年上女性ブーム!
夏の間、麻里奈による必死の裏営業でメディア界に大きな変化が起こり、秋の始まりとともに日本中に”年上女性推し”ともとれる現象が巻き起こった。
ファッション雑誌の表紙には、
『嗚呼、麗しき、アラフォー女性!』
『今着るべきはパンツスーツ!デキる女のバリキャリコーデ!』
『おしゃれも恋も、本番は四十歳から!』
といった見出しが躍り、電車の中刷り広告には、
『週刊ゲンダイ なぜ女性は、歳を重ねるごとに輝くのか』
『週刊文秋 特集:今一番イケてるオーバーフォーティー女優ランキング』
と、露骨な年上女性アゲの特集が並ぶ。
十月放送枠のドラマは各社揃って
『おばちゃんズ・ラブ』
『三匹のおばちゃん』
『VRおばちゃんの初恋』
『続・きょうは会社休みます』
『続・アネゴ』
『続・セカンドラブ』
『新・美魔女の条件』
と、往年のベテラン女優達が引っ張りだこ。
ついにはネットフレックスが実写化した人気Web漫画
『猫に転生したおばさん』
が、飼い主の社長を甲斐甲斐しく世話する中身はおばさんの猫の可愛さが話題を呼び、初回のPV数が歴代一位を獲得した。
「いや~イイ感じにブーム来てるね~」
綾瀬春香、篠原亮子、深田京子、松嶋奈那子が表紙を飾るテレビ雑誌を見ながら純子は満足気だ。
「これだけやれば多少は奏士君との距離も縮まるわよね!」
「うんうん!麻里奈ちゃんの包容力にメロメロになっちゃうよ~!」
「そうそう、その魅惑のオッパイにね」
雨季と梓が麻里奈の自慢のFカップを指差してニヤニヤする。
「ちょっと!奏士君はそこらのヒワイな男子とは違うわよ!」
「どうかしらね、男なんて老いも若きも性欲に振り回される生き物よ」
悪友達におちょくられる麻里奈だったが、自身が手掛けた年上女性ブームの効果には胸を躍らせずにはいられない。
いつもよりビシッ!とキャリアOL系ブランドの服とヒール靴でキめ、ちょっと大きめの紙カップを片手に颯爽と出社。
いつになく部下・後輩達とコミュニケーションを取り、OJT中の宮城のフォローも奏士へのアドバイスもかかさない。
デキる!
頼れる!!
憧れる!!!
そんなキャリアウーマン代表格のように振舞うこと数週間。
特段変化はなかった。
「おかしいわねえ・・・」
もうそろそろ、仕事の相談を口実にしたLINE交換くらいあってもいいのにと思うが、プライベート接触ゼロである。
「その子、シャイボーイなの?」
ヨガマットの上で開脚ストレッチしながら梓が問う。
「ん~・・・そう、なの、かし、ら・・・。・・・でも広告業界にシャイボーイが来ると思う?」
腹の上にネオノエとパピヨンを乗せ腹筋しながら麻里奈は答える。
「仕事と恋愛は別かもしれないじゃ~ん。Z世代は奥手って聞くよ?」
「そうなの?!それじゃ年上女性ブーム起こしてもイミないじゃない!」
ガバッと体勢を横にすると驚いた猫達がぴゃっと逃げるが、雨季が二匹まとめてキャッチして自分のあぐらの中に納め上体を横に伸ばす。
「あいたたたっ!いや、でも、年上女性の良さが浸透してれば麻里奈にも勝算はあるんじゃない?」
「そ~うそう、物理的距離よりも心理的距離に変化があることがイチバンだよ~」
バランスボールの上でユラユラしながら純子も賛同する。
今年はスポーツの秋にしよう、ということで日焼けしないお家エクササイズを四人で行う。
そこへ、ランニングから戻り風呂場へ直行した響花がバスローブ姿で出てきた。
「なんの話?」
「新卒ボーイがシャイボーイだったってハナシ」
「は?」
「なんのアプローチもないんだって」
井川晴美の炭酸水を飲みながら響花は考え、もっと業務外で話す機会を増やすべきだと提案する。
「ウチの事務所でも不定期で勉強会があるんだけど、これが結構内部の人脈を築くのにいいのよね」
「フム・・・勉強会か・・・でも研修は結構ちゃんとあるのよね・・・」
そこへ梓がひらめく。
「会社が研修ではしてくれないけど若い子が知りたがってることを勉強会ですればいいんだよ!資産形成のこととか!絶対今の若い子老後資金とか不安でしょ?!」
上の世代のツケは、下の世代に回る。
ならばその不安を取り除き対処方法を教授するのは上の世代の役割である。
「それいいわね!!」
麻里奈の頭の中に新しいプランが思いついた。
「資産運用勉強会よ!!」