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【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?  作者: のびろう。
第12章 神を名乗る遊戯者と、盤上の駒たち

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静寂の村と、王の勅命

事件の兆候は、王都のギルドにもたらされた、一つの奇妙な依頼から始まった。

その日、僕たちプリズム・ナイツは、珍しくチーム全員で冒険者ギルドの談話室にいた。

と言っても、別に高難易度の依頼に挑むわけではない。


リゼットが「たまには初心に帰って、簡単な依頼で人助けをするのもヒーローの務めよ!」と提案し、僕たち全員がそれに巻き込まれた結果、貴族の奥様の愛猫「プリンセス・ローズマリー三世号」の捜索依頼を、見事(?)に達成した帰りだった。


「もう、見つかってよかったわねー、ローズマリーちゃん!」


リゼットが、腕の中の、やけにふてぶてしい顔をしたペルシャ猫の喉を撫でる。

猫は「ゴロゴロ…」と喉を鳴らしているが、その目は少しも笑っていない。


「フン。猫一匹に、我々五人の戦力を投入するなど、非効率的極まりないわ。この時間があれば、魔導理論の論文が一つは読めたものを」


クラウディアが、壁際で腕を組み、やれやれと溜め息をつく。

だが、その指先が、時折もふもふの尻尾を撫でたがっているのを、僕の観察眼は見逃さない。


「あらあら、うふふ。でも、飼い主の奥様、本当に喜んでいらっしゃいましたね。小さな命が、無事に戻ってきて、本当によかったです」。


エミリアさんが、聖母のような微笑みで、その光景を温かく見守っている。


「主殿!指南書によれば、猫は気まぐれな生き物。その心を掴むは、天下を掴むより難しいと!これもまた、人心掌握術の一環!実に、奥が深いでござる!」


菖蒲が、真剣な顔で、僕に解説してくる。

彼女の指南書は、もはや森羅万象を網羅しているようだ。


「はぁ、退屈だわ。世界征服を企む悪の組織の幹部が、猫探しだなんて。魔王様に知られたら、三日は笑いものよ」


ルージュが、カウンター席で頬杖をつきながら、心底退屈そうに呟いた。


そんな、どこにでもある、平和で、少しだけ騒がしい日常の風景。

その空気を、切り裂いたのは、ギルドマスターの、焦燥に満ちた声だった。


「おい!プリズム・ナイツ!ちょっと、こっちへ来てくれ!」


ギルドマスターのブーザックさんは、熊のような巨漢の元Sランク冒険者だ。

その彼が、額に脂汗を浮かべ、見たこともないほど険しい表情で、僕たちを手招きしていた。

カウンターに広げられたのは、王国全土の、詳細な地図。

彼の、傷だらけの太い指が、ある一点を、強く叩いた。


「ここだ。王国有数の魔鉱石の産地、『ノイマン鉱山村』。今朝から、この村との定期連絡が、完全に途絶えた」


「通信が?通信用の魔導具の故障では?」


クラウディアが、冷静に問い返す。


「それが、おかしいんだ」。ブーザックさんは、唸るように言った。

「魔導通信だけじゃない。伝書鳩を放っても、一羽も戻ってこねえ。おまけに、村へ向かった商人のキャラバンも、予定時刻を半日過ぎても、王都に着かねえ。まるで…村そのものが、世界から消えちまったみたいなんだ」


その言葉に、僕たちの間に、緊張が走る。

単なる事故や、魔獣の襲撃とは、明らかに様相が異なっていた。


「…それで、ギルドからの依頼というのは?」


僕が尋ねると、ギルドマスターは、苦々しい表情で首を横に振った。


「いや、依頼じゃねえ。これは、忠告だ。実は今朝方、王都騎士団の連中が、大げさな装備で、先遣隊として村へ向かった。だから、ギルドとしては、しばらく様子見だ。お前たちも、下手に首を突っ込むんじゃねえぞ。どうも、いつもの魔獣騒ぎとは、匂いが違う」


彼の言葉は、僕たちを案じてくれてのものだろう。

だが、その言葉が、逆に、僕のプロデューサーとしての、そして、ヒーローとしての魂に、火をつけるには、十分すぎた。



数時間後。

ギルドマスターの忠告も空しく、僕たちは、王都の城門前で、その異常事態の目撃者となる。


「開門しろ!緊急事態だ!早く!」

「衛生兵を!負傷者がいる!」


土煙を上げて、王都へと駆け込んできたのは、今朝方、ノイマン鉱山村へと向かったはずの、騎士団の先遣隊だった。

その姿は、あまりにも無惨だった。

磨き上げられていたはずの白銀の鎧は、泥と、謎の傷で汚れ、何人かは、仲間の肩に担がれている。

だが、奇妙なことに、誰一人として、血を流している者はいなかった。

彼らの顔に浮かんでいるのは、戦闘による疲労ではなく、理解不能な現象に遭遇したことによる、純粋な『恐怖』と『混乱』の色だった。


僕たちは、人混みをかき分け、負傷者が運び込まれる救護所へと向かった。

そこで、先遣隊を率いていたと思しき、若い騎士隊長が、上官に報告しているのを、僕たちは、壁の影から聞き耳を立てる。


「…報告します!ノイマン鉱山村は…存在しました!村は、確かに、我々の目の前にあったのです!」


騎士隊長の声は、上ずり、震えていた。


「煙突からは煙が立ち上り、洗濯物が風に揺れていた。広場では、子供たちが遊んでいる声すら聞こえたのです!

ですが…!」


彼は、そこで一度言葉を切り、何かを振り払うように、強く頭を振った。


「…ですが、村に、入れないのです!村まで、あと100メートルほどの地点に、見えない『壁』がありました!剣で斬りつけても、魔法を放っても、傷一つ付かない!それどころか、攻城用の破城槌をぶつけても、まるで、別の次元にぶつかっているかのように、手応えすら、ないのです!」


その場にいた、誰もが息を呑む。

僕の脳内では、僕の知る、ありとあらゆる物理法則と、魔法理論のデータベースが、猛烈な速度で検索を開始していた。

だが、該当する現象は、一つもなかった。


騎士隊長は、さらに、信じがたい報告を続ける。


「我々は、遠見の魔法で、内部の様子を探ろうとしました。ですが…水晶に映し出されたのは、ただの、砂嵐のようなノイズだけ…。まるで、世界の法則そのものが、あの場所だけ、我々を拒絶しているかのようでした…。我々は…一体、何と戦えばよかったのですか…」


報告を終えた彼は、その場に、膝から崩れ落ちた。

彼の心は、完全に折れていた。

未知への、絶対的な恐怖によって。


(見えない壁。物理的、魔法的干渉を完全に無効化する、次元の断層。観測を阻害する、情報のノイズ。

これは…この世界の魔法体系では、説明がつかない。まるで、高次元の存在が、低次元の世界に、無理やりパッチを当てたかのような…そうだ…まるで、プログラムの…『バグ』だ)


僕が、その恐るべき結論に達した、その時。

背後から、凛とした声が、僕たちを呼んだ。


「アルト・フォン・レヴィナス様。並びに、プリズム・ナイツの皆様。国王陛下が、緊急のご召集にございます!

至急、ご登城を!」


振り返ると、そこに立っていたのは、王家の紋章を掲げた、近衛騎士だった。

その表情は、国の危機を前にした、悲壮な覚悟に満ちている。

ついに、僕たちの出番が来たのだ。



王城の、玉座の間。

そこは、僕がこれまでに経験したことのない、荘厳で、そして、張り詰めた空気に満ちていた。

磨き上げられた大理石の床。

天を突くようにそびえる円柱。

壁には、歴代の王たちの肖像画が掲げられ、僕たちを見下ろしている。


その最奥。

巨大な玉座に、この国の王が、深く腰掛けていた。

その周囲には、宰相や、騎士団長、宮廷魔術師長といった、この国の重鎮たちが、揃って顔を並べている。

その全ての顔が、一様に硬く、そして、険しい。


僕たち五人は、王の御前で、深く膝をついた。


「…面を上げよ、若き英雄たちよ」


王の、低く、しかし、よく通る声が、玉座の間に響き渡った。


「アルト・フォン・レヴィナス君。そして、プリズム・ナイツの諸君。またしても、君たちの力を借りねばならぬ事態となった」


王が語る調査報告は、僕が先ほど耳にした内容を、さらに詳細にしたものだった。

村の周囲には、目に見えない「壁」が存在し、物理的にも魔法的にも干渉不可能。

内部の様子を遠見の魔法で観測しようとしても、まるでノイズがかった映像のように、何も映らないのだという。


「騎士団長。先遣隊の報告を」


王の言葉に、白銀の甲冑に身を包んだ、歴戦の騎士団長が、一歩前に出る。


「はっ。報告によれば、件の障壁は、半径およそ5キロメートルに渡り、村全体を、半球状に覆っているものと推測されます。我が騎士団が誇る、最高位の結界破りの魔術師が、三人がかりで挑みましたが、その魔力は、壁に触れることなく、霧散したとのこと。もはや、我々の通常戦力では、手出し不可能との結論に至りました」


その、絶望的な報告に、玉座の間の空気が、さらに重くなる。

王は、静かに、僕へと、その視線を向けた。


「アルト・フォン・レヴィナス君。君は、かつて、我々の常識を超えた力で、この王都を救ってくれた。君の、その常識に囚われぬ目には、この異常事態は、どう映るかね?」


その問いに、僕は、ゆっくりと立ち上がった。

そして、この世界の住人には、決して理解できぬであろう、僕だけの見解を、静かに、しかし、はっきりと告げた。


「恐れながら、陛下。我々が今、直面しているのは、おそらく、『壁』や『結界』といった、既存の概念では、説明のつかない現象です。例えるならば、この世界という、一枚の絵画。その、ノイマン鉱山村の部分だけが、何者かによって、全く別の絵の具で、無理やり上塗りされているような状態、とでも申しましょうか」


僕の、あまりにも詩的な、しかし、本質を突いた言葉に、重鎮たちが、ざわめく。


「絵の具…だと?」「何を言っているのだ、あの若造は」


僕は、構わず続けた。


「その上塗りされた絵は、我々の世界の法則ルールとは、全く異なる法則で描かれています。だからこそ、我々の常識的なアプローチは、全て、弾かれてしまう。これを解決する唯一の方法は、我々自身が、その絵の中に飛び込み、その絵が、どのような法則で描かれているのかを、内側から解析することです」


「…つまり、君は、あの壁の向こうへ、行けるというのかね?」


王が、身を乗り出して、問いかけてくる。


「保証はできません。ですが、僕の【創造変神】の力は、この世界の法則に、僅かながら干渉する能力を持っています。あるいは、その『上塗りされた絵』の、僅かな綻びを、こじ開けることができるかもしれません」


僕の言葉に、玉座の間に、一縷の希望の光が差した。

王は、ゆっくりと玉座から立ち上がると、僕たちの目の前まで、歩み寄ってきた。

そして、その威厳に満ちた瞳で、僕たち一人一人の顔を、順番に見つめ、言った。


「…これは、我々の知る、いかなる魔法体系にも属さぬ、未知の脅威だ。君たちの、常識に囚われぬ力だけが、この謎を解く鍵かもしれん」


王は、僕たちの前で、深く、深く頭を下げた。

一国の王が、だ。


「無礼を承知で、願う。どうか、この国を…この国の民を、救ってはくれまいか。もはや、君たちこそが、この国の…最後の希望なのだ」


王の、魂からの叫び。

それは、どんな命令よりも、どんな報酬よりも、僕たちの心を、強く、強く、揺さぶった。

僕の背後で、四人の少女たちが、静かに立ち上がる気配がした。


「御意。国王陛下。我々プリズム・ナイツ、その勅命、謹んでお受けいたします」


僕がそう言うと、四人の少女たちが、それぞれの決意を、その声に乗せた。


「はい!村の人たちが、心配です!私たちが、絶対に助け出します!」


リゼットの、太陽のような声。


「王の勅命、そして、プロデューサーの命令とあらば。ヴァレンシュタイン家の名誉にかけて、この非論理的な事態、必ずや解明してみせますわ」


クラウディアの、氷のように澄んだ声。


「これ以上、悲しむ人が増えませんように…わたくしたちの光で、必ず、皆さんの心を照らしてみせますです…!」


エミリアの、慈愛に満ちた声。


「主殿の、そして王の御命令とあらば、この犬神菖蒲!たとえこの身が朽ち果てようとも、必ずや完遂してみせまする!」


菖蒲の、鋼のような声。


「ふんっ、まあ、いいわ。このアタシが、直々に乗り出してあげるんだから、感謝しなさいよね。ついでに、この国の、貸し一つってことにしてあげるわ」


ルージュの、不敵な声。


五人分の、色とりどりの、しかし、一つの想いになった決意。

それを聞いた王は、顔を上げ、その目に、かすかに涙を浮かべながら、力強く、頷いた。


「…頼んだぞ、若人たちよ」


国王の、藁にもすがるような願い。

それは、僕たちにとって、断るという選択肢のない、新たな戦いの始まりを告げる勅命だった。

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