エピローグ 新たなる絆と、世界を弄ぶ者たち
五日間の、甘く、そして過酷なデート大作戦を終えた、その夜。
僕の工房に、五人のヒロインたちが、集結していた。
その表情は、どこか吹っ切れたような、清々しいものだった。
リゼットは、自信に満ちた太陽の笑顔を取り戻し、クラウディアの氷の仮面は、ほんの少しだけ、温かく溶けているように見えた。
エミリアさんは、聖母の微笑みに、小悪魔的な自信の色を滲ませ、菖蒲君は、主君への忠誠心に、一人の乙女としての、熱い想いを重ねていた。
そしてルージュは、ツンデレの皮を一枚脱ぎ捨て、恋する乙女の、素直な輝きを放っている。
五人とのデートを経て、僕たちの絆は、より深く、より強固なものになっていた。
彼女たちも、それぞれに満足しているようだ。
いや、それ以上に。
彼女たちは、僕との二人きりの時間を通して、自分自身と、そして、仲間たちの、新たな一面を発見したのだ。
それは、僕の計算を、遥かに超える、嬉しい誤算だった。
そして、僕の頭の中では、この五日間の、膨大な、そして、何物にも代えがたい臨床データに基づいた、新たな合体必殺技の、全ての数式が、完璧な形で完成していた。
僕は、工房の中央に立つと、壁に設置した大型のホログラムディスプレイを起動させた。
そこに映し出されたのは、五人の少女たちの、変身後の姿と、その間を繋ぐ、無数の、美しい数式の光だった。
「皆、聞いてくれ。この五日間、君たちとの『個別特殊環境下における、変神適格者の心理動態データ収集ミッション』は、大成功に終わった」
「「「「「でーたしゅうしゅうみっしょん…」」」」」
五人の声が、綺麗にハモった。
その顔には、喜びと、そして、やはりこの男はこうでなくては、という、深い諦観の色が浮かんでいる。
僕は、構わず、プロデューサーとしての、情熱的なプレゼンテーションを続けた。
「リゼット君の、僕の好みを完璧に把握し、先回りする、その驚異的な共感能力!
クラウディア君の、論理の壁にぶつかりながらも、非論理的な奇跡を受け入れた、その柔軟な思考!
エミリアさんの、ただ癒やすだけではない、対象の魂そのものを再生させる、慈愛の波動!
菖蒲君の、影に生きることを宿命づけられながらも、光の中で誰かを守りたいと願う、その不屈の魂!
そして、ルージュ君の、自らの感情の高ぶりを、制御不能なエネルギーへと変換してしまう、その情熱的な心!」
僕が、一人一人の、この五日間で見せた輝きを語るたびに、彼女たちの頬が、ぽっと、赤く染まっていく。
「それら、全てのデータが、この僕の頭脳の中で、一つの、完璧な答えを導き出した!君たちの心は、もう、バラバラじゃない。互いを認め、互いを高め合い、そして、僕という一つの座標軸に向かって、美しく収束している!
今なら、できる!僕が夢見た、究極の合体技が!」
僕の、ほとばしる情熱に、彼女たちの心も、燃え上がっていく。
もう、言葉は不要だった。
「よし、皆!試運転と行こうか!」
僕の号令一下、プリズム・ナイツは、夜の訓練場へと向かった。
月明かりだけが照らす、静かな空間。
そこには、僕がこの日のために用意しておいた、オリハルコン製の、超硬度訓練用ゴーレムが、五体、静かに佇んでいた。
「まずは、二人一組の連携技からだ!リゼット君、クラウディア君!」
「「はい(ええ)!」」
二人が、一歩前に出る。
その間には、もう、以前のような、刺々しいライバル心はない。
互いの力を認め合った、戦友としての、絶対的な信頼があった。
「いくわよ、リゼットさん!」
「ええ、クラウディアさん!」
「「変神っ!プリズム・チェンジッ!!」」
紅蓮の炎と、絶対零度の氷が、同時に迸る。
セーラー・フレアと、ナイト・ブリザードが、月光の下に顕現した。
「アルトの理論、私たちの絆で、証明して見せる!」
「ええ。論理を超えた先に、真実があることを!」
二人は、互いに頷き合うと、左右から、同時にゴーレムへと駆け出した。
フレアが、炎の大剣『フレイム・カリバー』を、天に掲げる。
ブリザードが、氷の双剣『ブリザード・エッジ』を、地に構える。
そして、二つの、相反する力が、一つの敵に向かって、放たれた。
「灼熱の奔流よ!」
「絶対零度の吹雪よ!」
「「フレイザード・ストリーム!!」」
炎と氷が、螺旋を描きながら、完璧に融合する。
それは、もはや、ただの炎でも、氷でもない。
超高温と、超低温が同時に存在するという、物理法則を無視した、奇跡のエネルギー奔流だった。
オリハルコンのゴーレムは、その奔流に触れた瞬間、悲鳴を上げる間もなく、熱膨張と急速冷却によって、内部から、ガラス細工のように、粉々に砕け散った。
「…すごい…!」
「これが、私たち二人の…!」
二人は、互いの、新たな力の輝きに、息を呑んだ。
「次だ!エミリアさん、菖蒲君!」
「「はいです!(承知!)」」
癒やしの聖女と、闇を駆ける刃が、前に出る。
「「変神っ!プリズム・チェンジッ!!」」
ヒーリング・エンジェルと、シャドウ・ストライダーが、その姿を現す。
「菖蒲さんの、その速さ、わたくしに、預けてくださいね」
「エミリア殿の、その光…確かに、お預かり申す!」
菖蒲の身体が、ふっと、無数の影の分身へと分裂する。
だが、それは、ただの幻ではない。
エミリアの、慈愛の光が、その全ての分身に、等しく宿っていた。
「プリズム・ニンジャアーツ、解放!」
「聖なる光よ、安らぎを与えたまえ!」
「「幻夢セラフィック・フィールド!!」」
影の分身たちが、三体のゴーレムを、音もなく包囲する。
そして、その影から、一斉に、翠色の、どこまでも温かい光が放たれた。
それは、敵を攻撃する力ではない。
敵の、闘争心そのものを、内側から、優しく、癒やし、浄化する、絶対的なる慈愛の結界。
凶暴な戦闘ゴーレムたちは、その光を浴びた瞬間、その全ての機能を停止させ、まるで、安らかな眠りにつくかのように、その場に、静かに崩れ落ちた。
「まあ…!」
「これが、拙者たちの…守るための術…!」
二人は、その、あまりにも優しく、そして、あまりにも強力な、新たな力の形に、静かに感動していた。
そして、最後は。
五人全員の、心を一つにした、究極の合体技。
「皆、心をシンクロさせろ!僕を想う、君たちの、その全ての感情を、一つの輝きに束ねるんだ!」
僕の、プロデューサーとしての、魂の叫び。
五人の少女たちが、中央に立つ僕を囲むように、円陣を組む。
そして、互いに、手を、固く、固く、握り合った。
「アルトへの、大好きの気持ち!」
「プロデューサーへの、絶対的な信頼を!」
「アルトさんへの、感謝の祈りを!」
「主殿への、永遠の忠誠を!」
「あんたへの、この、どきどきする想いの、全部を!」
五人分の、愛の叫びが、夜空に響き渡る。
その、純粋な想いが、トリガーだった。
「「「「「変神っ!プリズム・チェンジッ!!」」」」」
赤、青、緑、黒、紫。
五色の光が、天を突き、その中心で、一つの、巨大な、銀河のような、虹色の輝きへと、収束していく。
「「「「「プリズム・ギャラクシアン・シンフォニー!!」」」」」
放たれたのは、もはや、技ではなかった。
一つの、奇跡だった。
虹色の輝きは、最後のオリハルコン・ゴーレムを、ただ、優しく包み込む。
すると、その、無機質な鉄の塊は、光の粒子となって、空へと還り、その跡には、一輪の、美しい花が、静かに咲いていた。
破壊の、その先にある、創造の輝き。
それこそが、僕たちの、プリズム・ナイツの、答えだった。
「やったー!」
「ええ、完璧ですわ!」
「すごいです!」
「主殿!」
「…まあ、アタシにかかれば、こんなものね!」
成功を喜ぶ彼女たちは、疲労も忘れ、一斉に、僕の身体に、抱きついてきた。
甘い香りと、柔らかい感触に包まれる、至福の瞬間。
僕の人生で、最も幸福な、瞬間。
だが、その平和は、長くは続かなかった。
「ちょっと、リゼットさん、近すぎよ!プロデューサーが、潰れてしまいます!」
クラウディアが、リゼットを僕から引き剥がそうとする。
「いいじゃない、これくらい!それより、クラウディアさんこそ、さっきからアルトのお尻、触ってない!?」
「なっ…!?これは、不可抗力よ!」
「菖蒲殿!主殿の背中は、拙者の場所でござる!そこをどかれ!」
菖蒲が、僕の背中に、蝉のように張り付こうとする。
「あんたたち、抜け駆けは許さないわよ!アルトの一番近くにいる権利があるのは、このアタシなんだから!」
ルージュが、僕の正面から、そのダイナマイトボディを押し付けてくる。
「あらあら、うふふ。順番ですよ、順番」
エミリアさんが、僕の頭を、優しく撫でている。
やれやれ。
いつもの、キャットファイトの始まりか。
僕は、幸せな喧騒に包まれながら、満足げに、夜空を見上げた。
だが、僕たちは、まだ知らない。
この世界の、どこか。
歪んだ玉座の間で。
僕と同じ、『転生者』が、僕たちの、その、あまりにも青臭い英雄譚を、嘲笑っていることを。
◇
「へえ、ヒーローごっこ、か。面白そうだ。NPC相手に、ロールプレイとは、ご苦労なこった」
銀髪に紅い瞳を持つ、美形の貴族、カイザー・フォン・ヴォルフガングは、玉座のようなゲーミングチェアにふんぞり返り、目の前の巨大なホログラムスクリーンに映し出された、僕たちの戦いを、退屈そうに眺めていた。
その手には、この世界には存在するはずのない、栄養補助ゼリーのパックが握られている。
彼の周りには、彼を「神」と崇める、三人の狂信者たちが、控えている。
「カイザー様、ご覧ください。あの者たちの戦闘データ、解析完了しました。エネルギー効率、連携パターン、共に、この世界の『定石』からは、大きく逸脱しております」
妖艶な美貌を持つ、魔導士イザベラが、うっとりとした表情で、カイザーに報告する。
「フン!小手先の技でしかねえ!俺様の斧の前では、あんなもん、紙切れ同然だぜ!なあ、カイザー様よぉ!」
筋肉の塊のような、狂戦士レックスが、巨大な戦斧を肩に担ぎ、獰猛に笑う。
影の中から、音もなく、暗殺者ノクスが、静かに頷いた。
カイザーは、そんな部下たちの言葉には、興味もなさそうに、指を鳴らした。
すると、彼の目の前の空間に、この世界の、詳細なステータス画面のようなものが、ウィンドウとして表示される。
「この世界は、ゲームだ。出来の悪い、バグだらけの、クソゲーだ。そして、俺は、唯一のプレイヤー。神であり、ゲームマスターだ」
彼は、楽しそうに、その唇を歪めた。
「あの、アルトとかいう奴。面白いじゃないか。俺と同じ『プレイヤー』のくせに、NPCの感情に、本気で寄り添ってやがる。正義?絆?愛?くだらない。そんなものは、このゲームを攻略する上で、何の役にも立たない、無駄なパラメータだ」
彼は、ゆっくりと立ち上がると、その紅い瞳に、絶対的な支配者の、残酷な輝きを宿した。
「さあ、始めようか。この、クソゲーの、デバッグを」
彼の指先から、世界の法則そのものを書き換えるという、チートスキル【理の改竄】の、紫色の光が、放たれる。
「まずは、手始めに、あの、おままごとヒーローたちに、教えてやらないとな。この世界の、本当の『ルール』ってやつを。――ゲームは、楽しんだもん勝ち、なんだよ」
新たなる悪の組織、『世界攻略ギルド(ワールド・ハッカーズ)』
僕と、僕の愛するヒロインたちが紡ぐ物語は、今、最も厄介で、最も悪質な『プレイヤー』の参戦によって、新たなステージへと、突入しようとしていた。




