11-b 新たなる春 (かぐつち・マナぱ)
もう1人の最終走者:かぐつち・マナぱ
赤熱する空が裂け、漆黒の宙へと火柱がうねる。
その中心で《タクマシーン》が《世界を滅ぼした炎神》と対峙していた。
だが、その躯体は既に限界に近い。
『滅びの熱線!』
灼熱の咆哮がタクマシーンに直撃する!
「ダメだ、動けねぇ!?」
「下肢、全損です!」
リョウコの悲鳴が響く。
「制御系切断!?…オレが繋ぐ!」
クレイのAIボイスが続く。
「うぅ…夏くん…ミルク…」
ココミが操縦席で呻き、意識を失う。
「オレが…マナに頼ったから…」
自分の弱さから逃れるため、マナの力に縋った。
独り贖罪を背負うマナの力になりたかった。
その結果が、この破壊か。
容赦なく炎神の拳がタクマシーンの頭部に振り下ろされる。
上空から閃光が降った。
「っ…マナ!?タカミツ!?」
シャトルが拳に激突し、爆発する。
機体は砕け、爆風が視界を白く染めた。
「生命反応ゼロ。通信も断絶…AJU…」
リョウコの声が震える。
(オレは…また、何も守れなかった)
その胸にクレイを失ったとき以上の波が押し寄せていた。
「逃げんじゃないよ、タクマ!!」
怒号が響く。
「リョウコ…」
「あたしたちはAIだけど、人間と一緒に進みたいの!、ココミが命がけで乗ってる…クレイが身を削って支えてる!」
「それでアンタが止まってどうすんのよ!?」
人を超える熱量が、タクマの心を貫いた。
「オレに進め、って言うのか…でも、こんな足じゃ……」
『ならば、君に選択を』
そこへ通信が入る。
タカミツの声。
どうやら脱出していた様だ。
『私は鳥獣学者として、“飛ぶ”とは何かを探してきた』
タクマシーンの背部が展開する。
『だが今、わかった—飛翔とは、意志だ』
滑らかな鋼の翼が現れる。
『本当のマナは炎神の中にいる。彼女は君の呼びかけを待っている』
眠ったままレンの声が響いた。
空と大地の間で、その想いは届いた。
タクマは、瞳を見開く。
ずっと閉じられていた冬の中で、オレの声で目を覚ましたマナ。
その姿が、はっきり脳裏に浮かんだ。
「ありがとよ、タカミツ!レン!」
『超絶・喪熱砲!』
《カァァァァァァ!》
タクマシーンが爆煙を裂いて跳ね上がる!
炎神の最終熱線が迫る。
だが今のタクマは飛べる!
旋回して、一直線に炎神へ突入!
「マナァァァァ!!」
そのまま巨体を抱きしめた。
鋼のフレームが音を立てて軋み、装甲が赤熱し、継ぎ目から火花が散る。
炎神は激しく暴れ、それでも抱擁はほどけない。
『ナ、ナニヲシテイル!?…ノデオジャル!?』
炎神の口から出たのは、謎の『おじゃる言葉』
明らかな動揺は、確信へと代わる。
「何でオレの前だと変な言葉使いになるんだ?」
『ナ、ナニヲィ゙うでおじゃるか!?』
冷たい機械音声が体温を持つ。
「オレは、マナと戦うよりもっと話がしたいと思った。これから先も、ずっと…」
タクマの声は、燃える鋼鉄よりも熱かった。
『そ、それはつまり…タクマが私を、す、好きということであるのであるのか!?』
恥ずかしさと嬉しさの混じった確かな感触。
「そうだよ。オレはもう、あの公園の桜の下で笑ってた彼女に縛られてない」
タクマは、頭部操縦席から外へ出る。
炎は静かに燃えていた。
そっと1枚の写真を取り出す。
—誰のものかわからないその1枚の写真—
それは、タクマの、A子を忘れたくもあり、忘れたくもないという矛盾が生んだ祈りのようなものだった。
満開の桜の下、微笑むA子の姿。
「でも、もうわかったんだ。今のオレが見てるのは…お前だよ、マナ」
タクマは写真を炎神の放熱口にくべた。
「だ、大事な写真を燃やそうとするとはとはとは!?」
近くで焦り、裏返った声がする。
白い炎が舞い、桜の笑顔は煙となって空へ還った。
「大事なものをちゃんと選びたい。マナ。これからは、お前を守りたい」
タクマは彼女の素顔を真っ直ぐに見つめた。
それは命を懸けた真実の愛。
炎神の活動は止まっていた。
「…なら…私も真剣に応えないといけませんね…タクマの、その言葉に…」
頬を染めたマナの柔らかい声が、優しく耳に響いた。
——そのとき、地が割れ、眩い光が溢れる。
『よくぞここまで来たな、人の子らよ』
白髪の老翁——大国主神が現れる。
彼は、静かに、しかし大地を震わせる声で語りかける。
『お前たちは過去に囚われず、憎しみに飲まれず、命の種火を抱いて進んだ』
『それは神々…高度に進化した機械生命ですら迷う選択だ』
『だが、それゆえにお前たちには、再び“芽吹く力”がある』
『愛とは、忘れぬことではない。手放し、それでも心に宿り続ける想いを“今”に生かすことだ』
大国主神は、タクマとマナを見つめる。
『朽ちた大地に、もう一度“春”を呼び戻すがよい。その力は、お前たちの手の中にある』
炎神の核が静かに色を変えていく。
そして、彼は微笑んだ。
『わしはただ、見届けよう』
**エピローグ**
リョウコはクレイと共に再起動された通信網を守りながら、人間とAIの共生を模索していた。
ココミは回復後、若き技師たちを育てる役に…休みにはペットの夏くんと仲良く過ごしているらしい。
タカミツは再建された研究機関で「飛翔とは意志である」と語り継ぐ立場となった。
レンは、未だ眠れるESP使いとして未来の鍵を託されていた。
AJUは、地上の復旧プログラムを主導する“母なる者”となった。
「これで…終わりじゃないよな」
タクマが呟く。
「はい。私たちの春は、今始まったばかりです」
マナがそう言って、タクマに寄り添う。
——過去は手放した。
でも、記憶は根のように、次の春を支える。
そして、風の中でそっと短く詠む。
若き芽は 桜のように 君と咲く
はじまりの春 この星に宿す
—今、その春は、確かにこの惑星に芽吹いていた。
了
サブタイトルはなかったんで、Ajuが勝手に付けました。(作者の希望があれば差し替えます)
もちろん、Ajuが読んでつまんなかったらこんな変則はしません。
絶対、この先がマナぱさんにはある! 「そこへ行ってくれ!」 というタスキだ。とは思ったんですが、読みきれませんでした。m(_ _;)m
この「祭り」には相応しいエンディングだとAjuは思い、公開に踏み切りました。
皆さんはどうですか?
かぐつち・マナぱさんは「企画に乗っかっているだけの身で不躾だ」としきりに謝っておられましたが、気にしません。
作品の質だけが全てです。作品が良ければ全て許されるのだ!
(というのは常識的には違うのかな? なにしろAjuは常識のないやつなので‥‥よくわからん)(・・)
参加してくれたみんな! ありがとお————!!!☆☆
ー ー ー ー ー ー ☆
参加ランナー
Aju
しいな ここみ
幕田卓馬
クレージーエンジニア
地湧金蓮
かぐつち・マナぱ
美術イラスト
かぐつち・マナぱ
デジタル担当
地湧金蓮
パラレルランナー
かぐつち・マナぱ
総合プロデュース
Aju
『駅伝企画』行き先のわからないリレー合作(完全版)




