9 神級暴言黙示録 (クレイジーエンジニア)
第9走者:クレイジーエンジニア
イレギュラーが多発しているノアズアーク12号船内にて。
クレイは心を落ち着けるために一人でエンジン区画に来ていた。
居住区画から最も遠い場所に配置された恒星間航行用の核融合エンジン。
慣性航行中なので運転を停止しており、次に起動する時は惑星系に降りるための減速時。
そのためノアズアーク12号は尻を前にして飛んでいる。
無重力のエンジン操作室を漂いながらクレイは考える。
ノアズアーク12号を自爆させるならば、この核融合炉を暴走させればいい。
自滅癖のある人類から宇宙の未来を守るために、それを実行することが技術者としての自分の使命とも考えた。
しかし、今は迷いがある。
「そもそも、俺は一体何のために生きてきたんだ」
クレイは生まれながらに【持たざる者】であった。
運動神経は悪かった。絵も下手だった。音楽もダメだった。
何をしても能力が劣るため、物心ついた頃から最底辺を自覚していた。
その分勉強は頑張ったが、地頭の良い文武両道の相手には敵わなかった。
遺伝子に依存する能力が明らかに劣っていたため、一貫してモテなかった。
自分のゴミ遺伝子を受け継いだ子供が幸せになれる未来が見えないので、それは仕方ないと思っていた。
だからこそ、未来に誇れる生きがいが欲しかった。
欠員補充で移民船に技術者として乗船したのもそのためだった。
でも今はその先が見えない。
『我は大国主神。迷える若者に道を示してやろう』
1人しかいないエンジン制御室に突然声が響いた。
「誰だ! また何か変なのが出たのか!」
クレイは正直うんざりだったが、道の話はちょっと気になった。
『有性生殖によるオスの役割は、劣った者の淘汰により種の存続を守る事である。ゴミ遺伝子を自覚し【喪男】の運命を受け入れたお主は、立派に役割を果たしているのである』
「そうか……俺は間違っていなかったのか。しかし、男に生まれただけで、そんな残酷な運命を背負ってしまうのか」
『残酷なものか。生きても死んでも男はその最期を誇れるのだぞ。女が同じことをしたらどうなるか考えてみよ』
「女が? 【喪女】というやつか。どうなるんだ?」
『求める男の中から残す種を選び命を繋ぐのが女の役割。男に求められも守られもせず子を成すことなく命を終えたならば、5億6千万年を超える有性生殖の歴史の中で最底辺のメスに成り下がるのだ。まさにミジンコ以下の存在価値だぞ』
大国主神の【神級暴言】を聞いてクレイは真理を悟った。
そして、自らの道を見つけた。
業を背負った人類の未来。この神の王になら託せる。
「大国主神様! 貴方の星に我々を受け入れてください!」
クレイは大国主に星の歴史と自分達の目的を話した。
『よかろう。我が星に辿り着けたなら受け入れよう』
「本当ですか! 破滅癖あるんですけど、大丈夫でしょうか」
『兄弟喧嘩でヘソ曲げて世界を闇に閉ざす姉や、夫のセクハラに逆上して地獄作る嫁や、駆け落ちの為に親父を裏切る女とかが普通に居る星だ。貴公らの破滅癖ぐらいは可愛いものだ』
そんなん居るのにあの暴言吐けるこの男こそ真の王の神だ。
クレイは存続の未来を確信した。
『そもそもな、文明ってのは子供を産み育てる女を守るための箱庭なんだぞ。乳飲み子抱える母親を社会の労働力にする本末転倒などしたら、まるごと滅びて当然だ。そこは神としてしっかり教育してやる』
「よろしくお願いします!」
大国主神の待つ星にノアズアーク12号を届ける。
それが自分の成し遂げる使命と確信した。
「僚子! 進路上に惑星系はあるか!」
クレイはAJUの端末に問いかける。応答はすぐにあった。
「あと8時間で交差しますが、相対速度が大きすぎます。本船の定格推力では減速間に合いません」
「緊急減速システムを使う。ココミを運転席に乗せて姿勢制御と軌道投入の準備を頼む。彼女は車庫入れが上手い」
ノアズアーク12号のメインエンジンに搭載された緊急減速システムは、核融合炉の反応パターンを変えることで定格の10倍の推力を生み出せる。
使用時には強力な放射線が発生するためエンジン区画内に居ると致死量の放射線を浴びるが、放射線の影響でエンジン区画内のコンピューターが止まるので遠隔操作での起動ができない。
衝突回避用の最終手段として用意したもので、クレイはその操作担当者でもあった。
「危険です。それに独断での使用は許可されていません。まずブリッジに戻ってください」
「受け入れ先が決まったんだ。減速終了時にはエンジン区画を切り離して遠くに飛ばしてくれ。【放射性廃棄物】だ。絶対に星に落とすなよ」
クレイは船体とエンジン区画の隔壁を全て閉鎖した。
そして、緊急回避システムの起動レバーを引いた。
核融合炉が臨界を越え、ノアズアーク12号の巨体を大国主神の星へと導く。
同時に、クレイの身体を致死量の放射線が貫く。
身体が内側から焼かれる感覚を感じながら、クレイはロケット工学を志した理由を思い出した。
一番下で一番大きな力を出して全てを乗せて飛びあがる。
そして、一番最初に切り離されて海に捨てられる。
あの姿に、自分の未来を見たのだ。
「俺は、ミジンコ以下じゃねぇ!」
神に未来を託し命を燃やした【喪男】の、最期の叫びが宇宙に響いた。
めっちゃ早い! 喪男だからか?(失礼!)
物語は動いた‥‥けど‥‥
それにしても、ひどいひどいひどい。。
(これ公開しても大丈夫なんか? 通報されたりしないかな??)
次はかぐつち・マナぱ様。
怒涛のクライマックス!‥‥(のはず‥‥)
締め切りは30日午前10時。
ヨロシク。。。
以下はクレイジーエンジニア様 の後書きです。
ー ー ー
不要な物を消し去ることは重要な事です。
近所のコンビニが1カ月休んでも影響は軽微ですが、ごみ収集が1カ月止まったらもはや災害。それと同じ。
生存に適さない遺伝子を淘汰する役割を背負って生まれる【喪男】。
存続の未来に向けて世代を重ねるためには必要不可欠な犠牲です。
彼等は大国主神の星に辿り着けるのか。
そして、【神級暴言】を吐いた大国主神は無事なのか。
かぐつち・マナぱ様。後よろしくお願いします。
ひどい。ひどい。ひどい。