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5月8日 (火) (2)

 快晴の空の下、僕は竜二、友也、美咲さんの四人で登校をしていた。

 昨日とは違い、寝坊することなく起きることが出来た今朝。

「まさか亮と白河が一緒に来るとは予想外だったぜ」

 流石に二日続けて竜二達を待たせるのもなんだったので、今日は少しだけ早めに家を出ることにしたのだが、そこで偶然美咲さんと出くわしそのまま一緒に登校することになったのだ。

「面白いことに白河は亮と家が隣同しだったんだろ? ならそんなに不思議なことじゃないさ。それより俺としては今後の亮の動向が気になるな」

「ドウコウ? そりゃどういう意味だよ」

「みなまで言わせるな竜二。なぁ、亮?」

 口元をだらしなく緩ませ、いやらしい笑みを浮かべながら友也が僕に同意を求める。

 竜二と白河さんは何のことやらと頭に『?』を浮かべていた。


「べ、別に家が偶然隣だったからって何もないよ……」

「はは、まあこの先は当人同士に任せるとして、これからは白河も俺達と一緒に登校することになるのか?」

「美咲さんが良ければ、僕はそれでもかまわないと思ってるけど」

 本人の確認をとるため、僕は一度美咲さんの方に視線を向けた。

「こちらこそ、ご迷惑でなければ是非お願いします」

「亮達がそれでいいなら俺様も文句はねぇぜ」

「ありがとうございます」

 友也と竜二も何の問題もなく美咲さんえを受け入れてくれる様子を見て僕は一安心した。

 きっと僕は心のどこかでこうなることを望んでいたのだろう。

 僕達のグループにこうして誰かが加わるのは初めての事だった。


 学校ではいつも通り退屈な授業が待っていた。

 途中、寝ぼけた竜二が手を上げて珍解答をするというハプニングがあったものの、僕の日常は滞りなく進んでいった────




 そして昼休み。

 僕達の屋上で昼食を食べることにした。

 いつもなら購買でパンを買うところだが、今日の僕には手作りのお弁当があった。

 というのも美咲さんが、僕の分も作ってくれていたのだ。

 作り過ぎてしまった分のおすそ分けということだが、僕はありがたく頂戴した。


 美咲さんから手渡されたお弁当には、白米を始め、卵焼きや唐揚げなど定番のものがバランスよく入っていた。

 早速、箸で一つまみし、から揚げを口に運んでいく。

 相変わらず味の方は文句無しだ。

 こんなに美味しいものをタダで食べられる自分は幸せ者だろうと、つい思ってしまう。


「どうですか?」

 横から美咲さんが感想を聞いてくる。

 その真剣な眼差しは、美咲さんの料理に対する情熱からだろうか。

「うん、すごく美味しいよ」

 我ながらボキャブラリーのない感想だが、ここは素直に思ったことを口にした。

「それはよかったです」

 僕の言葉を素直に受け取り、美咲さんは嬉しそうに目を細める。


「あ、亮君、顔にご飯粒がついてますよ」

 そう指摘され、自分で取ろうとしたのもつかの間。

 美咲さんは僕の顔についていたご飯つぶを自分の指で取りそのまま口に運んでいった。

「あ、ありがとう……」

「どういたしまして」

 自分の顔が熱を帯びていくのを感じる。

 時々起こる予想外の大胆な行動。

 親切心でやってくれているのは嬉しいが、これではなんというかあれだ……

 僕の方も反応に困ってしまう。

 今も僕の視線は恥ずかしさのあまり、絶賛泳ぎ中。


 視線を泳がせていた、先では竜二と友也が何やらニヤニヤしながら何か良からぬ事を話しているのが見えた。

「あら、奥さん見まして、あの仲のとてもよろしい事」

「ええ、若いっていいですわねぇ」

「まったく人前でイチャイチャイチャイチャしやが……おしになって、流石モテる男は違いますわねー」

「全部聞こえてるからねっ!」

 色めき立つ僕をからかうのが楽しいのか、二人はいつにもましてテンションが上がっていた。


「まったく亮も隅に置けないな。このこのっ!!」

 言いながら、ご機嫌そうに友也が僕の脇を肘でこずいてくる。

「だ、だから、そういうのじゃないって……」

「何だか白河に亮を取られた気分だ。泣きたくなってきた……」

 友也の相手をしている横で、また誤解を招くようなことを竜二が呟いていた。

「っていうか竜二は何で美咲さんに嫉妬してんのっ! 普通逆でしょ!!」

「気持ちは分かるが泣くな竜二」

「友也もそこはわからないで……」

 もはや、収集の付かない二人のコントに僕は頭を抱える。


「俺達の亮が人生の大いなる一歩を踏み出したんだ。笑って見送ってやろうぜ!」

 『ガシッ!』と友也と竜二が力強く肩を組む。

「ああ、そうだな……グスッ、幸せにな亮……」

「……う、うん。ありがとう」

 なぜ僕はお礼を言っているのだろうか……

 いや、もはや理由なんてない、考えるだけ疲れるのでもう受け入れてしまおうと、僕は自分の仕事を放棄した。

「グスッ……素敵です。男同士の友情。私も憧れちゃいます」

「おお白河! お前にもわかるか」

「はいっ!!」

 なぜか美咲さんも楽しそうに二人に混じっている。

 一人だけ蚊帳の外に置いて行かれた気分で、しばらくの間、僕は三人の様子を黙って見守っていた。


「そういえばさ、今年の夏休みはどこか行くの?」

 元に戻った友也に僕は別の話題を振る。

「今年か、そうだな……海とかどうだ? 去年は何だかんだで行ってなかっただろ」

「確かに去年は祭りと花火の記憶しかねぇな」

 派手好きな友也や竜二の性格もあってか、去年は至る所で開かれていた夏祭りに 三人でひたすら行っていた。

 今思えば何やっていたんだと思うが、それはそれで良い思い出だ。


「あ、それいいね。美咲さんも一緒に行く?」

「はい! もちろんご一緒させていただきます」

「じゃあ決まりだ。今年の夏は四人で海に行くぞぉ!」

 こうしてまた夏の予定が一つ埋まった。

 皆で作る思い出の一つ一つが、かけがえのないものになっていく。

 いつまでも皆と一緒にいたいと改めて思った今日だった────




 放課後は引っ越してきたばっかりの美咲さんにこの街を案内することになった。

 この町の中心にある青篠駅前を拠点に街のシンボルである青篠スカイタワー、駅前のショッピングモールなど、様々な場所を案内していく。

 時間はあっという間に過ぎていき、空に浮かぶ月を背に僕達は帰り道を歩いていた。

「じゃあ、俺達はここで」

「また明日な」

「うん、またね」

「今日はありがとうございました。おやすみなさい」

 途中で友也と竜二と別れ僕達は再び同じマンションを目指して歩き出す。


「私思ったんですけど、亮君達は昔から仲がよかったんですか?」

 二人と別れた道すがら、美咲さんが尋ねてきた。

「うん? まぁ、そうだね。でも最初は大変だったんだよ」

「何が大変だったんですか?」

 不思議そうに首を傾げる。

「えーと、僕と友也で竜二と喧嘩したりとか」

「え! 亮君達も喧嘩とかしたことあるんですか!?」

「まぁね、でもそのおかげで二人と仲良くなれたんだ」

 それは僕の人生の起点となった出来事であり、変わることが出来た瞬間だ。

 あの時の出来事があったからこそ、今僕はこうして笑っていられるのだと思う。


「そうなんですか。聞いてみたいですね、その時の話」

「そう? でもちょっと長くなっちゃうから、また機会があったら話してあげるよ」

 それにこの話をするのは少し照れくさいと心の中で付け加える。

「はい、楽しみにしてますね」

 いつものように優しい微笑みを浮かべている美咲さんだったが……

「本当に亮君は、二人のことが大好きなんですね」

その笑顔には……

「そうだね大好きだよ。あ! 変な意味じゃないからね!!」

 どこか無理をしているように感じられた。


「じゃあ、やっぱり亮君は……」

 少しばかり声のトーンが落ちる。

「……何?」

「二人と離れ離れになってしまったら寂しいですよね?」

「離れ離れ?」

 質問の意図がわからず今度は僕が首を傾げる。

「すみません……急に変なことを聞いて……」

「いいよ。でも今まで一緒にいることが多かったからそんなこと考えたことなかったな……うーん、思うんだけど、これからは皆、就職とかして、それぞれの道を歩んで行くことになるよね」

「そうですね」

「そうしたら、今までのようにいつも一緒にはいられない。それは少し寂しいけれど、ずっと会えないわけじゃないんだ。寂しくなるときはあるかもしれないけど、そう思えばそれも乗り越えられるよ。きっとね」

 美咲さんは僕の言うことを、やけに神妙な面持ちで聞いていた。


「あはは、自分でも何言ってるのかよくわからなくなってきちゃった。やっぱり本心はでは皆で、ずっと一緒にいたいかな」

 最終的に行き着く結論はそこ。

 出来ることならこのまま時間が止まってしまえばいい、なんて無茶なことを思ってしまう。


「そうです……よね」

 この話を始めてから美咲さんはどことなく元気がなくなっていた。

「もちろん美咲さんもね」

「え?」

 僕の一言に素っ頓狂な声を上げる。

「僕の言ってる皆の中には竜二と友也、あと美咲さんもいるってこと」

 言った後で自分でも少しクサいセリフだったかなと思った。

「……はい、ありがとうございます!」

 声にいつもの活気を取り戻した美咲さんを見て僕は胸を撫で下ろした。


「あの……」

「うん、どうしたの?」

「明日からも、皆さんと一緒に登校させていただいてもいいですか?」

 恥ずかしそうに手を摺合せながら美咲さんが言う。

 その言葉を聞いたとたんに僕は嬉しくなった。

「うん、もちろんだよ! じゃあ明日も今日と同じ時間でいいかな?」

「はい! ありがとうございます!」

 僕の返答に美咲さんの表情は向日葵の様にパアッと明るくなった。

 僕達といて、楽しいと思ってくれるのなら喜ばしい限りだ。

 きっと、明日からはもっと楽しい日々が始まると確信した一日だった──────

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