表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?  作者: のびろう。
第7章 試練!砕かれた心とヒーローの涙

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/74

僕を励ませ!暴走お悩み相談選手権

降り続いた雨が嘘のように上がり、朝日が王都を照らし始めた、あの屈辱の公開演習の翌朝。

リゼット、クラウディア、エミリアの三人は、それぞれの部屋で、ほとんど眠れぬまま、重たい身体を起こしていた。心の傷は、まだ生々しく、熱を持っている。

だが、三人の胸に共通して浮かんでいたのは、自分たちのこと以上に、ある一人の人物への、深い憂慮だった。


(アルトは…大丈夫かしら…)


いつも冷静で、どんな時でも最適解を導き出す、我らが天才プロデューサー。

彼は、あの後、一言も、僕たちを責めなかった。ただ、静かに、僕たちのことを見ていただけ。

その、あまりにも静かすぎる横顔が、逆に、三人の胸を締め付けていた。


「よし…!」


最初に動いたのは、やはりリゼットだった。

彼女は、まだ少しだけ赤い目をこすると、パン屋の娘としての本領を発揮すべく、厨房へと向かった。

「アルトが落ち込んでる時こそ、私の出番なんだから!とびっきり美味しい朝食で、元気にしてあげなくっちゃ!」


その頃、クラウディアとエミリアも、示し合わせたかのように、僕の工房の前に集まっていた。

三人は顔を見合わせ、一つ頷くと、代表してリゼットが、そっと扉をノックする。


「アルトー?朝よー。入るわね?」


返事はない。まあ、いつものことだ。

だが、扉を開けた三人が目にしたのは、いつもの、研究に没頭して徹夜した、彼の姿ではなかった。


工房の主、アルト・フォン・レヴィナスは、机に突っ伏すようにして、ぐったりと椅子に座り込んでいた。

目の前には、手付かずの夕食と、冷めきった紅茶。ノートパソコンのモニターは、無機質な戦闘データを映し出しているだけ。

そして、何よりも異常だったのは、彼の顔だった。

目の下には、これまで見たこともないほど深い隈が刻まれ、その瞳からは、いつも宿っているはずの、知的な光が、完全に消え失せていた。まるで、魂が抜け落ちた、抜け殻のようだった。


「アルト…?」


リゼットが、おそるおそる彼の頬に触れる。その時、彼女は見てしまった。

彼の頬に、乾いた、一筋の涙の跡が、くっきりと残っているのを。


――アルトが、泣いた?

あの、どんな時でも冷静で、僕たちの前では決して弱さを見せなかった、アルトが?


その衝撃的な事実は、雷となって三人のヒロインの脳天を直撃した。

自分たちが落ち込んでいる場合ではなかった。

事態は、彼女たちの想像を、はるかに超えて、深刻だったのだ。


「ど、どうしよう…アルトが、私たちのせいで…!」

「わ、わたくしたちが、負けてしまったから…!」

「落ち着きなさい、二人とも!…だが、これは、緊急事態レベルAね…!」


三人は、そっと工房の扉を閉めると、廊下で緊急作戦会議を開始した。議題は、もちろん一つ。

『我らがプロデューサー、アルト・フォン・レヴィナスを、いかにして絶望の淵から救い出すか』である。


「と、とにかく、何か甘いものを食べさせれば、元気になるんじゃないかしら!?」

「短絡的ね。精神的ショックは、糖分の摂取だけでは回復しないわ。ここは、身体を動かして、強制的に気分をリフレッシュさせるべきよ!」

「お二人とも、落ち着いてくださいです…。アルトさんはきっと、お辛い気持ちを、誰かに聞いてほしいのかもしれません…」


三者三様の、善意に満ちた意見。

だが、今の彼女たちには、致命的に欠けているものがあった。

それは、『冷静さ』と、そして、『客観性』だった。


かくして、アルト・フォン・レヴィナスの、人生で最も過酷で、最も長い一日が、幕を開けた。

題して、『第一回・私こそがアルト様を救う!暴走お悩み相談選手権』の、ここに、堂々たる開幕である!



【ラウンド1:リゼットプレゼンツ・糖分過剰摂取による強制元気注入療法】


「アルトー!落ち込んでる時は、甘いものに限るわ!はい、あーん!」


僕の意識が覚醒したのと、口の中に、問答無用でイチゴのショートケーキが突っ込まれたのは、ほぼ同時だった。

目の前には、エプロン姿で満面の笑みを浮かべるリゼットと、机の上に所狭しと並べられた、おびただしい数のケーキ、クッキー、パイ、マカロン、エクレア…。

ここは、お菓子の国だっただろうか。


「ど、どうしたんだ、リゼット…これは…」

「いいから、いいから!黙って食べて!私が、アルトのために、一晩中かけて作ったんだから!これを全部食べ終わる頃には、嫌なことなんて、全部忘れちゃってるはずよ!」


彼女は、有無を言わさぬ勢いで、次から次へと僕の口にスイーツを運び込んでくる。

思考能力が低下している僕の脳は、それを拒否するという選択肢を導き出せない。

ただ、家畜のように、与えられるがままに、甘い暴力(という名の愛情)を受け入れ続ける。


(甘い…頭が、クラクラする…)

(だが…彼女は、僕のために…)


朦朧とする意識の中、僕の身体は、本能的に、限界を訴え始めていた。



【ラウンド2:クラウディアプレゼンツ・筋繊維破壊による精神浄化ゴッドブレスユートレーニング】


「そこまでよ、ブラウン嬢!そのやり方は非効率的極まりないわ!」


僕が、致死量の生クリームによって意識を失いかける、その寸前。

救いの女神(ただし、スパルタ教官の姿をしている)が、工房の扉を蹴破って現れた。

クラウディア・フォン・ヴァレンシュタイン、その人である。


「レヴィナス!感傷に浸っている暇があるなら、身体を動かせ!肉体の限界を超えることでしか、精神の壁は打ち破れない!さあ、行くわよ!」


彼女は、砂糖でべとべとになった僕の手を掴むと、半ば引きずるようにして、学院の練兵場へと連行した。

そして、僕の手に、木剣を握らせる。


「まずは、素振り千本から!邪念を振り払うように、一振り一振りに魂を込めなさい!」

「む、無理だ…僕にそんな体力が…」

「言い訳は無用!ヒーローとは、己の限界を常に超えていくものでしょう!?」


彼女の瞳は、本気だった。

僕がヒーローを愛していることを知っているからこその、彼女なりの、最大級の叱咤激励。

その想いを、無下には、できなかった。


僕は、ふらつく足で立ち、生まれて初めて、木剣を振るう。

一振り、また一振り。

腕が、鉛のように重い。

だが、クラウディアは、容赦なく檄を飛ばし続ける。


「声が小さい!」「腰が入っていないわ!」「そんな貧弱な精神で、どうして仲間を守れるというの!」


(き、厳しい…)

(だが…彼女も、僕のために…)


限界を超えた肉体疲労と、リゼットによる糖分攻撃の副作用で、僕の視界は、星が飛んでいた。

まさに、身も心も、ボロボロだった。



【ラウンド3:エミリアプレゼンツ・終わりなき懺悔と慈愛のオールナイト・ヒアリング】


僕が、練兵場の片隅で、生まれたての小鹿のように崩れ落ちていた、その時。

そっと、僕の肩に、温かいショールがかけられた。

振り返ると、そこには、心配そうに僕の顔を覗き込む、エミリアさんの姿があった。


「アルトさん…お辛そうですね…。よろしければ、教会へ参りませんか?」


彼女の、聖母のような微笑み。

それは、今の僕にとって、砂漠の中のオアシスのように見えた。


「きっと、アルトさんの中には、たくさんの、言葉にできない想いが溜まっているのだと思います。神様の前で、その全てを告白ざんげすれば、きっと、心が軽くなりますです」


僕は、その優しい誘いに、抗うことができなかった。

静かな教会で、少しだけ、休ませてもらおう。

そんな、淡い期待を抱いて。


――だが、それは、致命的な判断ミスだった。


礼拝堂の、告解室。

狭く、薄暗い、その空間で、僕とエミリアさんは、小さな仕切りを挟んで、向かい合っていた。


「さあ、アルトさん。あなたの心の罪を、全て、お話しください。わたくしが、一晩中でも、お聞きしますから」


真剣な、慈愛に満ちた瞳。

彼女は、本気だった。

僕が、何か、とてつもない『罪』を犯したと、信じて疑っていない。


(罪…僕の罪とは、一体…)

(いや、そもそも、これはそういう場ではないはずだ…)


だが、僕の疲労しきった脳は、的確な反論の言葉を紡ぎ出すことができない。

そして、僕の沈黙を、彼女は、深い苦悩と受け取ったらしかった。


「大丈夫です、アルトさん。焦らなくても。わたくし、いつまででも、待っていますから」


かくして、僕の、人生で最も長く、最も気まずい夜が、始まった。

沈黙。

ひたすらの、沈黙。

時折、エミリアさんの「神は、あなたを赦したもう…」という、優しい呟きだけが、静寂を破る。


僕は、ただ、彼女の善意という名の拷問を、夜が明けるまで、受け入れ続けるしかなかった。



翌朝。

糖分と、筋肉痛と、寝不足と、そして、謎の罪悪感。

あらゆる負のステータス異常を抱え、ゾンビのような足取りで、僕は自室の工房へと帰還した。

そこには、三人のヒロインが、心配そうな顔で、僕を待っていた。


「「「アルト(様)!」」」


三人が、僕の姿を見るなり、駆け寄ってくる。

そして、その顔を見て、絶句した。

隈はさらに深くなり、顔色は土気色。その消耗しきった姿は、昨日よりも、明らかに、悪化していた。


「ご、ごめんなさい!私のせいで…!」

「いえ、私のせいですわ…!」

「わ、わたくしの…!」


僕の、やつれきった姿を見た三人は、ようやく、自分たちの暴走に、気づいたらしかった。

だが、次の瞬間。

彼女たちの頭上で、何かが、カチリと、噛み合った。


「…そうか!」とリゼットが叫ぶ。

「私たちがメソメソしてたから、アルト様を心配させて、疲れさせてしまったんだわ!」

「ええ、そうに違いないわ!」とクラウディアが頷く。

「私たちが、しっかりしなくてどうするの!」

「そうです!わたくしたちが、アルトさんを、お支えしないと!」とエミリアが目を輝かせる。


謎の結束。

そして、謎の自己完結。

僕の疲労と心労は、一切、考慮されていない。


僕が、何か言う前に、三人は力強く頷き合うと、僕に向き直り、高らかに宣言した。

「「「見ていてください、アルト(様)!私たちが、必ず、あの偽物ヒーローを倒してみせますから!」」」


(……)


僕は、もはや、ツッコミを入れる気力もなかった。

ただ、首をかしげながら、ぼんやりと、思考する。


(僕の疲労を触媒に、チームの結束が、強固になった…?)

(…興味深い、化学反応だ…)


だが、その思考の片隅で、僕は、確かに、結論を導き出していた。

偽ヒーロー、ゴールデン・ジャスティス。その戦術、その装備、そして、その行動理念の、決定的な『弱点』を。


僕の反撃は、ここからだ。

そう心に誓いながら、僕は、三人のヒロインたちの、頼もしい(?)背中を、見つめていた。

そして、意識が、ぷつりと、途切れた。

僕の長い一日は、ようやく、終わりを告げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ