賢者の不老不死
今日の昼食は”サラダウドン”。
”ウドン”に、卵や色とりどりの野菜、蒸した鳥肉などを乗せたもの。
僕は嫁特製の”マヨネーズ”と”ポンズ”で食べるのが好き。
ちなみに嫁は”ショウユ”とマヨネーズで食べる、無類のショウユ好きらしい。
で、そんな楽しい嫁との昼食なのに…、
僕の目の前には、ものすごい勢いでサラダウドンを食べている奴がいる。
「…犬じゃないんだから落ち着いて食べなよ、目ざわりだよ?」
「貴様はいつもこんな美味いものを食べているのか!
は、もしや結婚の動機はこの料理か!?」
「…。(微妙に否定できないような…?)」
「まさか南国にしか生息しないエルルゥの肉に、
大陸最北の小国ラディの特産野菜が一緒に食せるとは…。
何よりこの味付け!マヨネーズとやらはどうやって作るのだ!?」
「鬱陶しい…。」
「専属契約を結んでいる商人でもいるのか…?
いや、しかしラディに行くのだけで10日…南国は海をまず越えねば…。
貴様の規格外なワープでも無理ではないか?」
「一応言っておくけど、僕の補助系魔法は普通。
あと材料は奥さんが全部用意してるから僕に聞かないでくれる?」
「全部…?」
賢者、なんて呼ばれている僕だけど、優れているのは攻撃魔法と回復魔法だけ。
金と銀の瞳を持つ僕の加護は太陽と月。
太陽の恩恵は生命力、一般的な前衛ならば体力、僕のような術師ならば回復魔法。
月は死を司り、攻撃全てに加護を与える。
なので攻撃魔法と回復魔法が得意なんていう妙な組み合わせな賢者だったりする。
よってワープなどのような補助魔法は人並みにしかできない。
…例の時空越えは、それこそ研究の成果だしね?
ちなみに嫁は、
この世界の法則に縛られていないので、全部の魔法が得意だったりする。
…しかも、剣も得意だったりする…。
「まて…貴様の嫁は本当に何者だ?」
「僕の奥さん。」
「そうでなく!規格外の魔法使いとはどういう事だ!?
しかも不老不死だと言っていたではないか!
…貴様は事情を知っているから納得できるが、貴様の嫁は…!」
「知ってるの?」
昼食を取り出してから初めての嫁の発言…ああ、まだ視線は伏せてるか。
「…教えてないのか?」
「個人的に納得してないから教えてない。」
そう、かつての仲間は全員”それ”が原因だと言うけれど、
僕自身は、あれから何度研究を重ねても確信が持てていない状態。
「…本人はそう言っているが、
魔王の血を飲んだ以外に原因らしい事柄はない。」
「血を飲んだ?」
「ああ…現場を見た訳ではないが魔王が死ぬ直前に賢者に血を飲ませたと。
しかし、本来なら魔王の血を飲んだものはほぼ即死。
あるいは生命活動が困難な廃人となるはずだったんだが…。」
「…魔王の血を飲んで、3日後には僕は全快してたよ。」
当時は勇者の奇跡だの、
僕が恐ろしいまでの魔力を持っていたから血に打ち勝っただのと周りに騒がれたが、
刺された傷が見る見るうちに癒えるのを見て、誰もが僕を”異物”として認識した。
そして、それが僕が”賢者”であり続ける理由。
昼食を終えて奴は帰って行った。
「また来る。」とか幻聴も聞こえたような気がするけど…。
嫁は僕の不老不死の話を聞いても何も言わなかった。
少なくともまだ奴に気を許してない証拠かな?
それとも何も思わなかった…それはないなー、無言の圧力がすごいし。
「大歓迎だけど、いい加減視線だけってきついです。」
「…。」
「奥さーん、
何か思うところあるならどうぞー、迅速に対応しますよ?」
「…不老不死だから?」
「はい?」
「私が、同じ不老不死だから妻に娶ったの?」
「あーーー、うーん、微妙?」
「…離婚しましょう。」
「ちょ!止めて待って!話聞いてー!!!」
迅速すぎるよ嫁!迅速に対応するのは僕であって嫁でないはずですよ!?
「あー、ちょっと長いけど、黙って聞いて!途中で逃げない!」
「ちっ。」
「舌打ちー!ここで鬼畜属性出さないで!
で、まずさ僕は不老不死で人と違う時間に生きてるでしょ?もちろん嫁も!
結婚の前にさ、まず嫁が不老不死じゃなかったらここに来るの止めさせてた!
本当にいうと今日の奴だって来るな!って何度も言ってる!
だって置いてくから!
…僕はいいよ?永久の中の暇つぶし程度に思えばいいけどさ、
でも有限の中で生きてる人が僕に時間を使うのってやっぱ嫌だ。
うん、だから僕は嫁が不老不死だから、
これから永久に続く友人?知人?みたいな関係を築く予定だったの!
…だからさ誤算は僕が奥さんに惚れた事。」
うっすらと白い顔を赤らめる嫁本当に可愛い…。
というか、こんなに小動物的な仕草と献身的な態度じゃ惚れないはずないよね?
「…。」
「もう無理だからね?
もし奥さんが僕が嫌になっても離す気ないし、逃げたら追う。
しかも、捕まえたら逃げられないように酷い事もする。」
「…ヤンデレ。」
出た、奥さんの謎言語。
「やんでれ?えーとそれが何か知らないけど。
ともかく僕は人格的に聖人どころか、結構酷いの自覚してるから!
…だから僕はずっと奥さんを奥さんって呼ぶよ。
分かった?」
「…呼ばれないと自分の名前忘れそうになるんだけど?」
「え…そういうもんなの?
てか、奥さんも僕の名前呼ばなくなったよね?なんで?」
実は奥さん結婚してから僕の名前を呼ばなくなった。
初期はアズライトさん、結婚直前はアズだったんだけど…?
「なんか先に呼んだほうが負けなような気がして…。」
「…えーと、じゃあ不安を感じなくなったら名前呼ぶのがんばります…。」
「私が出ていくとどっちが早いかしら?」
「奥さーーーーーん!!!!」
にっこり笑顔で鬼畜発言する嫁も大好きです!
でもお願いだから実行しないでね!
うちの嫁はやると言ったら世界の一つ二つ壊すような人だからね!
賢者の口調は嫁限定と他者用で分けられます。
基本一緒なんですが、回りにサド扱いされる感じの言葉運びなんです(笑)
うーん、あんまり彼はつっこみ役に向いてなかったか、長命種だから。
まあ、ぼちぼちつっこみ役とのんびり行きますか!