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【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?  作者: のびろう。
第7章 試練!砕かれた心とヒーローの涙

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降りしきる雨と、ヒーローの無力な涙

偽りの英雄が勝利を宣言し、民衆がそれに熱狂する声。

そして、自分たちに向けられる、数え切れないほどの罵声と嘲笑。

僕たち『プリズム・ナイツ』の、ささやかな英雄譚が音を立てて崩れ落ちた、あの演習場を、僕たちは夢遊病者のような足取りで後にした。


誰一人、言葉を発する者はいなかった。

まるで、僕たちの心を映し出すかのように、澄み渡っていたはずの青空は、いつの間にか、厚く、重たい灰色の雲に覆われていた。


ぽつり、と、誰かの頬を濡らしたのは、涙か、それとも。

やがて、それは、一粒、また一粒と数を増し、僕たちの身体を、心を、叩き始めた。

冷たい、冬の雨だった。


「…………」

「…………」

「…………」


リゼットも、クラウディアも、エミリアも、俯いたまま、声も出さずに歩き続ける。

いつもなら、太陽のように笑うリゼットの栗色のポニーテールは、雨に濡れて重く垂れ下がっていた。

いつもなら、氷のように背筋を伸ばしているクラウディアの肩は、小さく丸められていた。

いつもなら、聖母のように微笑むエミリアの瞳からは、光が消えていた。


雨は、容赦なく降りしきる。

それは、昨日まで僕たちに声援を送ってくれた民衆たちの、冷たい視線そのものだった。

それは、僕たちの砕かれた誇りを、洗い流すどころか、さらに地面に叩きつけていく、無慈悲な鉄槌のようだった。


学院の寮に戻っても、その重苦しい沈黙は続いた。

三人は、それぞれ「少し、一人にしてください」と、か細い声で告げると、自室へと消えていく。その背中は、僕が今まで見た中で、最も小さく、頼りなく見えた。


――リゼット・ブラウンは、自室のベッドに突っ伏していた。

シーツに顔を埋め、声を殺して泣き続けていた。


(悔しい…悔しい悔しい悔しい…!)

(負けたことがじゃない。あんな奴に、アルトが作ってくれた、私たちの夢を…『偽物』だって言われたことが、何よりも悔しい…!)

民衆みんなの、あの目…なんでよ…昨日までは、あんなに笑ってくれてたじゃない…)

(ごめんね、アルト…。私、あなたのヒーローに、なれなかったや…)


――クラウディア・フォン・ヴァレンシュタインは、自室の窓辺に立ち、降りしきる雨を、ただじっと見つめていた。

その手には、愛用の剣が握られている。だが、その切っ先は、力なく床へと向けられていた。


(完敗だった…)

(私の剣も、私のプライドも、何もかもが、あの黄金の男の前では、児戯に等しかった…)

(レヴィナスは、きっと失望したでしょうね。彼が与えてくれた力を、私は全く使いこなせなかった。彼が信じてくれた可能性に、応えられなかった…)

(私は、彼の隣に立つ資格なんて、もとよりなかったのかもしれない…)


――エミリア・シフォンは、学院の小さな礼拝堂で、一人、膝を抱えてうずくまっていた。

祈るべき神の顔も、今は思い浮かばない。


(怖い…人の目が、声が、怖い…)

(あの人たちの目は、わたくしを『呪われた子』だと蔑んだ、昔の村の人たちと同じ目をしていた…)

(アルトさんは、わたくしの優しさを信じてくれたのに…。わたくしは、また、何もできなかった。癒やしの力は、誰の心も救えなかった…)

(やっぱり、わたくしなんかが、ヒーローになろうだなんて、間違っていたんだ…)


三者三様の、絶望。

砕かれた心は、あまりにも深く、あまりにも脆い。

その痛ましいほどの心の悲鳴が、僕の胸を、万力のように締め付けていた。



僕、アルト・フォン・レヴィナスは、一人、工房の自室に戻っていた。

机の上のノートパソコンのモニターには、ゴールデン・ジャスティスとの戦闘データが、無機質な文字列となって表示されている。

彼の鎧の材質、エネルギー出力のパターン、攻撃の軌道予測。

科学者としての僕は、冷静に、淡々と、敵の分析を進めようとしていた。


(…鎧の素材は、オリハルコンとアダマンタイトの複合合金か。あの防御力も頷ける)

(…エネルギー源は、太陽光を魔力に直接変換する、光子コンバーターの改良型と推測。昼間の戦闘では、ほぼ無限のエネルギー供給が可能だ)

(…弱点はあるはずだ。どんな完璧なシステムにも、必ず脆弱性ぜいじゃくせい…『バグ』は存在する。それを見つけ出し、攻略プログラムを組めば、次は必ず…)


そうだ。

問題があるなら、分析し、解析し、解決策を導き出せばいい。

それが、僕という科学者のやり方だった。

どんな難解な数式も、どんな複雑な機械も、僕はそうやって乗り越えてきた。

だから、今回も。

今回だって、きっと…。


――ふと、モニターに映る自分の顔と、目が合った。

そこにいたのは、いつもの、知的好奇心に満ちた天才科学者の顔ではなかった。

ただ、青白い光に照らされた、無力な少年の顔だった。


僕の脳裏に、あの光景が、何度も、何度もフラッシュバックする。

雨の中、うつむいて歩く、三人の少女たちの、震える背中。

涙を堪えるリゼットの、固く結ばれた唇。

プライドを砕かれ、虚ろな目をしていた、クラウディアの横顔。

悪意に怯え、小さく震えていた、エミリアの姿。


彼女たちの、砕かれた心。

その、痛み。


それは、どんな数式でも表せない。

どんな物理法則でも、説明できない。

それは、科学では決して計算できない、『人の心』という名の、あまりにも重たく、そして、温かいものだった。


僕は、生まれて初めて、それを、本当の意味で、理解した。


(…ああ、そうか)


(僕は、なんて愚かだったんだろう)


僕は、彼女たちを『ヒーロー』にしたかった。

僕の科学と、僕の知識で、彼女たちに力を与え、悪を打ち倒す、完璧な英雄をプロデュースしたかった。

だが、僕は、一番大事なことを見落としていた。


彼女たちは、僕の創り出した、データと理論で動く、ロボットじゃない。

血の通った、心を持った、ごく普通の、優しい女の子たちだったんだ。


傷つけば、痛いと泣く。

罵声を浴びせられれば、心が張り裂けそうになる。

そんな、当たり前のことに、僕は、今更、気づいたのか。


守りたかった。

彼女たちの笑顔を、涙から守るために、僕はヒーローを創りたかったはずなのに。

結果として、僕がしたことは何だ?

彼女たちを、衆人環視の晒し者にして、その心を、ズタズタに引き裂いただけじゃないか。


(無力だ…)


僕は、何一つ、分かっていなかった。

彼女たちの、本当の強さも。

そして、本当の、脆さも。


守るべき彼女たちの、砕かれた心を前に、今の僕に、何ができる?

新しい装備か?

完璧な作戦か?

違う。

そんなもので、彼女たちの心に空いた、大きな穴は、決して埋まらない。


僕は、何もできない。

ヒーローに憧れて、ヒーローを創ろうとした、ただの科学オタク。

その空っぽの頭脳と、無力な両手。

それが、僕の、アルト・フォン・レヴィナスの、正体だった。


工房の壁際に飾られた、僕が子供の頃から集めていた、特撮ヒーローたちのフィギュアが、静かに僕を見下ろしている。

不格好でも、泥臭くても、たった一人の誰かを守るために、必死で立ち上がっていた、僕の憧れの英雄たち。

その彼らの、まっすぐな視線が、今の僕には、痛かった。


「…ごめん」


誰に言うでもなく、呟いた。

「ごめんなさい…」


モニターの光が、滲んで、揺らぐ。

頬を、熱い何かが、伝っていく感覚。


ああ、そうか。

僕も、泣くことが、できたんだな。


若き天才科学者の「強くてニューゲーム」が、今、初めて、その進行を停止した。

降りしきる雨の音だけが響く、静かな研究室で、僕は一人。

憧れたヒーローになれなかった、自分の無力さに。

守るべき少女たちを、守れなかった、不甲斐なさに。


ただ、静かに、涙を流すのだった。

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