おばちゃまの勝手に相談室。〜カウンセラーとして〜
今日はウキウキ、おばちゃま先生の相談室。
朝から先生は鼻歌を歌っている。
私は大学の講義が休講になったので、朝から先生の自宅マンションへ。
「あら、 なずなさん。 今日も可愛らしいわよ」
……何故機嫌が良いか。
今日の相談者さん、先生のド、ストライク。
な方らしい。
知り合いの知り合いが、急遽先生カウンセリングを依頼してきた様で。
知り合いさん曰く、先生のタイプらしい。
真面目な紳士……。
年齢も申し分ない。
「先生、 浮かれ過ぎでは?」
私の声は聞こえない。
「なずなさん、 何時にいらっしゃるのかしら?」
先程からそればかり……。
「先生。 ですから、午後の……」
同じやり取りを繰り返す。
「そう。 まだ時間あるわねぇ。 着替えた方がいいかしら?」
さっきからそう言っては何度も着替えをする。
「先生……。 あくまでお仕事です。 着飾る必要はないかと」
「あら、なずなさん。 それは偏見よ? 相談にいらっしゃる方に対して、 変な格好はできなくてよ?」
だったら。普段からそうして頂きたい。
別に普段も派手な服装ではないが……。
先生はある程度の気遣いをし、派手でもなく、かと言って地味でもない。
普通。
白衣を着て、身なりをきちんとしている。
それで良いではないか。
相手により、服装を変える必要性があるのか……。
私には分からなが、浮かれる先生には、
重要らしい。
そんなこんなで時間通り。相談者さんが
いらした。
私は普段と変わりなく、対応。
スーツをスマートに着こなした紳士が玄関に
現れた。私も一瞬ドキッとなる。
おじさまだが……。
相談室へ通し、先生を呼んだ。
書斎から出てきた先生。
私の前を横切った時、ほのかにいい匂いが
した。
白衣姿であったが、何処と無く色気をちらつかせている。
「今日はどの様なご用件でこちらに?」
艶のある声で尋ねた。
私はいつもより少し高めの紅茶を淹れ、
ティーカップをテーブルにそっと置いた。
まじまじ見てしまう……。
先生の好みなのか。
スマートなおじさま。
清潔感のある人。
それ以上の感想は出てこない。
ハタチを過ぎた小娘。若い方が良い。
「こんなお美しい方にカウンセリングして
頂けるとは。 いやぁ、 お恥ずかしい」
にこりとおじさまスマイルを見せた。
「あら、 やだ。 お上手ね。 ふふふ。 お悩み相談にいらしたのだから、 お話して頂き
たいわ」
おじさまとおばちゃまの会話。
妙な時代のギャップを感じた。
「では……。
実は僕、 作家を仕事としてまして。 しがない作家でしてね……。 中々売れない。
最近は、主流の内容すら僕とは違う……。
若い人の心を掴む物が書けなくて」
出された紅茶を飲んだ。
スマートに……。
「あら。 作家先生でいらしたの? 今はこんなステキな作家先生がいらっしゃるのね」
少しの驚きを見せた。
私はだいぶ驚いた。
てっきり、他の職業かと……。
身なりからして、そう見えないし。
外見から人を判断してしまうのは良くない。
しかし、本当に作家さんとは。
「ステキなんて、 いやぁ、 言い過ぎです。
本当にどうにもならない作家です。
人の心を掴むにはどうしたらいいか。
悩みは尽きません……」
ティーカップをテーブルに置いて、ため息一つ。
「……わたくしも。 わたくしも同じ様な物ですわ。 最近の方に、いいアドバイスが
できているか。 自問自答の日々……」
お決まりのタバコ。
フーッと煙とため息をはく。
おじさまとおばちゃまの会話。
最近のお若い方についてがテーマらしい。
しかし、相談者さんにカウンセリングは
頼まないで下さいね? 先生……。
私は二人のやり取りをじっと観察。
「最近の若者は、 一体何が好きなのか。
何を考えて、 どう過ごしているのか。
作家たるもの、 知りたい。 しかし、中々理解できない事ばかりでして……。
歳のせいなんですかね。 時代についていけない」
はあっと再びのため息。
「全く同感ですわ。 わたくしも、理解できない事ばかり……。 自信を失くします。
お気持ち、お察しします」
すっかり二人の世界。
カウンセラーとして、作家として、色々と
それなりに努力はしている。
が、身にならない……。
「あのぉ……。 差し出がましいとは思いますが、 色々アンケートを取ったり、それこそ
インターネットなど使ったりして、 色んな方と触れ合ってみてはと……」
いたたまれない私。 口を挟んでしまった。
「ほぅ。 アンケート、 インターネットか。
いやいや、 頭がかたくてね。 考えてもなかったよ」
少し顔が明るくなった作家先生。
おばちゃま先生も、なるほど。
そんな感じの様子。
今時のカウンセラーは、頭を少し柔らかく。
柔軟性を要求される。
昭和のおじさまとおばちゃまには、理解できない世界もある……。
「そうか。 色々手はある。 閉じこもって考えていても、 世界は広がらない。
よし! 方向を変えてみよう。 いやいや
ありがとう」
妙な熱血漢。
そんな熱を残し、おじさまは帰って行った。
先生は……。
「わたくしも、世界を広げなければ。 カウンセラーとして 、 柔軟にならないとダメよね……」
ぼんやりソファに座り、呟いた。
作家先生に感化されたか。
私の意見を聞いてくれたか……。
どちらにせよ、今日は先生がカウンセリングを受けたのかも。