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【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?  作者: のびろう。
第11章 五色の恋模様! デート大作戦と新たなる胎動

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菖蒲編 恋する忍者の、未来予想図

デート大作戦、四日目。

その日の朝、僕の工房に現れたのは、未来の僕の妻(自称)、犬神菖蒲君だった。

だが、その姿は、いつもの闇に溶け込むような黒装束ではなかった。

濃紺の地に、白い撫子の花が可憐に咲き乱れる、上品な浴衣姿。

腰まで届く長い黒髪は、器用に結い上げられ、銀色のかんざしが一本、きらりと光っている。

その、あまりにも可憐で、あまりにも見慣れない出で立ちに、僕の思考は、一瞬、完全に停止した。


「…主殿。その…似合って、いるでござろうか…」


頬を染め、もじもじと俯く彼女の姿は、凄腕の忍者というよりは、夏祭りに初めて好きな人と来た、うぶな少女そのものだった。


(ふむ。これは、驚いた。衣服という外的要因が、個体の印象値に与える影響は、クラウディア君の件で既にデータとして取得済みだったが…。彼女の場合、そのギャップ…すなわち、普段の隠密行動に特化した機能的な装いと、この、日本の伝統美を体現したかのような装いとの間に生じる、極めて大きな情報量の落差が、観測者の脳に、一種の認識的バグを引き起こしている。簡潔に言うと、破壊的に、可愛い)。


僕の、科学者としての冷静な分析(という名の動揺)が、結論を導き出す前に、彼女は、意を決したように、僕の袖を、きゅっと掴んだ。


「主殿!本日は、我らの未来のための、重要な視察でござる!」


彼女は、そう宣言すると、僕の手をぐいと引き、王都で最も神聖な場所へと、僕を連行した。

その、小さな手に込められた、意外なほどの力強さに、僕は、なすすべもなく、引きずられていくしかなかった。



たどり着いたのは、王都大聖堂。

天を突くようにそびえる二つの尖塔。

壁一面に嵌め込まれた、巨大なステンドグラス。

その、あまりにも荘厳で、神聖な空間に足を踏み入れた瞬間、僕たちは、柔らかな光と、パイプオルガンの荘厳な音色に包まれた。


「…きれい…でござるな…」


菖蒲君が、ぽつりと、感嘆の息を漏らす。

その黒い瞳は、目の前に広がる、神の御業としか思えぬ光景に、完全に心を奪われていた。

七色の光が、天から降り注ぎ、大理石の床に、幻想的な模様を描き出している。


そして、その光の道の先。

祭壇の前で、ちょうど、一組の男女が、愛を誓い合っていた。

純白のウェディングドレスに身を包んだ花嫁と、緊張した面持ちの、しかし、幸せそうな花婿。

結婚式だ。


神父の、厳かな言葉。

二人が、指輪を交換する、神聖な儀式。

そして、誓いの口づけ。


その、どこまでも幸福な光景を、僕たちは、後方の席から、息を殺して見守っていた。


「…主殿。いずれ、我らも、あのように…」


僕の隣で、頬を染め、うっとりとした表情で、純白のドレスに身を包んだ花嫁を見つめる菖蒲君。

その横顔は、いつもの、任務に忠実な忍者ではなく、恋に恋する、一人の少女のそれだった。


(なるほど…。指南書によれば、『恋仲の男女は、将来を想起させる場所に赴くべし』とあった。この、結婚式という儀式は、男女間の社会的契約を、神という絶対的な概念の前で公証することで、その繋がりをより強固なものにする、極めて合理的な社会システム。彼女は、僕と彼女の関係性を、この段階まで進めることを、視野に入れている、と。…いや、待て。思考の飛躍が、甚だしいな)。


僕が、一人、冷静に状況を分析していると、式を終えた新郎新婦が、満面の笑みで、僕たちのすぐ横のバージンロードを、歩んでいった。

友人たちからの、温かい祝福の拍手と、色とりどりの花のシャワー。

その、あまりにも幸せな光景が、僕たちのすぐ目の前で、繰り広げられる。

その時、花嫁が投げたブーケが、美しい放物線を描き、くるくると回転しながら、僕たちの頭上へと、飛んできた。


「わっ…!」


僕が、咄嗟に身を屈めた、その瞬間。

僕の背後から、一つの黒い影が、音もなく、天高く跳躍した。

菖蒲君だった。


彼女は、空中で、まるで舞うように一回転すると、落下してくるブーケを、その小さな手で、見事に、キャッチしたのだ。

周囲の参列者たちが、「おおっ!」と、どよめく。

着地した彼女は、何事もなかったかのように、その手に握られた、純白の花束を、僕の前に、すっと差し出した。


「主殿。指南書によれば、この花束を受け取った女子は、『次に嫁に行く』とされておりまする。つまり、これは、天が、我らの未来を、祝福している証に他なりませぬ」


彼女は、顔を真っ赤にしながらも、どこまでも真剣な瞳で、僕を、じっと見つめてくる。

その、あまりにも純粋で、あまりにも真っ直ぐな想いに、僕は、ただ、圧倒されるしかなかった。



次に彼女が僕を連れて行ったのは、王都でも最高級と名高い、宝飾店だった。

ベルベットの絨毯が敷き詰められた、豪奢な店内。

ガラスケースの中には、眩いばかりの宝石たちが、誇らしげに鎮座している。


「主殿、これぞ『結婚指輪』なる、愛の証!指南書によれば、男が女に贈る、絶対的なる忠誠の誓いの品でござる!」


彼女は、きらきらと輝く、ダイヤモンドの指輪が並んだショーケースの前に、僕をぐいと引っ張っていく。

その瞳は、宝石の輝き以上に、期待の色で、爛々と輝いていた。


「この、円という形は、『永遠』を意味し、決して途切れることのない愛を象徴しているそうでござるな。実に、合理的で、美しい概念でござる」


彼女は、うっとりと、指輪たちを眺めている。

そして、意を決したように、僕の顔を、じっと見上げてきた。


「主殿は、拙者に、どのような指輪を、贈ってくださるのでござるか…?」


その、あまりにも真っ直ぐな問いに、僕は、言葉に詰まるしかなかった。

冷や汗が、背中を伝うのを感じる。


(ま、待て。落ち着け、僕の頭脳。これは、あくまで、彼女の、文化人類学的な興味に基づく、純粋な質問だ。決して、僕に、具体的な選択を迫っているわけでは、ないはずだ。そうだ。ここは、科学者として、最も、当たり障りのない、論理的な回答を、導き出すんだ)。


「…ふむ。指輪の素材として、最も合理的選択肢を挙げるならば、やはり、オリハルコンとアダマンタイトの複合合金だろうな。強度、耐腐食性、そして、マナ伝導率においても、現存する金属の中では、最高レベルの性能を誇る。

デザインは、無駄を削ぎ落とした、シンプルなものが望ましい。戦闘時に、敵の鎧に引っかかるような、装飾過多なデザインは、非合理的だからな」


僕の、100点満点の、そして、情緒の欠片もない、完璧な回答。

それを聞いた菖蒲君は、一瞬、きょとんとした後、ぷくーっと、可愛らしく頬を膨らませた。


「…主殿の、朴念仁」


ぽつりと、そう呟くと、彼女は、僕の手を掴み、ずんずんと、店を出て行ってしまった。


その日のデートの、ハイライトは、思わぬ形で、僕たちの前に現れた。

街の広場を通りかかった、その時だった。


「きゃあああっ!」


悲鳴と、人々のどよめき。

見ると、広場の中心に立つ、建国の英雄王の巨大な石像。

その、天に掲げられた剣の先、地上から15メートルはあろうかという、その一点に、小さな男の子が、しがみついていたのだ。

どうやら、悪ふざけで登ったはいいが、降りられなくなってしまったらしい。

下では、母親らしき女性が、顔面蒼白で、「誰か、誰かうちの子を助けて!」と叫んでいる。

衛兵たちも、駆けつけてはいるが、あまりの高さに、なすすべなく、右往左往しているだけだった。


「まずいな。あの子の握力も、もう限界に近い。下手に声をかければ、パニックになって、手を離しかねない…」


僕が、懐のワイヤー射出機の使用を検討した、その瞬間。

隣にいたはずの、菖蒲君の気配が、ふっと消えた。


「主殿。しばし、あそこの者たちの、気を引いてくだされ」


いつの間にか、僕の背後に回り込んでいた彼女が、静かな、しかし、鋼の意志を宿した声で、そう告げた。

その瞳は、もはや、恋する少女のものではない。

任務を遂行する、一流の忍びの、それだった。


僕は、即座に、彼女の意図を理解した。


「…承知した」


僕は、ポーチから、小型の音響閃光弾を取り出すと、広場の、人々から少し離れた場所へと、投げ込んだ。

刹那、閃光と、鼓膜を揺さぶる轟音が、炸裂する。

広場にいた、全ての人間が、僕も含めて、一瞬だけ、その光と音に、意識を奪われた。


その、コンマ数秒にも満たない、一瞬の隙。


僕が、再び、石像へと視線を戻した時。

そこに、信じられない光景が、広がっていた。

さっきまで、剣の先にしがみついていたはずの、男の子の姿が、消えていたのだ。

そして、その代わりに、母親の腕の中には、いつの間にか、きょとんとした顔の、我が子が、確かに抱きしめられていた。


「え…?いつの間に…?」


母親も、衛兵も、群衆も、何が起こったのか、全く理解できていない。

まるで、神隠し。

あるいは、一陣の、風の悪戯。


だが、僕だけは、見ていた。

あの、閃光が弾けた、一瞬の闇の中。

一つの黒い影が、音もなく、重力すら無視したかのような軌道で、石像の壁面を駆け上がり、子供をその腕に抱くと、再び、影の中へと、消えていく、その一部始終を。


僕が、群衆の影へと視線を向けると、そこには、何事もなかったかのように、浴衣姿の菖蒲君が、静かに佇んでいた。

その額には、玉の汗が、一筋、光っている。


(…すごい)

(これが、犬神一族の、真髄か)


それは、プリズム・ナイツの誰にもできない、彼女だけの、神業だった。

派手な魔法でも、圧倒的なパワーでもない。

ただ、静かに、誰にも知られることなく、一つの命を救い出す、究極の、救出術。


(…これだ)


僕の脳内に、新たな、合体必殺技の、閃光が迸る。

菖蒲君の、この、絶対的な隠密行動能力。

これと、他のメンバーの、強力な攻撃能力を、組み合わせることができれば。

例えば、彼女が、敵の認識を完全に欺瞞し、その死角に、不可視の分身を送り込む。

そして、その分身が、ルージュ君の、最大出力の雷撃を、ゼロ距離で、敵の核コアへと、叩き込む。


その名は、『ファントム・ボルト』

影が放つ、必殺の雷。

これならば、どんなに強固な装甲を持つ敵であろうと、内部から、一撃で破壊できる。


僕は、興奮に打ち震えながら、彼女の元へと、歩み寄った。


「菖蒲君。君は、最高のヒーローだ」


僕の、心の底からの称賛に、彼女は、一瞬、驚いたように目を見開いた後、はにかむように、微笑んだ。


「…主殿の、お役に立てたのであれば、本望でござる」


その日のデートの帰り道。

夕日に染まる、王都の橋の上で、僕たちは、並んで、流れる川面を眺めていた。

彼女は、珍しく、「ござる」口調を、封印していた。


「…アルト様」


「…なんだい、菖蒲君」


「私ね、ずっと、一族の道具として生きてきたの。感情を殺して、任務をこなすだけの、影として。嬉しいとか、悲しいとか、そういう気持ちは、任務の邪魔になるからって、教えられてきた」


彼女は、静かに、自分の過去を語り始める。


「でも、あなたに出会って、初めて、暖かい気持ちを知ったの。胸が、きゅってなって、ドキドキして、なんだか、息が苦しくなる。指南書には、これを『恋』だって、書いてあった」


彼女は、立ち止まり、僕に向き直る。

その黒い瞳には、夕日を反射して、美しい涙が、きらきらと浮かんでいた。


「だから、お願い。いつか、本当に、私を、あなたの『もの』にして…。道具じゃなくて、影じゃなくて、ただの、菖蒲として、あなたの隣で、笑っていたいの…」


その、か細く、しかし、切実な願い。

その、あまりにも純粋で、あまりにも痛ましい、魂の叫び。

僕は、なすべき言葉を、見つけられなかった。

ただ、気づけば、その、震える、小さな身体を、強く、強く、抱きしめることしか、できなかった。


腕の中で、彼女は、子供のように、声を殺して、泣いていた。

その、温かい涙が、僕の胸を、静かに濡らしていく。

忍びとして、ずっと、一人で、闇の中を生きてきた少女。

彼女が、初めて見つけた、光。

それが、僕なのだとしたら。

僕は、その光を、決して、消させはしない。

そう、心に、誓った。

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