11-a その先の未来へ (Aju)
最終走者:Aju
それを冷静に眺めている男がいた。
「何をやってるんだ? みんなは‥‥」
レンである。
「おい、タカミツ。」
タカミツは顔を上げるが、レンが見えないらしい。
「大国主か?」
「何を言ってる。」
レンはタカミツの肩をつかんで、レイヤーを1つ引っ張り上げた。
「え? あれ?」
「しっかりしろ。大国主も炎神もリョウコも存在しない。最初にAJUの違和感に気づいたお前までどうしたんだ?」
タクマたちは戦っているが、ここから見るとまるでアニメかゲームのように見えた。
「こ‥‥これは‥‥、いったい‥‥」
パシュ————ゥ‥‥
6人のポッドのカバーが開いた。
全員が一瞬、何が起こったかわからないような顔をした。
「あ、そうだった‥‥。」
「審査受けてたんだった‥‥」
「終わったのか‥‥」
6人全員がげっそりとした顔になる。
やらかしちまった〜〜〜。。。
人類と地球生命を外宇宙に送り出す『ノアズプロジェクト』。
地球生命が、太陽系外に。その多種多様な生物種の遺伝情報を搭載してタンポポの種子を飛ばすように——。
その乗組員候補生を選考する、遺伝子レベルにまで及ぶ最終審査。
もちろん、人類も地球生命も滅びてはいない。数々の危機を乗り越えて、生命はようやくここまでやってきた。
受験生は直近の記憶を遮断され、代わりに提供された「後戻りのきかない状況」というシチュエーションの中で、その本質とクルーとしての適性や資質を審査される。
クルーはその先で、人類の遺伝子をつないでゆく役割も託されるからだ。
遺伝子レベル審査‥‥って、怖っ‥‥。
努力ではどうしようもない本質が現れてしまう‥‥。
ここまでか‥‥‥。
俺なんかが、よくここまで来たな——とタクマは思う。
俺、ほとんど何もしてない。存在感アピールできてなかった——とレンは思う。
あたしの運転技術は、外宇宙でも通用するんだろうか——とココミは思う。
バーチャル空間内とはいえ、俺はサイテーのひどい言動をしてしまった。これはダメだろう。そうだな‥‥俺みたいな遺伝子は、ここで止まった方がいいよな——とクレイは思う。
恥ずかしい‥‥。まさかこの最終審査で、克復したと思っていたチュウニィ病が出てくるとは‥‥これは、もうダメだな——とマナは思う。
トランスジェンダーという僕みたいな異質のマイノリティがここまで残っただけでも奇跡だ。無理だよね。行き先にこんな遺伝子はいらないだろう——とタカミツは思う。
『途中ポッドの温度管理に不備がありましたが、皆さんよく耐えて頑張りました。それでは、審査結果を発表します。』
最終審査に特化したAI のAJUが無機質な声で告げる。
6人が緊張した。
『その運転技術と明るいポジティブな性格は、外宇宙を旅するクルーとしては必須の資質です。ココミ・シーナ、候補生と認定します。」
ココミが思わずガッツポーズをしかかるが、周りを気にして途中で止める。
『目的を見失わない冷静沈着さは、外宇宙航行には極めて重要な資質です。レン・キーン、候補生と認定します。』
レンがぱっと顔を明るくする。が、他の4人をまだ気遣っている。
『土壇場におけるその利他的性質は生命に普遍的かつ極めて貴重な遺伝的資質です。クレイ・ジーニアス、候補生と認定します。』
ココミがクレイの横にすっと寄る。
「かっこよかったよ。でも、あんまり命を粗末にはしないでね。いてほしいと思ってる人もいるんだから。」
『壮大な発想をする資質。加えて、微弱といえどESPの因子は移住先でも貴重と思われます。マナ・カグツチ、候補生と認定します。』
マナの胸についた受験IDカードが、ふわりと跳ねるように浮いた。
やったよ、おじいちゃん。軻遇突智家の血が外宇宙へ行くよ。
『鋭敏な感性と多様性の受け皿としての遺伝子。加えて、その類まれな優しさの資質は、この先の人類にとって残さねばならないものです。キョウコ・タカミツ、候補生と認定します。』
タカミツは胸の前で手を合わせ、泣きそうな笑顔になった。
『深く思考する性質、青虫が葉を喰むように日常業務を淡々とこなし続ける資質は、人類が新たな環境で生きていくためには絶対的に必要な資質です。マーク・タクマ、候補生と認定します。』
タクマはあんぐりと口を開けたままになった。
俺が‥‥? 絶対に必要な存在‥‥?
『このチームは6人全員が認定されました。おめでとう皆さん。』
「「「「「「いーやったぁー!」」」」」」
6人が異口同音に叫び、ハイタッチで喜びを爆発させた。
俺たちは、わたしたちは、行く——! 行けるのだ!
地球生命のフロンティアへ!
『訓練は1週間後から始まります。それまでは、心と身体を休めてください。』
「今日は飲みに行こう!」
ココミが大きなガッツポーズと共に皆を誘った。
皆がわっと盛り上がる中、タクマだけがふわりとした謎の微笑を浮かべる。
「ちょっと行くとこがあるので。あとで行くよ。」
それだけを言ってセンターの出口に向かって歩いてゆく。
「あの人はいつも、思ってることを言わないなぁ。」
小さくため息をついたココミに、表情を読むことに長けた動物言語学者のタカミツが言った。
「あの人はたぶん、訓練には参加しないと思いますよ。」
「なんで!? ฅ(º ロ º ฅ)」
「あの人は、地球に想い人がいるんだと思います。」
センターの正面玄関に立つタクマの頬をやわらかな風が触れていった。
桜の梢は、くすんだ淡い紅色と萌え始めた若葉の薄緑が混ざり合ったふわりとした優しい色をしている。
春はもう終わってしまったが‥‥、花が散っても生命は続いてゆく。
そうだ。リョウコは俺の深層から引き出されたイメージだったんだろう。AJUが受験者の深層イメージを再構成して‥‥あれは、そういうテストだったんだ。
アオイ(A子)にはついに気持ちを言えないままだった。
妹のエミリ(E子)はそんな俺の気持ちに気づいていて背中を押そうとしてくれたが、俺は何も言えないままだった。
「いいの? お姉ちゃん結婚しちゃうよ?」
「ダンナさん、いい人そうだから。アオイ幸せそうだから。」
俺は気がついていたから‥‥。エミリがそうするのは実は‥‥。
桜の木の下で微笑んでいた身重の女性は、アオイだった。
のちにエミリが俺にくれた写真だ。
「これしか残ってなくて‥‥。」
その写真の2年後、2歳になる涼子を残して夫婦は事故死してしまった。
葵の忘れ形見、涼子は恵美里が引き取った。
タクマは葵を失った喪失感に打ちひしがれた。
外宇宙探査のクルーに応募したのは、そんな現実から逃げたかったからに違いない。
シングルマザーとして涼子を育てることになった恵美里に、クルーとしての契約金を全て渡して行きたいと思ったことも動機の1つだったろう。
だが、タクマは気づいてしまった。
あのテストの空間の中で——。
あの写真をタクマが見ている限り、残された者たちの記憶にある限り——アオイは存在する。たとえ過去であっても。
それだけじゃない。その命は涼子に引き継がれているのだ。
花は散っても、生命は続いている。
「マークたん!」
3歳になった涼子が車から走ってきた。
葵とそっくりの笑顔でタクマに飛びついてくる。
「マークたん、うかった?」
タクマは笑顔で涼子を抱き上げる。
「うん。」
「おめでとう。」
後から来た恵美里が少し複雑な笑顔を見せる。
「いよいよ‥‥行くのね?」
片道切符の外宇宙。
「いや。辞退する。」
「どうして?」
それはおそらく人生で初めて、タクマが自らの意志で選び取った未来。
「前に言われたことの返事、まだしてなかったよね。」
タクマは静かに微笑んだ。
「恵美里さん。答えは、YES です。」
恵美里の頬が桜色に染まっていく。
「3人で家族になろう。」
ここが、愛の星だった。
爽やかな初夏の風が、3人の髪と戯れていった。
了
すんません。m(_ _;)m
自分でオキテ破りの3120文字です。←(こら!)
以下少し長くてごめんなさい。(言い訳です)(^◇^;)
実はこれ、かなり悩みました。
Ajuはこの「実はテストだった」オチ、第6話頃から思いついて構想練ってました。
ところが、第10話:かぐつち・マナぱさんの熱量が凄いんだもの。この熱量と路線を受け継ぐべきではないか。
かなり悩んでその線も考えたんです。だって、バナーまで作ってもらってるし‥‥。これラストで全部ひっくり返したら悪いよね‥‥? (*°Д°*;) う〜〜〜〜。。。もんもん。。
できなくはない。この路線で強引なラストの着地。
「戦いは勝った! そしてここから始まる新たな物語!」みたいな。。。
だってどう見てもこれ、壮大な物語の序章みたいなんですもん。これを読者が納得できる矛盾のない形できれいに着地させるには、あと10話くらい必要な気がしました。(^^;)
それを強引に1話で完結させるとするなら‥‥
「かぐつち・マナぱ先生の次の作品に期待しましょう」そーです。なんか、打ち切りみたいになりそうなんです。積み残しの謎や伏線満載の‥‥。
それもなぁ〜‥‥。と思ったので。。
恩人に砂をかけるみたいなんですが‥‥やっぱりこっちにしました。
かぐつち・マナぱさん、そして一生懸命書いてくださった皆様、ごめんなさい。m(_ _;)m
全部回収して皆さんのアバターみたいな登場人物全員ハッピーにしたんで、それで許してください。。
第8話全部使ったタクマの回想。これ、どうしても拾いたかったんです。
それもあって文字数増えちゃいました。←(言い訳)
ー ー ー ー ー ー
参加ランナー
Aju
しいな ここみ
幕田卓馬
クレージーエンジニア
地湧金蓮
かぐつち・マナぱ
美術イラスト
かぐつち・マナぱ
デジタル担当
地湧金蓮
総合プロデュース
Aju
『駅伝企画』行き先のわからないリレー合作




