表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?  作者: のびろう。
第4章 王都の学院と氷のプライド

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/74

騎士の学び舎と、美しき令嬢

辺境ののどかな領地を出てから、馬車に揺られること数日。

どこまでも続いていた緑の平原が途切れ、やがて眼前に広がり始めた光景に、リゼットは馬車の窓に張り付いて歓声を上げた。


「わ…わぁ……!アルト、見て!あれが王都…!?」


地平線の果てまで続く、白亜の城壁。天を突くようにそびえ立つ無数の尖塔。家々の屋根は統一された赤色で、まるで宝石箱をひっくり返したかのように煌めいている。故郷のレヴィナス領が百個あっても足りないくらいの、圧倒的なスケールと活気。それが、王国の心臓部たる王都セントラリアだった。


「すごい…!おとぎ話みたい…!」

「ふむ。都市計画に基づいた合理的な区画整理だ。城壁の高さと厚みから算出するに、大規模な攻城戦を想定した設計思想が見て取れる。人口密度と物流の効率性も考慮されているな。興味深いデータだ」


感動に目を輝かせるリゼットの隣で、アルトは冷静に都市構造を分析している。この温度差も、二人にとってはいつものことだった。


馬車は壮麗な王都の正門を抜け、やがて目的の場所へと到着する。


「ここが…王立騎士団養成学院…」


リゼットは、目の前の建物を呆然と見上げていた。

それは、もはや「学校」という言葉では表現できない、一つの城だった。歴史の重みを感じさせる荘厳な石造りの校舎、寸分の狂いもなく手入れされた広大な庭園、そして、敷地内を行き交う生徒たちが放つ、エリート特有の自信に満ちたオーラ。誰もが、名門貴族の子息や、各地から選りすぐられた天才たちなのだろう。


「すごい場所に来ちゃった…」

「ああ。最高の研究環境だ。見たまえリゼット、あちらの図書館の蔵書数は、僕の故郷の国立図書館のそれを凌駕している可能性がある。知識の宝庫だよ」


気後れするリゼットと、目を輝かせるアルト。

そんな二人が、入学手続きを済ませて校内を案内されている途中、ふと開けた中庭から、澄んだ金属音が聞こえてきた。


キィン! カンッ!

それは、剣と剣が打ち合う音ではなかった。ただ一本の剣が、凄まじい速度で空気を切り裂く音。

まるで美しい音色を奏でる楽器のように、規則正しく、そしてどこまでもストイックに響き渡っている。


「なんだろう…?」


音に引かれるように、リゼットとアルトは中庭に足を踏み入れた。

そして、見てしまった。


そこにいたのは、一人の少女だった。

陽光を浴びて、まるで白金の粒子を振りまくように輝く、一本の長い三つ編み。月光を溶かしてそのまま固めたかのような、透き通る銀髪。

汗を拭うために上げられた白い腕は、驚くほどしなやかで、肌は磨き上げられた白磁のように滑らかだった。

そして、彼女が振り向いた瞬間、アルトたちは息を呑む。


強い意志を宿した、澄み切った冬の湖面を思わせる碧眼。すっと通った鼻筋に、固く結ばれながらも気品を失わない薄い唇。彫刻家が己の理想のすべてを注ぎ込んで削り出したかのような、完璧すぎる美貌。

彼女の存在そのものが、一つの芸術品だった。

名門騎士貴族ヴァレンシュタイン家の令嬢、クラウディア・フォン・ヴァレンシュタイン 。それが、彼女の名だった。


――クラウディア・フォン・ヴァレンシュタインは、焦っていた。


(まだだ…!まだ足りない…!)


父より受け継いだヴァレンシュタイン流剣術。それは、王国でも屈指の伝統と格式を誇る、美しき剣技。寸分の無駄もない洗練された動きは、時に舞踏にも例えられる。

だが、彼女は気づいていた。この美しすぎる剣技が、実戦において限界を迎えつつあることに。

より速く。より強く。より合理的に。

魔獣や、なりふり構わぬ敵と対峙した時、伝統や格式だけでは、守るべきものを守り切れないのではないか。

プライドと、理想と、そして拭いきれない焦燥感。それらが、彼女を一人、無心に剣を振るわせる原動力だった。


そんな彼女の神聖な修練の場に、無遠慮な視線が注がれていることに、クラウディアはすぐに気づいた。

一つは、栗色の髪をした田舎娘の、素直な感嘆の視線。

そして、もう一つは――。


(なんなの、あの男の目は…)


黒髪の少年が、自分を値踏みするかのように、頭のてっぺんから爪先まで、じろじろと観察している。その瞳には、感嘆や憧憬の色はない。まるで、珍しい昆虫か、新型の機械でも分析するかのような、無機質で、探るような光があった。


クラウディアは、不快感を露わに剣を振るうのをやめ、その少年――アルトを睨みつけた。


「…何か用かしら、平民。騎士の修練を無遠慮に眺めるとは、礼儀を知らないようね」


彼女の声は、まるで氷の結晶が触れ合うかのように、冷たく、そして凛と響いた。

その明確な敵意に、リゼットは「ひっ!」と小さな悲鳴を上げる。


「ご、ごめんなさい!あまりに綺麗だったから、つい…!」

「綺麗…?」


クラウディアは、ふんと鼻を鳴らす。

そんなありきたりな賛辞は、聞き飽きている。


「おべっかは結構よ。さっさと立ち去りなさい。あなたたちのような者がいては、鍛錬の妨げになるわ」


完璧なツンデレムーブ。あまりの冷たさに、リゼットがオロオロする中、これまで黙っていたアルトが、おもむろに口を開いた。


「素晴らしい剣技だ。感動したよ」

「なんですって?」


先程の田舎娘と同じ言葉。だが、その声のトーンは全く違う。

アルトは、心からの称賛を込めて、しかし、どこまでも冷静に続けた。


「特に、手首のスナップを利用した剣尖の加速理論は、物理法則に適っている。最小限の力で、最大初速を生み出す理想的なフォームだ。だが――」


そこで、彼は言葉を切った。

そして、無慈悲な宣告を下す。


「――致命的な欠陥が三つある」


「なっ…………!?」


クラウディアの整った顔が、驚愕と、そして次の瞬間には屈辱に染まった。

この私が、ヴァレンシュタイン家の剣を…平民風情の男に…『欠陥』だと?


アルトは、そんな彼女の内心などお構いなしに、科学者としての分析結果を滔々と述べ始める。


「第一に、踏み込み時のエネルギー伝達ロスが大きい。君の体重移動は美しいが、地面反力を効率的に上半身へ伝えられていない。結果、パワーの約18%が無駄になっている」

「じゅ、18パーセント…?」

「第二に、剣を振り抜いた後の体勢制御リカバリーに、コンマ数秒のラグが生じている。連続攻撃を想定した場合、これは致命的な隙となる。バイオメカニクスの観点から言えば、体幹の使い方が非効率的だ」

「ひ、非効率…」

「そして第三に、最も問題なのは、魔力放出のタイミングだ。君は剣を振るう『瞬間』に魔力を付与しているが、これでは魔力のほとんどが運動エネルギーに変換される前に、熱量として大気中に拡散してしまう。最適なタイミングは、インパクトの0.02秒前。そうすれば、出力は理論上、最低でも30%は向上するはずだ」


そこまで一息に言うと、アルトは満足げに頷いた。


「いや、しかし、素晴らしいデータが取れた。ありがとう。君のおかげで、僕の『変神』理論がまた一歩前進したよ」


「…………」


クラウディアは、生まれて初めて、言葉を失うという経験をした。

目の前の男が何を言っているのか、半分も理解できない。

ただ、わかるのは、自分が誇りとし、人生を捧げてきた剣技を、数字と理屈でズタズタに侮辱されたという事実だけ。


「…………あなた」


地を這うような低い声が、クラウディアの唇から漏れた。

その碧眼には、氷のような冷たさを通り越し、青い炎のような怒りが宿っている。


「二度と、私の前にその顔を見せないで。次に私の剣を侮辱したら…その舌、引き抜いてあげるわ」


殺気。

本物の、純度100パーセントの殺気が、アルトへと向けられる。

だが、当のアルトは。


「ふむ?なぜ彼女は怒っているんだ?僕は、彼女の剣技がより高みへ至るための、建設的なアドバイスをしただけなのだが。僕の指摘に、何か論理的な破綻があっただろうか…?」


全くもって、わかっていない。

このスーパー鈍感天才科学者には、乙女のプライドという非論理的なパラメータは、観測不可能なのだ。


「あわわわ…!も、申し訳ありませんでしたーっ!」


リゼットが、半泣きになりながらアルトの首根っこを掴み、その場から猛ダッシュで逃げ出したのは、言うまでもなかった。


ほうほうの体でその場を逃げ出した二人は、なんとか自分たちが所属することになる教室へとたどり着いた。

息を切らすリゼットの横で、アルトはまだ納得いかない顔をしている。


「解せないな。僕の分析は、客観的事実に基づいたものだ。彼女にとっても有益な情報だったはずなのに」

「アルトの、どアホーーーっ!」


リゼットの叫びが、静かな廊下に響き渡る。


「あんな綺麗な人に、初対面でなんてこと言うのよ!女の子の『すごい』は、分析してほしいわけじゃないの!ただ『すごいね』って共感してほしいだけなの!」

「共感?データに基づかない主観的な感想に、一体なんの意味が…?」

「意味ならあるの!大ありなのよ、この朴念仁!」


ぎゃんぎゃんと吠えるリゼット。

そんな二人のやり取りを、教室の入り口にいた生徒たちが、遠巻きに眺めている。


(うわ、辺境からの推薦入学って、あいつらのことか…)

(なんか、すごい揉めてる…)


貴族の子弟ばかりが集まる洗練された空間に、二人は明らかに異質な空気を持ち込んでいた。


やがて、始業の鐘が鳴り、担任と思しき教師が入ってくる。

アルトとリゼットも、慌てて指定された席に着いた。


「諸君、入学おめでとう。私が担任のバルガスだ。早速だが、新入生には一人ずつ自己紹介をしてもらう」


生徒たちが、一人、また一人と当たり障りのない自己紹介をこなしていく。

やがて、リゼットの番が来た。


「え、えっと…リゼット・ブラウンです!レヴィナス領から来ました!特技はパンを焼くことと、あと…その…」


彼女は、ちらりとアルトの方を見た。そして、ええいままよ、と頬を赤らめながら宣言する。


「アルト様の、お世話をすることです!よろしくお願いします!」


ざわっ、と教室がどよめく。

(アルト様…?なんだ、あいつら主従なのか?)

(世話係が、同じ教室に…?前代未聞だな)


そんな好奇の視線を一身に浴びながら、次に指名されたアルトは、全く動じることなく立ち上がった。


「アルト・フォン・レヴィナスです。趣味は、この世界に隠されたあらゆる事象の真理を探究すること。好きなものは、美しい数式と、予測不能なパラメータです。皆さんとの出会いが、僕の新たな研究の糧となることを期待しています」


しーん。

教室は、水を打ったように静まり返った。

意味が、わからない。誰もが、そんな顔をしている。


そして、最後に。

教室の後方の席で、氷のようなオーラを放っていた少女が、静かに立ち上がった。

その瞬間、教室中の視線が、彼女一人に釘付けになる。


「クラウディア・フォン・ヴァレンシュタインよ」


凛とした、短く、しかし誰にも忘れさせない自己紹介。

その碧眼が、まっすぐにアルトを射抜いた。


「馴れ合うつもりはないわ。特に、非論理的で、人の道を外れた詭弁を弄する輩とはね」


あからさまな敵意。

だが、アルトはそれに気づくどころか、


(ほう、非論理的、か。実に興味深いテーマだ。論理とは何か、非論理とは何か。哲学的な命題だが、これもまた探究の対象だな)


などと、一人と思考の宇宙へ旅立っている。


こうして、天才プロデューサーと、二人のヒロインの、波乱に満ちた学院生活の幕が、今、静かに(?)上がった。

最初の講義のテーマは『伝統的魔法剣術概論』。

アルトの瞳が、面白くてたまらないオモチャを見つけた子供のように、爛々と輝き始めたのを、隣の席のリゼットだけが気づき、背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ