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第1話 新米冒険者テオ

 ――いらっしゃい。あら、アナタここらじゃ見ない顔ね、冒険者さんかしら。お仕事を探しに来たの? ヤダ、そんな緊張しなくていいのよ、ほら、そんなところにいないでこちらへおかけなさいな。




 アタシはグロリオサ。ようこそ、『Barバー・Nocturnalノクターナル』へ。ここでは様々な依頼を受けることができるわ。草むしりから迷い猫探し、鉱石採掘に昆虫採集……要人の護衛に、ドラゴン退治まで、なんでもね。ん? ああ、この街は小さいでしょ? だからうちの店しかないの。国から保険がでる規模でもないからね~……。そう、保険がないってなると怖いわよね、だからアタシこのバーをやってるのよ。


 大丈夫よ、安心なさい。アタシがちゃーんとアナタにぴったりのオシゴトを提案してあげるから。



 カウンター越しに手招きしたのは、背中まである金の巻き毛に、菫色の瞳を持つオトコだった。身体のラインが強調されるピッタリとしたマーメイドドレスのオフショルダーでは、その逞しき上腕二頭筋を隠しきれていない。瞬きをするたびにバサバサと音がしそうなつけまつ毛、ギラギラと輝く偏光ラメのアイシャドウ、ニッコリと微笑んだその唇には真っ赤なルージュ。彼がこの『Bar・Nocturnal』の主、グロリオサ。


「アナタ、この春からデビュウ?」

「は、はい! テオと申します、ここから南のモンプレンから来ました」

「初々しいわね〜、この街のむさっ苦しいのとは大違い」


 テーブルでビールを飲んでいる荒くれ者たちがむさっ苦しくて悪かったな、と大声で笑っている。


「悪いなんて言ってないわよ、アタシ、アンタたちのことちゃんと愛してるワ」


 投げキッスをするグロリオサに男たちは口笛を吹く。



 一方、若き新米冒険者テオは、落ち着かない様子でそわそわしている。カウンターチェアに腰掛けた脚が、ぷらりと揺れた。

「1杯奢るわ。何がいい?」

「えと……」


 おぼつかない手つきでメニュー表を手に取るテオを、周囲の男たちがからかう。


「ボウズ! ここにゃミルクは無いぜ!」

 ガハハ! と笑ったスキンヘッドに、グロリオサは咳払いを一つ。

「こらっ。テオが可愛いのはわかるけど、ベビィ扱いは頂けないわね」

 それに、ミルクだってあるわよ、うちの店! と続け、ごめんなさいねえ、とテオに柔らかく笑いかけた。


「アシルったらお子ちゃまだからね、気になった子をすぐからかうの。テオよりずぅ〜っとベビィちゃんね?」


 アシルはと言うと、ビールを煽って「ばぶぅ!」とおどけている。根は悪いやつではないとわかって、テオも笑った。


「だ、大丈夫です、慣れてるので……それじゃあ、今日のおすすめをお願いします」


 おずおずとテオはグロリオサと視線を合わせる。グロリオサはテオの濃いブラウンの瞳を見つめると、頷いた。


「アタシに委ねてくれるの? ウォッカベースはお好き?」

「はい」

「コーヒーは飲める?」

「好きです」


 テオがそう答えると、グロリオサはカットガラスのロックグラスを棚から取り出し、アイスピックで氷を削ってひとつ、ふたつ、カランと小気味いい音とともに入れた。水色のボトルからウォッカを注ぎ、次にコーヒーリキュール。仕上げに生クリームをそっとフロートさせて、テオの前に置いてやった。がっしりとして筋張っている男性の手には、真っ赤なネイルが施されている。


「ホワイトルシアン。あなたのふわっとした髪とそのダークモカの瞳に、乾杯」


 そう言ってウィンクを1つ。


 テオは少しはにかんで、ありがとうございます、とそばかすのある鼻の頭を擦って微笑んだ。

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