2 異変 (しいな ここみ)
第2走者:しいな ここみ
タクマがアラームに負けない大声で叫ぶ。
「AJU! どうした?」
「なぁに!? うっさい! 早く止めて!」
ココミは初めて聞くアラームを目覚まし時計の音と勘違いして騒ぐ。
クレイが突っ込んだ。
「ココミはクレイジーだな! 落ち着け! 異常事態を報せるアラームだ!」
ココミが声を張り上げる。
「クレイジーなのはあんたでしょ! 異常事態だったら、それこそ落ち着けるわけないでしょうが! エンジニアなんだから何とかしなさいよ!」
「静かに!」
タクマが二人を黙らせ、アラームを止めると、コンピューターに聞いた。
「AJU! 何が起こったんだ?」
AJUはまったく慌てることのない声で、答えた。
「リョウコが目覚めます」
「リョウコ……?」
タクマが眉をしかめる。
「誰だ……、それ?」
そう言いながら、はっとしてタクマは思い出そうとした。
冷凍睡眠装置に入った交替要員の名前を──
『レン、マナ……』
二人の名前は思い出したが、もう一人の名前がなぜか思い出せない。
『もしかして……それが【リョウコ】か? 何かの手違いで目覚めてしまいそうになっているのか?』
コンピューターのモニターを見つめながら、何かの操作をしていたクレイが二人に言う。
「うん……。大丈夫だ。船に異常は見当たらない。酸素の供給量も正常。外から危険が近づいているわけでもなさそうだ」
ココミがAJUに聞いた。
「リョウコって誰よ? ヒロインはあたしなんだけど?」
「リョウコはこの船のヒロインです。ただし、誰かに観測されていない時には存在していない。目を離したら消えてしまうヒロイン──」
クレイがそれを聞いて声をあげる。
「そんな名前知らねーし……。何、その謎設定? そいつ船外から入り込んでくるとか?」
違ったようだ、冷凍睡眠に入っている人間の名前ではないようだ──タクマは首を傾げながら、自分にツッコミを入れた。
『それにしても俺、沈思黙考型すぎるよな。誰だろうとか思うなら、即刻他のクルーに聞けっての』
タクマはそういう性格であった。
疑問に思ったことを誰かに相談せず、自分一人で解決しようとしてしまう。
クレイがAJUに聞く。
「そいつは今、どこにいるんだ?」
「この船の中にいます」
「船の? ど……、どこに?」
「桜の樹の下で眠っています」
「オイオイ……。どこに桜の樹ががあるっていうんだよ?」
「ねぇ……」
ココミが言った。
「なんか……暑くない?」
そう言われて、タクマは初めて気がついた。
自分の額に手を当てると、じんわりと汗が滲んでいる。
『異変の前兆か……?』
またしても沈思黙考した。
『嫌だ……! 俺は無事に生きて新天地を見つけるんだ! 愛する妻を見つけて、そこを愛の惑星と名付けるんだ!』
「確かに暑いな……」
クレイが船内温度を確認する。
「……いや、船内温度は上昇してないぞ。気のせいだろう。興奮して俺ら、内側から熱くなってんだ、たぶん」
そしてコンピューターの前から立ち上がる。
「のぼせると俺、すぐにウンコしたくなるんだ。便座内蔵運転席に行ってくる」
「なんか……ワクワクするね」
笑顔でココミがタクマに話しかけた。
「とんでもなく退屈だったけど、何かが起こりそうじゃね?」
タクマは呆れ顔で答えた。
「いいことだったらいいが、悪いことなら起こってほしくないよ。当たり前だろう」
便座内蔵運転席のほうから、クレイの声が響いた。
「ぎゃああああ!」
何事かと二人は顔を見合わせると、急いで駆け出した。すぐに床に尻餅をついて上を指さしているクレイを発見する。
「なんだ? どうした?」
「もしかしてウンコ、間に合わなかった?」
「あ……あれ……!」
クレイが指さす天井のほうを、二人は見た。
汗が二人の頬を、伝った。
すげー!
しいなさんの瞬発力すげー!!
第1話が公開されてから、2時間32分でAjuの元にこの原稿が届きました。
この区間記録を破る人は、たぶんいないんではないか??(°◇°;)
(実質的には、お昼休憩の30分で書き上げたと見た。)(`・ω・´)
というわけで、一応次のランナーのリーマン時間を考慮して‥‥本日午後5時ジャストの予約投稿(公開)としました。
次は幕田卓馬 様です。
締切は19日午後5時ということになります。
幕田さぁん。。ぐぁんばってねー。。。(^^)v