終わりの始まり
────いったい……何が起きたんだ……?
突然の出来事に僕の頭は混乱していた。
何がどうなっているのか、どうしてこうなったのか……頭の中を駆け巡る疑問に思考が追い付かない。
今覚えているのは、突然誰かに体に突き飛ばされ、さっきまで座っていた席から、吹き飛ばされたことだけ。
体感的には数メートルといったところだ。
少しひんやりとする床に手を付き、倒れた体を起こす。
状況を確認するために視線を地面から周囲に向けた。
倒れた時に頭を打ったのか視界が少しボヤけて揺らいでいる。
「停電か……?」
先ほどまでの優雅な明かりは消え失せ、室内は暗闇に支配されていた。
打ったのは頭だけではないのか、意識がハッキリしてきたのと同時に全身に鈍い痛みを感じる。
徐々に自らの思考が追い付いてきたとき、最初に頭に浮かんだのは皆の事だった。
まだ暗闇に慣れていない目を凝らし、辺りを見回して知っている顔を探す。
そして、それは思いのほかすぐに見つかった。
しかし、その姿を見た僕は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
「竜二ッ!!」
名前を呼ぶと同時に僕の体は駆け出していた。
思いもよらぬ状況に再び思考が乱れてゆく。
駆けつけた先にいた竜二は、瓦礫に埋もれてながら倒れていたのだ。
身体の大半が瓦礫に埋もれており、無事だったのは頭と伸ばされた両腕だけ……
「竜二ッ!! 竜二ッ!! ねぇ返事をしてよっ! 竜二ッ!!」
そんな状態に最悪の事態を連想してしまった僕は、親友の名前を耳元で叫び続けた。
とにかく声が聴きたかった。
命だけは無事であってほしいと、そう願い、声をかけ続けたが返事が返ってくることはなかった。
「そうだ……!」
思い出したように竜二の呼吸を確認する。
差し出した手の先に感じた竜二の呼吸はひどく弱々しいものだった。
早く竜二を助けなければ……
そう思うものの、僕の中に生まれてきたのは焦りと恐怖だけ。
大切な友を失ってしまうかもしれないという恐怖をギュッとこらえ、思考を巡らせる。
そういえば友也は……友也はどこだ?
パニックに陥る寸前の脳裏に浮かんだのは、頼りになるもう一人の親友のことだった。
「友也ッ! どこにいるの友也ッ!! いるなら返事をしてッ!!」
自分一人では無理でも、友也ならどうにかしてくれるのではないか。
そんな淡い期待を胸に、名前を叫ぶ。
しかし無情にも返事が返ってくることはなかった。
「まさか……友也も…………?」
こんな状況の中で、唯一すがれるものがなくなってしまったと思った時、僕は自分の体が震え出していることに気づいた。
体の内から溢れだした不安と恐怖が徐々に心身を覆い尽くしていく。
「嘘だ……きっと何かの悪い夢に決まってる……」
わらにもすがる思いで辺りを見回す。
瞳に映るのは先ほどまでとは違い、見るも無残に荒れ果てた空間の中で怪我をして倒れている見知らぬ大人達、そして今の僕のように恐怖に身を震わせている者の姿だけだった。
今、頼れるものは自分以外にはなく、そしてそんな自分にはこんな状況を乗り越える知恵も力もないことを知っていた。
そんな絶望的な状況に立っていることすらままならず、その場に崩れ落ちるように座り込む。
悪い夢なら早く覚めてくれと、心の底から祈った。
こんなことが現実だとは信じたくなかった。
「こんなの嘘だよねぇ……嘘だよね? 誰か…………」
涙で視界が霞み、恐怖に声が震える。
「──誰か嘘だって言ってよッ!!」
瞬間、上から大きな爆発音が鳴り響いた。
それに気づいたのも束の間。
上から建材のようなものが僕達をめがけて降り注いでくるのが見えた。
だが、もはや僕にはこの場から動く気力などなく、そこに居た僕達は、そのまま鉄骨の下敷きになった──────