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【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?  作者: のびろう。
第15章 最高のハッピーエンドを君に

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勝利の抱擁は骨折覚悟で

五色の光が収束し天を衝くような光の柱となって消えていく。

それと同時に王都を覆っていた深紅の幕が音もなく霧散していった。


空が割れる。

そこから覗いたのは、目が痛くなるほどに澄み渡った王都の青空だった。


そして降り注ぐ太陽の光。

それは悪夢のような夜が明け、間違いなく新しい朝が訪れたことを告げる祝福のスポットライトだった。


「……終わった、のか?」


瓦礫の山となった中央広場で、俺、アルト・フォン・レヴィナスは眩しさに目を細めながら呟いた。

身体中が軋む。

魔力は空っぽだ。

立っているのが不思議なほどだった。


静寂。

広場を埋め尽くす民衆たちは呆然と空を見上げ、そして傷だらけで立ち尽くす俺たちを見つめていた。

誰もが今、目の前で起きた奇跡をまだ処理しきれていないようだった。


その静寂を破ったのは、一人の少女の声だった。


「……勝った……の?」


小さな呟き。

それが波紋のように広がり、やがて誰かが叫んだ。


「勝ったぞぉぉぉッ!」

「プリズム・ナイツ万歳!」

「ありがとう!ありがとう!」


爆発。

それはまさしく歓喜の爆発だった。


割れんばかりの拍手。

地鳴りのような歓声。


帽子が空に舞い、人々が抱き合い、涙を流して俺たちの名を呼んでいる。


「ふぅ……。どうやら観客の満足度は百点満点のようだな」


俺は肩の荷が降りたような感覚でふっと息を吐いた。

プロデューサーとして最高のエンターテインメントを提供できたという充足感。

だがその安堵は、一瞬にして物理的な危機へと変わった。


「アルトぉぉぉぉぉッ!」

「プロデューサーッ!」

「アルトさんッ!」

「主殿ッ!」

「ダーリンッ!」


五方向から愛おしい声が迫ってくる。

俺が振り返るよりも早、視界が五色に染まった。


ドスッ!ムギュッ!ボフッ!


「ぐえっ!?」


俺の身体に五人の少女たちが弾丸のような勢いで飛びついてきたのだ。

正面からリゼットとルージュ。

右からクラウディア。

左からエミリア。

そして背後から菖蒲。


完全に密着包囲網だ。


「やった!やったわよアルト!私たち、勝ったのよ!みんなを守れたのよ!」


リゼットが俺の首に腕を回し涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を俺の胸に押し付けてくる。

温かい。

そして苦しい。


「ええ、計算通り……いえ、計算以上の結果ですわ!あなたとの共同作業、最高でしたわよプロデューサー!」


クラウディアが俺の右腕を抱きしめる。

いつもの冷静さはどこへやら、その顔は上気し興奮で瞳が潤んでいる。

硬い鎧越しでも伝わる彼女の鼓動の速さ。


「アルトさん、アルトさん……!無事で本当によかったです……!わたくし、もう心配で……!」


エミリアが左腕にしがみつき、聖母の豊満な胸部装甲で俺の二の腕を圧迫してくる。

その柔らかさと温もりが疲弊した俺の精神を強制的にトロトロに溶かしていく。


「主殿!主殿ッ!この菖蒲、一生の不覚でござった!お守りするはずが逆に守られるとは……!この命、改めて主殿に捧げまする!」


背中からは菖蒲が蝉のように張り付き俺の首元に顔を埋めて泣いている。

彼女の流す熱い涙が俺の背中を濡らしていく。


「もうっ!あんたって男は、本当に無茶苦茶なんだから!でも……惚れ直したわよ、バカ!」


そして正面からルージュが俺の腰に足を絡めるような勢いで抱きついてくる。

彼女の情熱的な体温と甘い香りが、俺の理性を危険水域へと押し流そうとする。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!みんな!物理的に重い!肋骨が!肋骨が悲鳴を上げている!これはハッピーエンドというより圧死エンドだ!」


俺の悲鳴は彼女たちの歓喜の声と民衆の拍手にかき消された。

五人の美少女に揉みくちゃにされる主人公。


四方八方から伝わる柔らかい感触と甘い香り、そして何より彼女たちの心からの愛情。


(……まあ、いいか)


俺は抵抗を諦め全身の力を抜いた。

空を見上げる。

青い空がどこまでも高く広がっている。


「……最高のハッピーエンドだ」


俺は、彼女たちの重みを全身で受け止めながら幸福な気絶へと落ちていった。



その後、どうやって工房まで戻ったのか記憶が定かではない。

覚えているのは興奮した民衆たちに胴上げされそうになったことや、騎士団の人たちが慌てて警護してくれたこと。 そして何より、五人のヒロインたちが誰が俺を運ぶかで一悶着起こしていたことくらいだ。


「私が背負うわ!」

「いえ、担架を作るのが論理的よ」

「わたくしが癒やしながら運びます」

「主殿は拙者の背に!」

「アタシが抱っこしてあげるってば!」


結局、誰がどう運んだのかは分からないが気づけば俺たちは工房のリビングに転がっていた。

全員泥だらけで、傷だらけでそしてへとへとだった。


「……お風呂」


誰かが呟いた。

その一言が全員の理性のスイッチを切ったようだった。


「入りましょう……」

「そうね……」


もはや男女の別とか、恥じらいとかそういった高尚な概念は疲労の彼方へと消え去っていた。

俺たちはゾンビのような足取りで工房の奥にある大浴場へと向かった。


湯気の中に、ドボン、ドボンと、重たいものが落ちる音が響く。

広い湯船に六人が雑魚寝のように浸かる。


「……あぁ~……」

「……生き返るぅ……」 「

……極楽でござる……」


リゼットが俺の右肩に頭を乗せる。

クラウディアが左肩に。

エミリアが背中を流してくれようとしてタオルを持ったまま寝息を立てている。

菖蒲は湯船の底に沈んでブクブクと泡を吐いている(生存確認済み)。

ルージュは俺の膝を枕にして、完全に脱力している。


混浴?

ラッキースケベ?


そんな浮ついた状況ではない。

ただただ、温かいお湯が冷え切った心と身体を解凍していく。


生きている。

みんな生きている。

その事実だけで十分だった。


風呂から上がると、俺たちは服を着るのもそこそこにリビングの巨大なカーペットの上に倒れ込んだ。

誰が誰の布団とかそんなことはどうでもよかった。

一つの塊になって互いの体温を感じながら。

俺たちは泥のように、深く、深く眠った。


――――――――――――――――――――


【栄光のパレードと五色の花嫁】


翌朝。

俺を現実に引き戻したのは、小鳥のさえずりではなく地響きのような歓声と扉を叩き壊さんばかりのノックの音だった。


ドンドンドンドンドンドンッ!


「アルト・フォン・レヴィナス様!いらっしゃいますか!王宮からの使者でございます!」


「ん……ぁ……?」


俺は重い瞼を持ち上げた。

身体が動かない。


見ると、俺の手足は五人の美少女によって完全にロックされていた。

右腕をリゼットが抱き枕にし、左腕をクラウディアが掴み、腹の上には菖蒲が丸まり、足元にはルージュが絡みつき、頭はエミリアの膝の上にあった。


「……幸せな重みだが、今は緊急事態だ」


俺は必死の思いで身体を抜け出し(その過程で数回、柔らかい何かを踏んだり触ったりしてしまったが、不可抗力だ)扉を開けた。


そこには正装した王宮の騎士が額に汗を浮かべて立っていた。


「お、おはようございます……。 ええと、その……」


騎士は俺の後ろに広がる美少女たちの死屍累々(寝姿)を見て、顔を真っ赤にして口ごもった。


「失礼。昨夜の激闘の疲れで少々取り乱しております。で、ご用件は?」


俺が平静を装って尋ねると騎士は居住まいを正し、恭しく書状を差し出した。


「国王陛下より、緊急の呼び出しでございます。昨日の『王都防衛』の功績を称え、直ちに謁見の間へ参られたし、とのことです。それと……外をご覧ください」


言われて俺は窓を開けた。

そこには信じられない光景が広がっていた。


工房の前の通り、いや、王都中の通りという通りが人々で埋め尽くされているのだ。

彼らの手には花束や旗が握られ、俺たちの工房に向かって手を振っている。


「ぷ、プリズム・ナイツ様が出てこられたぞー!」

「英雄万歳!」


ワァァァァァァッ!

歓声が波のように押し寄せる。


「……これは、寝癖のまま出るわけにはいかなさそうだな」


俺は苦笑し、まだ夢の中にいるヒロインたちを叩き起こしに向かった。


「起きろー!みんな!ヒーローの朝は早いぞ!着替えて、メイクして、王様に会いに行くぞ!」


「むにゃ……あと五分……」

「パンが焼けるまで……」

「主殿……すき……」


やれやれ。

世界を救った英雄たちの寝起きは世界の危機よりも手強いかもしれない。



一時間後。

俺たちは王家の用意した豪華な馬車に揺られ王城へと向かっていた。

全員正装に身を包んでいる。


俺は貴族らしい仕立ての良い黒の礼服。

リゼットは情熱的な赤のドレス。

クラウディアは知的な紺碧のイブニングドレス。

エミリアは清楚な白と緑の聖職衣。

菖蒲は艶やかな黒紫の着物。

そしてルージュは大胆に背中の開いた深紅のドレス。


「……な、なによ、ジロジロ見て」


向かいの席に座るルージュが顔を赤らめる。


「いや、みんな、とても綺麗だと思ってね。戦闘服姿も勇ましくて好きだが、こういう姿もまた格別だ」


俺が素直な感想を述べると馬車の中の空気が一瞬で沸騰した。


「あ、アルトったら……!」

「ロ、論理的に考えて、正装はTPOに合わせるべきで……似合うと言われて悪い気はしませんわ」

「うふふ、アルトさんに褒められるのが一番のご褒美です」

「主殿!この姿、永久保存版でござるか!?」


キャッキャと騒ぐ彼女たちを見ながら俺は改めて思った。

守れて本当によかった、と。


謁見の間。

国王陛下は玉座から立ち上がり俺たちを出迎えてくれた。

その顔には、威厳と共に親愛の情が溢れていた。


「よくぞ……よくぞこの国を守ってくれた。君たちの勇気と絆の力に心からの感謝を」


王の言葉に俺たちは深く頭を下げる。


「アルト・フォン・レヴィナス。並びに、プリズム・ナイツの諸君。君たちの功績は言葉では言い表せぬほど大きい。 よってここに新たな爵位と称号を授ける」


王が宣言する。


「アルト・フォン・レヴィナス。君を『伯爵』に叙し、新たに『王都守護聖導師ガーディアン・プロデューサー』の称号を与える。これからも、その知恵と力でこの国の光たちを導いてほしい」


「ははっ!謹んでお受けいたします」


伯爵。

そして守護聖導師。


責任は重いが悪い気分ではない。

何より、これで正式に彼女たちのそばに居続ける理由ができた。


「そして、五人の乙女たちよ。君たちには『聖光の五華プリズム・フラワーズ』の称号を授ける。君たちはこの国の希望そのものだ。どうか、その笑顔で民を照らし続けてくれ」


五人は顔を見合わせ、そして満面の笑みで頷いた。


謁見の後は勝利のパレードだ。

王都のメインストリートをオープンカー仕様の馬車で進む。

紙吹雪が舞い、歓声が降り注ぐ。


「リゼットちゃーん!可愛いー!」

「クラウディア様ー!こっち向いてー!」


リゼットは顔を真っ赤にしながらも精一杯手を振っている。


「えへへ……なんだか照れちゃうけど嬉しいな」


クラウディアは澄ました顔を崩さないように必死だが耳まで真っ赤だ。


「フン、民衆の士気高揚も任務のうちですわ。……悪くありませんね」


エミリアは聖母のように微笑み子供たちに投げキッスを送っている。


「皆さん、ありがとうございます。幸せになってくださいね」


菖蒲は俺の影に隠れるようにしながらも小さく手を振り返している。


「忍びたる者、目立ってはならぬのでござるが……主殿と一緒ならこれもまた一興」


そしてルージュは、堂々と胸を張り観衆を魅了している。


「当然よ!アタシはこの国のヒロインなんだから!もっとアタシを見なさい!」


五者五様の花が王都に咲き誇る。

その中心で、俺は彼女たちの輝きを一番近くで見守っていた。


これが俺の求めたハッピーエンド。

いや、ハッピーエンドのその先にある新しい日常の始まりだ。


――――――――――――――――――――


【次なる舞台は魔王城にて】


パレードが終わり、興奮の余韻が残る夕暮れ時。

俺たちはようやく工房へと戻ってきた。


「はぁ~……疲れたけど楽しかったぁ」


リゼットがソファに倒れ込む。

みんな、心地よい疲労感に包まれていた。

今日はもう、ゆっくり休んで明日からまた……。


そう思っていた俺の袖を誰かがクイクイと引っ張った。

振り返ると、そこにはいつになく真剣な表情のルージュが立っていた。


「……ねえ、アルト。ちょっといいかしら?」


「どうしたんだ、ルージュ君?まだパレードの興奮が冷めないのかい?」


「違うわよ。その……お願いがあるの」


彼女は言いづらそうに視線を泳がせ、そして意を決したように俺を見上げた。


「あ、アタシ……魔王様に今回の件を報告しに行かなきゃいけないの」


「魔王ゼノビアにか?ああ、そういえば君はまだ一応『どきどき☆世界征服同盟』の幹部だったね」


最近の馴染みっぷりですっかり忘れていたが彼女は悪の組織のエリートなのだ。

今回の「虚構の楽園」との共闘(というか、一方的な蹂躙)について組織への報告義務があるのだろう。


「で、その報告なんだけど……。一人で行くのが、ちょっと……その……気まずいというか……」


ルージュがモジモジしている。

あの高飛車な彼女がこんなにしおらしいのは珍しい。


「魔王様、昼ドラの続きが気になってイライラしてるかもしれないし……。それに、アタシがプリズム・ナイツに入ったことまだ詳しく話してないし……。だから……」


彼女は俺の手をギュッと握りしめた。


「あ、あんたも、一緒に来てくれない!?付き添いよ!保護者よ!あんたがいれば魔王様も話を聞いてくれると思うの! ほら、あの人、あんたみたいな朴念仁がタイプらしいから!」


「……はい?」


俺の思考が停止する。

魔王城へ?

俺が?

人類の敵(建前上)の本拠地へノコノコと?


「い、いや、それはさすがに……」


「お願い!一生のお願い!今日だけ!今日だけでいいから!もし来てくれたら……その、あんたの言うこと一つだけ聞いてあげるから!」


ルージュの必死の懇願。

そしてその瞳の奥にある不安と、俺を頼りにしてくれている光。

……弱い。

俺はヒロインのこういう顔にめっぽう弱いのだ。


「……はぁ。分かったよ」


俺は観念してため息をついた。


「乗りかかった船だ。君のプロデューサーとして最後まで責任を持とうじゃないか」


「本当!?やったぁ!さすがアルト!愛してる!」


ルージュが俺に抱きつく。

その背後で、他の四人の目が光ったのを感じたが今は見なかったことにしよう。


こうして。

感動のフィナーレを迎えたはずの俺たちの物語は、息つく暇もなく次なるステージへと移行することになった。


行き先は魔王城。

待ち受けるのは伝説の大魔王ゼノビア。

そして、個性豊かすぎる愉快な悪の幹部たち。


「……平和な日常はまだ当分お預けみたいだな」


俺は苦笑しながらルージュの手を取った。

だけど、悪くない。


この騒がしくて愛おしい日々が続くのなら、魔王城だろうが地獄の底だろうがどこへだって付き合ってやるさ。


だって俺は、彼女たちの最強のプロデューサーなのだから。

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