぁぁぁ……竜二イイイィィィッ!」

 竜二が死んだ。

 その変えることのできない事実が心を蝕んでいく。

 抑えきれぬ後悔と悲しみが涙となって溢れだす。


「う……あっ……あっ……竜二……竜二……」

 亮の涙はいくら流れても止まることはなかった。

 たった数分が今の亮には何時間にも感じられる。

 その時、悲しみに泣き崩れる亮の背後から、一つの足音が近づいてきていた。

 その足音はだんだんと亮に向かって近づいていき……

 泣き崩れる亮を背後から見下ろすように、ピタリと止まった。


「立て、亮」

 足音の主は、端的に命令する。

 恐る恐る、亮が背後を振り返ると、そこには悠然と友也が立っていた。

「友也……今まで、どこに行ってたの……?」

 今にも消え入りそうな亮の声。

 亮は覚えていた。

 レストラン内での爆発の直後から友也の姿が無かったことを。

「それを話すには、場所を移す必要がある」

 友也の口調は氷のように冷たく淡々としていた。


「そうだ……竜二……竜二を助けなきゃっ! ねぇ、友也、手伝ってよ……竜二が、竜二がっ!!」

 亮の必死な訴えにも友也は顔色一つ変えはしなかった。

「無駄だ。竜二はもう助からない。いや、どのみちこうなる『運命』だったんだ」

「どういうこと……?」

 亮には友也の言っている意味が理解出来なかった。

「話は後だ。時間がない」

「でも……」

「急げ。竜二の死を無駄にしたくないのならな」

 その言葉を聞いて亮は少しだけ落ち着きを取り戻した。

 竜二は僕のために……と、そう思った時、亮は黙って頷いていた。

「よし、行くぞ」

 目元に溢れる涙を拭って亮は友也の後をついていく。


 二人は非常階段を使って階下に降り、さらに先へと進んで行った。

 他の階の通路も爆発の影響で壁やガラス、置物などが壊れて散乱していた。

 相変わらず電灯は消えており、外に面していない通路は暗闇に染まっている。

 しかしは、友也そんな暗闇の中でも、複雑なタワー内の道を一度も止まることなく一直線にどこかへと向かって進んでいった。

 どこに向かっているのか亮には、まるで見当もつかない。

 けれど亮は黙って友也の後についていくしかなかった。

 竜二の犠牲を無駄にはしたくなと思っていたから……


 通路を道なりに進んで行くと、大きな扉の前にたどり着く。

 その扉を友也はまるで自分の部屋の扉の様に開き、中へと入っていった。

 亮も続いて中に入っていくと、そこは一つの広い空間だった。

 暗くてはっきりとはその形を視認出来ないが、この空間には様々な物が置いてある。

 一言で表すならば倉庫のような部屋と表現した方がしっくりくるかもしれない。


 入口付近で亮が辺りをキョロキョロと見回していると、友也はさらに大部屋の中心に向かって歩みを進める。

 そして友也が立ち止まった先には大きな物体の様なものが見えた。

 暗闇に慣れてきた目を凝らし、亮がそれを確認すると、そこには1.5メートル四方ほどの大きな、そして黒い箱のようなものが置いてあった。

 そう、それは先ほどまで展望室で亮達が処理しようとしていたあの黒い箱をそのまま大きくしたようなものだった。


「これって、まさか……?」

 それを見て亮は言葉を失う。

 亮の気持ちを代弁するように顔がどんどん青ざめていった。

「ああ、爆弾だ」

 茫然とする亮をよそに友也は淡々と言葉を紡いでいく。

「そしてこいつは他の爆弾の起爆スイッチでもある」

「じゃあ……!?」

「そう、こいつが起爆すると他の場所に設置してある数十個の爆弾も同時に起爆する仕組みになっているみたいだ」

「そんなっ!! じゃあこれが爆発したら、ここは? このスカイタワーはどうなっちゃうんだよ!?」

 まるで映画の中の出来事のような、残酷な現実を突き付けられた亮は感情的に声を荒げたながら友也に詰め寄った。

「このスカイタワーは跡形もなく崩れるだろうな……いや、厳密に言えば崩れた」

「崩れた……?」

「そうだ」

「崩れたって、まだスカイタワーはあるじゃないか。僕達が今、ここにいる……!」

「このスカイタワーは崩れる『運命』にある。ということだ」


『運命』

 それは先ほども友也の口から出てきた言葉。

「意味がわからないよ……竜二が死ぬ運命にあったとかこのスカイタワーが崩れる 運命にあるとか! 運命って一体何なのさっ!?」

 何一つ理解できない状況に亮は苛立ちを覚える。

「お前は気付いているかもしれないが……俺達はもう何度もここに来ているんだ。 そして、このテロに巻き込まれて死んでいる」

「え……」

 自分だけが持っていたと思っていた感覚を友也も共有していたことに亮は驚きの声を漏らした。


「そして、その度に俺達は先週から今日までの一週間を何度も繰り返しているんだ」

「そんな、馬鹿なことがあるわけ……」

 そう言い掛けて止まる。

 よく思い返してみれば、亮にはこの一週間で奇妙な出来事がいくつかあった。

 次に起こることがなんとなく予想できる、初めて経験するはずの事をもう何度も経験したように思う。

 そして亮の頭の中に突如映し出させる映像。

 もしそれが一度自らが体験したことを無意識のうちに頭が覚えていたのだとしたら辻褄が合う。

 それが亮が今までの奇妙な体験の答えとして出した結論だった。


 だが、そうなると亮の頭の中には一つの疑問が浮かび上がってくる。

「何で……何でこの一週間が何回も繰り返されてるの?」

 そう、この一週間が……なぜこんな苦しみが何度も繰り返されているのか、である。

「それは、俺にも分からない」

「なら、友也は最初から知っていたの? この一週間のことを……」

「いいや、確かに俺はこの一週間が繰り返されていると知っているが、それを思い出すのは、いつもテロが起きた後だった。日常に小さな違和感を感じることもあったが、その原因なんて皆目検討もつかなかったさ」

 更に友也は続ける。

「それでも俺は、この一週間をどうにかして終わらせようと限られた時間の中で何度も試行錯誤した。だが結局は全部失敗だ。最終的にはこいつが爆発して、ここにいる全員が……死ぬ」

 恨めし気な目で黒箱を見て話す友也の表情にだんだんと悔しさが顔に滲み出ていた。

「結局俺は……自分の運命を覆せなかったんだ!」

 怒りをぶつける様に友也は黒箱の壁面に拳を思い切りたたきつけた。

 そして一呼吸間を置き、再び亮に向き直った。

「けどな亮。お前だけは違った」

「僕……?」

「今までのお前を見ていて分かった。お前は少しずつだが自分の運命を変えている」

「僕が運命を変えている……?」

「そうだ。お前ならきっとこれから降り掛かる死の運命からも逃れられるはずだ。だから俺は、お前だけを助けることに決めた。竜二や他のやつらには悪いが、この中で生き残れる可能性があるのはお前だけだ」

 まるで夢でも見ているかのような現実離れした話に亮は困惑を隠せない。

「これで話しは終わりだ。行け、さっきの非常階段を降りていけば、このタワーの外までたどり着けるはずだ」

「ちょっと待ってよ……話はまだ」

「グズグズするな。時間はもう迫ってきているんだ」

 お前と話すことはもうないとばかりに友也は亮を突き放すように言った。

 その時……




「そいつは困るんだよなぁ」




 忽然と聞こえた、三人目の言葉。

 すぐさま二人は警戒するように声のする方を向いた。

 暗闇から姿を現したのは一人の男。

 そして、その風貌を見て亮達は驚愕した。


「何で、ここに……?」

「うん? おやおやこいつはとんだ偶然だ。どこかで見たことがあると思ったらこの前にあった少年達じゃないか。どうかね、最後の晩餐は楽しめたかい?」

 肩よりも伸びた長い髪、蓄えてられた口髭。

 それは駅前の福引所で亮達に話しかけてきた男だった。


「このテロは、お前の仕業か?」

 状況についていけない亮に代わり、友也が男を問いただす。

「そうだとも」

 男はあっさりとそれを認めた。

 よく聞けば先ほどスピーカーから聞こえてきた声も、この男の声と瓜二つだった。

「だから困るんだよ。君達にここから逃げられてはね。君達もこの腐った世界を作り替える為の礎となってもらわなければならない」

 言って男は自らの懐から何かを取り出す。

 それは、この暗闇の中でも一際黒光りしている物体。

 二人にはそれが拳銃だとすぐに理解できた。

 男の銃口はすでに亮を捕らえていたが、男の並々ならぬ威圧感に足がすくみ、蛇ににらまれた蛙同様、亮はその場を動けないでいた。

「亮ッ!!」

 友也が亮の名を叫ぶと同時に、室内に一発の発砲音が響き渡る。


 が、先ほどまでの場所に亮の姿はなく、直前の友也の捨て身の体当たりによって、横に弾き飛ばされていた。

 弾き飛ばされた亮は、そのまま数メートルにわたって床を転がっていく。

 亮が再び体制を立て直したときに目に映ったものは先ほどまで自分が立っていた場所で倒れている友也の姿だった。

「友也ッ!!」

 今すぐにでも友也のもとに駆けつけたい衝動に駆られるが、恐怖にすくむ足はいまだに亮を縛り付けていた。

 友也に銃弾が命中したと考えたのか、男は友也に向けていた視線を再び亮に向ける。

 ゆっくりと男が亮にむかって歩き出す。

 今度は絶対に外すまいと、しっかりと銃口を亮に定めて……


「はぁ……はぁ……」

 目前に迫る死に、亮の呼吸が荒ぶる。

 いくら動けと念じても、べったりと地面に張り付いた足は命令を聞かない。

 そして男が再び引き金に手を掛けた。


「うおおおおおぉぉぉぉっ!!」

「何っ? ぐわぁっ!!」

 発砲される直前、男のスキをついた友也の飛び蹴りが炸裂した。

 先ほど放たれた銃弾は命中しておらず、友也の頬をかすめていただけだった。

 男が吹き飛んだ拍子に落とした拳銃が、亮の目前に転がってくる。

 自らの身体を奮起させ、亮は精一杯の勇気で傍に落ちた拳銃を拾い、そして男に向けた。


「ハァ……ハァ……」

 ゆっくりと乱れた呼吸を整える。

 これですべてが終わったと、そう亮は思った。

 しかし、男は降参するそぶりを全く見せない。

 むしろ逆、男の顔には余裕に溢れていた。


「どうした、撃たないのかね? その引き金を引けば弾は出る。さぁ撃ちたまえ」

 亮に発砲を促す男。

 しかし亮には引き金を引くことが出来なかった。

 その手に感じる、ずっしりとした重量感は今まで手にしてきた玩具の銃なんかとは比べ物にならない。

 亮が今、手に持っている拳銃は正真正銘の本物。

 引き金を引くだけで誰しもが容易く命を奪うことが出来る代物である。

 当然、亮はそのことをよく理解している。

 だからこそ引き金を引くことをためらっていた。


「狙うなら心臓か頭だよ少年。素人の君は頭の方がいいかな? さぁ、よ~く狙いを定めるんだ」

 大げさな手振りで、男は亮に狙うべき標準を指し示す。

「もっと近い方が狙いやすいかな?」

 そう言って、真っ直ぐに亮に向かってゆっくりと近づいていった。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 亮の呼吸が再び激しく乱れていく。

 銃を持った手は震え、もはや標準も定まらないでいた。

 男は見抜いていたのだ。

 亮が引き金を引けないことを……

 幾多もの死線を潜り抜けてきた男の経験から見れば、今の亮の瞳に映るのは恐怖ばかり。

 最も重要な覚悟が、まるで欠如していた。


「撃てっ! 亮っ!!」

 発砲を促す友也の声が亮の耳に届いた時には、すでに手遅れだった。

 男の接近を許し過ぎたのだ。

「うわっ……!」

 すでに亮は男の制空圏に入っており、蹴り上げられた足は、亮の握る拳銃を的確に弾き飛ばしていた。

 すぐに友也が二人の間に突っ込み、今度は三人が四方に弾き飛ぶ。 

 男は即座に体制を立て直し、我先にと拳銃のもとへ走り寄った。

 ほぼ同時に友也も走り出していたが、友也は拳銃ではなく亮のもとに走り寄り、そのまま亮の腕を引っ張って来た道を引き返す。


「……どこに行くの……友也?」

「逃げるんだ。俺達じゃあの男には勝てない。今は生き延びることだけを考えろ」

 友也は亮を連れ、必死に走る。

 そして部屋の入口に来たところで、止まった。


「友也?」

「ここまでだ」

「え? それってどういう……」

「ここからは、お前一人で行くんだ」

 亮には、その言葉が信じられなかった。

 ここまで来て、なぜ一緒に逃げないのかとそう思った。

「友也は、友也はどうするの!?」

「俺はここに残る」

「嫌だよ……友也も一緒に逃げようよ」

「ダメだ」

「どうしてっ!?」

「俺といるとお前まで死ぬ危険性が増える。お前には生き続けてほしいんだ。わかってくれ……亮」

「そんなの分からないよっ! 友也だって言っていたじゃないか。諦めるなって……最初から諦めてどうするって……今回だってやってみなくちゃ分からないじゃないかっ!!」

 必死に自分を説得する亮の姿を見て、友也は何かを考える様に一度、目を閉じた。

 そして目を開けた友也は亮の肩にそっと手を置きながら、

「仕方のない奴だ」

 いつものように邪気のない笑みを浮かべながら言った。

「友也……じゃあっ!」

 友也の表情に亮は胸を撫で下ろす。


「え……?」

 だが、それはすぐに驚きへと形を変えた。

 友也が亮を部屋の外へと突き飛ばした。

「友也ッ!」

「亮、お前は、お前だけは生きるんだ!!」

 すぐさま友也の元へ駆け付けようとするが、上から崩れてきた瓦礫で道を塞がれてしまう。


「友也ァッ! 友也ァッッ!!」

 何度、名前を呼んでも返事はない。

 代わりに瓦礫の向こうから銃声が聞こえた。

 一発、二発、三発と……


「あ……ああ……また、僕は……」

 己の無力さに絶望する。

「結局僕は、友也や竜二がいないと……一人じゃ何も出来ない……弱い……弱い存在なんだ……昔から何一つ変われてなんかいない」

 絶望に打ち拉がれ、崩れ落ちるように膝をつく。

 亮には、もうこの場から逃げる気力など微塵も残っていなかった。

「ハハハ……笑っちゃうよね……」

 目から涙が流れる。

 それは悲しみ、憎しみ、悔しみ、と様々な感情が混ざり合った涙。

「もう嫌だよ……こんな思いをするぐらいなら…………死んだ方がましだ」

 その瞬間に亮の『運命』が決定づけられた。


「うわああああああぁぁぁぁっ……!!」

 無情に響く亮の叫び声。

 そんな最後の抵抗をあざ笑うかのように、巨大な轟音がスカイタワー内に幾度も鳴り響いた。

 そして大きなうねりを上げながら、スカイタワーが傾いていく。

 その後、すぐにスカイタワーは崩壊し、それに連なる様にこの世界もまたその輪郭を失っていった──────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ