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【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?  作者: のびろう。
第15章 最高のハッピーエンドを君に

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役者は揃い、舞台は燃える

キィィィン……。


耳鳴りのような高い音が響いた。

それは音ではなく、空間そのものが軋むような不快な波動だった。


「……な、なに?」


リゼットが動きを止める。

クラウディアがハッとして窓の外を見る。


菖蒲が警戒態勢に入り小太刀に手をかける。

エミリアさんが不安げに空を見上げる。


ルージュがネグリジェの乱れも気にせず鋭い視線を虚空に向ける。


窓の外。

王都の青空が塗りつぶされていた。

黒雲ではない。

それは質感のある重厚な布のような……。


「……幕、か?」


俺が呟いた通りだった。

王都の空を覆い尽くしたのは、巨大な深紅の「舞台幕カーテン」だった。


まるでこの世界そのものを一つの巨大な劇場に変えてしまうかのように。

太陽の光が遮断され、代わりに不気味なスポットライトのような光が地上を照らし出す。


「主殿!あれを!」


菖蒲が指差した先。

工房の中央、俺たちが普段テーブルとして使っている作業台の上にいつの間にか一通の手紙が置かれていた。


真っ黒な封筒。

それを封じるのは血のように赤い蝋。

そして、そこに刻まれた紋章を見て俺たちの全身に戦慄が走った。


歪んだ仮面と茨の絡みついた薔薇。


「虚構の楽園アルカディア・フォールス」の紋章だ。


「……奴らか」


俺は震える手を押さえつけその封筒を手に取った。

封を開けるまでもない。


俺がそれに触れた瞬間封筒が自然に発火し、そこから黒い煙が立ち上った。

煙は空中で文字を形作り、そしてあの聞き覚えのある気取った男の声が俺たちの脳内に直接響き渡った。


『ごきげんよう、愛しき人形たち。そして、私の愛する“異端のプロデューサー”、アルト・フォン・レヴィナス君』


その声は以前戦ったカミヤの声ではない。

もっと深く、もっと底知れぬ絶望の響きを含んだ声。


組織の頂点に君臨する存在。

脚本家オーサーの声だ。


『先日のカイザー君との“ゲーム”は拝見させてもらったよ。バグを利用した攻略……ふふ、実に無粋で、実に君らしい科学的な解決だったね。だが、君は一つ勘違いをしているようだ』


煙が形を変え巨大な仮面の顔となる。

その仮面は笑っていた。

嘲笑っていた。


『世界はゲームではない。数値やデータで割り切れるものではないのだよ。世界とはすなわち“物語”だ。感情と、運命と、そして悲劇によって織りなされる壮大なドラマなのだ』


工房の空気が急速に冷えていく。

ヒロインたちが身を寄せ合う。

俺は彼女たちを庇うように前に出た。


『君たちが勝ち取ったハッピーエンド。あれは、所詮、三流の喜劇に過ぎない。見ていて反吐が出るほど、甘く、ご都合主義で退屈な結末だ』


オーサーの声が熱を帯びる。


『だから、私が書き直してあげることにしたよ。君たちの物語を。もっと美しく、もっと残酷で、もっと感動的な“本物の悲劇”にね』


ズズズズズ……!


工房が、いや、王都全体が揺れた。

地震ではない。

世界そのものが強制的に書き換えられていく感覚。


『さあ、幕開けだ。これより王都全域を舞台とした最高傑作『終焉の悲劇』を上演する。 主演はもちろん君たちプリズム・ナイツ。そして結末は……』


仮面の目が怪しく光った。


『――英雄の死と、世界の絶望である』


その宣言と共に、黒い煙が爆発的に膨張し俺たちの視界を覆い尽くした。


「きゃあああああああっ!」

「主殿ッ!」

「アルト!」


少女たちの悲鳴が遠ざかる。

俺の手から彼女たちの温もりが引き剥がされていく感覚。


「やめろ!みんなを、離せ!」


俺は叫び虚空に手を伸ばす。

だがその手は何も掴めない。

俺の意識は深い闇の中へと落ちていった。


ーーーーー


目が覚めた時俺は一人だった。

見慣れた工房ではない。


そこはどこまでも広がる無機質な舞台裏のような場所だった。

無数のロープ、書き割りの背景、そしてスポットライトの機材が乱雑に置かれている。


「……ここは?」


頭痛を堪えて立ち上がる。

プリズム・チャームを確認する。


通信機能は……圏外だ。

ヒロインたちの反応も消失している。


「分断されたか……」


俺は唇を噛んだ。

カイザーの時はゲームのルールを押し付けられた。


だが今回は物語のルールを押し付けられている。

強制的な舞台転換。

強制的なシチュエーション。


その時、頭上のスピーカーからオーサーの楽しげな声が流れた。


『ようこそ、舞台裏へ。プロデューサー君。君には特等席を用意したよ。ここから指をくわえて見ていたまえ。 君の大切なヒロインたちがそれぞれの“悲劇”に飲み込まれ絶望に堕ちていく様をね』


目の前の空間に五つの巨大なモニターが浮かび上がった。

そこに映し出された光景を見て俺は息を呑んだ。


モニター1には、燃え盛る村の中で幼い頃の俺(の幻影)の死体を抱いて泣き叫ぶリゼットの姿。


『幼馴染に忘れ去られ、守れなかった悲劇』


モニター2には、折れた剣を前に家名を剥奪され泥水を啜るクラウディアの姿。


『誇りと居場所を失った騎士の悲劇』


モニター3には、石を投げられ罵倒されながらそれでも祈り続けるが誰一人救えないエミリアの姿。


『誰も救えず、魔女と断罪される聖女の悲劇』


モニター4には、俺を守るために自らの命を差し出しそれでも俺が死んでいく様を見せつけられる菖蒲の姿。


『主君を守れず、道具として壊れる忍びの悲劇』


そして、モニター5には、愛する俺に拒絶され化け物として討伐されるルージュの姿。


『愛する人に拒絶され、怪物として狩られる魔女の悲劇』


それぞれのヒロインが、彼女たちが最も恐れるトラウマ、最も避けたいバッドエンドの幻影の中に囚われていた。


『どうだい?美しいだろう? 人は、希望があるからこそ、絶望する。彼女たちの輝きが強ければ強いほど、その絶望は深く、甘美な味になるのだよ』


オーサーが笑う。

俺の心臓が早鐘を打つ。


怒りではない。

恐怖でもない。


俺の中に湧き上がってきたのは、プロデューサーとしての激しい“義憤”だった。


「……三流だな」


俺は静かに呟いた。


『なんだと?』


「三流だと言ったんだよ、脚本家。こんな、ただキャラクターをいじめて、泣かせるだけの脚本が面白いとでも思っているのか?安っぽいお涙頂戴だ。ご都合主義の不幸だ。見ていられないほど退屈な駄作だ!」


俺はモニターを睨みつけた。

そこに映る彼女たちは確かに泣いている。

苦しんでいる。


だが俺は知っている。

彼女たちがどれほど強いか。

どれほど俺との絆を信じているか。


「彼女たちは僕の自慢のヒロインたちだ。こんな安っぽい幻影ごときで心が折れるほど柔な育て方はしていない!」


俺は近くにあった制御コンソールらしき機械に駆け寄った。

構造は複雑だが、魔力回路の基本設計はこの世界の魔導具と同じだ。


ならば解析できる。

ハッキングできる!


「脚本通りになんて動いてやるものか。僕は演出家プロデューサーだ。役者の魅力を最大限に引き出し、クソみたいな脚本を最高のエンターテインメントに書き換えるのが僕の仕事だ!」


俺はツールボックスから工具を取り出し、コンソールの蓋をこじ開けた。

スパークする魔力。


指先が焼けるような熱を感じるが構わない。


「待ってろ、みんな!今、声を届ける!君たちの物語は悲劇なんかじゃない!僕たちが紡ぐのは、いつだって最高に騒がしくて最高に幸せなハッピーエンドだろッ!!」


俺の叫びと共に、俺の指先から蒼い光が迸った。


【創造変神】の力が舞台装置を侵食していく。


「第一幕、開演だ。脚本の書き換えリライトを始めようか!」


俺の瞳にかつてないほどの闘志の炎が宿った。

悪趣味な脚本家対、最強のプロデューサー。


物語の結末を懸けた最後の戦いの幕が、今、切って落とされた。

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