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5月9日 (水) (2)・前

『続いてのニュースです。昨夜未明、日本行きの国際線が原因不明の爆発を起こし墜落したとの情報が入りました。詳しい事情は現在調査中とのことで…………』

 チンッとお決まりの音をたてて、トースターから程よく焼き上がったパンが飛び出す。

 BGM変わりに流していたニュースを横目に朝食の準備を進めた。

 相変わらず世の中では止めどなく事件が起きているようだ。

 あまりにも自分の日常からかけ離れていることなので、どうしても僕には他人事の様に感じてしまう。

 いや僕だけでなく、おそらく誰もがそう感じているだろう。

 そう思えるのは、きっと幸せなことなのだ。

 自分の周りは平和に時が流れているからこそ思うこと。


「父さんと母さんも変なことに巻き込まれてなければ…………ッ!?」

 突如、背筋に怖気が走った。

 襲い来る恐怖に体が震える始める。

 額からは冷や汗が流れ、歯がガチガチとぶつかり合う音が止まらない。

 ついには腰すらも抜けてしまい、僕はその場で膝をついてしまった。


 ……何だ……僕は、どうしてしまったんだ……?

 理由も分からない不安に頭と心が押しつぶされてしまいそうだった。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 もはや呼吸をするのもままならない。

 このままじゃ……

 不安を振り払うように頭を何度も振り、目の前にあるトーストにがむしゃらにかぶりついた。


 ふと目に入ってきたのは、テレビに移されたニュースの映像。

 爆破炎上した飛行機が墜落していくシーンだった。

 その映像に大きな嫌悪感を覚え、傍に合ったリモコンで、すぐにテレビの電源を切った。

 それでもこの感覚が収まることはなかった。

 どうしようもなくなり洗面所に走って頭から水をかぶり、必死に体から恐怖を追い払っていく。

「はぁ、はぁ……なんなんだよ、一体……」

 そして僕は、拭いきれない恐怖を抱いたまま、逃げるように家を飛び出した。


「おはようございます、亮君」

 家を出ると、玄関先にはすでに美咲さんが待っていた。

「……お、おはよう」

 座り込んでしまいたくなる衝動を必死に抑え、足に力を入れる。

「顔色があまりよくないみたいですけど、大丈夫ですか? どこか具合が悪いとか……」

「……大丈夫だよ。ちょっと……昨日の疲れが残ってるだけだから」

 余計な心配をかけまいと僕は適当に誤魔化した。

「でも……」

「大丈夫だから……行こうか」

 美咲さんの言葉を遮り登校を促す。

「わかりました……余り無理をしないでくださいね」

「うん。心配してくれてありがとう」

 そして僕達は一緒にマンションを出た────


 先ほどの衝動は時間と共に消えていき、僕はいつの間にか平常運転に戻っていた。

「そう言えば昨日はどうだった?」

「はい、とても楽しかったですよ!」

 昨日は美咲さんにこの街を案内しようということになり、放課後に四人で駅前まで行くことになった。

 青篠駅周辺にある主な施設は勿論の事、青篠スカイタワーも外観だけだが見て回った。

 最後に寄ったファミレスでは、奢りを賭けてババ抜きをしようと友也が提案し、 なぜかファミレスでババ抜きをですることに……

 最終的に僕と友也の一騎討ちになったが、最後までポーカーフェイスを崩さなかった僕に幸運にも軍配が上がった。


「またみんなで遊びに行きたいですね」

「それなら、そのうちまたあるよ。友也は暇になったら、すぐに皆で遊びに行こうとするからね」

 他愛もない会話をしながら歩いていく。

 そして、いつもの公園の前で友也達と合流し僕達は四人で学校に向かった。


「なあ亮、今日の昼休みは、教室でトランプをやらないか?」

「いいけど、いきなり何で?」

「こいつ、昨日のあれが悔しかったんだとよ」

 昨日のあれと言えば当然ババ抜きのことだろう。

「トランプなんて時の運だと思うけど……」

「いいや、トランプとは運も絡んでくるが、勝負の采配、相手の観察力、そして精神力の強さがものをいうんだ。それに……」

「それに?」

「負けたままってのも何か悔しいだろうがっ!」

「やっぱり、それが理由なんだ……」

 友也は妙なところでも負けず嫌いだった。

 まあ、身もふたもない言い方をすれば子供っぽいということなんだが……


「約束だからな、絶対だぞ!」

「わかったって」

 結局友也は学校に着くまで、ずっと昨日の悔しさを一人、吐露していた────


 朝のホームルームが終わればやることは一つ。

 時間割通りに組まれた授業が待っている。

 今日のメインの授業は体育だ。

「さーて、今日は何やるんだろうな?」

「相変わらず竜二は体育だけはやる気満々だよね」

「当たりめぇだ。机に座ってつまらない話聞いてるより、外で体動かした方が楽しいに決まってるぜ」

「まあ、お前は授業寝てるけどな」

 友也の的確なツッコミが冴える。

「こ、細けぇことはいいんだよ」

 体育着に着替えグラウンドに出るとすでに先生の前に生徒が集まっていた。


「よーし、みんな集まったか! 今日は担当の先生が一人欠席のため、急遽A組とB組の合同で行うことになった。そして今日の授業だがA組とB組に分かれ試合をしてもらうことにした」

 本来ならば、A組とB組に一人づつ担当の先生が付き、それぞれ授業を行うのだが、今日だけはイレギュラーなようだ。

 ちなみに僕達はB組である。

「種目だが男子は外で野球、女子は体育館でバレーボールだ。15分後に試合を初めるから各自準備運動をしっかり行うように」

 話が終わると同時に先生は女子達を引き連れて、体育館へと移動していく。

 グラウンドに残った僕達男子もクラスごとに集まり準備運動を始めた。

 その時……

「B組が相手じゃ勝負にならないんじゃないか」

 A組の方からそんな声が聞こえてきた。

「ああ、A組には野球部も多くいるし」

「帰宅部ばっかりのB組じゃ勝負は見えてるって」

「レベルが違うんだよな」

 次々に僕達を見下すような発言が飛び交う。


「ちっ、好き勝手言いやがって」

「落ち着け、竜二」

 今にもA組に乗り込んでいきそうな竜二の手綱を友也が握る。

「でもよ……」

「勝負はやってみなけりゃ分からないだろ」

「ハッハッハ……やってみなければ分からないか、いい言葉だね」

 友也の言葉を聞いたA組の橘君が僕らの元へと近づいてきた。


「なんだよ、何か用かよ?」

 相変わらず竜二は橘君を毛嫌いしているようだ。

「いやいや、勝負ってのは実力が拮抗してなきゃつまらないだろ? だから僕もぜ ひいい勝負が出来たらと思ってね」

「ああ、度肝抜かせてやるぜ」

 橘君の皮肉を意にも介さず友也は冷静に返す。

 いや、表面上は冷静を装っていたが、今の友也からは珍しく熱い闘争心が感じられた。

「ま、健闘を祈ってるよ」

 余裕綽々のセリフを放ちで橘君は去っていく。


「あの野郎、完全に見下してやがんな」

「ほっとけ、それより作戦会議を始めるぞ」

 B組の男子達が友也を中心に集まる。

「あんなに言われて黙ってられるかよ」

「A組の奴らをギャフンッと言わせてーな」

 他の皆もあれだけ言われて頭にきているのか異様にヤル気に満ちていた。

 かくいう僕もA組を見返してやりたいという気持ちには変わりない。

「さて、まずはポジションだが……」

 各々の能力や長所を考慮して、綿密に打順や守備位置を決めていく。


「よーし、集合!」

 体育館から戻ってきた先生の前に整列する。

「各クラス、オーダーは決まったか?」

「もちろんです」

「こっちも準備オッケーだ」

 チームのキャプテン役を担っている友也と橘君が答える。


「ルールは7回までであることは以外は普通のの野球と同じだ。皆全力で行う様に。では試合を始める」

 ジャンケンの結果、先攻はA組。

 僕達は各々の守備位置に就いた。

 運動神経が並である僕は外野の右側であるライト。

 友也は投手、そしてそれを受ける竜二は捕手だ。

「プレイボールッ!!」

 試合開始のコールがグラウンドに響く。

「おーし、しまっていこうぜっ!!」

 マウンドから友也がチームメイト達に激励の声をかける。

 その言葉を聞き、僕も気持ちを引き締めた。


 一番打者が打席に構える。

 A組は9人中5人が現役野球部だ。

 A組の自信の根拠もここから来ているのだろう。

 今の打者もその一人。

 果たしてそんなA組の攻撃を抑えられるのかと、きっとチームの皆は不安に思っていることだろう。

 けれども僕にそんな不安はなかった。


 友也の第一球。

 大きく振りかぶって放たれたボールは……

「バシッ!!」という力強い音と共に一直線にキャッチャーのミットに収まった。

「ストラーイクッ!!」

 その投球にその場にいた皆が息を飲んだ。

「速え……」

「アイツ本当に素人かよ!?」

「今の150キロ近く出てたんじゃないか?」

 A組側のベンチからも感嘆の声が上がる。


 何時の日か見たことのある友也の投球。

 これを知っていたからこそ、僕には皆のような不安も驚きもなかった。

「ストラーイクッ! バッターアウトッ!!」

 僕の期待通り、友也は相手にボールに触らせることなく三者連続三振に抑えていた。

 だが、だからと言って油断をするわけにはいかない。

 このままA組が何もせずに敗北する姿など僕には想像が出来なかった。

 それほどA組の実力とは未知数なのだ。


 苦戦は必死かと思われた試合も友也の好投のおかげで互角以上に渡り合うことが出来た。

 しかし相手の投手である橘君の多彩な変化球に翻弄され、僕達B組も点を取れないでいる。

 次第に友也の速球のスピードにも食いつかれていき、4回にはA組に2点を先制されてしまった。

 そして迎えた4回裏、僕達B組にも反撃のチャンスが巡ってきた。


 この回、先頭打者の竜二、そして続く友也が共に二塁打を打ち、まず1点を返す。

「お帰り竜二」

「次は亮の番だぜ、男を見せろよ」

「うん、やるだけやってみるよ」

 とは言ったものの、僕の力では竜二や友也のように球を打つのは難しいだろう。

 けど、今この流れを崩すような真似はしたくない。

 僕は僕の出来ることをするだけだ。


 打席に立つ前に、二塁にいる友也にあらかじめ決めておいたサインを送る。

 これは相手のすきを突いた奇襲である、セーフティーバントをする時のサイン。

 自分がアウトになるのを覚悟で今の走者、つまり友也を次の塁に進めることが目的だ。

 それを了承した友也も小さく頷いて答えてくれた。

「クソッ! 僕が点をとられるなんて」

 好都合なことに、橘君は竜二と友也の二人に打たれたことで、頭に血が上ってしまっているようだった。

 この機を逃す術はない。


 橘君が投球モーションに入ると同時に友也が塁を蹴って走り出す。

「盗塁だ!!」

 それに気付いた捕手が叫ぶがもう遅い。

 ボールは橘君の手から離れ、キャッチャーミット目がけて飛んでくる。

 さらに幸運なことに捕手の声に驚いた橘君のボールは、ややすっぽ抜け気味だった。


 この瞬間、僕の中に二つの選択肢が生まれた。

 当初の作戦通り、バントをするのか、それともこの幸運をモノにするためにバットを振るか……

 当然バントよりもヒットを打つ方が、僕も塁に出ることができ、友也もうまくいけば一気にホームまでたどり着ける。

 だが、失敗すれば僕は勿論、下手をすれば友也もアウトを取られ、向いてきた流れをむざむざ手放してしまうことになる。


 一瞬考えた末に僕のとった行動は……

「いっけえええぇぇぇっ!!」

 バントにシフトしようとしていた手を元の位置に戻し、思い切りバットを振った。

 うまくバッドにあたったボールは、ホームランとはいかずとも、外野の頭を超す程度には飛んでいく。

 僕のサインとは違う行動に最初は友也も驚いた顔をしていたが、三塁を蹴って  ホームに向かう途中で、一塁にいる僕に向かって親指を立ててくれた。

 僕も笑顔でブイサインを返し、友也は無事にホームにたどり着く。


「よっしゃー、これで同点だ!!」

「このままいけば勝てるぞ!」

 試合は同点の振出しに戻る。

 流れを切らさずに、どうにか危機を乗り切ることが出来たことに僕も安堵した。

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