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第3話 鹿を撃ってきてもらうわよォ~!

「よし、こんなもんか……」


 二日後、それはまだ午前中の事だった。

 テオとアシル、ガヴァンの三人は依頼書にあった西の森の中で鹿を追って、既に二頭の鹿を撃ったところだった。


「それにしても、ガヴァンさんはすごいですね……」

 二頭の鹿は、どちらも首を撃ち抜かれている。

「うん?」

「大型の動物を撃つってなると、心臓か肩のあたりだと思ってました」

「合ってるよ」


 ガヴァンは持参したボトルの中の水を飲みながら頷く。

「肩だと少し後方にずれたら背ロースがボロボロになっちゃうし、心臓の場合もズレると内臓に当たっちゃうでしょ、少しでも可食部を多く渡すならヘッドショットなんだけど、飾りで使いたいっていうサブ依頼もあったから……」

 ネックの肉は筋が多いからあんまり喜ばれないし、今回はこれがいいかなって思ったんだよ、と言いながら、ガヴァンはアシルの方を向いた。アシルはというと、鹿を乗せた荷車を引っ張っている。


「二頭あればまあ十分だな、帰ろうか」

「はい……ぁっ!?」

 テオが小さく悲鳴を上げる。その視線の先には、赤く光る眼のイノシシがいた。雄の鹿と同等のサイズ、ただのイノシシではない。


「大食いイノシシだ……!」


 ガヴァンは声を潜めてそう言った。『大食いイノシシ』は、魔法生物ではないものの魔物に相当する巨大化した異常種であった。通常のサイズより肥大化した理由は明らかになっていないが、こいつは本当によく食う。元来イノシシは雑食の生物だが、好んで肉を食らうことはないと言われているのに、大食いイノシシについては、森の中の果物や木の実を食べ尽くした年に食った鹿が美味かったのか、弱った野生動物を見ると積極的に襲って肉を食っているというのだ。幸か不幸かまだ人里には降りてきていないし、こうして狩りに入った人間も被害には遭ってはいなかったが、腹を空かせているこいつは大変危険であった。


「ああー……狙ってるね、荷台の鹿、食べたいんだろうなあ」

 ガヴァンはぽりぽりと頭を掻いて、困ったように眉を寄せる。

 イノシシはというと、右前足でざく、ざく、と地面を掻いて突進の前兆を見せていた。


「来るぞ」

 アシルは荷車から一度手を離すと、テオを庇うように前に出る。背負っていた大きな盾を構えると、イノシシを睨んだ。


「一回なら受けられるが……」

「アシルは一度大食いイノシシに吹っ飛ばされたことがあるもんね」


 ガヴァンは猟銃に弾を込めながら言った。アシルが別の冒険者とここへ狩りに入ったときに、別個体の大食いイノシシに突進されてすっ飛んだという話は酒場では結構有名になってしまっているらしくアシルは舌を打つ。


「その話はやめろって、一回目は堪えたが二回目は無理だ、こいつら重たすぎる」

 今回だって恐らく一度が限度だぞ、というアシルに、ガヴァンは頷いた。もう、イノシシはものすごいスピードでこちらへ向かってきている。


 ダァン、と大きな音を立てて、ガヴァンはイノシシの左足を撃ち抜いた。


「まずは一発!」


 ビギィイ! と悲鳴を上げたイノシシは、バタバタと足をもつれさせながらも向かってきている。ガヴァンはポーチから弾を取り出しながら、叫んだ。


「アシルが一発受けてくれるから、その隙にテオはイノシシの目を潰せるか?」

 テオの獲物は銅の剣と、小ぶりなダガーだ。


 足をやられて速度を落とし、突進の威力が弱まっているイノシシをアシルが盾で止め、もがいているイノシシの目玉に刃を突き立てて視界を奪う。作戦の意図を理解すると、テオは大きく「はい」と返事をした。


 やり取りの合間にもうイノシシは目の前に迫っていた。

 どか、と重たい音を立てて、アシルの盾にイノシシの頭がぶつかる。大きく突き出た二本の牙の間にすっぽり収まるような形で、アシルはその場で踏ん張った。


「ぐぎぎぎ……、テオ!」

「は、はい!!」


 テオは小さな身体を精一杯伸ばし、飛び上がってイノシシの眼球目掛けてダガーを振り落ろした。ガアァッ、と大きく鳴いて、イノシシはアシルから離れる。


「いいぞ、離れろ!!」


 アシルは一度盾を放ると、テオに下がるよう指示した。


「はい!」


 離れるよう指示したのは、ガヴァンの射撃用意が整っていることがわかっているからだ。


 ばたんばたんと暴れるイノシシに、ガヴァンは照準を合わせる。そして、その脳天目掛けて引き金を引いた。森を揺らすような叫びと共に、重たい音を立ててイノシシの巨体が土の上に叩きつけられる。


「……お、終わった……?」

「……おう、完全に動かなくなるまで少し待て」


 体力があるやつだと稀に死に損なって起き上がることもあるから、というと、アシルはテオを背に庇ったままイノシシの様子を見ていた。


 しばらくもがいた後で、イノシシはぴたりと動かなくなり、目からも光が消える。ガヴァンとアシルは顔を合わせると、頷きあった。



「あの、ありがとうございました」


 帰路、テオは荷車を引いているアシルの後ろでガヴァンと一緒に荷車を押しながら二人に礼を言う。


「初依頼にしては上出来だったぞ、大食いイノシシに対応できる能力があるんだ、自信もっていいんじゃないか」

「いえ、お二人の指導が無ければ目を潰して弱体化させるなんて出来なかったので」


 ガヴァンは「へへ」と笑う。


「ま~俺の射撃の腕が無かったら危なかったよね~」

 その言葉にテオは何度も頷く。

「そんなにすごい勢いで肯定されると逆に恥ずかしいんだけど」

「えっ、すみません」


 荷車の前の方でアシルが笑った。


 まだ陽は高い。今回は直接納品をすることになっているので、街から少し離れた広場でこの鹿は解体して、依頼者のところへ運ぶことになる。問題はイノシシだ。倒した後そのままにするわけにもいかないので、このデカいイノシシを鹿の下に敷くような形で運ぶ羽目になったわけだが……。


「荷台がてんこ盛りだなあ」

「鹿は街に入ってすぐ食堂のおかみさんとこと、マーケットに降ろすけど、イノシシなあ」


 テオが首を傾げる。


「いやあ、このイノシシ、肉を食うタイプってことはよ?」

「……そっか」


 肉食獣の肉は臭みが強すぎる、という話である。


「あ、でもさ……」


 ガヴァンが、何かを思い出したようだ。

 それなら、と頷きあい、三人はこのイノシシをそのまま街へ運び入れることにしたのだった。

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