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【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?  作者: のびろう。
第8章 絶望の戯曲と希望のプリズム

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偽りの英雄、血塗られた喝采

あの日、僕たちの英雄譚は、一度、死んだ。

偽りの黄金の光に焼かれ、民衆の冷たい罵声という雨に打たれ、ズタズタに引き裂かれた。

だが、物語は、まだ終わってはいなかった。

いや、ここからが、本当の始まりだったのだ。


あれから三日。

王都は、奇妙な熱狂と、その裏側に潜む歪な緊張感に包まれていた。

新聞は連日、新たな守護神『ゴールデン・ジャスティス』の活躍を一面で報じ、民衆は彼の黄金の鎧がもたらす、わかりやすい『力』と『正義』に酔いしれていた。

プリズム・ナイツの名は、すでに過去の、そして、滑稽な偽物たちの代名詞として、人々の記憶の片隅へと追いやられようとしていた。


王立騎士団養成学院、僕の工房。

窓から差し込む朝日は、やけに明るく、それがかえって僕たちの心に落ちる影を色濃くしていた。


「アルト、はい、紅茶。ちゃんと眠れた?」


心配そうに僕の顔を覗き込むのは、リゼット・ブラウン。

その瞳には、もう涙の跡はない。だが、その代わりに、嵐の前の海のような、静かで、しかし、どこまでも強い意志の光が宿っていた。

彼女だけではない。


「…レヴィナス。昨夜あなたが解析していた、敵のエネルギー波形の追加データです。私の見解もまとめておきました」


工房の隅の椅子に座り、涼やかな顔で分厚い資料を差し出すのは、クラウディア・フォン・ヴァレンシュタイン。敗北は、彼女の砕けたプライドの欠片を、騎士としての鋼の使命感へと鍛え直したようだった。以前のような刺々しい理屈っぽさは消え、その声には、仲間への信頼が滲んでいる。


「あらあら、お二人とも、あまり根を詰めるといけませんです。わたくし、皆さんの心が少しでも安らぐように、お祈りしてきましたから」


聖母のような微笑みを浮かべて、エミリア・シフォンが、そっと僕たちのカップにハーブティーを注ぎ足す。トラウマを乗り越えた彼女の優しさは、もはや弱さの言い訳ではなく、全てを包み込む、強さそのものだった。


三者三様の、覚悟。

彼女たちの心は、確かに、あの日、僕が流した一筋の涙を触媒にして、一つに固まっていた。

「私たちが、アルトを笑顔にしなきゃ」

その想いが、砕かれたはずの彼女たちの心を、以前よりも遥かに強く、そして、美しく輝かせている。


僕は、机の引き出しから、三つのブレスレットを取り出した。

あの日以来、寝る間も惜しんで改良を重ねた、新しい『プリズム・チャーム』だ。


「リゼット、クラウディアさん、エミリアさん」


僕が一人一人の名前を呼ぶと、三人は息を呑み、僕の手に視線を集中させた。

外見は、以前のものと大差ない。だが、その内部構造は、僕の科学者としての魂と、彼女たちへの信頼の、全てを注ぎ込んだ、全くの別物だ。


「これは…?」

「決戦用の、アップデート版だ。僕の分析と、君たちの成長した心をシンクロさせるための、新しい回路を組み込んである。詳しい説明は、後だ」


僕は、一人一人の手を取り、新しいプリズム・チャームを、その腕にはめ込んでいく。


「今はただ、信じてくれ。君たちの勇気と、僕の計算を」


僕の言葉に、三人は、それぞれの瞳に決意の炎を灯し、力強く、頷いた。


その時だった。


―――ウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!


王都全体に、腹の底を抉るような、けたたましい警報アラームが鳴り響いた。

それは、先日、学院を襲った鋼鉄の軍団の時と同じ、王国最高レベルの、敵性存在の侵入を知らせる、非常警報。


窓の外に、僕たちは見た。

王都の、青く澄み渡っていたはずの空が、急速に、どす黒い暗雲に覆われていく様を。

そして、地平線の彼方から、黒い津波のように押し寄せてくる、無数の異形の影を。


「魔獣…!なぜ、王都のこんな近くに、これほどの数が…!」

クラウディアが、戦慄の声を上げる。

だが、それは、ただの魔獣の群れではなかった。その中には、明らかに知性を持って統率された、禍々しい鎧を纏う魔人兵の集団が混じっている。

悪の組織、『虚構の楽園』。

彼らの、壮大な悲劇の舞台の幕が、今、上がったのだ。


街は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変わった。

建物をなぎ倒し、人々を蹂躙する、暴力の奔流。

王都の騎士団が、必死に応戦するが、その数はあまりにも、絶望的に、足りていなかった。


「誰か…誰か助けて!」

「いやあああああっ!」


悲鳴と、絶望の声が、王都を満たす。

そんな中、人々は、一つの名を、祈るように叫び始めた。


「ゴールデン・ジャスティス様…!」

「我らが英雄よ!どうか、この王都をお救いください!」


その、民衆の祈りに応えるかのように。

天を覆う暗雲を、一筋の黄金の光が切り裂いて、舞い降りた。

太陽の光を反射して輝く、神々しいまでの黄金の鎧。純白のマントが、絶望の風に、気高くはためく。


「おお…!ジャスティス様だ!」

「我らの英雄が、来てくださったぞ!」


民衆の顔に、希望の光が差す。

ちょうどその時、巨大なミノタウロスが、瓦礫の下で泣き叫ぶ親子の元へと、その巨大な斧を振り上げていた。

誰もが、息を呑む。

ゴールデン・ジャスティスは、閃光となってその間に割って入った。


「おお、さすがはジャスティス様!」

民衆が、安堵の声を上げる。

だが、次の瞬間。彼らは、信じられない光景を、目の当たりにすることになる。


「ふはは…素晴らしい!実に、素晴らしい悲鳴だ!」


黄金の英雄は、親子を庇うどころか、その小さな身体を、まるで虫けらのように、片手で掴み上げた。


「え…?」

「ジャスティス…様…?」


母親の、呆然とした声。

それに応えるように、ゴールデン・ジャスティスは、その黄金の兜の奥で、冷たく、嘲笑った。


「君たちは、実に良い『役者』だ。この、私の、最高の舞台の幕開けを飾るにふさわしい、絶望の叫びを、聞かせておくれ」


ザシュッ。

あまりにも、軽く、乾いた音だった。

黄金の腕が、無慈悲に、母親と子供の胸を貫いた。

噴き出した鮮血が、神々しかったはずの黄金の鎧を、汚らわしい赤黒い色に、染め上げていく。


「…………あ」


民衆の、誰かが漏らした、か細い声。

歓声は、死んだ。

希望は、絶望へと、反転した。

時が、止まったかのような静寂の中、ゴールデン・ジャスティスは、ゆっくりと、その亡骸を投げ捨てると、広場に集う、全ての民衆へと向き直った。


「さて、愚かなる王都の民よ。紹介しよう」


芝居がかった、朗々とした声が、響き渡る。


「我が名は、カミヤ! 悪の組織、『虚構の楽園アルカディア・フォールス』に所属し、至高の悲劇を演出する、“演出家”の一人だ!」


彼は、両腕を広げ、恍惚とした表情で、天を仰いだ。


「我らが目的は、支配でも、破壊でもない! この世界という壮大な舞台で、最高の『物語』を上演すること!」


「そして、私が担当する演目は、『失墜する英雄譚』!」


「君たちが愛し、信じた英雄が、君たちを裏切り、蹂躙する! その、希望が絶望へと変わる瞬間の、美しい輝き! それこそが、最高の芸術なのだよ!」


狂気。

彼の言葉は、常人の理解を、完全に超越していた。

彼は、この虐殺を、自らが作り出す、最高のエンターテインメントだと、心の底から信じているのだ。


「さあ、始めよう! この王都を舞台にした、壮麗なる悲劇の第二幕を! 君たちには、私の物語を彩る、最高の『キャスト』として、死の舞踏を踊ってもらうとしよう!」


宣言と共に、カミヤの身体から、黄金のオーラが爆発的に溢れ出し、周囲の魔獣や魔人兵たちを、さらに凶暴化させていく。

虐殺が、始まった。

騎士団の抵抗も、もはや、無意味だった。カミヤの放つ黄金の光の一閃が、屈強な騎士たちを、紙細工のように薙ぎ払っていく。


人々が、最後の避難場所として殺到していた、中央広場。

そこへ、ついに、カミヤの、無慈悲な凶刃が、向けられた。

誰もが、死を覚悟した、その時。


天から、三色の閃光が、降り注いだ。


「「「変神っ!――プリズム・チェンジッ!!」」」


最初に、カミヤの黄金の剣を受け止めたのは、紅蓮の炎。

灼熱のオーラを孔雀の羽のように広げ、不屈の闘志をその瞳に宿した、一人の少女。


「――炎の魔法戦士。セーラー・フレア!」


「あんたの、くだらないお芝居は、ここで終わりよ!」


次に、広場を蹂躙していた魔獣の群れが、一瞬にして、氷の彫像へと変わる。

絶対零度の冷気をその身にまとい、戦場に舞い降りた、気高き騎士。


「――氷の魔法騎士。ナイト・ブリザード!」


「この王都は、あなたの歪んだ自己満足のための舞台ではありません」


そして、最後に。傷つき、倒れていた騎士団や民衆の身体を、温かく、優しい翠の光が、包み込んでいく。

光で編まれた六枚の翼を背負い、慈愛の微笑みを浮かべた、天からの御使い。


「――癒やしの魔法戦士。ヒーリング・エンジェル!」


「もう、誰も傷つけさせはしません…!あなたの、凍てついた心も、この力が、癒やしてみせます…!」


絶望の闇に閉ざされた王都に、三色の希望の光が、確かに灯った。

プリズム・ナイツ、ここに、見参。


「ほう…現れたか、プリズム・ナイツ。惨めな敗北の味を忘れ、またこの舞台に上がってきたか。愚かな役者たちめ」

カミヤは、僕たちを嘲笑うように、ゆっくりと拍手を送る。


セーラー・フレア――リゼットが、彼を睨みつけ、叫んだ。

「あんたこそ、何者なのよ!何のために、こんな酷いことを…!」


カミヤは、心底楽しそうに、その唇を歪めた。

「言ったはずだ。全ては、最高の『物語』のため。この王都を、悲劇と絶望の炎で焼き尽くし、歴史に刻まれる、不滅の傑作へと昇華させる。それが、今回の我々の目的だよ」


「そんなこと…!」

「「「私たちが、絶対に許さない!」」」


三人の少女の声が、一つに重なる。

それは、偽りの正義に、本物の正義を叩きつける、宣戦布告。


王都の、世界の、そして、愛するプロデューサーの笑顔を懸けた、プリズム・ナイツの、本当の戦いが、今、始まろうとしていた。

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