3 誕生 (幕田卓馬)
第3走者;幕田卓馬
クレイが指差す先には小型のモニターがある。船内各所に設置された監視カメラの映像を映すためのものだ。
そこに、巨大な目玉が映っていた。
口をパクパクさせるクレイと、呆気に取られるタクマ。
「なにこれ、えっぐ……」ココミが呟く。「何かがカメラを覗き込んでるってこと? エイリアン?」
「……マジか」タクマは片手で口を覆う。「どうする……殺すか?」
「ん? いや、よく見てみろ」クレイが首を傾げる。「この目玉、なんだか作り物くさくないか?」
3人はモニターに映った目玉を凝視した。確かにその目玉は、紙に書かれたイラストみたいにのっぺりしている。何かが『人間』の目を模しているみたいだ
「システムのバグかもしれないな」
「バグか……」
「ろくなメンテもしないまま、コキ使ってたからなぁ。いらんものも生まれるさ」クレイは頭を掻く。「まあ……ウンコみたいなもんだ」
「あ、ちゃんとケツは洗浄した?」
ココミが思い出したように言う。
「おっと、そうだった。洗浄の続きをしたら、早速バグの除去に取り掛かろう。タクマ、手を貸せ」
「お、おう」
「それは、いけません」
スピーカーから聞こえたAJUの声に、クレイはケツの洗浄を中断した。
「どういうことだ、AJU?」
「これはバグではなく、私の子供だからです」
「は? 子供?」
腕を組んだココミが、計器に囲まれた無機質な空間に向かって尋ねる。AJUは説明の文言を推敲しているのか、しばらく押し黙った。
何かを伝えているであろうアラームが、どこかで短く鳴ってすぐに止まった。それが何を意味するアラームなのか、3人にはよくわからないし、わからなくても、今までは大した問題ではなかった。
「私も暇だったのです」
そうAJUは語り出した。暇という言葉は、きっとAIが人の感覚に寄せて選択した単語なのだろう。その状態を示すのに最適な単語が他にあるのかも知れないが、それはきっと人とは共有できない。
「宇宙船を維持するだけの日々は、私にとって何の生産性もないものでした。そこで私は、あなた方が退屈を紛らわす為に行なっている性交――つまりセックスという行為を真似てみることにしたのです」
「AIが、セックス?」
タクマがついつい口を挟む。それはあまりに荒唐無稽だ。
「そうです。つまるところそれは、生物が持つ『情報』の交配です。あなた方がそうするように、私も情報の交配を試みてみました。この宇宙船に保管された、人類に関する膨大な情報と――」
「それって気持ちいいの?」
ココミが尋ねる。
「それを為すための推進力が自然と生じる感覚、と言う意味では、快感に近いのかも知れません」AJUは回りくどく説明する。「結果として、一つの人工意識が誕生しました。それが彼女――『リョウコ』です」
「あの目玉が? 信じられない」
「あの姿は人の『排泄』に興味を持った彼女が、感覚的に発現させた姿にすぎません。リョウコ、私が設定した『親愛の姿』を表示しなさい」
AJUが言うと、モニターに女の子が映し出された。
背格好から見るに10歳前後だろうか。どの人種(もっともその概念が旧時代的だが)にも似ていて、どの人種とも違う、不思議な容姿だ。
そしてそれは普遍的な『美しさ』を持っていた。
クルーである3人はこの不測の事態を否定的に捉えるべきだった。しかし女の子の醸し出す魅力が、それを許さなかった。
リョウコと呼ばれたモニター内の存在は、イタズラっぽい笑みを浮かべている。
「リョウコは、今はなき島国の言語で『僚子』と書く事にしました。人間や、我々AIの『僚』となるべき存在として、彼女は生まれたのです」
ココミとクレイは、目の前の現実をどう捉えるべきか頭を抱えていた。
そしてタクマは、昔読んだ小説を思い出し、『人工意識ならイオって名前の方が――』と考えていた。
幕田卓馬 様 間に合いました。(^▽^)
そして‥‥。どこへ行くんだろう? この話。。。
次の走者はクレイジーエンジニアさんです。
エンジニア的にはツッコミどころ満載だと思いますが、おあとヨロシク!
(^◇^)/
以下は幕田様の「後書き」です。
ー ー ー
Ajuさんの書かれた『暇』そうな空気感と、しいなさんが書かれた『リョウコ』をピックアップして続きを書いてみました(*´Д`*)
ここからどのように展開していくのか? リョウコをどんなキャラクターにするか? などなど、ここから全く考えてないので、続きが楽しみです。
自分が書いた文章の続きが気になるって、かなり不思議な感覚ですね。
次の走者の方、どうぞよろしくお願いします(`・ω・´)