告白は、真心(まごころ)と共に
アルトから放たれた、温かい光。
その光に触れた瞬間、五人の少女たちは、はっと我に返った。
まるで、長く、熱に浮かされた夢から、無理やり覚まされたかのように。
自分たちが、愛する人に、何をしていたのかを。
その、あまりにも恥ずかしく、あまりにも身勝手な欲望の記憶が、フラッシュバックする。
工房を支配していたピンク色の霧が、嘘のように晴れていく。
後に残されたのは、自己嫌悪と、気まずさで、俯く五人の少女たちと、そんな彼女たちを、困ったような、しかし、どこまでも優しい目で見つめる、一人の青年だけだった。
床には、ひっくり返ったテーブル、割れたティーカップ、そして、無残に引き裂かれた白無垢の残骸が、先程までの狂宴の激しさを物語っている。
しん、と静まり返った工房に、時計の秒針の音だけが、やけに大きく響いていた。
(私…アルトに、なんてことを…)
リゼットは、顔を真っ赤にして、自分の手を見つめていた。
アルトを独り占めしたい。
その、純粋だったはずの想いが、暴走し、彼を傷つけ、困らせてしまった。
(非論理的極まりない…。私は、冷静さを失い、本能のままに、彼を…これでは、騎士失格だわ…)
クラウディアは、唇を固く結び、その場に立ち尽くしていた。
彼女の、氷のプライドは、自らの、あまりにも女々しい行動によって、粉々に砕け散っていた。
(ああ、神様…わたくしは、また、過ちを…アルトさんを、癒やすどころか、その優しい心に、負担をかけてしまいましたです…)
エミリアは、その翠の瞳から、ぽろぽろと、後悔の涙をこぼしていた。
(主殿に…主君たるお方に、なんという、無礼を…。もはや、切腹ものでござる…)
菖蒲は、その場に土下座し、小刻みに震えていた。
彼女の、忠誠心は、今、深い自己嫌悪へと変わっていた。
そして。
「…ごめんなさい」
最初に、沈黙を破ったのは、元凶である、ルージュだった。
彼女は、俯いたまま、か細い、震える声で、そう言った。
その顔は、青ざめている。
「アタシが、馬鹿なことをしたせいで…みんなを、アルトを、こんな目に…」
彼女は、全てを、覚悟していた。
軽蔑されることも、罵倒されることも、この、温かい場所から、追放されることも。
悪の組織の幹部として、それ相応の、罰を受ける覚悟は、できていた。
だが、アルトは、彼女を責めなかった。
「ありがとう、ルージュ君」
彼は、静かに言った。
その声は、あまりにも、優しかった。
「え…?」
ルージュが、信じられない、という顔で、顔を上げる。
「君の、その真っ直ぐな想いのおかげで、僕は、ようやく、自分の心と向き合う覚悟ができたよ」
彼は、ゆっくりと、五人の、一人一人の顔を見つめ、告白した。
それは、彼が、ずっと目を背け続けてきた、自分自身の、弱さの告白だった。
「僕が、悪かったんだ」
その、あまりにも意外な言葉に、五人の少女たちは、息を呑んだ。
「リゼット。僕は、君の、その太陽のような優しさに、ずっと甘えていた。『幼馴染』という、都合のいい言葉の陰に隠れて、君が、一人の女性として、僕に向けてくれていた、その真っ直ぐな想いから、目を逸らし続けていた。すまない」
「クラウディア君。僕は、君の、その、誰よりも強いプライドと、誰よりも繊細な心を、理解しようとしなかった。君が、僕に、論理をぶつけてきてくれる、その行為の裏にある、不器用な好意を、『興味深い研究対象』としてしか、見ていなかった。君を、傷つけた。すまない」
「エミリアさん。僕は、あなたの、その、無限の慈愛を、当たり前のものだと思っていた。あなたが、その聖母のような微笑みの裏で、どれほどの痛みを、一人で抱えていたのかも、知ろうとしなかった。ただ、あなたの優しさを、享受していただけの、愚か者だった。すまない」
「菖蒲君。僕は、君の、その、命懸けの忠誠心を、正しく、受け止めてやれなかった。君が、僕を『主君』と呼ぶ、その言葉の裏にある、一人の少女としての、切実な願いに、気づかないふりをしていた。
君の心を、利用していたのかもしれない。すまない」
「そして、ルージュ君。君は、敵であるはずの僕に、誰よりも、ストレートに、その想いをぶつけてきてくれた。その、あまりにも眩しい情熱から、僕は、ずっと、逃げていたんだ。君の勇気に、僕は、応えることができなかった。すまない」
自分がいかに、彼女たちの想いから逃げていたか。
そして、いかに、彼女たち一人一人を、大切に想っているか。
それは、愛の告白ではなかった。
だが、それ以上に、誠実で、心からの、彼の「真心」だった。
彼が、初めて見せた、完璧ではない、ただの、一人の男としての、弱さだった。
その、不器用な告白に、少女たちの瞳から、堰を切ったように、涙がこぼれ落ちた。
それは、悲しみの涙ではなかった。
ずっと、胸につかえていた、全ての想いが、彼の、その、たった一言の「すまない」に、優しく、溶かされていく、救いの涙だった。
「…アルトの、ばか…!そんなこと、わかってるわよ…!」
リゼットが、泣きじゃくりながら、彼の胸に飛び込んだ。
「…非論理的よ、あなたという人は…!なぜ、あなたが、謝る必要があるの…!」
クラウディアが、顔を覆い、その場に、静かにしゃがみ込む。
「アルトさん…!もう、いいんです…!もう、十分です…!」
エミリアが、その場に、膝から崩れ落ちる。
「主殿…!勿体なき、お言葉…!」
菖蒲が、床に、その額をこすりつける。
「…あんたって、本当に、ずるいわね…」
ルージュが、悪態をつきながら、その瞳から、大粒の涙を、ぽろぽろと、こぼしていた。
僕たちの、歪んだ、恋の狂想曲は、こうして、幕を下ろした。
後に残されたのは、少しだけ、素直になれた、僕と、僕の、愛すべき、五人のヒロインたちだけだった。




