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【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?  作者: のびろう。
第5章 鋼鉄の襲撃と蒼き騎士の誕生

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鳴り響く警報と、砕かれる誇り

学園内で頻発する、謎の昏睡事件。

その得体の知れない脅威は、王立騎士団養成学院の空気に、目に見えない緊張の膜を張っていた。教官たちの表情は険しく、生徒たちの間でも、楽観的な会話は鳴りを潜めている。

そんな中、今日の午後は、学年合同の野外実戦訓練が予定されていた。


「いいか、貴様ら!昨今の不穏な情勢を鑑み、今日の訓練はより実戦を想定したものとする!相手は、我々教官陣が召喚・使役するゴーレムだ!決して気を抜くなよ!」


訓練場に響き渡る、鬼教官の檄。

生徒たちは、本物の鉄剣を手に、緊張した面持ちでそれぞれの持ち場につく。


「リゼット、大丈夫かい?少し顔がこわばっているようだが」

「だ、大丈夫よ!ちょっと、緊張してるだけ…!」


リゼットは、ぶんぶんと首を横に振る。だが、その手は、腰に下げた剣の柄を、不安げに何度も握りしめていた。

彼女の脳裏には、昏睡状態に陥ったクラスメイトの、土気色の顔が焼き付いて離れないのだ。


そんな彼女の肩を、アルトがぽんと軽く叩いた。


「心配ない。僕の計算が正しければ、君の身体能力なら、この訓練で致命傷を負う確率は0.3%未満だ。安心して戦うといい」

「そ、そういう問題じゃないんだけど…!でも、まあ、ありがとう…」


相変わらずのアルト節に、リゼットは少しだけ頬を緩める。

一方、少し離れた場所では、クラウディアが一人、精神を集中させていた。

その手には、ヴァレンシュタイン家に代々伝わる、美しい装飾が施された一振りのレイピア。


(見ていなさい、アルト・フォン・レヴィナス…)


彼女の脳裏に浮かぶのは、あの日の、黒板いっぱいに書かれた屈辱の数式。

そして、自分の剣を『非効率』だと断じ切った、あの憎らしい男の顔。


(私の剣は、あなたの言うようなただの数字の羅列じゃない。騎士の誇り、伝統、そして魂そのもの。それを、今日ここで証明してあげるわ!)


アルトの『論破』以来、彼女は自分の剣を見つめ直し、これまで以上の鍛錬を自らに課してきた。

魂を込めて振るう一撃は、どんな合理的な機械の動きをも凌駕する。彼女は、そう固く信じていた。

この訓練は、彼女にとって、その信念を証明するための、最初の舞台となるはずだった。


「――訓練、開始ッ!」


号令と共に、教官たちが召喚した土人形クレイゴーレムが生徒たちに襲いかかる。

生徒たちの悲鳴と、剣戟の音が訓練場に響き渡る。

それは、これから訪れる本当の地獄の、ほんの序曲に過ぎなかった。


訓練が始まって、数分が経過した頃。

誰もが、目の前のゴーレムとの戦闘に集中していた、まさにその時だった。


―――ウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!


突如、学院全体に、腹の底を抉るような、けたたましい警報アラームが鳴り響いた。

それは、ただの訓練合図などではない。

王国最高レベルの、外部からの敵性存在の侵入を知らせる、非常警報。


「な、なんだ!?」「この警報は…!」


生徒も、教官たちも、一瞬動きを止めて困惑する。

次の瞬間。

訓練場の周囲を取り囲む森の木々が、内側から、まるで巨大な獣に薙ぎ倒されるかのように、轟音と共にへし折られていった。


そして、現れた。


ガション、ガション、ガション…。


地を揺るがす、無機質な足音。

それは、土や石塊でできた、魔法仕掛けの人形などでは断じてなかった。

陽光を鈍く反射する、鋼鉄の装甲。

関節部から、不気味な排気音を立てるシリンダー。

そして、頭部で妖しく点滅する、単眼の赤いセンサー。

その数、数十…いや、百は下らない。

意思も、感情も、魂も感じさせない、ただ『破壊』と『殲滅』のためだけに設計された、完全自律型の殺戮機械兵団。

ゴーレム。

だが、その本質は、この世界の魔法文明が生み出したものとは、明らかに異質だった。


「ひっ…!な、なんだ、あれは…!」

「敵襲!敵襲だ!総員、陣形を組め!学生は後方へ退避しろ!」


教官たちの怒号が飛ぶが、もはや遅い。

生徒たちは、目の前の光景に、完全に腰が引けてしまっていた。

鋼鉄の軍団は、一糸乱れぬ動きで前進を開始する。その動きには、一切の躊躇も、無駄もない。ただ、プログラムされた命令に従い、最短距離で、最も効率的に、目の前の『敵』を排除しようとする、冷徹な合理性だけがあった。


「うわあああああっ!」


数人の生徒がパニックに陥り、背を向けて逃げ出す。

だが、鋼鉄のゴーレムは、それを許さない。

一体のゴーレムの腕が変形し、そこから放たれたワイヤーアンカーが、逃げる生徒の足を正確に捉える。そして、そのまま地面を引きずり、無慈悲な鉄拳が振り下ろされた。

悲鳴が、途切れた。


阿鼻叫喚。

昨日まで平和だった学び舎は、一瞬にして、鉄と血の匂いが渦巻く戦場へと変貌した。


「くそっ、なんて硬さだ!」「魔法が効かん!?」


教官たちが奮戦するが、彼らの剣も、魔法も、鋼鉄の装甲の前では、ほとんど意味をなさなかった。

それどころか、ゴーレムたちは教官たちの戦い方をリアルタイムで分析し、即座に対応してくる。詠唱の隙を突き、剣の死角を正確に攻め立てる。

それは、あまりにも一方的な、蹂躙だった。


そんな絶望的な状況の中で。

ただ一人、その流れに逆らうように、前へと踏み出した生徒がいた。


「…許さない」


クラウディア・フォン・ヴァレンシュタイン。

その碧眼には、恐怖の色はなかった。

あるのは、自らの学び舎を、仲間を、無残に蹂躙する、得体の知れない侵略者への、燃え盛るような怒りだけ。


「私の誇りにかけて…ここで、貴様らを止める!」


彼女は地を蹴った。

銀色の閃光となり、一体のゴーレムの懐へと舞うように潜り込む。


――クラウディア・フォン・ヴァレンシュタインは、信じていた。


(魂を込めた一撃は、鉄塊の合理性など、凌駕できる…!)


彼女のレイピアが、流麗な弧を描く。ヴァレンシュタイン流剣術、奥義の一つ『氷針アイス・ニードル』。

剣先に凝縮された魔力が、鋼鉄の装甲の、わずかな隙間――関節部を、正確に貫いた。


ギャリリリッ!と甲高い音を立て、ゴーレムの片腕が機能を停止し、だらりと垂れ下がる。


「…やったわ!」


確かな手応えに、クラウディアは一瞬、勝利を確信した。

だが、それは、あまりにも甘い希望だった。


機能を停止したのは、あくまで片腕だけ。

ゴーレムの本体は、何事もなかったかのように、残った左腕の鉄拳を、クラウディアの横腹へと叩き込んできた。


「がっ…!?」


予測していなかった反撃。

人の騎士であれば、腕を貫かれれば、痛みと衝撃で必ず動きが止まる。

だが、この鉄の人形には、『痛み』という非合理的な概念が存在しない。

ただ、残された戦力で、敵を排除するという命令を、遂行するだけ。


吹き飛ばされ、地面を転がるクラウディア。

すぐに体勢を立て直すが、その時、彼女は気づいてしまった。

自分の周囲を、既に五体のゴーレムが、完璧な包囲網を敷いて取り囲んでいることに。


(分析…された…!?)


そうだ。最初の一体は、わざと攻撃を受けさせたのだ。

彼女の剣技、速さ、魔力の特性。その全てを分析するための、ただの『捨て駒』。

そして、得られたデータを、周囲の個体全てが瞬時に共有し、彼女を完全に無力化するための、最適な包囲陣形を構築した。


(非効率な剣…)


脳裏に、あの男の声が蘇る。


(――連続攻撃を想定した場合、それは致命的な隙となる)


ぞっと、背筋に冷たい汗が流れた。

あの男が指摘した通りのことが、今、現実となっている。

私の、美しく、誇り高い一撃。それは、一撃で敵を仕留めきれなかった場合、あまりにも無防備な隙を晒す。


「くっ…!」


それでも、クラウディアは諦めなかった。

プライドが、それを許さない。

彼女は、再び剣を構え、舞う。

だが、その剣は、もはや敵に届かない。

前後左右から、寸分の狂いもなく繰り出される、鋼鉄の拳。

一撃を防げば、死角から次の一撃が襲う。

華麗だったはずの舞は、いつしか、ただ必死に攻撃を捌き、生き延びるためだけの、泥臭い抵抗に変わっていた。


ガキン!

甲高い音と共に、レイピアがゴーレムの腕に弾かれる。

その衝撃で、手が痺れ、全身が軋む。


(ああ、これが…『合理的』な戦い…)


感情も、誇りも、伝統も、魂も、一切を介在させない。

ただ、データに基づき、最も効率的に、敵を追い詰めていく。

それは、クラウディアが最も軽蔑し、否定してきた戦い方。

そして、その戦い方の前に、今、自分はなす術もなく、蹂躙されようとしている。


「まだよ…!まだ…終われない…!」


最後の力を振り絞り、クラウディアは、残された全ての魔力を、愛剣に注ぎ込んだ。

ヴァレンシュタイン流、最大奥義。

その一撃に、彼女は、自らの誇り、意地、そして、魂の全てを乗せた。


「喰らいなさいッ!『白薔薇の一閃グロリアス・ソーン』!!」


白薔薇の幻影をまとった、渾身の突き。

それは、分厚い城壁すら貫くと謳われる、まさしく必殺の一撃。

狙うは、正面のゴーレムの、胸部中枢。


だが。

ゴーレムは、それを避けなかった。

ただ、自らの胸部に、左腕の装甲をクロスさせて、盾としただけ。

最も硬い部分で、最も強い攻撃を、正面から受け止める。

それが、この状況における、最も『合理的』な防御。


そして。


キイイイイイイイイイイインッッッ!!!


金属が、限界を超えて軋む、耳障りな絶叫。

レイピアの切っ先が、分厚い装甲に深々と食い込む。


だが、貫通には、至らない。


次の瞬間。


―――パリンッ。


あまりにも、軽く、乾いた音だった。

クラウディアの耳にだけ、それは、世界の終わりのように、大きく響いた。


彼女の手に残っていたのは、根元から無残に折れた、ただの柄。

宙を舞い、地面に落ちて虚しく転がる、剣の残骸。

ヴァレンシュタイン家の誇り。

彼女の魂そのものであったはずの剣が、いとも容易く、砕け散った。


「…………あ」


クラウディアの世界から、音が消えた。

鳴り響いていたはずの警報も、仲間たちの悲鳴も、何も聞こえない。

ただ、目の前で、自分の剣を砕いたゴーレムの、巨大な鉄拳が、スローモーションのように、振りかぶられるのが見えただけ。


(ああ…そうか…)


砕かれたのは、剣だけではない。

私の、誇りも、信念も、全て。


(これが…私の『非効率』な剣の…結末…)


絶望が、彼女の心を完全に塗りつぶす。

迫りくる鉄の塊を前に、彼女は、ただ呆然と立ち尽くすことしか、できなかった。

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